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第225話 初めてのバトル
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作者にとっての、ね。
「初めてなノか?」
「うん」
「なんとかなるノか?」
「さぁ?」
「頼りない作者なノだ」
「お前も頼りない魔王じゃないか!」
いきなり抜き放ったハルミの抜刀術は、タノモを一刀両断にした。さらに返す刀でもう一太刀を浴びせた。以前、エースの前でやった試技と同じである。ツバメ返しと呼ばれる技である。
ハルミの進化はそれだけにとどまらなかった。ツバメ返しのあと、さらにもう一太刀を浴びせたのである(これを稲妻斬りと言う)。
その間、タノモはなすすべがなかった。ハルミが刀を抜く瞬間させ見えなかったからである。
これでタノモのスーツは、いきなり約1/3が飛んでなくなった。セミヌード状態である。
男の描写などはどうでも良いが、すさまじきハルミの破壊力である。抜刀術の面目躍如である。
これ以降、タノモの戦略はただひとつとなった。ハルミにはもう抜刀させないこと、である。それには連続して攻撃を仕掛けないといけないのであるが、タノモはこの時点でそれを決心していた。
その作戦が功を奏して、ハルミが優位に立っていたのはここまでであった。刀を抜いてしまってからの攻撃は精彩を欠いていた。
慣れていないのである。これが剣道なら最初の一撃で1本確定である。真剣勝負であるなら相手は死亡している。魔物相手なら経験値になっている。
しかしこの勝負は5分の間に、どれだけ相手にダメージを与えられるかという試合である。
刀を抜いた状態でちゃんちゃんばらばらとやるのは、うちの魔王たちのほうがよほど慣れているだろう。だがハルミにはそうした経験がほとんどないのだ。
「ハルミ殿。まいります」
「おう!」
応答だけは威勢がいいが、ハルミは防戦一方だ。タノモの鍛えられた正統派の武術が襲いかかる。
上段の構えから振り下ろす兜割り、45度の角度を付けた袈裟斬り。それらを何度も繰り返し、とき真横に払う横一文字も混ぜた攻撃は、何度もハルミの身体を切り刻んだ。
そのたびに、ハルミのスーツははがれ落ちて行く。しかし、ハルミにそんなことを気にしている余裕はなかった。
このままでは負ける。それだけがハルミの脳裏を支配していた。
しかし、ハルミは抜刀以外にこれといった技を持っていない。それなら一度刀を鞘に収めれば良いようなものだが、タノモがそれを許さないのだ。
次から次へと攻撃を仕掛け、刀を鞘に戻す時間を奪っている。その結果として、ハルミは防戦一方になってしまうのである。
そして試合開始から4分が経った。この頃になると、ふたりのスーツの剥がれ具合はだいたい同じになったように見えた。
最初のリードを食い潰したハルミのほうが、明らかに不利である。
しかし、最初に受けた打撃を取り返すために、全力を振るわざるを得なかったタノモは、この時点で疲れ果てていた。
ハルミに反撃させないために、わずかな隙もなく攻撃を続けた弊害である。
もう、ハルミのスーツを引っ剥がすだけの打撃が与えられなくなっていたのだ。
ハルミとて、最初以外はずっと負け続けているという焦燥感から、必要以上に体力を使い、タノモと同じように消耗していた。
「残りはあと1分だな」
「ああ、とても良い勝負になったな」
「もうちょっとで、おっぱいが全露出なんだがなぁ。タノモ頑張れ。あと一息だ!」
「お主はいったいどっちを応援しているのだ?」
「え? そりゃ、ハルミに決まっているだろ」
「え? そうなのか、それならいいが」
ハルミのスーツが脱げるように応援しているのだ。間違ってないよな?
(ものすごく間違っているノだ)
審判(というより進行役)を務めるアシナから、あと30秒ですという声がかかる。さあ、ラストスパートだ。
しかしそれでも、ハルミは自分から刀を繰り出そうとはしなかった。相手の技に反応するので精一杯なのだろう。
タノモの攻撃も単調になってきた。上段からの兜割り、そして袈裟斬り。その繰り返しである。
ふたりとも肩で息をしている。たった5分だろ、などと思ってはならない。
バドミントンの最長ラリー世界記録は2分である。ラリーの後半は、両選手とも足がヨレヨレになっていた。
ボクシングが1ラウンド3分なのも、それが限界と考えられているからだ。
人が全力疾走できる距離は400mが限度(時間にして約50秒)と考えられている。
人間が集中して、かつ連続して全力で動ける時間は、そのぐらいが限界なのだ。
この試合の5分というのは、それを越えたところにある。最後の30秒はまさしく地獄の苦しみであろう。ふたりはその中で戦っているのである。
この時点で、点数はハルミがやや負けているように思われた。しかし、ハルミは荒い息を吐くだけで、自分から攻撃を仕掛けることはできていなかった。
だからタノモは残りの30秒、時間稼ぎをすれば良かったのである。攻撃をするふり(フェイント)などを駆使して、自分は休みながら攻撃を仕掛ければ良かったのだ。
それだけでハルミのなけなしの体力は削られて行くだろう。それが勝つための最善の策であったはずである。
しかしタノモはそれをしなかった。相変わらず、正統派の、そして単調な攻撃を繰り返していた。剣士の鏡である。これもアイヅ国の教えなのかも知れない。
姑息を嫌うアイヅの風土なのかも知れない。それはあの膨大な決算書にも現れている。良い国は良い人間が作るのだな、と心底感心をした。
こうなると、最後は体力勝負である。
ふたりともスーツはずるずるに剥がれ、身体のほとんどの部分が露出していた。それを楽しみにしているのは、俺だけではないはずだ。
(そういうのは隠すものなノだ)
(できることなら下着なしでやるべきだと思うの)
(ユウさん、最低です!)
そしてアシナが言った。あと15秒!
そのとき、タノモは最後の仕掛けに出た。上段から振り下ろした兜割りを、ハルミが身体をひねってかろうじて避ける。
それを予測していたように、タノモはわざと地面を叩きその反動を利用して、そのまま横殴りにハルミに襲いかかったのだ。
それまでの単調な攻撃の連続は、このための撒き餌であったのかも知れない。予想していなかったハルミだが、それでも持ち前の反射神経でそれをジャンプして避けた……つもりであった。
しかし、疲労が蓄積した筋肉は、ハルミが思っていたよりも少ないジャンプ力しか生まなかった。
そのためにタノモの変則・波返しは、ハルミの足首を思い切り強打した。
足を払われた形になったハルミは、あまりの痛みに苦悶の声を上げながら転がった。
しかしその技を出すために、疲れ切った自分の筋肉に大きな負荷をかけたタノモもまた、ハルミと同じように転がってしまった。それがタノモの大きな失敗であった。
かくして、この試合が始まってから初めて、ふたりの間に空間ができてしまったのである。
転がった瞬間にそのことに気づいたハルミは、痛む足のことなど忘れ、すぐに身体を立て直すとにっと笑った。
まるで、これで私のターン、とでも言っているようであった。
そう。間断なく攻撃し続けることで、ハルミの抜刀術を防いできたタノモから、初めて間が奪えたのだ。
この一撃で仕留められなかったタノモの失策と言っても良いであろう。その絶好のチャンスを逃すようなハルミではない。
ハルミはニホン刀を鞘に収めた。そして抜刀の構えを取る。タノモが並の剣士なら、ここは逃げの一手である。
ハルミが刀を抜く瞬間など見えないのだから、ここは下がって時間を稼げば良い場面である。
「ハルミ、あと7秒……はひょほひょひょ?」
「7秒もあれば充分? なんだその最後は。もういい、行くぞ、タノモ!!!」
ちょっと待った。ハルミ?! あの、これを読んでいる人の誰もが予想した通りの展開になっているのだけど!
これ以上やると、またお前が押し入れに籠もることになりそうなんだけど!! どうしてそんなことに!? お前はなんで下着を着けてない? 読者サービスなのか、そうなのか?!
いまの足首への打撃で、ハルミのバトルスーツはずたずたになり、先っちょとアソコの一部を除いて、ほぼすべて吹っ飛んでいたのである。
スセリとタダミの試合を見ていれば、スーツの下に下着を着けて良いことは分かったはずだが、その前に更衣室に引っ込んでせいで、ハルミは素肌に着るものだと思い込んだのであろう。
その手配をしたのは確か……アシナ、GJである!! あとでお小遣いあげよう。
「いや、あの。ハルミ殿、ちょっとそれは、あの。僕、僕にはちょっと刺激が」
「問答無用!! この場で怖じ気づくとはお主らしくない。この刀を受けよ!!」
いつものことであるが、戦いに夢中になって自分の姿に気づいていないハルミである。そしてかけ声と共に、ハルミ得意の抜刀術が炸裂する。かに思われた。
しかし、ハルミもいままでに経験したことのない戦いをしてきたのだ。乳酸を極限まで溜めた筋肉は、ハルミの思っていたようには働いてくれなかった。
抜刀術の基本は、強靱な足腰である。それが斬れ味を左右する。特にハルミは、抜刀と同時に全身のバネを使って一気に間合いを詰め、相手に斬りかかることを得意としている。
そのバネが、度重なる疲労で鈍っていた。速度の欠いた抜刀になってしまっていたのである。
刀を抜いた瞬間にそのことを自覚したハルミは焦った。その焦りが、次の悲劇を生んだ。
その速度は、タノモにも充分対応可能な速度であった。ただし、タノモが通常の状態ならば、の話である。
タノモも疲れていた。来る! と分かっている太刀筋であったが、それを避けることは不可能だと察した。そして剣士の一分がそこで発動した。
避けられないのであれば、いっそ。そう、相打ちをと。それを狙ったのである。
ところが打ち込んで来るはずのハルミは、抜刀する直前に踏み込んだ足が力を失って、その場に沈み込んでしまったのである。
焦りもあった。しかしその直前に受けた打撲――タノモの横払いによる――がハルミの強靱な足腰から踏み込む足を奪っていたのだ。
踏ん張りの利かない足は全体のバランスを崩し、ハルミはタノモの足下に転げるように突進してしまった。ほぼ体当たりである。
一方、相打ちを狙って打ち込もうとしていたタノモも、打ち込むべき相手を見失った。
それが体当たりに来ていることに気づいたときにはもう、足をとられて前方かかえ込み2回宙返り1/2ひねりの形になってしまっていた。ちなみに(男子体操競技的に)F難度の技である。
ハルミは、転がりながらもあがきにあがいていた。そして一瞬のうちに、自分の左手の先に相手の足首があることに気づいたのだった。
それは、ユウを後ろに乗せてソリで滑っていたときに、頭の上の枝を掴んだのと同じ脊髄反射ある。
半ば無意識のうちにその足をぐむっと掴むと、そのまま自分の転がって行く力を利用して、ぶん投げようとしたのである。
しかし、その反動はハルミにも訪れた。投げられまいと、タノモも対抗したためである。
そしてこの時点で、ふたりともほぼ全裸である(タノモはパンツを着用しているが)。磨き抜かれた道場の板の上を、ふたりは裸でへばりつき、引っ張り合った。その結果。
「「熱っ熱っ熱ぁ熱っっっっ」」
床と皮膚との摩擦熱が発生した。当然の帰結である。
しかし、それでめげるハルミではなかった。全裸の女性にやや遠慮がちなタノモと違って、ハルミは痛む足を無理矢理に踏みしめ、手に持ったままだったタノモを、今度はしっかりを放り投げたのであった。
タノモは落ちた場所で意識を失い戦闘不能となった。ハルミもまた、投げ飛ばした反動でよろよろと少しだけ走り、そこで仰向けに倒れた。大の字にである。
それが、血走った目で観戦していた道場の剣士たちの、目の前であったことが、ハルミにとっては大変不幸なことであった。
しかしこれこそが、エロエロ度7,250を持つ剣士の、本来あるべき姿であると言えなくもない。
剣士たちは、後にこう語った。
「私はかつてあのような、悲惨な戦いを見たことがない」と。
この戦いは、それから数百年に亘って語り継がれ、とある民族音楽系(フォークともいう)ミュージシャンがこれを題材にした曲を作ってヒットさせた。おまけで放送禁止歌となるのである。
「バトルの描写は初めてだったが、どうだったノだ?」
「うぅん、すっごい苦労した」
「なんとかなったノか?」
「ハルミのおかげでなんとか」
「エロが入らないとやる気がでないノか!」
「お前の好素と同じようなものだな」
「初めてなノか?」
「うん」
「なんとかなるノか?」
「さぁ?」
「頼りない作者なノだ」
「お前も頼りない魔王じゃないか!」
いきなり抜き放ったハルミの抜刀術は、タノモを一刀両断にした。さらに返す刀でもう一太刀を浴びせた。以前、エースの前でやった試技と同じである。ツバメ返しと呼ばれる技である。
ハルミの進化はそれだけにとどまらなかった。ツバメ返しのあと、さらにもう一太刀を浴びせたのである(これを稲妻斬りと言う)。
その間、タノモはなすすべがなかった。ハルミが刀を抜く瞬間させ見えなかったからである。
これでタノモのスーツは、いきなり約1/3が飛んでなくなった。セミヌード状態である。
男の描写などはどうでも良いが、すさまじきハルミの破壊力である。抜刀術の面目躍如である。
これ以降、タノモの戦略はただひとつとなった。ハルミにはもう抜刀させないこと、である。それには連続して攻撃を仕掛けないといけないのであるが、タノモはこの時点でそれを決心していた。
その作戦が功を奏して、ハルミが優位に立っていたのはここまでであった。刀を抜いてしまってからの攻撃は精彩を欠いていた。
慣れていないのである。これが剣道なら最初の一撃で1本確定である。真剣勝負であるなら相手は死亡している。魔物相手なら経験値になっている。
しかしこの勝負は5分の間に、どれだけ相手にダメージを与えられるかという試合である。
刀を抜いた状態でちゃんちゃんばらばらとやるのは、うちの魔王たちのほうがよほど慣れているだろう。だがハルミにはそうした経験がほとんどないのだ。
「ハルミ殿。まいります」
「おう!」
応答だけは威勢がいいが、ハルミは防戦一方だ。タノモの鍛えられた正統派の武術が襲いかかる。
上段の構えから振り下ろす兜割り、45度の角度を付けた袈裟斬り。それらを何度も繰り返し、とき真横に払う横一文字も混ぜた攻撃は、何度もハルミの身体を切り刻んだ。
そのたびに、ハルミのスーツははがれ落ちて行く。しかし、ハルミにそんなことを気にしている余裕はなかった。
このままでは負ける。それだけがハルミの脳裏を支配していた。
しかし、ハルミは抜刀以外にこれといった技を持っていない。それなら一度刀を鞘に収めれば良いようなものだが、タノモがそれを許さないのだ。
次から次へと攻撃を仕掛け、刀を鞘に戻す時間を奪っている。その結果として、ハルミは防戦一方になってしまうのである。
そして試合開始から4分が経った。この頃になると、ふたりのスーツの剥がれ具合はだいたい同じになったように見えた。
最初のリードを食い潰したハルミのほうが、明らかに不利である。
しかし、最初に受けた打撃を取り返すために、全力を振るわざるを得なかったタノモは、この時点で疲れ果てていた。
ハルミに反撃させないために、わずかな隙もなく攻撃を続けた弊害である。
もう、ハルミのスーツを引っ剥がすだけの打撃が与えられなくなっていたのだ。
ハルミとて、最初以外はずっと負け続けているという焦燥感から、必要以上に体力を使い、タノモと同じように消耗していた。
「残りはあと1分だな」
「ああ、とても良い勝負になったな」
「もうちょっとで、おっぱいが全露出なんだがなぁ。タノモ頑張れ。あと一息だ!」
「お主はいったいどっちを応援しているのだ?」
「え? そりゃ、ハルミに決まっているだろ」
「え? そうなのか、それならいいが」
ハルミのスーツが脱げるように応援しているのだ。間違ってないよな?
(ものすごく間違っているノだ)
審判(というより進行役)を務めるアシナから、あと30秒ですという声がかかる。さあ、ラストスパートだ。
しかしそれでも、ハルミは自分から刀を繰り出そうとはしなかった。相手の技に反応するので精一杯なのだろう。
タノモの攻撃も単調になってきた。上段からの兜割り、そして袈裟斬り。その繰り返しである。
ふたりとも肩で息をしている。たった5分だろ、などと思ってはならない。
バドミントンの最長ラリー世界記録は2分である。ラリーの後半は、両選手とも足がヨレヨレになっていた。
ボクシングが1ラウンド3分なのも、それが限界と考えられているからだ。
人が全力疾走できる距離は400mが限度(時間にして約50秒)と考えられている。
人間が集中して、かつ連続して全力で動ける時間は、そのぐらいが限界なのだ。
この試合の5分というのは、それを越えたところにある。最後の30秒はまさしく地獄の苦しみであろう。ふたりはその中で戦っているのである。
この時点で、点数はハルミがやや負けているように思われた。しかし、ハルミは荒い息を吐くだけで、自分から攻撃を仕掛けることはできていなかった。
だからタノモは残りの30秒、時間稼ぎをすれば良かったのである。攻撃をするふり(フェイント)などを駆使して、自分は休みながら攻撃を仕掛ければ良かったのだ。
それだけでハルミのなけなしの体力は削られて行くだろう。それが勝つための最善の策であったはずである。
しかしタノモはそれをしなかった。相変わらず、正統派の、そして単調な攻撃を繰り返していた。剣士の鏡である。これもアイヅ国の教えなのかも知れない。
姑息を嫌うアイヅの風土なのかも知れない。それはあの膨大な決算書にも現れている。良い国は良い人間が作るのだな、と心底感心をした。
こうなると、最後は体力勝負である。
ふたりともスーツはずるずるに剥がれ、身体のほとんどの部分が露出していた。それを楽しみにしているのは、俺だけではないはずだ。
(そういうのは隠すものなノだ)
(できることなら下着なしでやるべきだと思うの)
(ユウさん、最低です!)
そしてアシナが言った。あと15秒!
そのとき、タノモは最後の仕掛けに出た。上段から振り下ろした兜割りを、ハルミが身体をひねってかろうじて避ける。
それを予測していたように、タノモはわざと地面を叩きその反動を利用して、そのまま横殴りにハルミに襲いかかったのだ。
それまでの単調な攻撃の連続は、このための撒き餌であったのかも知れない。予想していなかったハルミだが、それでも持ち前の反射神経でそれをジャンプして避けた……つもりであった。
しかし、疲労が蓄積した筋肉は、ハルミが思っていたよりも少ないジャンプ力しか生まなかった。
そのためにタノモの変則・波返しは、ハルミの足首を思い切り強打した。
足を払われた形になったハルミは、あまりの痛みに苦悶の声を上げながら転がった。
しかしその技を出すために、疲れ切った自分の筋肉に大きな負荷をかけたタノモもまた、ハルミと同じように転がってしまった。それがタノモの大きな失敗であった。
かくして、この試合が始まってから初めて、ふたりの間に空間ができてしまったのである。
転がった瞬間にそのことに気づいたハルミは、痛む足のことなど忘れ、すぐに身体を立て直すとにっと笑った。
まるで、これで私のターン、とでも言っているようであった。
そう。間断なく攻撃し続けることで、ハルミの抜刀術を防いできたタノモから、初めて間が奪えたのだ。
この一撃で仕留められなかったタノモの失策と言っても良いであろう。その絶好のチャンスを逃すようなハルミではない。
ハルミはニホン刀を鞘に収めた。そして抜刀の構えを取る。タノモが並の剣士なら、ここは逃げの一手である。
ハルミが刀を抜く瞬間など見えないのだから、ここは下がって時間を稼げば良い場面である。
「ハルミ、あと7秒……はひょほひょひょ?」
「7秒もあれば充分? なんだその最後は。もういい、行くぞ、タノモ!!!」
ちょっと待った。ハルミ?! あの、これを読んでいる人の誰もが予想した通りの展開になっているのだけど!
これ以上やると、またお前が押し入れに籠もることになりそうなんだけど!! どうしてそんなことに!? お前はなんで下着を着けてない? 読者サービスなのか、そうなのか?!
いまの足首への打撃で、ハルミのバトルスーツはずたずたになり、先っちょとアソコの一部を除いて、ほぼすべて吹っ飛んでいたのである。
スセリとタダミの試合を見ていれば、スーツの下に下着を着けて良いことは分かったはずだが、その前に更衣室に引っ込んでせいで、ハルミは素肌に着るものだと思い込んだのであろう。
その手配をしたのは確か……アシナ、GJである!! あとでお小遣いあげよう。
「いや、あの。ハルミ殿、ちょっとそれは、あの。僕、僕にはちょっと刺激が」
「問答無用!! この場で怖じ気づくとはお主らしくない。この刀を受けよ!!」
いつものことであるが、戦いに夢中になって自分の姿に気づいていないハルミである。そしてかけ声と共に、ハルミ得意の抜刀術が炸裂する。かに思われた。
しかし、ハルミもいままでに経験したことのない戦いをしてきたのだ。乳酸を極限まで溜めた筋肉は、ハルミの思っていたようには働いてくれなかった。
抜刀術の基本は、強靱な足腰である。それが斬れ味を左右する。特にハルミは、抜刀と同時に全身のバネを使って一気に間合いを詰め、相手に斬りかかることを得意としている。
そのバネが、度重なる疲労で鈍っていた。速度の欠いた抜刀になってしまっていたのである。
刀を抜いた瞬間にそのことを自覚したハルミは焦った。その焦りが、次の悲劇を生んだ。
その速度は、タノモにも充分対応可能な速度であった。ただし、タノモが通常の状態ならば、の話である。
タノモも疲れていた。来る! と分かっている太刀筋であったが、それを避けることは不可能だと察した。そして剣士の一分がそこで発動した。
避けられないのであれば、いっそ。そう、相打ちをと。それを狙ったのである。
ところが打ち込んで来るはずのハルミは、抜刀する直前に踏み込んだ足が力を失って、その場に沈み込んでしまったのである。
焦りもあった。しかしその直前に受けた打撲――タノモの横払いによる――がハルミの強靱な足腰から踏み込む足を奪っていたのだ。
踏ん張りの利かない足は全体のバランスを崩し、ハルミはタノモの足下に転げるように突進してしまった。ほぼ体当たりである。
一方、相打ちを狙って打ち込もうとしていたタノモも、打ち込むべき相手を見失った。
それが体当たりに来ていることに気づいたときにはもう、足をとられて前方かかえ込み2回宙返り1/2ひねりの形になってしまっていた。ちなみに(男子体操競技的に)F難度の技である。
ハルミは、転がりながらもあがきにあがいていた。そして一瞬のうちに、自分の左手の先に相手の足首があることに気づいたのだった。
それは、ユウを後ろに乗せてソリで滑っていたときに、頭の上の枝を掴んだのと同じ脊髄反射ある。
半ば無意識のうちにその足をぐむっと掴むと、そのまま自分の転がって行く力を利用して、ぶん投げようとしたのである。
しかし、その反動はハルミにも訪れた。投げられまいと、タノモも対抗したためである。
そしてこの時点で、ふたりともほぼ全裸である(タノモはパンツを着用しているが)。磨き抜かれた道場の板の上を、ふたりは裸でへばりつき、引っ張り合った。その結果。
「「熱っ熱っ熱ぁ熱っっっっ」」
床と皮膚との摩擦熱が発生した。当然の帰結である。
しかし、それでめげるハルミではなかった。全裸の女性にやや遠慮がちなタノモと違って、ハルミは痛む足を無理矢理に踏みしめ、手に持ったままだったタノモを、今度はしっかりを放り投げたのであった。
タノモは落ちた場所で意識を失い戦闘不能となった。ハルミもまた、投げ飛ばした反動でよろよろと少しだけ走り、そこで仰向けに倒れた。大の字にである。
それが、血走った目で観戦していた道場の剣士たちの、目の前であったことが、ハルミにとっては大変不幸なことであった。
しかしこれこそが、エロエロ度7,250を持つ剣士の、本来あるべき姿であると言えなくもない。
剣士たちは、後にこう語った。
「私はかつてあのような、悲惨な戦いを見たことがない」と。
この戦いは、それから数百年に亘って語り継がれ、とある民族音楽系(フォークともいう)ミュージシャンがこれを題材にした曲を作ってヒットさせた。おまけで放送禁止歌となるのである。
「バトルの描写は初めてだったが、どうだったノだ?」
「うぅん、すっごい苦労した」
「なんとかなったノか?」
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