異世界でカイゼン

soue kitakaze

文字の大きさ
239 / 336

第239話 ラブシーンに向かない男

しおりを挟む
「オウミ、やかましい! いいから早く行ってこい!」
「ほーい、ノだ」


 部屋にはスクナと俺。ふたりきりである。

「ユウ? さん? ぐすっ。ゴメン、そんなつもりじゃなかったんだけど」
「あー、うん」

 なんか言えよ、俺。あのときのウエモンの言葉が耳にへばりついて離れない。こういうシチュエーションには慣れていない。そもそもラブシーンには向かない男なのだほっとけやっ。

「私ね」
「うん」
「もうじき、ここから離れないといけないでしょ」
「うん、それは分かってる。冬休みの間だけって約束だったな」

「うん。それなのにウエモンにはね、とても良くしてもらったの」
「それは良かった」
「おかげで、こちらでの生活はとっても楽しかった」
「うんうん」

 俺に付いて来たはずだったのに、ほったらかしにしてスミマセンです。

「ウエモンってすごいのよ」
「がしがし以外にか?」
「あははは。あれは照れ隠しよ。あの人も人間が苦手なの。でも、慣れるとっても良い人よ」

「才能は認めるよ。あのバイトを扱えるのはウエモンだけだ」
「そう。あれね、私もやってみたけど、削るどころか、あれをずっと同じ力であんな不安定な鉄の棒に当て続ける、なんて技は私にはとても無理だった」

「そうなのか? バイトのほうが勝手に削っているというイメージだったが」
「違うと思う。削ること自体はバイトがやるけど、同じ力でずっと当てていないとダメなのよ。ウエモンだって、最初はすごく苦労してたもの。思うように削れなくて曲がったり折れたりの連続だったよ。だから両手で持ってみたり、台の上に手を置いてみたり、逆立ちしやってみたり」
「いや、逆立ちは違うと思うが」

「だって、どんなやり方が有効なのか全然分からないだもん。考えられることは全部やってみよう、ってウエモンが言ったの」
「それでいつしかできるようになった?」
「うん。結局は慣れだったみたい」

「慣れか。そうなるまでにずいぶん努力したってことだな」
「うん。楽器だってうまくなるには相当な努力が必要よね。運動だって狩りだってそうでしょ」
「確かにそうだ。練習しなくてうまくなるものなんてないな」

「ウエモンは、私が寝ている間にもいろいろ工夫しながらひとりで練習してたのよ」
「ええっ! それほどか?」

 さすがにそれは意外だった。

「努力の人なのよ、ウエモンって」
「それは気がつかなかった。ウエモンを見直さないといけないな」
 
「うん、そうしてあげて。それでね」
「うん?」

「ミヨシさんにもハルミさんにも、それにウエモンにも、それぞれ固有の特技があるでしょう?」
「ああ、あるな。あいつらはある意味天才だ」

「だけど、私にはそういうのがない」

 ここでそう来るか?!

「それは、お前がまだ若いからだろ」
「年齢は関係ないの!」

 おぉ? なんで切れ口調?

「お前にはかなりの魔法の才能があると、オウミが言ってたぞ」
「だけど私の魔法はあまり使い道がないよ?」
「灯をつけるとか、できたよな。日常魔法が使えれば充分だろ」
「でもそれだけじゃ」

「だけじゃ?」
「ユウさんの役に立たないもん」

 と言いながらそっぽを向いた。その少し照れた横側を見て、不覚にも俺は可愛いと思ってしまった。

 スクナに識の魔法を伝授してもらうことはまだ秘密だ。使えなかったときのショックが大きいと可哀想だからな。ユウコ、スクナ、ウエモン、ミヨシ、アチラ、ゼンシン。この中にひとり、識の魔法使いができたらもうけもの、ぐらいに思っている。

「そんなことはないよ。お前も充分役に立っている」
「どんなふうに?」

 え? まさかここで質問されるとは。ええっと、なにがあったっけ? ドリルはウエモンがメインでスクナは助手だ。助手なら代用が可能だ。魔法は使えるが、まだまだ初級と中級の間くらいか。現状では灯をつけるぐらいしか使い道がない。

 じゃあ他に。なにがあったっけ? CTRL+Fで検索して……特にない……。

 困った。役に立っていると言ってしまった手前、引っ込みがつけかなくなった。あたふたふたふた。ええい、そうだ。これだ。

「だって、お前は可愛いじゃないか!」
「か……」

 よし! ものすごく意外なことを言って誤魔化してやったぞ、わははは、俺の勝ちな。

「ボソボソボソ」
「え? なに?」
「だから、ボソボソボソボソ」
「聞こえないのだが」

 俺はスクナの口元に顔を近づけた。その途端。

「好きよ」 ちゅっ。

 いきなりキスをされた。唇を奪われた。わぁぁぁぁぁおお。お、おいおいおい。これはお前、その、なんだ。俺のファーストキス的なファーストキスではないか。おいおい。いいのか、これ犯罪にならないか。

「どわあぁぁぁぁおぉぉおおぉあわぉわおわおわおわおぉ」
「えへへへ。驚いた? これでちょっと気が済んだ。じゃ、これから私はユウさんの執事になるから、よろしくね」

「ひぃへぅびぃ?」
「し つ じ だよきゃははははは」

 この世界は、キスをすると執事になるというルールでもあるのだろうか。ということは、あのエースとレクサスも。

「あるかぁ!!!」
「わぁ、びっくしした。どうしたの?」

「あ、いや、すまん。こっちの話だ。ちょっと嫌なことを思い出しちゃってな。それより、スクナ。お前はそれでいいのか?」
「執事として使ってください。所長……それとも太守様がいいですか? 」

 いや、聞いたのはそっちじゃなかったんだけど。

「そ、それ、それじゃ、公式のときは太守で。普段はユウさんでいいぞ」
「うん、分かった」

 いかん。まだどきどきが収まらない。俺のファーストキスがこんな形で奪われようとは。

 あれ? ということは。スクナって。

 俺の彼女に、なったということか?



「どうだった? イズナ」
「大成功のようだゾヨ」
「そうか! それは良かった。スクナはなんて言ってた?」

「スクナとは話はしていない。見てただけだゾヨ」
「それじゃ成功かどうか判断できないでしょ?」

「キスしてたゾヨ」
「それはユウからか?」
「いや、スクナから」

「それじゃ分からないだろ」
「いや、分かってるゾヨ」

「スクナが自分からキスしたのでは、ユウの気持ちは分からんじゃないか」
「スクナは、そこまで分からなくても良かった、ということが分かったゾヨ」
「話もしていないのに、どうしてそれが分かるんだ?」

「スクナはキスをしながら」
「しながら?」
「小さくガッツポーズしてたゾヨ」
「あぁ、なるほど」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

武装法人二階堂商会 ―― 企業買収(M&A)で異世界を支配する!

Innocentblue
ファンタジー
日本で企業買収の最前線を駆け抜けてきた敏腕社長・二階堂漣司。 裏切りにより命を落としたはずの彼が目を覚ましたのは、 剣と魔法が支配する異世界の戦場だった。 与えられたスキルは《企業買収(M&A)》。 兵士も村も土地も国家さえも、株式として評価・買収・支配できる異能の力。 「ならば、この世界そのものを買い叩く」 漣司は《武装法人二階堂商会》を設立。 冷徹な参謀にして最強の魔導士リュシア、獣人傭兵団、裏社会の戦力―― すべてを子会社として編成し、経済と武力を融合した前代未聞の経営戦争へと踏み出す。 弱小の村を救済し、都市と契約を結び、裏切り者を切り捨て、敵対勢力を力で買収する。 交渉は戦争、戦争は経営。 数字が命運を決め、契約が国境を塗り替える。 やがて商会は、都市国家・ギルド・貴族・宗教勢力すら巻き込み、 世界の価値そのものを再定義する巨大企業へと変貌していく。 これは、剣ではなく契約で世界を制圧する男の物語。 奪うのではない。支配するのでもない。 価値を見抜き、価値を操り、世界に値札を付ける―― 救済か、支配か。正義か、合理か。 その境界線を踏み越えながら、蓮司は異世界そのものを経営していく。 異世界×経済×武力が激突する、知略と覇道の武装経営ファンタジー。 「この世界には、村があり、町があり、国家がある。 ――全部まとめて、俺が買い叩く」

毒舌アイドルは毒の魔物に転生する。

馳 影輝
ファンタジー
毒舌を売りにして芸能界で活躍できる様になった。 元々はアイドルとしてデビューしたが、ヒラヒラの衣装や可愛い仕草も得意じゃ無かった。 バラエティーの仕事を貰って、毒舌でキャラを作ったらこれがハマり役で世間からのウケも良くとんとん拍子で有名人になれた。 だが、自宅に帰ると玄関に見知らぬ男性が立っていて私に近づくと静かにナイフで私を刺した。 アイドル時代のファンかも知れない。 突然の事で、怖くて動けない私は何度も刺されて意識を失った。 主人公の時田香澄は殺されてしまう。 気がつくとダンジョンの最下層にポイズンキラーとい魔物に転生する。 自分の現象を知りショックを受けるが、その部屋の主であるリトラの助言により地上を目指す。 ダンジョンの中で進化を繰り返して強くなり、人間の冒険者達が襲われている所に出くわす。 魔物でありながら、擬態を使って人間としても生きる姿や魔王種への進化を試みたり、数え切れないほどの激動の魔物人生が始まる。

鬼死回生~酒呑童子の異世界転生冒険記~

今田勝手
ファンタジー
平安時代の日本で魑魅魍魎を束ねた最強の鬼「酒呑童子」。 大江山で討伐されたその鬼は、死の間際「人に生まれ変わりたい」と願った。 目が覚めた彼が見たのは、平安京とは全く異なる世界で……。 これは、鬼が人間を目指す更生の物語である、のかもしれない。 ※本作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ネオページ」でも同時連載中です。

異世界でリサイクルショップ!俺の高価買取り!

理太郎
ファンタジー
坂木 新はリサイクルショップの店員だ。 ある日、買い取りで査定に不満を持った客に恨みを持たれてしまう。 仕事帰りに襲われて、気が付くと見知らぬ世界のベッドの上だった。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

神様から転生スキルとして鑑定能力とリペア能力を授けられた理由

瀬乃一空
ファンタジー
普通の闇バイトだと思って気軽に応募したところ俺は某国の傭兵部隊に入れられた。しかし、ちょっとした俺のミスから呆気なく仲間7人とともに爆死。気が付くと目の前に神様が……。 神様は俺を異世界転生させる代わりに「罪業の柩」なるものを探すよう命じる。鑑定スキルや修復スキル、イケメン、その他を与えられることを条件に取りあえず承諾したものの、どうしたらよいか分からず、転生した途端、途方にくれるエルン。

私は〈元〉小石でございます! ~癒し系ゴーレムと魔物使い~

Ss侍
ファンタジー
 "私"はある時目覚めたら身体が小石になっていた。  動けない、何もできない、そもそも身体がない。  自分の運命に嘆きつつ小石として過ごしていたある日、小さな人形のような可愛らしいゴーレムがやってきた。 ひょんなことからそのゴーレムの身体をのっとってしまった"私"。  それが、全ての出会いと冒険の始まりだとは知らずに_____!!

唯一無二のマスタースキルで攻略する異世界譚~17歳に若返った俺が辿るもう一つの人生~

専攻有理
ファンタジー
31歳の事務員、椿井翼はある日信号無視の車に轢かれ、目が覚めると17歳の頃の肉体に戻った状態で異世界にいた。 ただ、導いてくれる女神などは現れず、なぜ自分が異世界にいるのかその理由もわからぬまま椿井はツヴァイという名前で異世界で出会った少女達と共にモンスター退治を始めることになった。

処理中です...