【完結】神子召喚に巻き込まれ、騎士団長に溺愛された可憐な(?)オッサンです。

猫野 暇

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11、侯爵家の秘宝?

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「侯爵様の用件は大丈夫だった?」

 エグベアートの唇が離れたタイミングで俺は尋ねた。
 これ以上は色々と危ない気がした。俺自身がもっと欲しいと思ってしまいそうで……。
 いかんいかん! 流されるな、俺!

「詳しくは言われなかったが、浄化の旅にを肌身離さず持って行くようにと」

 エグベアートは、フォーマルなコートの大きなポケットから、小ぶりな巾着袋を取り出した。手作りなのだろうか、エグベアートの髪色みたいな赤い生地に、黒い糸で丁寧に刺繍がされている。

「これは?」
「中に、侯爵家に代々伝わる秘宝が入っているそうだ」
「巾着に秘宝? あ! もしかして、これもマジックバッグ?」

「そうだ」とエグベアートは頷いた。

 かなり古い物らしいが、何重にも魔法が重ね掛けされているらしく、とても綺麗な状態だ。当主の兄が弟の身を案じ、御守りにと持たせてくれたのだろう。

「そんな大切な物を持って行くほど、浄化の旅は危険てことか……」

 王太子は軽く言ってくれたが。あんにゃろう。
 
「いや。そこまで危険ではない」
「へ?」
「フーマが召喚された泉は、本来なら魔物が多く生息していたはずの場所だった。けれど、フーマが現れた時には魔物の姿は全く無かった」
「それって、俺が最初に泉を浄化したから?」
「ああ、多分な。フーマの存在自体が魔物を寄せ付けないのかもしれないが、泉と一緒に魔物の穢れも浄化したと考えてもいいかもしれない。魔物とは、穢れに冒され凶暴化した動物だからな」
「ただの動物が魔物になるのか……。てっきり、魔王とかが住んでいる魔界があって、そこから出て来るのかと思ってた」
「そういった絵本や冒険譚はあるにはあるが。それはあくまでも作り話だ」

 そうなのか。
 ちょっとだけ拍子抜けしたが、エグベアートに浄化の必要性を聞いたら、そんな呑気なことは言っていられなかった。

 魔法のあるこの世界に、魔素は空気のように存在している。穢れとは、一定の場所に滞った魔素が変質したものらしい。つまり、自然発生。
 しかも、目に見えないで溜まってしまうからタチが悪い。せめて変質する原因だけでも、解明されたらいいのだが。
 
 穢れが悪さをするのは、動物だけではない。土壌が汚染されれば、農作物はできなくなり、病気だって蔓延する。俺が浸かっていたヘドロを思い出せば、水だって飲めなくなるのだ。
 そこに、凶暴化した魔物が襲ってきたら、ひとたまりもない。

 元の世界では、熊が出ただけでもニュースになったが、そんなのは比ではないのだ。騎士団が討伐に向かって対処しているが、発生速度に追いつかないのだとか。
 だから、この国では神子が各地を浄化してまわらなければならない。他の国では、また対応策は違うらしいが。根本的なところが解決できなければ、いたちごっこだ。

「浄化を急ぐ理由はわかったけど。俺が行けば、そこまで危険じゃないんだよな? それなのに、わざわざ秘宝を?」
 
 エグベアートは、俺の質問に答える前に、巾着の中に入っていた秘宝を取り出して見せた。

「でか……」

 袋は小さいし、秘宝って言うくらいだからさ。ちょっと大きめな宝石とかを想像した俺は普通だよな……うん。こんな、ボーリングの玉みたいなのが出て来るとは思わないだろ!

「初代神子様が、侯爵家のためにご自身の御力を遺してくださったオーブだそうだ」
「オーブ……初代神子の力?」
「侯爵家の者は、闇の属性を持って生まれる。闇を持つ者が穢れに冒されると、魔力暴走を起こしてしまうのだ。周囲を巻き込み、最悪は死に至る。オーブは、それを防ぐための物だ。触れるだけで、体の中の穢れを浄化してくれる」

 だから、エグベアートに……って、あれ?

「エグベアートは闇があるから、穢れの耐性があったんじゃなかったっけ?」
「そうだ。私だけは、闇持ちだが穢れに耐性のある異端児だった。だからこそ、父には侯爵家を出て王家の駒になれと言われた」

 言い方! これじゃ誤解も生まれそうだ。

「それこそ、幼い頃は絵本の魔王じゃないかと、傍系の者にも揶揄われた。私は、両親にも優秀な兄にも似ていないからな。第五騎士団に配属された理由もそこだ」
 
 第五が特殊っていうのは、いい意味ではないらしい。事情がある者や平民も入れるため、他の団からは下に見られる事が多いのだとか。騎士団長クラスになれば、第五の重要性を理解しているみたいだが。

「まあ、耐性があるおかげで、騎士団長にまでなってしまったがな」
「周りの言い方は頭にくるけど。でも、それって完全に妬みだろ。俺にしてみたら、エグベアートに耐性があって良かったって思うよ。穢れのせいで、常に命の危険に晒されているなんて嫌だし。エグベアートには、ずっと元気でそばに居てほしい」

「そうか、ずっとそばに……」と、エグベアートは顔を綻ばせた。
 あれ……何か言い方間違えたか? まぁいいか。

「でもさ! それこそ、耐性のあるエグベアートにオーブは必要ないよな?」
「オーブは私が使うのではなく、いざという時にフーマの役に立つ筈だと」
「はあ、俺のため⁉︎ オーブが無いと侯爵家の人が大変なんだろう? そんなの申し訳なくて預かれないよ」
「今のところは問題はない。王都に最も近い場所は、もうフーマが浄化してくれているからな。私のように、敢えて穢れに近づかなければ影響は受けない。それに、我が侯爵家は初代神子様に忠誠を誓っているから、少しでもお役に立ちたいのだろう」
「そうなんだ……」

 俺は、ただの巻き込まれ神子で、本物の代理だけど…… 。
 あ、だからか! 王城の神子より、パワー不足で成し遂げられないと困るから、貸し出してくれたってことか。侯爵に会いに行けと言ったのは国王だから、俺についても知っているんだな。なるほど。

 一時的になら借りても問題無いみたいだし、ありがたく御守りにさせてもらおう。壊したり紛失したら絶対にまずいヤツだけど、しっかり者のエグベアートが持ち歩くなら、大丈夫だろうしな。

「じゃあさ、浄化の旅が終わったら、侯爵家にお礼を言いに行かせてよ」

 そこは社会人だったオッサンなりの礼儀だ。

「ああ、きっと喜ぶだろう」

 ついでと言っては何だけど。半端な神子ではあるが、俺が間に入ることで、エグベアートと家族の関係が少しでも良いものになってくれたら――そんな風に思ってしまう。

 烏滸がましいって事もわかってる。

 だけど俺は、純粋とは程遠い打算的なオッサンだ。俺がもっと、エグベアートの自然と笑う顔が見たいだけさ。自分本位で悪いけど、せっかくの神子って立場を利用しない手はないよな?
 
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