異世界でカイゼン

soue kitakaze

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第295話 有能なイリヒメ

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ノだ
「決断する前に相談していただいたことは成長の証しと認めますが、それは賛同しません」

ノだ
「レンチョン、なんでだ?」

ノだ
「トヨタもインフラ整備はやっていますが」
ノだ
「その地域では、投資に見合ったリターンが望めません」

ノだ
「人口の問題か?」

ノだ
「それもあります。経済効果の問題です」

ノだ
「イリヒメ研究所への投資は反対しないんだよな?」

ノだ
「ええ、それには問題ないと思います。きっちり利益が見込めます」

ノだ
「とりあえずそれだけでいい。手続きは頼んだ」

ノだ
「了解です。詳細はまた後ほど」

 ぜぇぜぇぜぇノだ。

「魔力が枯渇しかかってるところ、すまんなんだ。お疲れオウミ」
「また酔うとこだったノだ。終わって良かったノだ」

 いつものペケベルである。意外と魔力を食うスキルなのである。

「ということだ。親会社の判断で、道の整備はしばらくペンディングとする」
「中止、というわけではないのですね?」

「あんたもねばっこいね。俺は諦めてはいないよ。いつかここからイナバまでくらい、必ず道を通してやるつもりだ。ただ、それにはもっとここに事業が必要ということだ」
「イナバ? ハザマ村じゃなくて?」

「ハザマは生産拠点としてはいいが、流通には向かない。それより人口の多いイナバまで道を通すべきだと、レンチョンが言ってた」

#イナバ市:こちらでいう岐阜(信長が命名した)市である。

「ではそのときは、ぜひ、私どもに声をかけてください」
「分かったよ。イリヒメが世話になった銀行だから、粗略には扱わないつもりだ。ただ」

「ただ?」
「金利はもっと負けてもらうぞ」
「あなたもちゃっかりしてますね」
「トヨタ金融なら年率18%だ。それ以上だったら話にならんと、覚えておいてくれ」

「……はい。覚悟しておきます。だから必ず声をかけてくださいよ。うちが一番ですからね」
「分かった分かった。インフラに限らず、なにか必要になったら相談させてくれ」

「ということで、やっかいな仕事は終わった。じゃイリヒメ、続きと行こうじゃないか」
「おう!」

 な、仲がいいのね、このふたり。ちょっと妬けちゃう。

「単純に意気投合しているだけだと思うノだ」
「仲が良いというより、気が合っているのだヨ」
「そんな慰めはいらないから」

「「スクナの心配は無用だと思うノだヨ」」
「どうして?」


「なんでそんなことをしたんだよ、そこはもっと簡単な話だろうが」
「あら、結果論でものを言わないでくださる? 限られた予算の中で最大の効果を出すために、私は必死なのですよ?」

「それならなおさらだろう。レポートによればダンジョン内で、魔ネコは3ヶ月で灰色になる。そして半年でしっぽを除いて真っ白になる。そこからさらに約2ヶ月で全身が真っ白になる。そういうデータが出ているんだろ?」
「そうですわよ?」

「それならなんで、そこからさらに4ヶ月も待つ必要があるんだよ。せいぜい9ヶ月目で売れるじゃねえか。その分、コストが上がっちゃうだろ」

「あなたにはマージンという概念はないの? それが完全に定着したかどうか分からないでしょう。あとからクレームが来るほうが怖いのですよ」

「人の命がかかっているわけじゃない。この商品はただの愛玩動物だろ。いわば民生品だ。クレームがきたら交換すればいいだけの話だ。そうやってなんでも品質にこだわるから高コスト体質ができちゃうんだよ」

「そ、そんなことを、クレームを受ける身にもなってみなさいな」
「だから交換に応じろと言ってるんだ。クレーム処理の仕方ぐらい覚えやがれ」

「「なんだと、このやろう!!」」

「「ほら見ろなノだヨ」」
「な、なるほどね」

 オタク体質の人というのは、意見が合っているうちにはとても仲が良いように見える。だけど些細なことで意見が分かれると、それはもう親の敵のようにケンカが始まる。そういうものだ。

「「些細なことじゃないから!」」

 あー、はいはい。

「そんなことをしているから時間ばかりかかって、借金返済に追われることになるんだよ」
「うぐっ」
「最初から完璧を求めるな。まずは市場に出して様子見をすればいいんだ。そうやって日銭を稼ぎながら品質のカイゼンに取り組めば良かったんだよ」
「うぐぐぐぐ」

 しかし、こういうことに関しては、ユウさんに一日の長がある。そこはカイゼンを本職とする机上の天才だ。理屈の言い合いで、かなう人などそうはいない。

「赤字を出したくないのなら、もっと全体に気を配れ。自分にできないのなら、できるやつにまかせちゃえ」
「あ、そうか!」
「なんだなんだ?」

「ヤツルギ。これからは経営全般をあなたに委任します」
「はい?」
「ヤツルギのこれまでの仕事は、なんだったんだ?」
「経理と、あとは細々とした日常のイリヒメ様のお世話ですね」

「そうか。じゃ、イリヒメの世話係は解除するから、総務部長として金と人の動き全般を管理してくれ」
「いや、それでは私が困る」

「イリヒメは自分専用の執事を別途雇え。そんなことよりイリヒメに無駄遣いさせない工夫が大切だ。ヤツルギ、できるか?」
「はい。お金は大好きです」

 いや、そういう意味じゃないと思うのだけど?

「そうすれば、イリヒメは研究に没頭できるだろ? これからは予算管理をヤツルギにしてもらって、イリヒメはその範囲内だが、自由に試験をすればいいじゃないか」
「雑用をしなくていいのなら、それは魅力ですわね。それで手を打ちましょう。アシスタントはふたりぐらい雇ってもいいですわよね?」
「ああ、必要なだけ雇っていいぞ。この里、人が余ってるそうだからな」

「ねぇ、ユウさん」
「どうした、スクナ」
「あの水晶はどうするの? ユウさんが利権をもらったのでしょう?」

「ああ、あれか。あれは大して高値が付くものじゃなさそうだから、いままで通りでいいかなと思うんだが」
「でも、あれだけキレイなものを、1,000円足らずで売るなんて」

「もったいないか?」
「放っておくだけでいくらでも増えますからね」
「イリヒメ様。水晶についての研究はしたことはないのですか?」

「昔、ちょっとだけやったけど。ヤツルギ、資料を持ってきて。右奥のタンスの上から2段分よ」
「はい、お待ちください」
「過去の資料の保管位置まで覚えているのか?」

「自分でしまったのだから、場所ぐらい全部覚えていて当たり前でしょう?」
「まじか。そんなことができるのか?」

「ええ。そのぐらい当たり前ですよ。ヤツルギだって覚えているぐらいですからね」

 それはすごい。しかし、それは記憶力が良いのとは違う。分類力がすごいのだ。資料を闇雲に保管すれば、1年も経たずにどれがどこだか分からなくなる。それが普通だ。
 それをきっちり覚えているということは、イリヒメの中に分類方法が確立されていて、その通りに収納しているのだろう。だから、すぐに資料を収めた位置が分かるのだ。

 単純記憶することよりも、そのほうがよほど優れた能力である。

 この人たちって、とても有能なのじゃないかしら。

「そうか。そういうことができるのなら、イリヒメにはもうひとつだけ、頼みたい仕事があるんだが」
「なんですの?」
「あとで言おう。いまはそれより、水晶だ」

「はい、お待たせしました。こちらが実験結果です」
「ふむふむ。相変わらず読みやすい字だな、ふむふむ」

 この人は書くことも得意なのね。グジョウの連中も見習うべきだわ。タッキーもシロトリも、ここで1年ぐらい修行させたらどうかしら?

「ふむ。外部の空気に当てると色は元に戻るが、形状は保ったままと。ふむふむ。魔ネコの水晶は小さいが発色が良い。しかし、色が戻るのは早い。2週間か。短いな」

「色はいきなり戻るわけじゃないだと? 段階があって、最初は紫色でそれから青、黄色、紅色と経て、やがて元の岩石の色になると」

(なによ、そのいろいっかいずつ?)
(ざ・ぶらっくおにきすとか、古すぎて誰も知らないと思うヨ)
(ゴメン、つい出ちゃった。ツッコまないで)

「スクナ、なにか言ったか?」
「ううん、なんでもないの。その色がどうかしたの?」
「紫外線から赤外線に移動する波長の順番だな、と思って……思って……思って……」

「どうかしたの?」
「波長か。時間とともに波長が変わるんだ。波長が変わるのなら……なんとかならないものか?」

「波長が変わるか。あっ! ねぇ、ユウさん。ネコウサの水晶って覚えてる?」
「あ? ああ。あれは。ダンジョン内でネコウサが丸めたとか……丸めた?!」

「おかしいでしょ? ネコウサの魔力は少ないのに、時間をかけるとまん丸になったのよね?」
「そうだモん。なにがおかしいモん?」
「丸くなっただけ? 色はどうだった?」
「それは」

「おい、オウミ。お前が魔王の杖を作ったとき、色はどうだった?」
「色は半透明のものが、あっという間に透明になったノだ」
「最初は紅だったりしないか?」

「分からんノだ」
「そうそう。最初は紅だモん!」

「ネコウサ!? そうなのか?」
「う、うん。そ、それが、どうかしたのかモん」

「だけどオウミはそれを見てないのよね?」
「それはおそらく我らの魔力が強すぎるのが原因だヨ」
「強すぎる?」

「我らの魔力ではそんな少しの魔力変化は、一気に過ぎてしまうヨ。だから目にとまらなかったと思うのだヨ。ネコウサは、微少な魔力で少しずつ水晶に魔力をかけたから、色の変化を観察できたのだヨ」

「じゃあ、お前らでも少しずつ魔力を加えたら、同じことができるんじゃないのか?」
「無理だヨ。それは消防のホースで、おちょこに水を汲むようなものだヨ。無理があるヨ」

 なるほど。分かりやすい。

「ということはユウさん、それなら魔力の弱いものが水晶に魔力を流し込めば?」
「そうだ。そこで色を固定できるかもしれない、ということだ」

「あっ!! そうか!! そういえば、こんなことがあったわ。えっと、あれは確か去年の夏ごろだった。資料に書いておいたはず……確かこの辺の……あったあった。これこれ。ユウ、これを見て!」

 ユウって呼び捨て!? もうそんな仲になったの?

「どれだ? ふむ。これはダンジョンで黄色の水晶を拾った記録か。それは何ヶ月経ってもその色を保っていた……だと!! これだ! イリヒメ。この水晶はもう残ってないか?」

「すまぬ。それはもう売ってしまった。なにしろ金がなかったのだ。あれはちょっと高めの金額で売れた」
「あ、それ。妹が作りかけていた水晶だモん。売ってしまったモん?」

「私は拾っただけ……ゴメン。お金が入ったらなんかお礼するね」
「分かったモん。そう言っておくモん」

「ないのなら仕方ない。それならもう一度作るだけだ。おい、もう一度あのダンジョンの裏庭に行くぞ!!」

「はぁぁぁぁぁ!!??」

 と不平の声を漏らしたのは私だけだった。そうだろうとは思ってたけど、こんちくしおしお。


 しおがひとつ多いノだ?

 しおしおしお!!!

 さらに3つ増えたノだ?!
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