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1.ここ、どこでしょう。
しおりを挟むーーなんでこんなことになってんのかなぁ、と小鳥遊碧は周りで騒いでるクラスメイトをぼんやりと眺めながら思考する。
この状況になるまでの事を、少し時間を遡って思い出す。
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五月蝿く鳴り響く目覚ましを乱雑に叩いて止め、寝る前に飲んだ薬のせいでまだぼんやりとする頭を振りもそもそとベットから起き上がる。
欠伸を零しながらそのままいつもの様に制服に着替えてリビングに降りると、もう既に龍斗と奈那さんが起きていて朝ごはんを食べ始めていた。
龍斗と奈那さんは碧の叔父と叔母にあたる人で、7歳の時から一緒に暮らしている。
2人に挨拶を返しながらいつもの席について朝ごはんを食べていたら、お皿の上に一つだけのこってる最後の卵焼きを食べようとしたのに龍斗に先を越された。
凄いドヤ顔で見てきてちょっと腹が立ったので腹いせに冷蔵庫にあった龍斗の分のプリンを食べてやった。楽しみにしてたのにと項垂れる龍斗を見て奈那さんは仕方なさそうに笑っていた。
2人と話していたらいつの間にか学校に行く時間になっていて慌てて荷物を持って家を出た。
学校についた後もこれと言って変わったことは無く、授業を時々ぼーっとしながら受け終えて、放課後になりパラパラとクラスメイトが部活に向かったり帰って行くのを見ながら帰り支度をし終え、そろそろ自分も帰ろうと席を立とうとした時だった。
ーーー教室の床に突然変な模様が浮かびあがり、ソレが輝き出したのは。
「………え?」
しばらくして光が収まり、目を開けた碧の視界に初めに入ってきたのは真っ赤で上質そうな絨毯だった。
こんな絨毯が教室にあるはずがない、と顔を上げると碧と同じように辺りを見回し困惑した顔のクラスメイトが数人いた。
その中に見慣れた顔がいた事に安堵し、声をかけようと2人に近づいていく。
「輝璃、雪」
「…碧。ここ、どこ?」
少し驚いたようにキョロキョロしながら首をかしげているのは神代 輝璃。
「み、みーくん、私達さっきまで教室にいたはず、だよね…?」
輝璃の腕にしがみつきながら顔を青くして話しかけてくるのは神代 雪。
輝璃と雪は双子の兄妹で、碧とは中学からの親友なのだ。
輝璃は余り感情が外に出ないので周りからは冷たいと思われがちだが実の所ただマイペースなだけだったりする。
雪は怖がりでちょっと天然なところがあるけど心優しい子だ。それ故に男子からの人気も高いのだがほとんど輝璃と一緒に行動してる為近寄り難い、と男子達が廊下で零してたのを聞いたことがある。
「俺達がいた教室とここは全く違う場所だと思うし、ドッキリにしても無理があるよね」
「そ、それってどういう…」と雪が更に顔を青くした時、碧達の左側にあったいかにも頑丈そうな扉がギィィィィっと重い音を立てて開いた。
入ってきたのは真っ赤なドレスを身にまとった金髪の若い女性、長く伸びた白い髭が目立つ男性が1人、その後ろに鎧を身にまとった人達が3、4人居た。扉から入ってきて碧達を見るなり歓喜した様に顔を見せ合う。
「陛下!成功です!!やっと…やっと我等の悲願が叶いますわ…!」
「うむ…これも一重に姫の召喚術の腕があってこそ。大儀であった」
真っ赤なドレスの女性が涙ぐみながら白い髭の人に伝えている。どうやらあの若い女性はお姫様で白い髭の人は王様だったらしい。
未だに状況の読み込めない碧達は、案内された部屋で王様から話をされた。
話を聞いてわかったのは、碧達がいた場所とは異なるこの世界をルーティア、碧達を召喚したこの国はダヴァル帝国という名前であること。
碧達のように異界から呼ばれたものを“ワタリビト”と呼び、他にも魔法があり魔族、獣人、エルフなどがいる碧達の世界で言うところのファンタジー世界であるらしい。
そして魔王が人類種を滅ぼそうと計画しているらしく、10年程前から帝国の近くにある森から魔物が湧き出てきていて、今はどうにか国を守れているが、魔王や魔族が本格的に攻め込んでくるのも時間の問題なのでその前に魔王を倒して欲しいと言われた。
「おい…ちょっと待てよ。そもそもなんで俺らが命かけてまで知らねぇヤツらを助けなきゃなんねぇんだ?」
「そ、そーよ!ふざけないでよ!」
「僕らには関係ないことだと思うけど」
「わ、私もそうおもうわ…」
これまで黙っていた神宮寺 翔太、九重 春華、藍染 晃、三森 秋が叫び出した。
今まで王様たちに気を取られてちゃんと確認してなかったが教室からこの世界に飛ばされたのは碧を含めて7人だけらしい。
顔ぶれを見る限り、魔法陣が出てきた時に教室に居た人達がこの世界に飛ばされたようだ。
最初に不満をぶつけ始めた翔太と春華は所謂、不良とよばれるような人達で髪はド派手な金髪。
2人は付き合っていてほとんど行動を共にしているらしい。
学校に来ることすら稀で教室にいる所はあまり見た事がない。教師達にも目をつけられているようで、よく追いかけ回されている。今日は運悪く熱血教師として有名な体育教師に捕まったようで教室に連行されてきていた。隙を見ては逃走を図っていたが尽く捕まり諦めて机に突っ伏して寝ていて気づいたらここに居た、という所だろうか。
翔太達とは真逆で、晃と秋は別の意味で教師から目をかけられていた。
無遅刻無欠席で、テストでは常に上位に位置している優等生なので教師達からの信頼も厚い。
ただ晃は少し思い込みの激しいところがあり、秋は自分の意見を言うのが苦手で人に流されやすい。
その中の1人であり不良グループのリーダー格である翔太には王の言いなりになるのも命令されるのも許容できないものなのだろう。他の3人も翔太に続くように文句を言い始める。
「確かにそなた等に我等を助ける理由はない。だがもう我等は異界のものを、強い能力を持つワタリビトを頼るしか手段が残っていない。魔王を倒した暁にはもちろん報酬を出そう」
「…報酬か。それは悪くないな。王が出す報酬ってのも期待できるしなぁ」
「え。でも翔太…私たち戦う力なんてないし危ないじゃん、やめようよ」
「それなら心配いらぬ。異界から来た者達は異能を持つと聞く。ステータスを確認してみれば良い。」
「へぇ…漫画みたいでわかりやすくていいなぁそれ。そんじゃ、“ステータス”。」
そう言ってステータスを見始めた翔太を見て、“ステータスが見れるなんて本当に異世界に来ちゃったんだなぁ…”と考えながら碧も自分のステータスを見る。
「“ステータス”」
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Lv1
名前:小鳥遊 碧
性別:男
年齢:18歳
種族:人類種
体力:120/120
魔力:250/250
攻撃力:72
防御力:96
命中率:Lv.1
回避率:Lv.1
幸運力:Lv.Max
状態:???
役職:怪盗 Lv.Max
【⠀効果 】あらゆるモノを盗むことが出来る。
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「………あれ?」
王様はステータスの説明の時に平均100あればこの世界の成人男性並と言っていた。
ステータスの中の“役職”はLv1からLv10まであり、ワタリビトは元から持っているがルーティアの人で持っている人は稀であるらしい。
「ねぇ輝璃、雪、ちょっと2人の見せてくれないかな」
「ん」「ど、どうぞっ」
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Lv1
名前:神代 輝璃
性別:男
年齢:18歳
種族:人類種
体力:1700/1700
魔力:570/570
攻撃力:500
防御力:245
命中率:Lv.6
回避率:Lv.4
幸運力:Lv.6
状態:ー
役職:言霊使い Lv.1
【 効果⠀】魔力を持った言霊を使える。短い言葉なら強い強制力をもつ。
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Lv1
名前:神代 雪
性別:女
年齢:18歳
種族:人類種
体力:750/750
魔力:1250/1250
攻撃力:250
防御力:200
命中率:Lv.4
回避率:Lv.2
幸運力:Lv.6
状態:ー
役職:聖女 Lv.1
【⠀効果 】治癒魔法、回復魔法を使用できる。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「やっぱり俺のステータスがおかしいのか」
「え?みーくんのステータスなにかおかしいんですか?」
「…俺達にも、それ見せて?」
「あぁ、もちろん。はい」
“これって”と2人が言いかけた時、王様から“そなた等の実力を把握しておきたいのでステータスをこちらに開示して欲しい。”との声がかかった。
用意された水晶に手を触れると、横にある紙に魔法で文字が浮き上がる。ただ、記載されていくものは簡易的なものらしく役職のレベルや効果は記載されずに役職名だけ書かれていった。
紙に書かれた翔太達のステータスも輝璃や雪と同じくらいの強さだった。
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Lv1
名前:神宮寺 翔太
性別:男
年齢:18歳
種族:人類種
体力:1600/1600
魔力:450/450
攻撃力:980
防御力:560
命中率:Lv.5
回避率:Lv.4
幸運力:Lv.2
状態:ー
役職:先導者
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Lv1
名前:九重 春華
性別:女
年齢:18歳
種族:人類種
体力:1050/1050
魔力:1100/1100
攻撃力:250
防御力:240
命中率:Lv.5
回避率:Lv.3
幸運力:Lv.3
状態:ー
役職: 魔道士
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Lv1
名前:藍染 晃
性別:男
年齢:18歳
種族:人類種
体力:1200/1200
魔力:580/580
攻撃力:460
防御力:760
命中率:Lv.2
回避率:Lv.5
幸運力:Lv.2
状態:ー
役職: 後援
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Lv1
名前:三森 秋
性別:女
年齢:18歳
種族:人類種
体力:1700/1700
魔力:930/930
攻撃力:140
防御力:650
命中率:Lv.2
回避率:Lv.5
幸運力:Lv.3
状態:ー
役職:守護者
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「協力感謝する。貴殿等はこちらの世界に来たばかりでなれないことも多かろう。何かあれば我が娘のロベリアに言うといい」
「微力ですがお傍にいさせて頂きます。困ったことがあればなんなりと」
全員分のステータスを移し終えた後、碧達は用意された部屋で見たことも無い豪華な食事を食べた。飲み物は少し苦味が強かったが料理はとても美味しかった。
食事が終わると本当に1人用かと疑うくらいの浴場に案内された。
入浴の手伝いをしようとする使用人を必死で止めてなんとか1人で入ることに成功する。
そのままこれまた1人で過ごすには広すぎるくらいの部屋に案内され、“明日から基礎からではあるが戦闘訓練をしてもらうことになる。もうゆっくり体を休めるといい”と王から伝えられそれぞれ部屋に入って休むことになった。
「…2人共、また明日。」
「おやすみなさいお兄ちゃん、みーくん!」
「うん。おやすみ。輝璃、雪」
部屋に入ってから気が抜けたのかボフン、とベットに座り込む。
今日はもう疲れた。明日になったら輝璃や雪とこれからの話しをして、それから…、そう考えていると不意にぐにゃりと視界が歪んだ。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「おい。起きろ!王の御前だぞ!」
「……っ?!」
騎士に腹を蹴られた息苦しさで目を覚ました碧は咳き込みながら咄嗟に今のこの状況を把握しようと辺りを見回す。
どうやら窓の外の暗さから見て自分が部屋に入ってからそう時間は経っていないようだった。
部屋に入って急に視界が歪んだのも出された食事に薬かなにか混ぜられていたのか。飲み物のあの苦味は薬によるものだったのかもしれない。
だって碧はあの時いつもの薬を飲んでいなかったし、なにより昨日寝たばかりだからまだもつはずだ。
ここは最初に召喚された時の部屋のようで、玉座には王様と姫が座っていて、碧の後ろの扉の方に近衛騎士が数人いた。
「…これは、どういうことでしょう」
「ーーあぁ、これから貴殿には消えてもらうのだよ」
「は、ぁ?」
意味がわからない。いきなり勝手に呼んだかと思ったら1日と経たずに消えてもらうとはどういうことだ。
「まぁそうだな。冥土の土産に理由くらいは話してやろう」
そう言い王が話し出したのは本当に身勝手な理由だった。
半年程前から、国のお金を第二王子が勝手に使いだした。
王が気づいた時にはもう遅く、取り返しのつかないくらいには使い込んでしまっていた。だがそれを国民にバレる訳にはいかない。
国民から巻き上げたお金を王子が私欲のために使い果たしてしまいました、なんて知られたら民からの不満が溢れて国はお終いだ。
どうしたものかと悩んでる時に運良くワタリビトの中に「怪盗」の役職持ちがいるではないか。そいつが金欲しさに盗んで逃げたことにして罪をなすり付けてしまえばいい。その後に消してしまえばもう真実はわからなくなる。
更に碧はステータスも低く、いなくなっても別に困りはしないだろう。と、簡単に言えば、我らの保身ために死ね。と、そういう事だった。
「そんなの…っ?!」
納得いかない。と口にしようとする碧の背中になにか冷たいモノがあたる。
思わず胸にある異物に目をむける。剣だ。剣が刺さっている。刺されたのか。なんで。息がうまくできずに咳き込むとごぽ、と口から血が出る。息が上手くできない。必死に息を吸おうとしても可笑しな音をたてるだけで苦しさだけが増していく。その間にもドクドクと体から血が抜けていく。血が止まらない。命がこぼれていく。何処からか、誰かのくぐもった笑い声が聞こえた気がした。誰か。視界が霞んでいく。寒い。さむいさむいさむいさむいさむいーーー、
「おい、城の中に死体があっては困る。災厄の森にでも捨てておけ。あそこならすぐ魔物に食われて死体も残らんだろう」
ーーその言葉を最後に、碧の記憶は途絶えた。
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