異世界でカイゼン

soue kitakaze

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第321話 ラーメン作るよ?

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 ラーメンの3大要素は

1.スープ
2.麺
3.タレ

 の3つである。もちろん、そこにトッピング(叉焼やコーン、メンマなど)や、薬味に香味油、背脂なんてものもある。しかしそれらはプラスαの意味が強いものである。

 今回は時間がないので、そこまで深く追求はしない予定だ。具は集まった食材を適当に放り込むぐらいで良いだろう。叉焼(原料は牛であるらしい)はあるようだが、メンマなんてこっちの世界で作っていないだろう。そこはだいたいで良いのだ。

 しかし、スープ、麺、タレ。これだけは手が抜けない。本当のラーメンのうまさを知ってもらうために。

 本当にうまいものを食べて、クマノ勢に戦意喪失してもらうために。

 スープと麺は手配が済んだ。あとは味見しながらレベルアップをしてゆけばいいだろう。そこはモナカとスクエモンの試行錯誤だ。

 そしてもうひとつ、大切なものがある。タレである。どんなラーメンを作るのかで、どんなタレを使うのかは決まる。

 この世界は豚骨を入手することが難しい。だから獣系スープには鶏ガラを使う。鶏ガラは豚骨に比べるとアクも臭みも少なくすっきりしたスープになる代わりに、うまみ成分であるイノシン酸の量が少ない。

 だからそれを補強するという意味で、カツオ節のイノシン酸を加えるのである。また、3日もかけてコトコト煮るのも、イノシン酸とコラーゲンをとことんまで引き出だそうという魂胆である。

 それによってすっきり系のスープができあがるはずである。自分で作ったことはないので知らないけど、マンガで読んだことがあるのだから間違いはない。

「また、マンガの知識なノか?」
「また、ってなんだよ、またって」

 このようなすっきり系スープには、ほとんどのタレが合う。塩ダレ、醤油ダレ、味噌ダレ、なんでも来いである。

 ラーメン屋を開業するなら、この全部をラインナップとして揃えておくところだが(タレを変えるだけでいいのだから)、今回はそこまでの余裕はない。作るラーメンは1種類だけとする。

 だから、塩ラーメンだけを作る。つまり必要なのは塩ダレだけである。

「どうして塩ラーメンなノだ? 我はいろいろ食べたいノだ」
「それが一番単純だからだよ、言わせんな。いずれこのラーメンは全国販売するつもりだから、そのときにはラインアップは増やす。それまで待て」
「楽しみなノだ、わくわくなノだ」

 魔王を喜ばせるために作るわけじゃないのだが。

 塩ダレは単純なのである。簡単だとは言ってない。作るだけなら簡単なのだが、うまいタレにするのはとても難しいのである。だが、製法事態は単純……なはずである。

 タレは企業秘密になっているものが多い。ググっても出てこないのはそういうことである。

 1杯1,000円もする高級ラーメンにとっては、タレこそが命運を握っているのである。その開発秘話を書くだけで、1冊の本ができるぐらいである。

 そのために、こちらも試行錯誤を覚悟しないといけない。問題はそれを誰にやらせるかということである。

「自分でやらないノか?!」
「俺の舌はあてにならんのだ」
「そんな自慢気に言われてもノだ」

「舌の肥えているやつじゃないと無理なんだ。元の世界の俺ならある程度自信はあったが、このユウの舌はそこまで厳密にできていない気がする」
「そうなノか?」
「なにを食べてもうまい、ってのはそういうことだろう」

「なるほどノだ」
「オウミは誰がいいと思う?」
「我がやってやるノきゅぅぅぅ」
「お前もなんでもうまいうまいって食うよな?」

「きゅぅぅぅ。うまいのは良いことなノだ」
「この場合はそうとも言えないんだよ。多くのものを食べた経験があって、なおかつ味を見分ける舌を持っていることが必要だ」

「ここにそんな贅沢して育ったやつなんか……いるではないか!」
「え? 誰のことだ?」
「ベータなノだ。トヨタ家の御曹司であろう? 舌は肥えているはずなノだ」

「そうか、それだよ!! オウミ、ナイスだ!! それじゃ、すぐ俺をベータのところに転送してくれ」
「いやいやいや。ベータはシキ研にいるノだ。転送するほどの場所じゃないノだ。すぐ隣ではないか」

「あんなところに歩いていったら、どんだけの知らないやつとすれ違うハメになるか分からんではないか。いいから転送しろ!」
「まったくもう。どんだけ人見知りなノだ。分かったノだ。いまいるかどうか分からんが、最上階の役員室に行ってみるノだ、ひょいっ」

 役員室には、ベータとエースが仲良く机を並べて書類処理をしていた。書類が机の上に山と積まれている。報告書やら稟議書やら始末書やら……始末書? そんなもの書いたやつがいるのか。アホだな。

「あぁびっくりした!! ユウさんではないですか。入るときはドアから来てくださいよ。僕が驚くではないですか」
「なんだユウか。こっちに来るのは初めてじゃないか?」

「よう、エースとベータ。お久しぶり。いまは忙しいか?」

「報告書を読んでいたところですので、急ぎではありません。どうかしましたか?」
「ベータにお願いがある。お前、ラーメンのタレを作ってくれないか」

「……?」
「いきなり過ぎるノだ。ベータにはラーメンもタレも意味が分からないノだ」

「それもそうだった。ベータ。ラーメン用のタレを作ってもらいたい」
「それ、全然いきなりから離れていないノだ」

「よく分かりませんが、僕になにかを作って欲しいということですか?」
「その通り。実はな、かくかくしかじかで」
「ふむふむ、なるほど」
「それでな、あれあれくまぐまなわけだ」
「そういうことでしたか」

「便利な短縮形なノだ」
「江戸時代から使われているらしいぞ、これ」

「そのタレというものですが、基本的な作り方は分かっているのですか?」
「ああ、それについては、この俺のメモにまとめてある、ほれ、これだ」

「なになに。玉ねぎにコンブ、ゴマ、ネギ、ニンニク、唐辛子、塩、砂糖、オリーブオイル……オリーブオイルってなんですか?」
「オリーブの実から絞った油だが?」

「オリーブってなんですか?」
「こちらにはないのか。天ぷらに使う食用油なら代用が可能だとは思うが」
「私は聞いたことありますよ、ベータ様。ユーラシア大陸の西の端っこで採れるようですね」

「エースは知っているのか。手に入るか?」
「サンプル程度なら可能ですが」
「大量には無理のようですね。じゃあ、これは菜種油で代用します。それにカツオ節に酢を加えて炒め……。これ、ほんとにやるんですか?」

「最低限それだけは必要だと思ってる」
「これで最低限!?」

「他に味噌や醤油、あるいはリンゴの絞り汁やハチミツなんかも入れたほうがいいかも知れない。もしかするとバジルやミョウガ、セロリ、シソ、サンショウ、レモン、シナモン、ウエモン、ナンテンなども必要かも知れない。その辺は俺にも分からない世界なんだ」

「人間がひとり混じってたノだ?」
「まるで薬膳を作る材料みたいだな」
「エースが好きそうだな。おっさんめ」
「だ、誰がおっさんだ!」

「ユウさんでさえも知らない……ということは、これを作ればニホンで最初ということですね?」

 ベータは兄であるアルファと、経営者としての資質を試される立場にある。トヨタ家とシキ研とで、ある意味競争をさせられているのだ。

 ニホン中に名を轟かせるトヨタ家と、できたばかりのシキ研では立ち位置に大きな差がある。

 しかし、だからベータのほうが不利かというとそうでもない。アルファがトヨタの売り上げを月に1,000万伸ばしたところで、トヨタの業績にはほとんど寄与しない。ばらつきのなかに埋没してしまうだけだ。

 だが、シキ研で1,000万の売り上げ増なら10%近くも寄与することになる。同じ売り上げでもインパクトが違うのだ。

 判定を下すのは、あの父親・ミギキチである。単純な売り上げや利益だけで見るようなことはしないであろう。もっと別のなにかがきっとある。それをやったほうが勝つことになるだろう。そういうものを一刻も早く見つけないといけない。ベータはいつもそのことを考えていたはずだ。

 このラーメンという新商品には、どのくらいのインパクトがあるものなのか。ベータはこれからしばらくの間、何度も自問自答することになるだろう。

 言ってしまえば、たかがうどんもどきである。麺を細くしたぐらいでどんな需要があるのだろうか。しかし、俺はすでに300万の予算を確保している。もう引くわけにはいかないのだ。ベータにはぜひついてきてもらいたい。決して、勝算のない賭けではない。

「分かりました。やってみます。僕の好きな味にして良いのですよね?」

「ああ、それでいい。ただし、味はタレだけでは決まらない。スープ作りのチーム・スクエモンと麺作りのモナカと、3人で相談しながらやってくれ。味にも相性ってものがあるんだ。大切なのは相乗効果だ。ベータの作ったタレが単独でいくらうまくても、それがラーメンの味としてうまくなければ俺は採用しない」

「分かりました。スクナ、ウエモン、モナカさん。みんなユウさんのブレーンですね。一緒に仕事をするのは始めてですが、楽しみです」

「ちなみに、このプロジェクトのリーダーはウエモンだ。ベータはその下ということになるがかまわないよな?」

「もちろん、それでかまいません。僕にはまだ、なんの実績もありませんからね。いろんな商品を作った経験のあるウエモンたちには勉強させてもらいます」

 なんてまっすぐな良いやつなのだろう。ウエモンは8才。ベータよりふたつ年下だ。それなのに、ウエモンが上司になることに、異論を唱えることさえしない。

 トヨタ家の御曹司ならもっと威張った子供にだってなりそうなものなのに。血筋なのか、そう躾けられたのか。先行きが楽しみなやつである。

 俺の部下として。
「いや、上司なノだ?!」
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