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第22話 心配なのは経時変化
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「いいじゃないの、これで。もう充分よ。これで納品して1万円いただきましょう!」
テストサンプルを見るなりそう言ったのは、ミヨシだった。家事手伝いの中には家計管理もあるのだろう。現金が早く欲しい、と顔に描いてある。
「もごもご、まだ午後がある。もっと良くなるようにできるだけ頑張ってみるよ。むぐむぐ」
と俺はまだ諦めてはいないのだが。
「もう充分過ぎるぐらいだろ。こんなキレイな金めっきができるとは、ワシは思ってもみなかった。何が不満なんだ?」
じじいは本物の金を見たことがないだろうが、という表情をぶつける。宵越しの金なんか持たない主義だ、という表情で返された。お前は江戸っ子か。それとカネじゃねぇよ、キンだよキン!! ぐぬぬぬのぬ。
「とりあえずこのレベルで納品しておいて、その後に改良試験をしても良いのではないか。もっと品質を上げる方策を見つけるのは、今すぐでなくても良いだろ」
コウセイの裏切り者め。後で100本ぐらいは頭髪むしってやる。
「僕にはこれ以上、良くなるということが想像できません」
アチラもアチラに回ったか。うまいこと言ってる場合か。
「金めっきはこれでいいから、それより早く私の剣を作って!」
ハルミはそれしかないのかよ!!
「あ、私の包丁もね」
ああもう、絵に描いたような四面楚歌。小学校の教科書に参考事例として採用してもらいたい。
この工房に現金がないことは分かっている。だから納品の期限を早めて明日にしたのだ。それが失敗だったかもしれない。
正直なところ金めっきさえできればそれで良いと思っていた。金がきちんと乗れば見栄えは良くなる。それで10万ゲットだと、そう簡単に考えていた。
しかし、金めっきが乗っているだけでは、あの黄金の輝きまでは出せないということが分かってしまった。
金を見慣れていないこちらの人に、分かってもらえないことが苦しい。これは、金めっきだということが一目で分かってしまうレベルだ。
俺のいた世界では、見た目でそれと分かるような金めっきなんか存在していなかったと思う。少なくとも俺は見たことがない。18Kだってもっとキレイだった。
ちなみにだが。純金というのは、金の純度が99.99%以上のものをいう。それは24K(カラット)と表記される。
18Kというのは金の純度が18/24、つまり75%という意味だ。金に銀や銅を混ぜて独特の色を出す技術で、ピンクゴールドとかイエローゴールドとか、俺のいた世界ではすでに何種類か存在していた。
それもいつかは作ってみたいとは思っているが、今はそれどころではない。
もうひとつ、心配なことがある。経時変化である。このめっき品質がいつまで持つか、という心配である。
金は見た目が美しいだけではなく、耐候性の高い金属だ。
耐光性が高いとは、紫外線や水、皮脂、熱、時間などによって特性が変化しにくい性質のことをいう。金も白金もそういう点ではとても優れている。依頼者も当然そう思っていることだろう。
耐候性を短期間で調べる方法はある。加速試験と言って、わざと通常よりも何倍ものストレス(紫外線照射や加熱など)をかけて、その品質変化を見る方法だ。
だがそんなものがここできるとは思えない。加速試験の設備もなけりゃ、そのとき当てにできるデータもない。そもそもそれをする時間さえもない。
だからこの金めっき品質がいつまで持つか、現状ではまったく分からないのだ。それが俺の不安の元だ。
金めっきがもっと美しく付いていれば、そんな不安を持たずに済んだのだろうが、現実は厳しかった。
しかも注文主は貴族だという。だいたい貴族ってのは、態度がでかくて短気で軟弱なくせに横柄ですぐ人を切っちゃう種族だろ?
そのくせ贅沢なことにだけは慣れている。金だって見慣れていることだろう。
そんな人種がこの品質がいつまでも続くものだと思って金を払う。ところが数週間レベルで腐食(変色)が始まってしまったらどういう態度にでるだろうか。
そのときは、俺はバックレる。
……つもりだが、逃げるところはない。ああ、またこれだ。
「いいじゃないの、そのときはそのときよ、あははははは」
「そうそう。金さえもらってしまえばこっちのものだ、わはははは」
おまいらはそろいもそろって、どうしてそう楽観主義なんだよ!
おかしい。俺はこの工房のなんだ? まだ丁稚ですらないんだろ? それなのにこの工房のことをなんでこんなに必死で考えてるんだよ。
おかしい。つい朝まで俺もアチラ側にいたはずなのに。
株主であることは間違いがない。だが、株主ってのは有限責任だ。会社の運営に関してまで責任をとる義務はない。会社の借金とか社会的責任とか、そういうものとは無縁の出資者が株主だ。
「ソウ、どうしよう?」
お前だけは真剣にこの工房のこと考えているよな? 次期社長だもんな? 倒産することを真剣に悩んでよな?
「これでいんじゃね?」
お前もかぁぁぁぁ!!!!
テストサンプルを見るなりそう言ったのは、ミヨシだった。家事手伝いの中には家計管理もあるのだろう。現金が早く欲しい、と顔に描いてある。
「もごもご、まだ午後がある。もっと良くなるようにできるだけ頑張ってみるよ。むぐむぐ」
と俺はまだ諦めてはいないのだが。
「もう充分過ぎるぐらいだろ。こんなキレイな金めっきができるとは、ワシは思ってもみなかった。何が不満なんだ?」
じじいは本物の金を見たことがないだろうが、という表情をぶつける。宵越しの金なんか持たない主義だ、という表情で返された。お前は江戸っ子か。それとカネじゃねぇよ、キンだよキン!! ぐぬぬぬのぬ。
「とりあえずこのレベルで納品しておいて、その後に改良試験をしても良いのではないか。もっと品質を上げる方策を見つけるのは、今すぐでなくても良いだろ」
コウセイの裏切り者め。後で100本ぐらいは頭髪むしってやる。
「僕にはこれ以上、良くなるということが想像できません」
アチラもアチラに回ったか。うまいこと言ってる場合か。
「金めっきはこれでいいから、それより早く私の剣を作って!」
ハルミはそれしかないのかよ!!
「あ、私の包丁もね」
ああもう、絵に描いたような四面楚歌。小学校の教科書に参考事例として採用してもらいたい。
この工房に現金がないことは分かっている。だから納品の期限を早めて明日にしたのだ。それが失敗だったかもしれない。
正直なところ金めっきさえできればそれで良いと思っていた。金がきちんと乗れば見栄えは良くなる。それで10万ゲットだと、そう簡単に考えていた。
しかし、金めっきが乗っているだけでは、あの黄金の輝きまでは出せないということが分かってしまった。
金を見慣れていないこちらの人に、分かってもらえないことが苦しい。これは、金めっきだということが一目で分かってしまうレベルだ。
俺のいた世界では、見た目でそれと分かるような金めっきなんか存在していなかったと思う。少なくとも俺は見たことがない。18Kだってもっとキレイだった。
ちなみにだが。純金というのは、金の純度が99.99%以上のものをいう。それは24K(カラット)と表記される。
18Kというのは金の純度が18/24、つまり75%という意味だ。金に銀や銅を混ぜて独特の色を出す技術で、ピンクゴールドとかイエローゴールドとか、俺のいた世界ではすでに何種類か存在していた。
それもいつかは作ってみたいとは思っているが、今はそれどころではない。
もうひとつ、心配なことがある。経時変化である。このめっき品質がいつまで持つか、という心配である。
金は見た目が美しいだけではなく、耐候性の高い金属だ。
耐光性が高いとは、紫外線や水、皮脂、熱、時間などによって特性が変化しにくい性質のことをいう。金も白金もそういう点ではとても優れている。依頼者も当然そう思っていることだろう。
耐候性を短期間で調べる方法はある。加速試験と言って、わざと通常よりも何倍ものストレス(紫外線照射や加熱など)をかけて、その品質変化を見る方法だ。
だがそんなものがここできるとは思えない。加速試験の設備もなけりゃ、そのとき当てにできるデータもない。そもそもそれをする時間さえもない。
だからこの金めっき品質がいつまで持つか、現状ではまったく分からないのだ。それが俺の不安の元だ。
金めっきがもっと美しく付いていれば、そんな不安を持たずに済んだのだろうが、現実は厳しかった。
しかも注文主は貴族だという。だいたい貴族ってのは、態度がでかくて短気で軟弱なくせに横柄ですぐ人を切っちゃう種族だろ?
そのくせ贅沢なことにだけは慣れている。金だって見慣れていることだろう。
そんな人種がこの品質がいつまでも続くものだと思って金を払う。ところが数週間レベルで腐食(変色)が始まってしまったらどういう態度にでるだろうか。
そのときは、俺はバックレる。
……つもりだが、逃げるところはない。ああ、またこれだ。
「いいじゃないの、そのときはそのときよ、あははははは」
「そうそう。金さえもらってしまえばこっちのものだ、わはははは」
おまいらはそろいもそろって、どうしてそう楽観主義なんだよ!
おかしい。俺はこの工房のなんだ? まだ丁稚ですらないんだろ? それなのにこの工房のことをなんでこんなに必死で考えてるんだよ。
おかしい。つい朝まで俺もアチラ側にいたはずなのに。
株主であることは間違いがない。だが、株主ってのは有限責任だ。会社の運営に関してまで責任をとる義務はない。会社の借金とか社会的責任とか、そういうものとは無縁の出資者が株主だ。
「ソウ、どうしよう?」
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