異世界でカイゼン

soue kitakaze

文字の大きさ
99 / 336

第99話 3人寄れば

しおりを挟む
「というわけでだな、ミヨシ」
「つーん」
「ハルミはすでに、働いているぞ?」
「つーん」
「お前にも頼みたい仕事があるんだが」
「つーん」

 困った、返事がぜんぶつんつんゼミになっている。

「ミヨシのおっぱいは、ハルミより大きかったよ?」
「つーーーーーん!!」

 なぜだろう、褒めてあげたのにつんが倍角になったような気がする。

「お主は明らかに傷口に塩を塗っているノだ」

 そうなのか。ってことは尻はハルミのほうがでかかった、なんて言ったら地雷だよな?

「当たり前なのだヨ!!」

 あっそ。

「ミヨシ。そこから出てこないのなら、もう二度とオウミに会えなくするけど、それでもいいのか?」
「!!!」

 反応が変わった。ちょっと気を引けたかな?

「オウミは俺の眷属だ。俺が命令すれば逆らえない。お前がずっとその調子なら」
「もうご飯作ってあげないよ?」

 あ、すみませんでした。いまの話はなしで。

 ハルミは脳筋単細胞だから簡単だったが、ミヨシは難しい。困らせようとすると、こっちのほうが困るハメになるという無限回廊。

「みんなで楽しそうに騒いでいたら、きっと釣られて出てくるゾヨ」
「おおっ。それはいい。我は酒を持ってくるノきゅぅ?」

 お前らはなにか理由をつけて飲みたいだけだろ。いまどきそんな天照大神的作戦なんかうまくいくか。

 でも、ご飯を作る気はあるんだよなぁ。それならこういう手はどうだろう?

「ミヨシは刺身が得意料理だったよな?」
「つーん」

 つんつんつのだのてーゆーごか、お前は。そこに戻るんかい。

「生魚ってのは、切り直すと臭みが出てくる。そのぐらいのことは経験で知っているだろ」
「つーん」

「だから刺身にするときは、一切りで終わらせないといけない。だが、お前が持っているオウミヨシは出刃包丁といって、魚を3枚におろすのにはとても良い構造なのだが、刺身には向かない。長さが足りないんだ。切れ味が抜群なのとそれは別問題だ」
「……」

 聞いてくれているようだ。

「小さい魚なら問題はないが、マグロのような大きな魚だと長さが足りない。いまは2回に分けて切っているだろ? それを一度に切れる包丁がある。もっと細身で長さのある包丁だ。名前はそのままずばり、刺身包丁というんだが」

 がらっ。

 あ、出てきた、お前ら出番……むご?

「作ってくれるの? その刺身包丁とかってのを。私の専用だよね? 私だけの包丁だよね。それだと臭みのない刺身ができるの? ほんとに? 絶対に作ってよね、絶対に絶対に絶倫に絶対だよね」

 は必要なかったむぎゅう。ミヨシに思い切り抱きつかれた。

「気が進まないから、良かったノだ」
「ミヨシはそういうのには弱いのかヨ」

「あ、ああ、約束する。約束するからちょっと離れろ。その弾力は楽しいけど先に用事を片付けてからだ。ミヨシにしてもらいたい仕事があるんだ。それと絶倫は関係ないからな」
「ちゃんとツッコむのは忘れてないヨ」
「そこだけはたいしたものなノだ」

 包丁の長さが足りないと、魚を一気に引ききれない場合がある。一気に引けないということは、結果として包丁を前後に動かすことになり、壊さなくてもいい細胞を壊してしまうのだ。細胞さんも働いているのだ、壊してはいけない。血小板ちゃんは特に。

 それが魚を生臭くし、さらに見映えまで悪くしてしまうのである。その刺身は価値(旨さ)が半減する。
 壊れる細胞の数を最小限度に抑えるためには、一気に切るだけの長さが必要なのである。そうして生まれたのが刺身包丁である。いつもの豆である。


 そして風呂場の現状をミヨシに説明する。あぁなってこうなって。それからどしたのとなってこうなったと。

「うんうん、分かった。じゃ、すぐにも行ってくるね」
「ああ頼んだ。図面はヤッサンに渡してある。オウミもゼンシンと一緒に行ってくれ」
「了解なノだ」

 これから必要なアイテムを作ってもらうために、この3人と1魔王を工房に帰すのである。

 そのアイテムを作るにはステンレスが必要で、かなり高い加工技術も必要だ。そして数も必要だ。

 残りの人間はこちらで風呂場の整備作業に当たってもらう。その間に、できたアイテムを順次持ってきてもらうという予定だ。

 作るのは、オウミとヤッサン、ゼンシンだけだが、できたものを運ぶ人が必要だ。伝書ブタでは重いものは運べない。
 だからミヨシには、その日にできた分だけ馬車で運んでもらうのだ。

「ヤッサンとゼンシン。こいうやつを作ってもらいたい。材料は一番防錆(ぼうせい)性の高いステンレスを使ってくれ」

「なるほどそうやって壁を作るのか。すごいことを考えるな、ユウは。その使い道を考えるとステンレスが最適だな。最初に作ったやつでいいだろ。クロム鋼を30%入れたやつ」

「ああ、材料はそれでいい。今回は鉄としての強度はそんなにいらない。しかし強力な防錆力が必要なんだ。メインテナンスで適宜交換はしてもらうが、なるべく長く使ってもらいたいからな」

 その上で、こうこうこういう形状が必要で、こうしてこうなってこうこうと。俺が知る限りの知識を伝授した。

 あとは、ヤッサンとゼンシンの腕が頼りである。

「なんかそのパターンばっかりなノだ」
「それでお主が作ったと威張られると、釈然としないのだヨ」

 やかましいよ。

 いま、ヤッサンが作ろうとしているのはバブリングウォーターノズルと呼ばれるものである。

 早い話が小さな空気の泡を巻き込んだ噴水を作るためのノズルである。通常の噴水と違って、吹き上げる水の中に多量の空気を巻き込みながら吹き上げるのだ。

 それによって、噴水は一定の太さを保ったまま持ち上がり、さらに一番上の部分では広がって水流の層となる。そこからおちてゆく水と登って行く水とがぶつかり全体に複雑な膜を作る。それが視界を遮断するのだ。

 男湯と女湯の境目にこれを設置するのが俺の計画だ。有り余るほどの湧水(湯)があるからこそできる技である。噴水によるカーテンだと思えばかなり近いであろう。

 噴水はノズルで巻き込んだマイクロバブルを多量に含んでいるために乳白色となり、光を通さない膜となる。吹き出たお湯はそのまま流れて湯船に入り排水されてゆく。

 ただ、冬場には湯船の温度が下がり過ぎる可能性があるので、噴水から直接排水するルートも確保しておく。それは季節に応じて切り替えればいいだろう。

 噴水を作るためのポンプは、壁の配管にお湯を通すためにすでに稼働しているものがあるのでそのまま使うことにする。

 噴水の高さはせいぜい3mあれば良い。家庭用水道の圧力でもノズル次第で20mぐらいは飛ばせるのだから、3mなら楽勝であろう。

 1/3だけ再建する壁から風呂のエッジ(岩が置いてあってその先は断崖絶壁)までは10mほどである。間隔は10cmで2列作る予定なので、ぜんぶ埋めるためにノズルは、単純計算で200本必要となる計算だ。

 それを壁のあったところにずらりと並べる。現在、壁の下を通っている配管にノズルを設置するためのネジ穴を開ける作業中である。

 同時に、下の配管も下流に行くに従って細くなるように改良もしている。取り替え工事をすると余計なコストと時間がかかるので、中に少しだけ細い管を挿入して固定している。

 水圧の一番かかる上流で高さを3mに設定すると、下流のほうは圧力が逃げている分だけ高さが足りなくなることが予想される。それを補うために下流は管を細くして圧力を高めようというわけだ。どのぐらいの細さが最適なのかはお湯を流してみてから決める。とりあえずは、だいたいである。

 その手の作業はタケウチ工房の連中はお手の物であるし、エースも知っている範囲で助言をくれている。ヤッサンの弟子もどき(あ、いたんだ?)もがんばっている。

((忘れるとはひどいっすよ!!))

 俺のいた世界では、マイクロバブルの噴水をディスプレイにして映像を映し出すなんてこともやっていた。それに比べれば、視界を遮るだけの水壁など簡単なものだ。

 俺が作るわけじゃないから、知らんけど。

「またそれかヨ」
「もうツッコむのも飽きたノだ」

 それだけじゃないぞ。壁の再建費用は700万だ。エースが500万負担すると言った。それからこの旅館からは、俺の設計・改善費として300万頂戴することになっている。

 すると、残りはどうなる?

「100万余るノだ。ノだ? あれ? まさかお主」
「この後に及んで、儲けるつもりだったのかヨ!?」

 もちろんだとも。200本作るから1本5,000だな。温泉の水を通す以上ノズルはそのうち詰まって交換が必要となる。それも含めれば将来に亘って売り上げを確保できる。悪い商売じゃないだろ?

「おかしい、なんか釈然としないゾヨ」
「そ、そうなのだ。なんか計算がおかしい気がするノだ」
「我ら、なにか間違っていたりするのかヨ?」

「そ、そうなのか? 考えてみよう。エースは別に責任はないのに、500万を支払うことになっているノだろ?」
「そうだったな。しかもエースが得るものはなにもないヨ」

「そして一番の被害者である旅館は、300万を捻出することになっているゾヨ」
「でも、旅館はそれでも儲かるって話だったヨ?」
「それは、かもしれない、って話なノだ。先行投資っていうか」
「それはトヨタ家が慰安旅行にここを使うというのが前提だったゾヨ」
「まあ、損にはならないようなノだけど」

「ところがだ。本来は加害者側で、一番費用負担が重くて当然のタケウチ工房はといえばヨ」
「100万の仕事をもらっただけになるゾヨ」
「さらにこのあとも、ノズルの追加発注でおいしい商売ができるノだ」

「「「あれぇ???」」」

 お前ら、意外と賢いのな。魔王も3人寄れば文殊になるんか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

武装法人二階堂商会 ―― 企業買収(M&A)で異世界を支配する!

Innocentblue
ファンタジー
日本で企業買収の最前線を駆け抜けてきた敏腕社長・二階堂漣司。 裏切りにより命を落としたはずの彼が目を覚ましたのは、 剣と魔法が支配する異世界の戦場だった。 与えられたスキルは《企業買収(M&A)》。 兵士も村も土地も国家さえも、株式として評価・買収・支配できる異能の力。 「ならば、この世界そのものを買い叩く」 漣司は《武装法人二階堂商会》を設立。 冷徹な参謀にして最強の魔導士リュシア、獣人傭兵団、裏社会の戦力―― すべてを子会社として編成し、経済と武力を融合した前代未聞の経営戦争へと踏み出す。 弱小の村を救済し、都市と契約を結び、裏切り者を切り捨て、敵対勢力を力で買収する。 交渉は戦争、戦争は経営。 数字が命運を決め、契約が国境を塗り替える。 やがて商会は、都市国家・ギルド・貴族・宗教勢力すら巻き込み、 世界の価値そのものを再定義する巨大企業へと変貌していく。 これは、剣ではなく契約で世界を制圧する男の物語。 奪うのではない。支配するのでもない。 価値を見抜き、価値を操り、世界に値札を付ける―― 救済か、支配か。正義か、合理か。 その境界線を踏み越えながら、蓮司は異世界そのものを経営していく。 異世界×経済×武力が激突する、知略と覇道の武装経営ファンタジー。 「この世界には、村があり、町があり、国家がある。 ――全部まとめて、俺が買い叩く」

毒舌アイドルは毒の魔物に転生する。

馳 影輝
ファンタジー
毒舌を売りにして芸能界で活躍できる様になった。 元々はアイドルとしてデビューしたが、ヒラヒラの衣装や可愛い仕草も得意じゃ無かった。 バラエティーの仕事を貰って、毒舌でキャラを作ったらこれがハマり役で世間からのウケも良くとんとん拍子で有名人になれた。 だが、自宅に帰ると玄関に見知らぬ男性が立っていて私に近づくと静かにナイフで私を刺した。 アイドル時代のファンかも知れない。 突然の事で、怖くて動けない私は何度も刺されて意識を失った。 主人公の時田香澄は殺されてしまう。 気がつくとダンジョンの最下層にポイズンキラーとい魔物に転生する。 自分の現象を知りショックを受けるが、その部屋の主であるリトラの助言により地上を目指す。 ダンジョンの中で進化を繰り返して強くなり、人間の冒険者達が襲われている所に出くわす。 魔物でありながら、擬態を使って人間としても生きる姿や魔王種への進化を試みたり、数え切れないほどの激動の魔物人生が始まる。

鬼死回生~酒呑童子の異世界転生冒険記~

今田勝手
ファンタジー
平安時代の日本で魑魅魍魎を束ねた最強の鬼「酒呑童子」。 大江山で討伐されたその鬼は、死の間際「人に生まれ変わりたい」と願った。 目が覚めた彼が見たのは、平安京とは全く異なる世界で……。 これは、鬼が人間を目指す更生の物語である、のかもしれない。 ※本作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ネオページ」でも同時連載中です。

異世界でリサイクルショップ!俺の高価買取り!

理太郎
ファンタジー
坂木 新はリサイクルショップの店員だ。 ある日、買い取りで査定に不満を持った客に恨みを持たれてしまう。 仕事帰りに襲われて、気が付くと見知らぬ世界のベッドの上だった。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

神様から転生スキルとして鑑定能力とリペア能力を授けられた理由

瀬乃一空
ファンタジー
普通の闇バイトだと思って気軽に応募したところ俺は某国の傭兵部隊に入れられた。しかし、ちょっとした俺のミスから呆気なく仲間7人とともに爆死。気が付くと目の前に神様が……。 神様は俺を異世界転生させる代わりに「罪業の柩」なるものを探すよう命じる。鑑定スキルや修復スキル、イケメン、その他を与えられることを条件に取りあえず承諾したものの、どうしたらよいか分からず、転生した途端、途方にくれるエルン。

私は〈元〉小石でございます! ~癒し系ゴーレムと魔物使い~

Ss侍
ファンタジー
 "私"はある時目覚めたら身体が小石になっていた。  動けない、何もできない、そもそも身体がない。  自分の運命に嘆きつつ小石として過ごしていたある日、小さな人形のような可愛らしいゴーレムがやってきた。 ひょんなことからそのゴーレムの身体をのっとってしまった"私"。  それが、全ての出会いと冒険の始まりだとは知らずに_____!!

唯一無二のマスタースキルで攻略する異世界譚~17歳に若返った俺が辿るもう一つの人生~

専攻有理
ファンタジー
31歳の事務員、椿井翼はある日信号無視の車に轢かれ、目が覚めると17歳の頃の肉体に戻った状態で異世界にいた。 ただ、導いてくれる女神などは現れず、なぜ自分が異世界にいるのかその理由もわからぬまま椿井はツヴァイという名前で異世界で出会った少女達と共にモンスター退治を始めることになった。

処理中です...