異世界でカイゼン

soue kitakaze

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第74話 呪文のブレンド

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「分かっているとは思うが、念のために言っておく。作るのは魔鉄までだ。この前言った条件を満たすまで、渡してやらないからそのつもりでな」

「私は30cmの丸太を斬れるようになったぞ」
「え?」
「今度は35cmに挑戦するんだ。ヤッサンが証人だ」
「あらま。ハルミにはちょっと条件が緩すぎたか。まあ、それなら仕方ない。刀ができ次第、ハルミにはすぐに渡すとしよう」

「「きゅぅぅぅぅ」
「お前らはまだのようだな」

「めっきラインとか、ちょこれいととか、我らに関係ないノだ」
「そうだそうだ。ユウの横暴だヨ」

 こいつら、理屈を言うクセをつけやがった。

「分かったよ。お前らの分もでき次第渡してやるよ」
「「いやっほーーー!!」」

 魔王がハイタッチしとる。とても可愛い絵だ。

「それでは、僕はいつものように鉄を打っていればいいですか?」
「うむ、それでいいノだ。魔法をかけるのは鉄が窯の中に入っているほにほになので、ゼンシンは普通に打っていてくれればいいノだ」

 ゼンシンが鉄を作る作業現場である。ここでは鉄を加熱しては叩いて伸びたら折り曲げて、をひたすら繰り返す作業である。

 その加熱中に魔法付与することで魔鉄ができるのだ。ただしゼンシンは、還元魔法のように魔鉄にするための魔法をかけているのだと思っている。この微妙な違いが魔王たちには重要なことであるらしい。

(ということでミノウ。ゼンシンが鉄を窯の中に入れているうちに魔法付与をするノだ。呪文は内緒だからバレないようにしろよ)

(ああ分かっているヨ。魔法付与なんて俺たちにはなんのメリットもない機能だものな。こんなもの使えるなんて人に知られたくはないヨ。しかし、これを覚えないと超級魔法のほとんどが使えないから、仕方なくマスターしたヨ。オウミもだろ?)

(そうなノだ。まったくもって面倒くさい話だ。でも、そのおかげで魔剣が作れたのだから、覚えておいて良かったと思っているノだ。ミヨシが喜ぶ姿を見られたノだ。あれは嬉しかったなぁ)

(偶然とはいえ、よくそんなことを見つけたものだな。無機物に魔法付与できるなんて誰も思ってなかったヨ。しかもそれにはタイミングが重要だなんて大発見だヨ)

(1,400年生きてきて一番幸せだったノだ)
(有名な言葉から二桁も盛ったな)

(では、タイミングは指示するから、我の合図で呪文をかけるノだぞ)
(分かった。ええと、この場合の呪文は『お願いです、良い刀になってくださいね』でよかったヨな?)
(違うノだ。お主はなにを覚えてきたのだ。『どうか良い剣になってくださいね』だぞ)

(そんなことあるかいヨ。『お願いです、良い刀になってくださいね』じゃないと魔法はかからないヨ)
(そんなことないノだ。オウミヨシのときは確かに『どうか良い剣になってくださいね』と我は言ったノだ)

 そんなはずはないだろぼかすかぼかぼか。なにを馬鹿なことを言ってばしべしばしばし。そんなことだからあんな実に閉じ込めらるのだばかかばどじ。やかましい人の領地で眷属にされてたくせにぼけかすあほ。

「あの、大丈夫ですか? ケンカの声が悪口になって外にでてますけど?」

「「ああっ!」」

「それと、これを窯に入れるのはおそらくこれが最後になります」

(ああ、まずい。ミノウ、これが最後ということはこれが最後なノだ!)
(おちつけオウミ。そんな分かりきったことは分かりきっているヨ!)

 どっちもどっちである。

(あぁいかん、温度が上がってしまった。ここでやらないともうタイミングがない。早く呪文をかけろ。『どうか良い剣になってくださいね』だぞ)
(だから違うというのに『お願いです。良い刀になってくださいね』だろうが)

(だからそれは違う。あぁぁ、もうだめだ。温度が下がってしまう。もういい我がするノだ)
(お主がするなヨ! ここは我の仕事だ。お前はタイミングを教えるだけでいいヨ)
(ここだ、ここ。手遅れになる。早く呪文を唱えろ『どうか良い剣になってくださいね』だぞ)
(だからそれは違うヨ! 我にまかせろ!!)
(もうダメだ、我がやるノだ。ミノウはもう引っ込んでろ!!)
(なにを言うか。これはもともと我の仕事だヨ!!)

『どお願ういか良です。い良い刀に剣になっなっててくだくださいねさいね』

 …………。

 呪文が混ざっちまったじゃないかぁぁぁぁ!!

 どうすんだどうすんだこれ、ぼかすか。
 我のせいではないだろヨ。もともとお主がおかしなことを言うからだろばしばし。
 呪文をブレンドしてどーすんノだ。お主が呪文を正しく覚えてないのが原因なノだぱかぽんぽん。
 間違えて覚えたのはお主のほうであろうがヨぽかぴかぽんぺひ。
 お主なんかいつも適当で生きてるくせにぺちぺち
 そもそも我の呪文だけでいいのに余計なことしやがってぱふぽふ。

「オウミ様? ミノウ様?」
「「はぁはぁはぁ。ちょっと休憩なノだヨ」」

「おおおっ、すごい! みるみる鉄が真っ黒になってゆきます。こんなの初めて見た。ということは、魔法はかけ終わったということですね?」

「ええっ?! あ、ああ、そうだ。なんとか終わったヨ。疲れた。魔法はちゃんとかかったはずだヨ」
「今一瞬驚きませんでしたか? でも無事に終わったのなら良かったです。魔法はかかったということですね。それでは、僕は続きをやりますけどいいですよね」

「あ、ああ、良いぞ。そうしてくれ。はぁはぁヨ」

「そんなに疲れる魔法だったんですね。秘密にする理由が少しだけ分かりました。それでは、僕はこのあとできた鉄を、刀用と食器用とに選別しててから加工に入ります。それができたらヤッサンに磨いてもらって完成です。明日の昼にはできあがりますので、それまでお待ちください」

 魔王たちが疲れたのは、しょーもないケンカのほうに原因があるようだが。

「「お、おう、頼んだぞ」」

(どうすんだ、どうすんだ。おかしな魔法を付与してしまったノだ)
(黒くはなっているから成功なんだろヨ?)
(いや、オウミヨシのときは磨きをするまでは普通の鉄の色だったノだ。その色はゼンシンも見ていないのだ。あのときはとはなにかが違うノだ)

(そ、そうか。どうする。ユウに相談してみるかヨ?)
(いや、魔法のことがユウに分かるはずがないノだ。また怒られるのがオチだ。黙っていよう)
(それもそうだヨ。まだ失敗と決まったわけではないし)

 典型的な問題の先送りである。


 一方

「1日置いたけど、特に変わった様子はないわね」
「そうだな。でもちょっとは乾いたようだ。俺の記憶ではこのあと焙煎ということをするのだが」
「焙煎って焼くってこと?」
「そう。フライパンの上で焦げ付かないように転がしながら焼くんだ。全体がカリッと茶色になるまでやってくれ」

 あれ? あれはコーヒー豆のことだったかな? まあいいか。似たようなものだろ。

「ふむふむ。炒め物の要領ね。時間はどのくらい?」
「さっぱり分からない」
「あらあら。じゃあ適当にやればいい?」
「お、おう。そうだな。なんとなく焼けたかなってレベルになるまでやってくれ」

「分かった、ようするに適当でいいのね。じゃあ、朝ご飯を食べたらやってみるね」
「お、おう、適当にまかせた」

「お主っていつも誰かにまかせてばかりなノだ?」
「しょうがないだろ。俺はハシより重いものは持てないんだから」
「どこの箱入り娘なのだヨ」

「あ、そうそう、今日ね、新入りがひとり入ってくるわよ」
「うちに新入りか、珍しいな。ミヨシの後輩になるのか?」
「そう。この9月で卒業した私たちの後輩が、ひとりここに丁稚奉公するんだって。昨日急に決まったらしいわよ」

「この辺は9月に卒業なのか」
「そうよ。それは全国で共通。ユウのいたとこは違ったの?」
「あっちでは4月だったな。桜の花が咲く頃だ」
「へぇ。そっちのほうが風情があるわね」

「で、なんて名前の子?」
「ウエモンって言うのよ」
「はい?」
「ウエモンちゃん。可愛い子よ」

 あっちにはドラえもんとか伊右衛門とかあったが、ウエモンとはまた珍しい名だ。それともこちらでは普通なのかな。

 ミヨシとかアチラは違和感のある名前ではなかった。こんな名前のやつは初めてだ。ゼンシンだって漢字で書けば善信だから、珍しい名前じゃない。ウエモンってことは、右衛門かな? 古式ゆかしきおっさんって感じだ。

「丁稚ってことは8才ってことか?」
「うんそう。うちもアチラを最後に人を採用してなかったから、久しぶりの新人よ。今日のお昼はご馳走よ。楽しみにしててね」

「いやっほー。それなら毎日来てくれてもいいな」
「そんなことになったらうちが破産するって、あははは」

 タケウチ工房も赤字体質からの脱却して(まだしてないけど)、ようやく人を増やせるようになった、ということだ。これもすべて俺のおかげである。

「まあ、そう、なノだ、が。な」
「うん、一応、それは、間違っていない、ヨ」

 歯切れが悪いな、お前ら。もっと遠慮なく褒めていいのだぞ?


 そして、朝食が終わるとすぐ、ミヨシが焙煎を始めた。

 そのとき、まだ食堂でのほほんと食後のナツメなどを食べていた人たち(と魔王たち)は。

 必死で食堂から逃げ出したのであった。
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