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第11話 覚醒魔法
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「次に、めっき浴の温度と時間の交互作用であるが、これについてはまるで意味はなかった。交互作用は存在していない」
「ふむ。割り付けとやらが無駄だったということだな」
じじいがしたり顔でそう言った。ぐぬぬぬ。
「し、仕方ないだろ。俺はめっきについてはど素人なんだから。だが、意味がないということが分かったことに意味がある。同じことはもうやらなくて良いからな」
「なんか、言い訳のようにも聞こえるね」
ハルミさん、黙っていなさい。
「これで試験の回数が増えるわけではないから、作業者には余計な負担はかけていない。さて、では次は前処理の塩酸処理に移ろう」
「塩酸の濃度を変えたやつですね」
「これには強い有意は見られなかった。どちらでも大差はないということだ。時間に至ってはまるで効果なしだったので、データを誤差項にプールした。表はプーリング後だけのものだ」
「ん? 魔法の呪文にしか聞こえん。しかしだ、それなら塩酸処理は止めてしまったほうが良いか? 無駄ならやらないほうが良いだろ。塩酸も一応は劇物だからなぁ」
ソウがまともなことを言っている。
「それはちょっと待って欲しい。次の脱脂工程と大きな関わりがあるんだ」
「そうか、続きを聞こう」
「最後の項目だ。脱脂というか前処理で今まで覚醒魔法をかけていたが、その代わりに強アルカリ処理という工程を入れてもらった」
「ふむ。まあ、それが一般的な脱脂方法だわな」
そういう知識はあったのに、あえて魔法をやらせていたのか。
「この工房ではアチラの魔法師としての出番が少ないものでな、良かれと思ってやらせている。ウチの特色というか個性も出せるから良いではないか」
じじい、またお前か!
「効果があるならそれでも良かったのだが、今回の試験の結果で、最も強い有意判定がでたのがこの強アルカリ処理だったんだ。なんと1%水準で有意とでている」
「またややこしい言い方をしおって。結局はどういうことだ?」
「覚醒魔法には意味がないということだ」
そんなわけあるか!!! という一斉ツッコみがきた。お前らそういうとこは一致団結するんだな。
「どうしてそんなことを言うの。酷いじゃないの」
「酷い? って何が?」
俺にはさっぱり分からない。こいつらは何を言っているのだ。
「今までのアチラの仕事が無意味だったと言ってるんだぞ、お前は」
「その通りですが、何か?」
室内が凍り付いた。誰もがぽかーんとした目で俺を見ている。そんな目でじっと見られたら、照れちゃうだろうが。
「ユウ。あんたのデータ解析は分かったが、それだけは飲めない話だ」
それは分かっていない証拠なのだが。
「なんで?」
「あんたはアチラの存在を否定したのよ? そんなことでみんなと一緒に仕事ができるわけないでしょ?」
「存在なんか否定はしていない。否定したのは前処理に覚醒魔法を使う、という部分だけだ」
「それが否定したことになるでしょ!」
「ならない。アチラの人格を問題にしているわけでも、能力を疑っているわけでもない。この工程には不向きだと言っているだけだ」
それにしたってそんな言い方は……。
ああ、めんどくさい連中だ。分散分析の計算のほうがよほどましなぐらいだ。
こいつらがいったい何を問題にしているのか、俺にはまったく理解できない。だが、ここで引くとせっかくの試験が無駄になる。
「ほかにどんな言い方があるんだよ。それと、厳密に言えば俺が言っているわけじゃないんだ」
「じゃあ、いったい誰がそんな非情なことを言ってるんだ!」
「決まってるだろ。データだよ」
で……? また凍り付きやがった。ここはダメ押ししておこう。
「生産工場で事実と呼べるのはデータだけだ。それに目を塞いでこうしようああしようと言うのは、意見に過ぎない。意見は間違うんだよ。洗浄水に回復魔法をかけたようにな」
「今回の事実は、めっきの前処理には覚醒魔法ではなく強アルカリを使って脱脂をすべきである、とデータが言ってるんだよ。それを真摯に受け止めずして合理的な生産ラインが作れるものか。この工房、潰しても良いのか」
納得がいかないけど、反論もできない。そんないらいらが溜まっているようだ。だが、俺は一歩も引くつもりはない。俺が引くときはここから出ていくときだ。
出ていって、どこへ行けばいいんですかね?
「ユウがヤマシタを追い出された理由がよく分かった。私はそんなの認めない」
分からず屋、その1。ハルミである。
「最初にワシが言った通りだろ。こいつはこういうやつだ」
分からず屋、その2。じじいである。
これが全員になったら、ここに俺の居場所はないな。そう思っていたとこにアチラが言った。
「ちょっと待ってください。みんな僕のために言ってくれてるのは嬉しいんですけど、今回の場合は、どう見たって正しいのはユウさんです。この脱脂工程は導入すべきです。それで、あのブロード・ソードにキレイなめっきが付けられるんでしょ?」
「ところがそうもいかない」
いかんのかーい!!!
うむ、思った通りだ(ゲンドウ風)。さて、どうしよう?
「ふむ。割り付けとやらが無駄だったということだな」
じじいがしたり顔でそう言った。ぐぬぬぬ。
「し、仕方ないだろ。俺はめっきについてはど素人なんだから。だが、意味がないということが分かったことに意味がある。同じことはもうやらなくて良いからな」
「なんか、言い訳のようにも聞こえるね」
ハルミさん、黙っていなさい。
「これで試験の回数が増えるわけではないから、作業者には余計な負担はかけていない。さて、では次は前処理の塩酸処理に移ろう」
「塩酸の濃度を変えたやつですね」
「これには強い有意は見られなかった。どちらでも大差はないということだ。時間に至ってはまるで効果なしだったので、データを誤差項にプールした。表はプーリング後だけのものだ」
「ん? 魔法の呪文にしか聞こえん。しかしだ、それなら塩酸処理は止めてしまったほうが良いか? 無駄ならやらないほうが良いだろ。塩酸も一応は劇物だからなぁ」
ソウがまともなことを言っている。
「それはちょっと待って欲しい。次の脱脂工程と大きな関わりがあるんだ」
「そうか、続きを聞こう」
「最後の項目だ。脱脂というか前処理で今まで覚醒魔法をかけていたが、その代わりに強アルカリ処理という工程を入れてもらった」
「ふむ。まあ、それが一般的な脱脂方法だわな」
そういう知識はあったのに、あえて魔法をやらせていたのか。
「この工房ではアチラの魔法師としての出番が少ないものでな、良かれと思ってやらせている。ウチの特色というか個性も出せるから良いではないか」
じじい、またお前か!
「効果があるならそれでも良かったのだが、今回の試験の結果で、最も強い有意判定がでたのがこの強アルカリ処理だったんだ。なんと1%水準で有意とでている」
「またややこしい言い方をしおって。結局はどういうことだ?」
「覚醒魔法には意味がないということだ」
そんなわけあるか!!! という一斉ツッコみがきた。お前らそういうとこは一致団結するんだな。
「どうしてそんなことを言うの。酷いじゃないの」
「酷い? って何が?」
俺にはさっぱり分からない。こいつらは何を言っているのだ。
「今までのアチラの仕事が無意味だったと言ってるんだぞ、お前は」
「その通りですが、何か?」
室内が凍り付いた。誰もがぽかーんとした目で俺を見ている。そんな目でじっと見られたら、照れちゃうだろうが。
「ユウ。あんたのデータ解析は分かったが、それだけは飲めない話だ」
それは分かっていない証拠なのだが。
「なんで?」
「あんたはアチラの存在を否定したのよ? そんなことでみんなと一緒に仕事ができるわけないでしょ?」
「存在なんか否定はしていない。否定したのは前処理に覚醒魔法を使う、という部分だけだ」
「それが否定したことになるでしょ!」
「ならない。アチラの人格を問題にしているわけでも、能力を疑っているわけでもない。この工程には不向きだと言っているだけだ」
それにしたってそんな言い方は……。
ああ、めんどくさい連中だ。分散分析の計算のほうがよほどましなぐらいだ。
こいつらがいったい何を問題にしているのか、俺にはまったく理解できない。だが、ここで引くとせっかくの試験が無駄になる。
「ほかにどんな言い方があるんだよ。それと、厳密に言えば俺が言っているわけじゃないんだ」
「じゃあ、いったい誰がそんな非情なことを言ってるんだ!」
「決まってるだろ。データだよ」
で……? また凍り付きやがった。ここはダメ押ししておこう。
「生産工場で事実と呼べるのはデータだけだ。それに目を塞いでこうしようああしようと言うのは、意見に過ぎない。意見は間違うんだよ。洗浄水に回復魔法をかけたようにな」
「今回の事実は、めっきの前処理には覚醒魔法ではなく強アルカリを使って脱脂をすべきである、とデータが言ってるんだよ。それを真摯に受け止めずして合理的な生産ラインが作れるものか。この工房、潰しても良いのか」
納得がいかないけど、反論もできない。そんないらいらが溜まっているようだ。だが、俺は一歩も引くつもりはない。俺が引くときはここから出ていくときだ。
出ていって、どこへ行けばいいんですかね?
「ユウがヤマシタを追い出された理由がよく分かった。私はそんなの認めない」
分からず屋、その1。ハルミである。
「最初にワシが言った通りだろ。こいつはこういうやつだ」
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