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14.練習再開。
しおりを挟む未だに遠くを見つめたままのフィーをなんとか呼び戻し、魔法の練習を再開してもらう。
輝璃は何度か練習した後にはコツを掴み、すんなりと“黒霧”を出せるようになったので、今度は霧の量を減らしたり増やしたりして魔法に慣れる為の練習を始めていた。
それを見て碧は視線を雪達の方へ移す。
雪の方は光魔法の“光刃”を練習するらしく むいが頑張って説明をしていた。
“光刃”は魔力で作られた光の刃を放ち対象を切りつける魔法で、それだけ聞くと“鎌鼬”と同じように思えるが、光刃は“対象としたもの”しか切りつけないらしい。
ーー例えば、固定した風船の後ろに缶を置く。
その缶に向かって魔法を放った時、“鎌鼬”なら風船ごと切りつけてしまう。
でも“光刃”で『 缶 』だけを対象にして放てば、風船には傷一つ付けずすり抜けて、対象とした缶だけを切りつけることが出来る。
使用者の意思によって切るものと切らないものが選択できるのだ。
ただ、その性質故に光刃は使い方によっては悪事に使われることもある。
悪事とは言いきれないが、何十年か前に起きた獣人達による抵抗軍の中心となった青年も光刃を使い、奴隷の証である首輪を“切って”回った。
本来、奴隷の首輪は主人の命令に背いたり無理に外そうとすると激痛がはしる仕組みになっていて主人の許可なしでは外れないようになっている。だが、光刃にはその仕組みなど関係なかった。
ただ、“首輪を対象として”魔法を放てばいいのだから。
当時、光刃は使用できる者がほとんど居らず対策が取られてなかったのが原因となり帝国は多くの獣人奴隷に逃げられてしまった。
帝国はそれを受けて今では首輪ではなく奴隷紋に切り替えたらしい。
奴隷紋の解除には白魔法の最上級の解呪でないと効果がなく、最上級魔法を使える者は限られている上、白魔法の使い手自体少ない。
碧の周りではフィー、むい、雪も自分も白魔法を使えるのであまり実感はないが白魔法の中級が使えるだけでも、帝国にある白魔法の使い手が集まる聖協会から声がかかるらしい。
聖協会に入れただけでも名誉なこととされ、白魔法の使い手は聖協会から声をかけて貰えるよう必死に魔法の上達に励むらしい。
話が脱線したが、まぁ結局の所どんな魔法も使い方一つでいい事も悪い事もなんでもできてしまう、ということなのだと思う。
「…俺も気をつけよ」
ただでさえ自分のもつ【傲慢】と【怪盗】は使い勝手が良すぎる面がある。1度見たスキルを無条件で習得できる、なんて帝国に居た時に知られてたらと思うとゾッとする。
そう思うと自分は幸運だったなと思う。
…まぁ、刺されたことに関しては全く良くないんだけど。それでも2つのスキルがばれて帝国に利用されるよりかはマシだったかなとは思う。そんなことを考えていたらむいと雪の練習も始まる様なので視線を戻した。
「えっとねー。じゃあここに木の実をふたつおくからー…おくの方だけ切ってみてね!」
そう言いながらむいが碧の腰ほどの高さの岩の上に青い木の実を2つ並べて置いた。
「は、はいっ……【光刃】!」
雪の手から光が放たれたが、刃とは言い難いふにゃふにゃとしたその光は木の実に当たるとポフンッ、と音だけ残して消えてしまった。
「あ、あれ?」
「ユキおねーちゃん今なに考えながら魔法うったー?」
「えっ?えっと木の実に魔法が当たるイメージで…」
「うんとね、魔法ってイメージがすごく大事でね、自分がその魔法をどう使いたいのかをちゃんとかんがえて使った方がいいの。次はおくの方だけ切るぞー!ってかんがえながらやってみて!」
「はい!……【光刃】っ!」
今度は鋭い光の刃が放たれ、1つ目の木の実をすり抜けて2つ目の物だけをスパンッと切った。
ーー【白魔法・光刃を取得しました】
「…ん?なんで今?」
1度目の時は出てこなかったのに2度目に出てくる事から考えるともしかしたら【怪盗】が盗む物にも、魔法が成功してないと盗れないなどといった一定のルールがあるのかもしれない。
「いきなり使えなくなっても嫌だし、そこも含めて今度確かめないとなぁ」
時間は沢山あるからゆっくり確かめよう。
「やりました!できました!!」
「やったー!」
考えていたら雪達の喜ぶ声の大きさに少し驚く。普段は引っ込み思案な雪がここまではしゃいで喜ぶのも珍しい。
雪にとっては自分で使った魔法が初めて成功したのが嬉しいらしく、むいと手を取って飛び跳ねながら喜んでいる。むいも自分の事のように喜んでいて微笑ましくて思わず笑ってしまう。
くすくす笑っていると笑っていたことがバレてしまい、雪が少しだけ顔を赤くしながらこちらに歩いてきた。
「笑いましたね、みーくん」
「ふふっ…ごめっ…ふ、あははっ」
笑いを堪えようとするが、少し恥ずかしそうに見てくる雪がおかしくてつい笑ってしまう。
「みーくんは意地悪です」
拗ね初めてしまったので碧は笑いすぎて出てきた涙を拭い謝りながら雪の頭を撫でる。
「あー!ずるい!むいにも!」
雪を撫でていると、むいが走ってくる。
走る程の距離でもないのにパタパタとこちらに向かってくるむいが可愛くて雪と2人でむいの頭を撫でる。
するとむいの頭から狼の耳がぴょこんとでてくる。
フィーに聞いた話によると変化出来るようになってすぐの間は感情が高ぶると気が緩んで耳や尻尾だけ変化が解けてしまう事があるらしい。
それをみた雪がパッと笑顔になる。
「もふもふです。ふわふわもふもふ…」
雪が両手でむいを撫でながら幸せそうにしている。そのまま数分程撫でた後、雪もむいもとても満足そうな顔をしていた。そのまま練習を再開するようなので次の内容を聞いてみる。
「2人は次何を練習するの?」
「えっとねー。次は回復魔法やるー!」
「回復魔法、ですか?」
「うん!ミドリ、魔力へってるよね?」
「え?あ、うん。さっき使ったから減ってるけど…」
「じゃあそれを回復する!」
「魔力って魔法で回復できるんですか?」
雪がきょとんとしながらむいに尋ねる。正直碧も魔力を回復できる魔法があるなんて驚きだ。それがあったら永遠と魔法を使い続けることも可能なんじゃないのか、と考えているとむいが首を横に振る。
「普通はむりー。でもむいたちいっぱい生きてるから長達が教えてくれたの」
もう伝えられなくなってしまったやり方の為、今の人間達は知らないがどうやらフェンリル達は長命なので知っていたらしい。
むいの話を聞くと非常にシンプルな話だった。
今の人たちにとって、ヒールとは“怪我を治す為のもの”で魔力回復はレベルを上げるか休憩や食事をしないと回復しない物と考えがガチガチに固定化されている。
魔法とはイメージがとても大きく作用するもので、むいたちはただ魔力回復するようにイメージしながら使っているだけらしい。
だが、もしその事を人に教えたとしても1度思い込んでしまったものを根本から覆すのは難しいので使えない可能性が高いんだそうだ。
「でもユキおねーちゃんはルーティアの人じゃないからそんな思い込みはしてないしー。やったらできると思うよ! 」
「私それ覚えたいです!」
「うん!じゃあむいが最初にお手本みせるね!……【魔力回復】」
【回復魔法・魔力回復を取得しました】
むいが碧に手をかざしながら呟くと碧の体は暖かい何かに包まれる。温かさが消えた後、むいからステータス確認してみて、と言われたのでステータスを開く。
「“ステータス”」
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
Lv.24
名前:小鳥遊 碧
性別:男
年齢:18歳
種族:人類種
体力:15700/15700
魔力:10000/12500
攻撃力:6400
防御力:4850
命中率:Lv.5
回避率:Lv.1
幸運力:Lv.Max
状態:ー
役職:怪盗 Lv.Max
【⠀効果 】あらゆるモノを盗むことが出来る。
〖 ライト 〗〖 鎌鼬 〗〖 風詠 〗〖 結界 〗〖 ファイヤ 〗〖 ウォーター 〗〖 氷柱 〗〖 氷翼 〗〖 水破 〗〖 炎舞 〗〖 縛 〗〖 ボックス 〗〖 転移 〗〖 浄化 〗〖 ヒール 〗〖 捕縛 〗〖 飛行 〗〖 身体強化 〗〖 煉獄 〗〖 神楽 〗〖 領域 〗〖 影渡 〗〖 結界 〗〖 疾風 〗〖 星詠 〗〖 火弾 〗〖 竜巻 〗〖 黒雷 〗〖 雷神 〗〖 鑑定 〗〖 天撃 〗〖 念話 〗〖 硫酸 〗〖 跳躍 〗〖 糸操 〗〖 収納 〗〖 黒霧 〗〖 大賢者 〗〖 魔力回復 〗
“亜空間・狭間” 収納数0
【大罪スキル・傲慢】
【 効果 】
無から有を作り出す。モノとモノを掛け合わせて作ることも可。
ただし、作る際には魔力を消費する。消費する魔力は作るものに比例する。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「本当だ、回復してる…」
「今回はユキおねーちゃんがまだやるからちょっとしかしてないけど、なれると1回で“全回復”出来るようになるよ!」
「が、がんばります!…【魔力回復】」
碧の体が再び暖かい何かに包まれる。それが消えてからまた碧はステータスを開く。
「“ステータス”」
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
Lv.24
名前:小鳥遊 碧
性別:男
年齢:18歳
種族:人類種
体力:15700/15700
魔力:12500/12500
攻撃力:6400
防御力:4850
命中率:Lv.5
回避率:Lv.1
幸運力:Lv.Max
状態:ー
役職:怪盗 Lv.Max
【⠀効果 】あらゆるモノを盗むことが出来る。
〖 ライト 〗〖 鎌鼬 〗〖 風詠 〗〖 結界 〗〖 ファイヤ 〗〖 ウォーター 〗〖 氷柱 〗〖 氷翼 〗〖 水破 〗〖 炎舞 〗〖 縛 〗〖 ボックス 〗〖 転移 〗〖 浄化 〗〖 ヒール 〗〖 捕縛 〗〖 飛行 〗〖 身体強化 〗〖 煉獄 〗〖 神楽 〗〖 領域 〗〖 影渡 〗〖 結界 〗〖 疾風 〗〖 星詠 〗〖 火弾 〗〖 竜巻 〗〖 黒雷 〗〖 雷神 〗〖 鑑定 〗〖 天撃 〗〖 念話 〗〖 硫酸 〗〖 跳躍 〗〖 糸操 〗〖 収納 〗〖 黒霧 〗〖 大賢者 〗〖 魔力回復 〗
“亜空間・狭間” 収納数0
【大罪スキル・傲慢】
【 効果 】
無から有を作り出す。モノとモノを掛け合わせて作ることも可。
ただし、作る際には魔力を消費する。消費する魔力は作るものに比例する。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「…あ、今ので全回復したよ」
「よかったです!」
魔力回復、自分自身に掛けても効果あるのか今度試してみよう、と考えているとフィーから声がかかる。
「ユキちゃんの方も成功したっすか?」
「うん!ユキおねーちゃん上手だったよ!」
どうやら一気に練習しても輝璃達の魔力も底を尽きてしまうし、そろそろ中断して明日に備えてゆっくりしようということらしい。
「…また、教えてね」
「お願いします!」
フィーとむいが笑顔で承諾したのを見てから碧達は家に入った。
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