異世界でカイゼン

soue kitakaze

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第154話 スクナの就職先

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「まあ、というわけでな、あと300万ぐらい予算を追加で頼むわ(ハナホジ)」

ノだ

「頼むわ、じゃありませんよ! なんですか、この月次報告書は。来年の3月までの予算をもう使い切ってるじゃありませんか」

ノだ

「そうだよ?」

ノだ

「そうだよ、でもありません! もうこれ以上は認められませんからね」

ノだ

「だって足りないんだもーん、仕方ないだろ。なにに使ったはそこに書いてあるだろ?」

ノだ

「それは確認してます。無駄だとは言いません。しかしこちらにも都合が……。それではこうしましょう。特例であと200万だけ出します」

ノだ

「おっ、そうかそうか。ちょっと少ないがまあ、いいだろ。よろしこ」

ノだ

「その代わり、ユウさんの個人資産を凍結しますから。じゃあ」

ノだ

「え? ちょっと、ちょっと待った!!」

ノだ

ノだ

ノだ

 返事がない。ただの魔力の無駄遣いのようだ。

「待てぇい、こらぁぁぁ。レンコン!! ってもう終わったのか?」
「レクサスなノだ。向こうが打ち切ったノだ。これでは我にもなんともできないノだ」

「ちっくしょう。俺の個人資産を……ってそんなのあったんだっけ?」
「「「さぁ?」」」

 そういえば俺の貯金ってどうなってるのかな? そもそもあるんだっけ? いま手元には140円ほどしかないが、まさかこれが全財産ってことはないよな? 俺、シキミ研究所の所長だよな? 社長を除けば一番エラいんだよな? 銀行口座作った覚えないけど、どこかにあるんだよな?

 グースとマツマエを送り出して、11月の末日。俺は知らないうちに義務づけられていた月次報告書を作成した。それをエース宛に送ってやったとたんに苦情が来てこれである。レバニラのやつめ、俺の報告書に文句をつけやがって。

「レクサス、なノだ」
「まったく、商売というものをなんと心得えているのだ、やつらめ」

「でも、あの人たちがトヨタ家の業績を支えているのでしょ?」
「ユウコも良く知っているな。エース侯爵の才覚にあのしっかり執事がトヨタ家の歯車を回しているという噂は、俺も何度も聞いたぞ。いいコンビだよな」
「カンキチまでそんなことを言うか、こんちくしお」

「でもね、いくらエルフの里を助けるためといっても、ユウさんはちょっとお金を使いすぎだったと私も思うよ?」
「俺はそんなつもりはないぞ。ただ、純粋に商売のことを考えただけだ……スクナ? なんでお前までここにいる?」

「来年の2月まで冬休みなの。その間、ユウさんにくっついていなさいって、お母さんが」

 ここは洞窟の入り口にある部屋である。エルフから買った炭と火鉢を設置して、簡易会議室にしたのである。

 倉庫との境目にはエルフに扉を作ってもらったので、この部屋だけ暖房が入れられるようになったのだ。ぽかぽか快適である。そのうちベッドも持ち込むつもりである。いっそここに住んでもいいかなと思っている。

 そこにスクナが入り浸っている。大学から近いとはいえ大雪が降ったら帰れなくなるぐらいの距離はある。あの親父はこんな小さな子をそんなところに預けていいのか。ってか冬休みは3ヶ月もあるのか。長いなおい。

「それにしてもこの炭はかなりの高品質だな。匂いもないし火力も強い。カンキチもこれを買ったらどうだ?」
「ああ、すでに1俵だけ買ってアサヒカワに送ってある。調子がいいようなら追加で買う予定だ」

「手が早いな。さすがレベルアップした魔王だ」
「お主の教育のたまものなノだ」
「それは、そうかもしれないな」

 照れたカンキチを挟んで、あはははと皆が笑った。ところで、なんでスクナがここに入り浸っているのだろうか。

「スクナの気持ちが私は分かるわよ。この国も雪が積もると、やれることがなにもないものね。本ばかり読んでいると気が滅入っちゃうし。ユウさんにくっついていれば、少なくとも退屈はしないもんね」

 そう言ったのは先輩であるモナカだ。エチ国生まれで大学の4年をここで過ごした才媛である。雪の積もった生活を良く知っている。雪の量ならエチ国だって負けてはいないのだ。

「そうなのか。子供が表に出られないってのは、ちょっと可哀想だなぁ。遊びたい盛りだろうに」

「きゃははは。ユウさんだって私と年はそんなに変わらないじゃないの」
「いや、俺はカミカクシだからな」
「私は大学が遊び場でついでに住むところだから、わりと平気だよ?」

 お前のその天真爛漫さが眩しいよ。

「それでね、ユウさん。というかオウミ様」
「「なんなノだ?」」
「私にこっそり魔法を教えて欲しいの」

 スクナは父親であるシャインから、魔法を使うことをきつく禁止されていたはずだが?

「良いノか? スクナさえ良ければ、我はいくらでも教えてやるノだ」
「シャインがすごい勢いで反対してただろ? それは大丈夫なのか?」

「うん、その件でね、この間ものすごい夫婦げんかになって」

 あらあら。

「結局、お父さんがボコボコにされて敗北。めでたく私は魔法を覚えても良いことになりました。ただおおっぴらにはするなって条件付きなの」

 ……シャイン。夫婦げんかでボコボコにされたのか。この世界はどうしてこう女が強いのだろう。ハルミやミヨシは例外じゃないということか。

「それと成人するまでは、魔法が使えるということは絶対に内緒なの」
「それはまたどうして?」
「軍隊に取られちゃうから」

 ……軍隊? だと?

「女の子をか?」
「うん。魔法使いは稀少だから、使えると分かったらすぐにホッカイ国の施設で訓練を受けさせられるの」
「なんという……。それはいったい誰が決めたんだ?」
「ずっと前に、ここの領主様であったエゾ家が決めたらしいよ」

「カンキチ、そんな制度がここにはあるのか?」
「ああ、それだけは俺にもなんともできないことだ。なにしろ、ここはニホンとはいっても、中央政府とうまくいっているとは言えない国だからな」

「なんだそれ?」
「文化の違いというか、人種の違いというか」
「なんだそれ? その2」

「ここはニホンとルーシとの国境の島だ。どちらにつくかいつも揺れている。現在はたまたまニホン側にいるというのに過ぎないんだ」

 ルーシってのはあれだよな。俺がいた世界に、ものすごい心当たりのある国がひとつある。

 それでいつ戦争になってもいいように、戦力として魔法使いが必要というわけか。

 シャインがスクナに魔法を使うことを禁止した理由がやっと分かった。

 もし見つかったら軍隊に行かされるからだったのだ。こんな小さなうちから、軍隊で訓練なんて可哀想すぎる。戦争にかり出される幼女なんてデグレチャフだけでいい。

「誰?」
「気にするな」

 俺の嫁にって話もそれと繋がっていたのだな。俺の嫁になってミノ国に連れて行けば、この子はそこで平和に暮らせる。少なくとも軍隊に入れられることはないと、シャインはそう考えたのだろう。

 それも親心だったのだ。あれ? それなら俺としてはこういう行動に出ることができるぞ?

「なあ、スクナ。お前、ミノ国に来て俺の研究所の職員になる気はないか?」
「え? そんなこと。ほんとにいいの?」
「ああ、優秀な人材ならいくらでも欲しいんだ。俺の仕事はこれからいくらでも増えるからな。お前ぐらいの知識と体力があれば、きっと役に立つ」

 ものすごい青田刈りをしている気分だけど。

「うんうん。ありがとう。私はぜひ行きたい。お母さんに相談してみる。でもそれって、大学は?」
「もちろん、卒業してからでいいぞ。ってお父さんにも相談しろ」
「お父さんは、お母さんにボコボコにされるだけだから」

「あ、まあ。それなら、まあ。いいけど」

 可哀想なシャイン。だが、家庭の事情には踏み込むまい。

「カンキチ。そうすれば、スクナは軍隊に行く必要はなくなるよな?」
「ああ、なくなるだろう。よその国に行った人間を徴兵することはないだろうからな」

 よし、そなら決まりだ。スクナは卒業後の就職先、シキミ研究所に決定である。

「ユウさんもオウミ様もカンキチ様も、みんなありがとう。私頑張る!」
「ああ、生産性の低い戦争なんて方法じゃなくて、ここを豊かにする経済のために戦ってくれ……あれ?」

「それ、うまいこと言ったつもりなノだ?」

 滑った……。
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