52 / 66
第6章~人を喰らう者~
第47話 教会にて2~ちょっと神父何言ってんの!?~
しおりを挟む
「ちょっと神父様、自分が何言ってるのかわかっているんですか!?」
「わかっています。これが私のわがままだということも、しかし、私はこれ以上友の苦しむ姿を見たくはないのです。だからどうかお願いいたします」
神父様のあまりに切実そうな言葉に私は言葉を失う。確かに神父様の言うこともわかる。けどそれは……
「神父よ貴様はそれで良いのかもしれないが、貴様の友の意思はどうなのだ?」
私の言いたかったことを代弁してくれるイーター。イーターの言う通り神父様は大切な友人の意思を確認していないはずだ。そんな状況で私は神父様の喰らう者をイーターに喰らわせることなどできない。
「それは……そうですね。今夜にでもヒュームに確認したいと思います」
そうした方がいいだろう。私そう思ったその時であった。
「いや、その必要はない」
イーターが訳の分からないことを口走った。
「ちょっとイーターどういうつもり?」
「どういうつもりもなにも神父がそのヒュームとやらに確認を取る必要はないと言っているのだ」
「だからどうして!」
「それは俺が直接ヒュームとやらに話すからだ」
「な!?」
イーターからの突然の申し出に私は言葉を失った。この元棍棒一体何を考えてるのよ。直接話すってことは今からお前を殺すと宣言しているようなもの、そんなこと私は許容できない。
「悪いけどイーターそれは絶対にダメ」
「何故だ」
「何故だもクソもないよ。あんたが何を思ってヒュームさんに直接話そうとしているのかわからないけど、殺す側が殺される側に話すことなんて何もないのよ」
「いや、ある」
きっぱりと言い放つイーターに私はたじろいでしまう。
「あるって何を根拠に……」
「根拠などない。しかし俺はいや、俺が確認せねばならないのだ。ヒュームとやらの意思を。だから頼むルナ俺とヒュームだけで話をさせてもらえないだろうか?」
いつになく真剣な語調でそう言うイーターに私は言い知れぬ何かを感じた。
「わかった。いいよ」
「恩に着る」
「神父様もそれでよろしいですか?」
「ええ、かまいません」
こうしてイーターとヒュームさんの対談が決まった。
私は腕輪形態になったイーターをヒュームさんが立てかけてある壁の近くに会った棚の上に置いて、その場を去った。
◆
「主がヒュームとやらか」
「そうですよ同胞、私に何か用事でもあるのですか?」
「いや少し聞きたいことがあってな」
「聞きたいこと、ですか」
「ああ」
「それはよろしいのですが、その前に貴方の名前を訊いてもよろしいですか?」
「おお、これは失礼した。私の名前はイーターと言う」
イーターの名を聞いた瞬間、ヒュームは何かを察し、口を開いた。
「イーター……そうですか。それで貴方の聞きたいこととは何ですか?」
「単刀直入に訊く。貴様、何故正気を保っていられる?」
先程イーターが言ったように喰らう者という種族は特定のものしか口にできない種族であるが、本来は武器の一種、食料を必要としないただの物でもある。しかし、長い間自身の食事を摂らなければ筆舌に尽くしがたい程の飢餓感に襲われる。故にイーターはヒュームに問うたのだ。
「正気……確かに私は正気ですね。自分でも信じられないほどに……」
「飢餓感は無いのか?」
「それはもちろんありますよ。私は常に人を求めています。食料としてね。しかし、私はどうしても人を喰らおうとは思えないのです」
「それは何故だ?」
「この孤児院にいる子供たちを見てください。時に笑い、時に泣き、皆貧しいながらも日々を懸命に生きているのです。そんな子供たちを見ていると、私の感じている飢餓感など取るに足らないものと感じてしまうのです」
「それでも辛いのであろう?」
「大丈夫、と言いたいところですが同胞に嘘は吐けません。もちろん辛いですよ。いっそ個々の子供たちを全員喰らいたいと思ったことすら何度もあります」
「しかし、貴様は喰らっていない」
「喰らっていないのではありません。喰らえないのです。もし私が子供たちを喰らった時、私は罪悪感に押しつぶされ狂ってしまうでしょう。だから私は喰らえない出来損ないの喰らう者なんですよ」
「……ではない」
「え?」
「出来損ないなどでは無いと言っている!!」
突然大声を出すイーターにそれまで喧騒に包まれていた孤児院の中が静まり返る。しかし、そんなことをイーターは気にしない。
「貴様はいや、貴殿は俺がこれまであったどの同胞よりも気高い存在だ」
「――ありがとうございます」
「故に思った。貴殿をその苦しみから解放したいと」
「そうですか」
「貴殿はそれでよいのか?」
「ええ、子供たちに会えなくなることは残念ですが、この苦しみから解放されるのならば、子供たちを喰らいたいと思うことがなくなるのであれば、喜んで貴方に喰らわれましょう」
「そうか……礼を言う」
沈痛な面持ちでそう言うイーターに、ヒュームはフフフと笑いかける。
「お礼を言いたいのは私の方ですよ」
◆
「どうやら、お話は終わったようですね」
「そうですね」
イーターが突然大声を出した時は何事かと思ったが、今はお落ち着きを取り戻している様だ。
「神父様は本当に良いのですか?」
「ええ、寂しいのは確かですがそれは私の我儘というものです。いや、そうなるとどちらに転んでも私は我儘と言うことですね。いや~これでは神父失格です」
そう言って自嘲するように笑う神父様からはどこか悲しみめいたものを感じた。
「それではヒュームたちの下に行きましょうか」
「はい」
私たちはヒュームさんたちのいる場所に戻ると神父様がイーターに語りかけた。
「イーターさん、お話は終わりましたか」
「ああ、例の件はヒューム殿も了承してくれた」
「そうですか……」
そう言った神父様は明らかにそれまでの元気を失っていた。
「それで日取りはどういたしましょう」
「できれば子供たちに別れを告げる時間をもらいたいのですが」
「私たちはしばらくこの街に滞在する予定なので1週間後でどうでしょう」
「そうですね、それだけ時間をもらえるのはありがたいです」
「では、そのようにいたしましょう」
こうしてヒュームさんの余命が決まったのであった。
「わかっています。これが私のわがままだということも、しかし、私はこれ以上友の苦しむ姿を見たくはないのです。だからどうかお願いいたします」
神父様のあまりに切実そうな言葉に私は言葉を失う。確かに神父様の言うこともわかる。けどそれは……
「神父よ貴様はそれで良いのかもしれないが、貴様の友の意思はどうなのだ?」
私の言いたかったことを代弁してくれるイーター。イーターの言う通り神父様は大切な友人の意思を確認していないはずだ。そんな状況で私は神父様の喰らう者をイーターに喰らわせることなどできない。
「それは……そうですね。今夜にでもヒュームに確認したいと思います」
そうした方がいいだろう。私そう思ったその時であった。
「いや、その必要はない」
イーターが訳の分からないことを口走った。
「ちょっとイーターどういうつもり?」
「どういうつもりもなにも神父がそのヒュームとやらに確認を取る必要はないと言っているのだ」
「だからどうして!」
「それは俺が直接ヒュームとやらに話すからだ」
「な!?」
イーターからの突然の申し出に私は言葉を失った。この元棍棒一体何を考えてるのよ。直接話すってことは今からお前を殺すと宣言しているようなもの、そんなこと私は許容できない。
「悪いけどイーターそれは絶対にダメ」
「何故だ」
「何故だもクソもないよ。あんたが何を思ってヒュームさんに直接話そうとしているのかわからないけど、殺す側が殺される側に話すことなんて何もないのよ」
「いや、ある」
きっぱりと言い放つイーターに私はたじろいでしまう。
「あるって何を根拠に……」
「根拠などない。しかし俺はいや、俺が確認せねばならないのだ。ヒュームとやらの意思を。だから頼むルナ俺とヒュームだけで話をさせてもらえないだろうか?」
いつになく真剣な語調でそう言うイーターに私は言い知れぬ何かを感じた。
「わかった。いいよ」
「恩に着る」
「神父様もそれでよろしいですか?」
「ええ、かまいません」
こうしてイーターとヒュームさんの対談が決まった。
私は腕輪形態になったイーターをヒュームさんが立てかけてある壁の近くに会った棚の上に置いて、その場を去った。
◆
「主がヒュームとやらか」
「そうですよ同胞、私に何か用事でもあるのですか?」
「いや少し聞きたいことがあってな」
「聞きたいこと、ですか」
「ああ」
「それはよろしいのですが、その前に貴方の名前を訊いてもよろしいですか?」
「おお、これは失礼した。私の名前はイーターと言う」
イーターの名を聞いた瞬間、ヒュームは何かを察し、口を開いた。
「イーター……そうですか。それで貴方の聞きたいこととは何ですか?」
「単刀直入に訊く。貴様、何故正気を保っていられる?」
先程イーターが言ったように喰らう者という種族は特定のものしか口にできない種族であるが、本来は武器の一種、食料を必要としないただの物でもある。しかし、長い間自身の食事を摂らなければ筆舌に尽くしがたい程の飢餓感に襲われる。故にイーターはヒュームに問うたのだ。
「正気……確かに私は正気ですね。自分でも信じられないほどに……」
「飢餓感は無いのか?」
「それはもちろんありますよ。私は常に人を求めています。食料としてね。しかし、私はどうしても人を喰らおうとは思えないのです」
「それは何故だ?」
「この孤児院にいる子供たちを見てください。時に笑い、時に泣き、皆貧しいながらも日々を懸命に生きているのです。そんな子供たちを見ていると、私の感じている飢餓感など取るに足らないものと感じてしまうのです」
「それでも辛いのであろう?」
「大丈夫、と言いたいところですが同胞に嘘は吐けません。もちろん辛いですよ。いっそ個々の子供たちを全員喰らいたいと思ったことすら何度もあります」
「しかし、貴様は喰らっていない」
「喰らっていないのではありません。喰らえないのです。もし私が子供たちを喰らった時、私は罪悪感に押しつぶされ狂ってしまうでしょう。だから私は喰らえない出来損ないの喰らう者なんですよ」
「……ではない」
「え?」
「出来損ないなどでは無いと言っている!!」
突然大声を出すイーターにそれまで喧騒に包まれていた孤児院の中が静まり返る。しかし、そんなことをイーターは気にしない。
「貴様はいや、貴殿は俺がこれまであったどの同胞よりも気高い存在だ」
「――ありがとうございます」
「故に思った。貴殿をその苦しみから解放したいと」
「そうですか」
「貴殿はそれでよいのか?」
「ええ、子供たちに会えなくなることは残念ですが、この苦しみから解放されるのならば、子供たちを喰らいたいと思うことがなくなるのであれば、喜んで貴方に喰らわれましょう」
「そうか……礼を言う」
沈痛な面持ちでそう言うイーターに、ヒュームはフフフと笑いかける。
「お礼を言いたいのは私の方ですよ」
◆
「どうやら、お話は終わったようですね」
「そうですね」
イーターが突然大声を出した時は何事かと思ったが、今はお落ち着きを取り戻している様だ。
「神父様は本当に良いのですか?」
「ええ、寂しいのは確かですがそれは私の我儘というものです。いや、そうなるとどちらに転んでも私は我儘と言うことですね。いや~これでは神父失格です」
そう言って自嘲するように笑う神父様からはどこか悲しみめいたものを感じた。
「それではヒュームたちの下に行きましょうか」
「はい」
私たちはヒュームさんたちのいる場所に戻ると神父様がイーターに語りかけた。
「イーターさん、お話は終わりましたか」
「ああ、例の件はヒューム殿も了承してくれた」
「そうですか……」
そう言った神父様は明らかにそれまでの元気を失っていた。
「それで日取りはどういたしましょう」
「できれば子供たちに別れを告げる時間をもらいたいのですが」
「私たちはしばらくこの街に滞在する予定なので1週間後でどうでしょう」
「そうですね、それだけ時間をもらえるのはありがたいです」
「では、そのようにいたしましょう」
こうしてヒュームさんの余命が決まったのであった。
10
あなたにおすすめの小説
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる