異世界でカイゼン

soue kitakaze

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第197話 2度目の骨折

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 目が覚めたのは翌日の朝だった。俺は再び蒲団の中にいた。昨日まで寝ていた病院である。再度折れた左手は紐でガンガン縛られており、肘が敷き蒲団に着いた状態で上から吊されていた。

 これでは起き上がることができない。元いた世界ならギブスをはめるところだろうが、ここにはそれはないようだ。添え木に腕を縛り付けてあるだけだ。

 昨日医者のシロは、ケガの箇所を心臓より低い位置にすると痛みが強くなると言っていた。これはそのための処置だろう。昨日はなかったこの紐は、それだけケガの程度が悪いということなのだろう。

 その原因をまたまた作りやがったハルミを問い詰めた結果はこうだ。

 ハルミは魔ネズミ狩りに出た。もう何度もやっているせいか、なかなか見つからない。駆除も進んだのであろう。それでまだ行っていないところで狩りをしようと提案した。

 そして案内された場所でアレを見たのだ。何十匹も集まってぐねぐねしているミスズを。

 それでパニックになりまたもや闇雲に走っていたら、今度は壁に思い切りぶつかった。壁もそうとう痛かったと思われる。

「私のほうを心配をしろ!」

 それで頭に来て(来るなよ)、壁を切り刻みながら(刻むなよ)、走っていたら何故か外に出てしまった(あれ、お前が作った通路かよ)。

 そこは一面の白銀世界だった。ハルミは外に出るなり滑り落ちた。その先でそこにいた村人に助けられた。

 その村はヤサカという。はるか古代よりこの地に住み着いた人々の末裔であるらしい。オオクニとは系統の違う神々の一族であるという。そんなマサカ(違)。

 そこの長はイリヒメといった。オウミのようなインチキ女神ではない。正真正銘の女神である、という話である。
 だが、しょせんはハルミの話である。どこまで信じて良いものやら。

 イリヒメはこのあとになって再登場することになるが、それはまだまだ先の話である。

「そこまでは分かった。それで?」
「ん? それで終わりだぞ。私は、ケガしていたお前を担いであの洞窟を登って、ここまで連れてきたのだ」
「それは、それはすまんかった……じゃねぇよ!!」

「な、なんなのだ。それだけでこの話は終わりだろ。じゃ、私は狩りの続きをしてぐぇぇ」
「今度は紐をかけたからさすがに外せないだろ」
「ぐぐぐぐ、こんなもんに負けるものぐぇぇぇ。降参降参」

「分かればよろしい。で、お前が上から落ちてきた理由はなんだ?」
「え?」

「下をのぞき込んだユウコの上に、なんでお前が落ちてきたのか、って聞いてるんだ」
「そ、それは。だな。ちょっと、じつは」
「ちょっと? じつは?」

「スキーを」
「はぁ?」
「スキーを教えてもらっていたのだ。あれはすごいぞ。あれができるようになったら魔ネズミなんかぐぇぇぇ」

「魔ネズミは雪の上にはいないよな? スキーを教えてもらって、お前は楽しく遊んでいた。だが、まだうまく操れなくて、あの穴の上を通ってしまった。そこにユウコがほっこり顔を出したのでぶつかってしまった。そうだな」

「なんだ、分かってるじゃないか。それなら私はこれでぐぇぇぇぇ」
「お前には反省するという概念はないのか。こちらの心配をよそに自分だけ遊んでいたんだろ?」

「遊んでいた、んじゃないぞ」
「じゃあ、なにをしていたんだ?」
「スキーをしていたぐぇぇぇぇ」
「それを遊んでたっていうんだよぐぃぐぃぐぃ」

「わ、わるがっだぐ、ぐるじい、だずげぐぅぅ」
「分かればいい。村長のシズクに謝っておけよ。ただ迷い込んだだけの俺たちのために、捜索隊まで出してくれたんだからな」
「う、うん、分かった。それは悪かったと思ってる」

 そこへシズクがやってきた。

「ユウ殿。ケガの具合はどうだ?」
「いまは薬が効いてるから痛まないが、まだ直ったとはとてもいえない。世話をかけてすまない」

「ユウさんの左腕は、前回折った箇所からほんの少し上の位置で折れてます。ほとんと同じと言ってもいいぐらいです。だから今回は治りが悪いと思います。しばらくは絶対安静にしてください」

「早く帰りたかったけど仕方ない、そうさせてもらうよ。ここの入院費はちゃんと払うから、あとから請求してくれ」
「いや、そのことだが、ユウさん、それにハルミ殿」

「ん? なんだ、どうした?」
「じつは、ハルミ殿が作ったあの通路なのだが」

「ハルミが切り刻んだやつか……まさか?! 切ったせいでなにかすごく悪いことが起こったんじゃないだろうな!? そこまで支払いはできないぞ。ハルミに身体で払わせるぞ!」
「えええっ。そんなことが?! 悪いものが来たのなら私が斬ってやるぞ 痛ったいなぁもう」

「お前はなんでも斬れば解決すると思ってるだろ!」
「身体で払えって言ったではないか、斬ればたいがいのことは解決する 痛いんってばぁん」

「いや、そうではないのだ。前にも言ったが、ここは本来月に2回しか外の世界へ行けない場所なのだ。いや、行けなかった、のだ」

「行けな、かった? 過去形か。そういえば、どうして月に2回だったんだ?」
「このダンジョンでは、新月と満月の日にサクラン現象というものが起こるのだ」
「またおかしなネーミングしやがって、もう。それはどんな現象だ?」

「この里の外れにある池の水位がそのときだけ異常なほど上がるのだ。すると外と船で行き来できるようになる」
「へぇ、不思議な現象だな。でもおかげで外との交流ができたわけか……おい待てよ。まさかそれが、ハルミが岩を切り刻んだせいで!?」
「え? ウソ。私のせいなのか」

「いや、その逆だ」
「じゃあ、ユウコのせいか?」

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ! 鼻の頭が赤くなっただけで私はなにもしていませんって。それとなんでハルミさんの逆が私なんですか」

 ユウコは昨日、ハルミにのしかかられたままで、数百メートルほどヘッドスライディングをした。そのときに雪で鼻を削られたのである。
 早い話が凍傷にかかったのだ。そのため、鼻の頭が真っ赤になっていてまだ治らない。

 しばらくはこのままのようだ。暗い夜道にはピカピカのユウコの鼻が役に立つこともあるだろう。

「いや、そうではないのだ。ハルミ殿のおかげで、この里はいつでも外と交流ができるようになったのだ。こんなありがたいことはない。ハルミ殿、礼を言うぞ。ありがとう」
「え、はぁ、いや、それは、それほどのことでも」

 偶然の産物だけどな。岩を切り刻んだ能力だけは本物だが、他の場所なら景観保護条例に引っかかりかねないところだった。

「しかもそこに、ミノウ様が階段をつけてくださいました。その上に排水路まで作っていただきました。これでいつでも安全に人の行き来ができるようになりました。ほんとに感謝の念に堪えません」

「ミノウ、そうなのか?」
「ああ、せっかくできた穴なのだ。使えるようにしてやろうと思ってヨ。歩けるように階段をつけて、地下水が出てぬかるむから水を逃がして、ついでにそれをネコダマシの散水に使えるように排水路をつけた。これも魔王の仕事なのだヨ」

「なるほど、それは良いことをしたな」
「いつものことなのだヨ」

 いつものことか。自分の領地だから当然といえば当然だが、こいつはこういうことをマメにやっているのだろう。
 ミノ国が豊かなのは、なにもミノウの幸運に頼っているばかりじゃない。こいつの働きによることも大きいのだろう。

「ミノウ」
「ヨ?」
「お前の食器使用制限をここで撤廃する。いままで通り、自由に使っていいぞ」
「おおっ。ユウ!! さすがお主なのだヨヨヨ ひしっ」
「こ、こら。飛びついてくんな! 耳がこしょべたひゃぁぁぁ」

「そういうことなので、お主らは恩人だ。恩人から金を取るなどできんよ。本当にありがとう。ほら、ハチマンもお礼を言え」
「フン」

 だからそれは止めろ! ミヨシが来たかと思うじゃないか。

「私なら、来てるけど?」
「はぁぁぁぁ!? ミ、ミ、ミミミミミヨシさん? いつの間に??」

「今朝着いたのよ。道が通じたから外から迎えに来たの。イズモ国から矢のような催促が届いてるわよ。なんかできたから早く見に来てくれ、だって」

 チーム・スクエモンだな。いったいなにを作ったんだろう。暇を持て余しておかしなことしてなければいいけどなぁ。

「しかし、俺はまだ絶対安静だ。もうしばらくここで入院が必要らしい」
「そうですね、主治医としてはあと1週間は寝ていてもらいたいです。全治は半月です。同じ場所を立て続けに2回骨折する人などなかなかいませんからね。治癒に時間がかかります」

「そうか。それは仕方ない。それもこちらで面倒見よう。ハチマン、お前がユウさんの面倒を見ろ」

「はぁぁぁ!? なんで私がこんなやつの下の世話をしないといけないのよ」

 いや、そういう世話はしなくても……あれ、もしかして俺、動けないのか? この手を吊っている紐が取れないと、ここから身動きできないということか? ということは、風呂とかトイレとか、他にいろいろあれこれ、ほれほれ。どうしよう?

「大丈夫よ。お世話なら私がするから」

 と満面の笑みを浮かべてミヨシが言った。俺もそのほうが助かる。ハチマンにやらせたら、男じゃなくなりかねん。

 しかし、だからといってミヨシにそこまでアヘアヘさせるのも、ほにゃららほいである。どうしよう?

「どうしようもないのだ。諦めるのだヨ」
「きゅぅぅぅ」
「お主がそれを言うのかヨ」
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