異世界でカイゼン

soue kitakaze

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第32話 女神・オウミ

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「そんなことがあるわけないノだ。天地がひっくり返ることはあっても、鉄が錆びないなんてことがあるわけがないノだ」

 天地のほうがひっくり返らんと思うのだが、そう断言したオウミはいきなり呪文を唱え始めた。

「なにをするんだ?」
「この鉄の板だけ、時間を進めてやるノだ」
「時間を進める?」

「我は時間を操れるノだ。数ある能力のひとつだ。時間を進めたらどうなるか、お主に分かるノか?」
「まあ、なんとなくはねー」

「……時間を操るというのは、最高難易度の魔法だというのにまったく驚きが見られんノだが。まあ良い。この魔法をかけるとだな、じじいはあっという間に年寄りになるノだぞ」
「それ、魔法かけなくてもなるんじゃね?」

「ち、ち、違うノだ!! 若者だ、若者がだ。ちょっとぐらいの言い間違いにいちいちツッコむでないノだ」

 なんかおもろいやつを召喚してしまったようだ。それにしてもなんでいちいちノのところにアクセントがつくのかね、この子は。

「この鉄の板など、あっという間に錆びさせて見せよう」
「やってみればー(ハナホジ)」



 昨日、森から帰る途中で俺は意識を失い、アチラにおんぶされて帰宅した。いつものように不意に眠ってしまったらしい。

 ついでに帰るまでの間に、アチラの胸を28回ぷにぷにしたらしいのだが、それはきっと何かの間違いだ。俺にそんな趣味があるはずないのだから。

 そんなことはどうでも良いが、夢の中にそいつはいた。

「この我を召喚などと、よくぞやってくれたもノよ。人間の分際で」
「ふぁぁ?」

 夢の中でも俺はこれである。

「おい、聞いてんノか! 下等動物の分際で我を召喚しよ」
「ふぁぁ?」
「聞けっての!!!!」

「あ、なんか手のひらサイズのエロっぽいねーちゃん、こんにちは」
「あ、はい、こんにち……違う、そうじゃない。今頃挨拶している場合じゃないノだ。我を召喚してどうするつもりだ、と聞いているノだ」

「ちょっとまだ目が覚めなくて、事態が飲み込めない。お前だれ?」
「お前とか言うな。年上は敬うもノだ。それにここは夢の中だぞ。我はニホン中の湖を統べる一族の女神・オウミであるぞ」
「ふぁぁ」

「聞いてんノか?」
「聞いてる聞いてる。水の女神で回復魔法が得意なトイレの神様だっけ?」

「聞いていても、ぜんぜん通じておらんではないか。湖の女神だ。我のことはオウミ様と呼ぶノだ」
「ふむ、それは分かった。で、そのオウミさんがなにか俺に用か?」

 用があって呼んだのはそっちであろうがぁぁぁぁと叫びまくるので、うるさいからおもむろにその羽根をつまんでやった。

「きゅぅぅぅぅ」

 急に大人しくなった。首根っこをつかまれた子猫みたいだ。手足からの力が抜けてだらんとなった。これはとても可愛い。

 そして手のひらの上に乗せて、しげしげとその姿を観察する。

 手のひらサイズのエロっぽいねーちゃんが欲しい! といった俺の願いは聞き届けられたようだ。全長は10cmぐらいで。

「全長じゃなくて、身長な」

 重量は正確なところは分からないが、持ってみた感じではねんどろいどフィギュアぐらいであろう。

「重量じゃなくて、体重な、ねんどどいどとは何だ?」

 滑舌悪いんか。ほぼ三頭身で髪は肩まであるまっすぐなスカイブルー。真白な肌に白い帽子、白いブラジャー、白いパンツ。

「パンツじゃない。白いビキニな、これ水着だから」

 かもめの水兵さん?

「なーみをちゃっぷちゃぷ泳いで……ないノだ!」

 俺はそんな乗りの良い普通の魔物を、普通に召喚して、普通に眷属にしたのであった。

「待て待て! まだなっていないから。呼び出しただけでは眷属にはならないノだ」

 たったひとつ違っていてのは。その魔物は。

「女神だと言っておるノだ」

 羽根が生えていたのです!

「そっちかよ! ってだから、そこをつかむな……はにゃぁ」

 大人しくなった。条件反射か?

「ふむ。まあ、これなら眷属として許容できる範囲かな。おい、お前は何ができるんだ?」
「いきなり失敬なやつだな。まだ眷属ではないと言っておるノだ。それに召喚な仲にも礼儀ありって言うだろ。まずは自己紹介をするノだ」

 むっ、小さいくせになんか生意気だぞ。しかし、もっともなことでもあるので、一通り俺のことを話してやった。
 この一週間分ほどでしかないけどな。

「そうか、お前は異世界から来た人間だったノか。だからこんなうまそうな匂いを出していたノだな」

「あれ、いま、すごく危険なこと言わなかったか?」
「そうか? お主らは我のご馳走なノだぞ」

「す、す、すぐにお帰りくださいがくがくぶるる」
「勘違いするな、我らが欲するのは、お主らの笑顔だけなノだ」

 何をうまいこと言っちゃってんだ、このエロフィギュアは。きれい事言って騙そうたってそうは行くか。

「誰がエロフィギュアだ。我はちゃんと動いておるであろうが、ほらコキコキクネクネ」

 エロの部分は否定しないのか。しかし肘の関節ぐらい、今どきのフィギュアでも普通に曲がるから証明したことにはならんぞ。

「全関節が、全方位に動くノだぞ?」

 うわぁ、キモい、キモい。分かったら止めてくれ。つま先と顔が逆の方向を向くとか止めて!

「分かればよろしいノだ。人間とは不思議なもので、笑っているときには好素というものを振りまくノだ」
「好素?」

「そう、それが我らの活力源なノだよ。この付近では最近になってその好素がやたら増えたので、ちょっとご相伴にあずかろうと思ってうろうろしていたノだ」

 甘い匂いに誘われたお前はカブトムシか。

「そしたら、いきなり召喚魔法をぶっぱなす阿呆がいてな」
「あ、それは俺のことか?」
「その通り」
「それで100mしか範囲がない初級魔法なのにひっかかった……阿呆で悪かったな!!!」

「ほらほら、それだそれ。そういうボケツッコみが良いノだ。どんどんやるが良い」

 なるほど、お笑い好きの女神か。そういえば、俺が来てからというもの、タケウチ工房は笑いの絶えない明るい……ってずっと前からそうだったと思うが。

「それは理解した。それで、お前にはどんな能力があるんだ?」
「お前言うな! お主は年上を敬う気はないノか。我は生を受けて1,400年ほどになるノだぞ」

「それにしては、ぜんぜん成長していないような、ぷにっ」
「おかしなところをつつくでない。我は成長はしない、生まれたときからこのまま、ぁぁああぁもう、つつくなというに」

「ほっぺぷにぷにぷに。お腹もぷにぷに。これは、ぷにぷに。なんというか、ぷにぷに、素晴らしい感触。お前、すごいな!!」
「褒めるとこはそこではない! それから無闇に触るではないノだ」

 いや、この感触は確実に人を幸せにするぞ、ぷにぷに。好素なんか放出し放題だぞ、ぷにに。

「お前……えっと、オウミだったな、オウミはぷにの他に特技はあるのか?」
「ぷには特技ではない。超級魔法が使えるぞ」

「なにそれ、怖い?」
「早い話が、この世にある魔法はすべて使える、ということだ」

「じゃあ、錆びない鉄は作れるか?」
「お前はアホか。そんな道理に反することは無理に決まっているノだ」

 アホにアホって言われると腹が立つ。そもそも魔法が道理から外れたものだろうが。

「女神のくせに、そんなこともできないのかぁ」
「な、何を言っておるノだ、そんなこと魔王だってできはしない。そうだ、錆びたものを戻すならできるノだ」

「それは知ってる。じゃあ、錆びない鉄を俺が作ったらどうするよ?」
「できるわけがないと言うのに。そんなことできたら、何でも言うことを聞いてやろう」

 しめしめ、ひっかかった。ちょろいな、こいつ。

「その代わり、できなかったときは、分かっておるだろうな?」

 え?

「なんだ、そのマメがハト鉄砲をくらったような顔は」
「ハトとマメが逆だ逆」
「あ、あれ。違ったか。マメがハトをくらった鉄砲だったノか」

 なんていい加減な覚え方をしてんだよ。

「難しいことを言おうとするからそうなるんじゃないのか? もっと普通に話せば良いだろ」
「そ、それもそうか、そうするノだ」

「よし、じゃあ、そういうことで今日は解散……」
「待った! お主が負けたときの話がまだついておらんノだ」

 騙されやがれへん。

「分かった。できなかったときは、俺がお前を眷属にしてやろう」
「本当だな、よ……くねぇよ!! それこそ逆だ逆。お主が我の眷属だろが! だが、そんなもの我には必要ないノだ」

 くっそ惜しかった。

「じゃあ、何が欲しいんだ。金なら40円あるぞ?」
「たった40円かよ!! お主はどんだけ安いノだ。まあそれは、もう少しお主の能力などを見てからにしよう。ともかく、ひとつ何か言うことを聞くノだ。いいな?」

 俺はさっき「錆びない鉄」って言ったよな? 錆びにくい鉄とは言わなかったよな。

 もしこいつがそれを分かっていてわざとこう言っているのだとしたら、これは最初から罠だったという可能性がある。だとしたら、とてもまずいことになったのかも知れない。

 なんとか誤魔化す方法を考えておこうっと。

 じゃあ、作り終わったらまた呼ぶから出てこいよ。分かった、いつでも呼ぶが良い。それまではお主についていてやろう。

 ってなことがあって数日後、錆びにくいということだけを念頭に置いて、これでもかってほどのクロム綱粉末を入れて鉄を作ってもらった。

 粉末の分析ができないので正確ではないが、おそらく30%ほどのクロムが入っているはずだ。クロムが多いほど錆びにくい、というのは前の世界では常識であった。と思う。たぶん。

 そして、それを延べ板に加工してもらったのだが。

「ユウ、できたがこれでは包丁は無理だ。加工はしやすいが柔らかすぎる」

 と言ったのは、タケウチ工房で唯一の誇りとも言える、国指定の一級刀工技術者であるヤッサンである。

 もう60近い年齢のようだが詳細はわからない。だが、コウセイさんと違って髪はたっぷり黒々としており、日焼けしてすごく健康そうだ。

 そんなヤッサンが剣の加工をすると、際限まで無駄を省きながらもなぜかそこには優雅さが漂う出来映えとなる。人呼んでトリミングのヤッサンである。

「焼き入れしてもダメか?」
「ああ、加熱して一気に冷やすってやつか? やってみたけど、それほどは変わらんな」

「クロムを景気よく入れすぎたかな。まあ、今回はこれでいいや。とりあえず延べ板のままにしておいてくれ。錆びなきゃいいんだ」


 そして、その日の夕方。工房に人がいなくなってから、俺はオウミを呼び出した。出てこいと、心で思えば出てくるという便利なアイテムである。

 オウミはニヤついた顔をして、その延べ板に目をやった。

 そして冒頭に戻るのである。
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