異世界でカイゼン

soue kitakaze

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第113話 クラーク先生回想録1

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「クラーク先生! 昨夜から子供が高熱を出して弱っています。お願いです。見てやってください!」
「ではこちらへ。ふむ。これは悪い菌に感染したな。しかし、心配はいらない。消化の良い食べ物を与えて、食後にこのクスリを飲ませよ。水はこまめに飲ませるように。あとは果物などをすりつぶして与えるのも良い。数日で直る」
「ありがとうございます。お礼にこんなものしかありませんが」

「おお、ジャガイモか。もらっておく。では次の人」

「クラークどの、開墾中に斧が折れて足を切ってしまった人がおる。見てやってもらえぬだろうか」
「ああ、これはひどいな。まずは消毒だ。ちょっと染みるが我慢しろ。『はい』。ぷっしゅーー(アルコール度の高い酒をかけた音)。『ううぅぅぅ』。うむ、ではもうちょっと傷むが我慢しろ。『え?』 ぼわぁぁぁん(傷口を火で焼いた音)。『ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ』」

「せ、先生。患者が気を失ってますけど」
「うむ、これで良い。あとは回復魔法をかけておしまいだ。ほんにょこにょーん」

「なにそのフライデー」
「通じるのかヨ、そのネタ?」

「だ、大丈夫なのでしょうか?」
「菌に感染していないければ大丈夫だろう。包帯をぐるぐると巻いて、これでよし。気絶していたほうが仕事が楽で良いな。明日また連れておいで」
「……本人が嫌がるような気がしますが」

「絶対に連れてこい! いいな!?」
「は、はい!! 分かりました。ではお礼に、下り物の千枚漬けです」
「おお。これは嬉しい。大好物だ。もらっておく」

 というような感じで、俺はいんふぉむどこんせんととかを駆使して治療に当たり、街の人からは感謝と尊敬と敬愛と敬遠を集めていたのである。

「敬遠されてんじゃねぇか。どこに、インフォームド・コンセントの要素があるんだよ」
「いきなり火を付けて、患者を炙っていたようにしか思えなかったのだヨ」
「それで尊敬を集めていたとか、自分でそう思っているだけじゃね?」
「こんなとこに通う患者がいるとは思えないのだヨ」

 患者は少なかったけどなほっとけ。俺は本来は魔法使いである。幼い頃より神童と崇められ、一門の期待を一心に背負ってカンサイで修行をしていたときに、賢い俺はふとしたことから医学を修めることとなったのだ。そしてイガの里に帰ってきて親の資金を使って開業したのだ。

 魔法による治療の傍ら、医療魔法の研究にも余念がなかった。いつかこの地からケガや病気で死ぬ人をなくして、世界の称賛を浴びようという高尚な目標をたてて奮闘していた。

「自慢話が多いのだヨ」
「称賛されるのが目的とかどこが高尚だよ。やってることはやっつけ仕事なのにな」

 そんなある日。仕事が終わって散歩していたら、近所に住んでいたヒロミちゃん(7才)がわんわん泣いているところに出くわした。
 俺は親切にもヒロミちゃんになにがあったの、と優しく話しかけた。

「どうしたんだ?」
「びくっ。え? いえ、なんでも、ないの。じゃあ私はこれでぎゅぅぅ」
「待てというに。なにかあったから泣いていたのであろう?」

「だ、だ、だだ大丈夫。私は別に泣いてなんかぐぇぇぇぇ」
「泣いてたよな!」
「……ビクッビク、うん、泣いてた。ビクビク」

「無理矢理言わせたのか」
「この容貌は、幼児には毒性が高すぎるのだヨ」

 誰の顔が毒だ。観客は黙っているように。

 その子に尋問……聞いたところによれば、買ってもらったばかりのガラス玉を連ねた首飾りを、友達と遊んでいるうちに木の枝に引っかけてバラバラにしてしまったということだった。

 慌てて拾い集めたものの、ガラス球の半分ほどは欠けたり砕けたりしていた。そのまま家に帰ったのでは親に怒られる。それで泣いていたのだ。
 それを聞いて気の毒に思った俺は言った。

「怒られろ」と。

 そしたらますます泣き声が大きくなった。

「まるでユウの未来を見るようなのだヨ」
「なんでだよ!!」

 しかし現状の絵をハタから見たらどうなるか、という不安が俺の脳裏をよぎった。まるで幼女略取かロリコンの誘拐犯ではないか。ヒロミちゃんは泣き止まない。俺の顔は怖い。やかましいわ、なにを言わせる。

 慌てた俺はつい思ってしまったのだ。この首飾りの時間をまだ壊れていない時間にまで戻せばいいのではないか、とな。

 そのとき俺が思わず叫んだ言葉が、意外なことに呪文となって俺の口からほとばしったのだ。

「ああ、それはきっとあかんやつ」
「ヨ」

「時間よ、戻れ!」とな。

「そのまんまやないかヨ!」
「それ、本当にお主の発見か? エーちゃんとかが歌ってなかったか?」
「それは止まれだと思うのだヨ」

 時間を戻せばどんなケガだって治せると、俺はずっと考えていた。そのためにありとあらゆる呪文を試した。古文書も当たった。ほとんど読めなかったが。なにか面白そうな呪文があったら手当たり次第に呪文をかけまくっていた。そして時間を進める呪文は見つけたのだ。しかし、戻す呪文はなかなか見つからなかった。

「そんな場当たり的な方法で、魔法が作れるのか?」
「長い時間の間には、そのうち当たることもあるのだヨ」
「適当か」

 そんな試行錯誤を約100年続けた俺が発見したのは、植物の育成をほんのちょっと早める呪文と、花の蜜量を少しだけ増やす呪文のふたつだけだった。

「えらく長生きだな」
「魔法使いというのはそういうものなのだヨ」

 しかし、さすがの俺も、これらの呪文のあまりの使えなさには大笑いしたものだ。

 だがとっさの思い付きで適当に言ってみただけの呪文が、時間を戻すことに成功したのだ。やがてそれは、俺がもともと取得していた時間を進める魔法と合体することで、時間統制魔法にまで進化したのだ。

 そのきっかけを作ってくれたのが、俺に怯えてオシッコ漏らしたヒロミちゃんであったのだ。

「ヒロミちゃんが、どえらいとばっちりをくらっているようにしか思えないのだが」
「ヨ」
「お前、さっきからツッコみに手を抜いてないか?」
「ヨヨ」
「いや、そういうことじゃなくてさ」

「お前ら、聞いてるか?」
「「聞いてる聞いてる」」

 その髪飾りをサクッと直したあと、俺は病院に戻りさっそく試験をしてみた。

 最初は枝を切り落とした植木、それから踏みつけた昆虫やは虫類、そして最後はやや大型の哺乳類ミナミの首を絞めてから呪文をかけた。

「首飾りがサクッと髪飾りになってんぞ?」

 そうか、まあ、どっちでもいい。

「適当か!」
「なんか残酷な描写になってきたのだヨ」

 そのいずれも元通りになることが分かったのだ。どうだ、すごいだろ?

「「すごいすごい」」

 それに気をよくした俺は、ついに人間にその呪文を使うことにしたのだ。そして最初の患者がやってきた。

 その男は戦争で片腕をなくし意識もなく、回復魔法ではとても直らないほどの瀕死の重傷で俺の病院に運ばれてきた。

 切り落とされたのはまる2日も前だった。誰もが諦めていた。そして最後の頼みの綱として、評判の悪いうるさいわ俺のところにやってきたのだ。

 絶好のテスト機会だった。俺はさっそく覚えたての時間統制魔法をかけた。そして奇跡が起こった。
 
 失ったはずの腕が、なにごともなかったかのように復活したのだ。同時に、男も意識を取り戻した。切れた跡さえ残らず、健康な腕が戻ってきたのだ。

 俺はさんざんテストをしていたので周知のことであったが、周りの連中は驚いた。そして騒いだ。さらに、噂を広めた。

 そしたらその後はもう大人気となってうはうは。毎日のように野次馬が押すな押すなの列をなした。

「野次馬が病院に押しかけてどうするよ」
「肝心の患者はどうだったのだヨ?」

 患者だって来たぞ。そりゃそうだ。腕を切り落とすほど大けがを、一瞬のうちになにもなかったことにしてしまうのだから、人々が驚かないわけがない。

 やがて噂は広まってイガ国の領主様から招待されるほどになり、俺の鼻は天まで届かんばかりに高くなった。

 それから1年、俺は治療を続けた。それが人のためになると思ったからだ、決して高額な報酬に目が眩んだわけでは、少ししかない。

「欲望を隠さない魔王だな」

 そしてある日。俺の病院に女がやってきた。ちょうど1年前に魔法をかけた男の妻と名乗った。

 その女は言った。夫は昨日死にました、と。そうか、それは気の毒に。で、それがどうした? と俺は言った。

 それはそうだろう。俺は医者だ。病人ならともかく、なんでもない人間がやってきていきなり夫が死んだと。そう言われて俺になにができるというのだ? しかし女はこう言った。

「あなたのせいです!」
「はぁ?」

 一瞬、犯したろかと思った。

「おぃ!」
「ヨ!」

「ちょっといい女だったのだ。もちろんそんな不埒なマネは、たまにしかしたことはない」

「ちょいちょい魔道に落ちたっぽい証言が現れるな」

「1年前、あなたに切れた腕を治してもらった男を覚えていますか?」
「そんな昔のことは覚えちゃいな……最初のやつか?! 戦争で腕を切り落とされたってやつのことか?」

「そうです。それが私の夫です。そして昨日。庭で剣術の稽古をしているときに、いきなり腕がなくなって多量の血が噴き出しました」
「ほぉ」

「そのとき私は台所で漬物を作っていたのですが、ものすごい悲鳴を聞いて駆けつけたときには、血だらけになった夫はすでに事切れていました」
「ふむ、その漬物は白菜の浅漬けか? 沢庵か?」
「キュウリの浅漬けです。そんなことはどうでもよろしい!!」

「そりゃ怒るわな」
「あきれ果ててものも言えないのだヨ」

「だって気になったんだもん。沢庵なら欲しいがキュウリならいらないからな。しかしだ。知らないところで男が死んで、俺になんの関係があるのか、とそのときは思っていた」

「その魔法は、1年しか持たなかったということか」
「そのときはまだ俺が未熟でな、1年分だけ戻す魔法しか使えなかったのだ。1日にすることも3年にすることもできなかったのだ。それもその後似たような苦情が押し寄せてきて、やっと分かったことなのだけどな」

「しかし、お前が治療しなきゃ、その男は1年前に死んでいたんだよな。それなら1年儲けた、といってもいいぐらいじゃないか。文句を言われる筋合いはないだろ? なんでお前のせいで死んだとかその妻に言われにゃならんのか? おかしいだろ」

「おおっ、お前もそう思うか! そう思ってくれるか、同志よ! まさしく俺も同じように考えたのだ。だが、そのことで時間統制魔法の有効期限が分かったので、そこからはあらかじめ1年しか持たないということを先に伝えてから行うようにした。それでも患者はやってきたし、治療すれば感謝して帰って行った」

「それが本当のインフォームドコンセントというものだな」
「うむ。俺はそれで終わったと思っていた」

「終わらなかったのか」
「終わっていれば、クラークが魔王になることはなかったであろうヨ」
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