【完結】神子召喚に巻き込まれ、騎士団長に溺愛された可憐な(?)オッサンです。

猫野 暇

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10、お互い様ってことで

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「それから」と、王太子は俺を見た。

「フーマは王城の神子には関わってはいけないよ。彼は精神が危うい状態だからね。フーマとは状況が違うから、刺激してほしくない。わかるね?」
「あ、はい、関わりません。あの……その神子様は、大丈夫なのですか?」
「私がじっくり、寄り添っていくから心配はいらない。大切にするよ。それと、彼について余計なことを調べるのも駄目だからね。私は存外に嫉妬深いようだ」

 王太子の笑みに、背筋がゾクッとした。
 自分の伴侶が、同郷の男と仲良くするのは許せないらしい。王太子の嫉妬はヤバそうだ。
 もちろん、関わるつもりは最初からないけどな。人の恋路を邪魔するほど野暮じゃないぞ!

 俺の返答に満足したのか、王太子は機嫌良さそうに帰って行った。

 豪奢な馬車を見送ると、エグベアートは真剣な面持ちで俺に頭を下げた。

「フーマ……。嘘をつき、騙すようなことをして、本当にすまなかった」
「いや、さ。嘘をついていたのは、俺も一緒だから。頭を上げてよ」

 エグベアートからの話は、あの時の俺にとっては渡りに船だったのだ。
「だが、私がっ」と言いかけるエグベアートを、俺は遮った。

「どっちが先に嘘をついたって事じゃなく、俺は自分でエグベアートの話に乗ったんだ。騙されて無理矢理に……って訳じゃない。お互い様だろ? だからさぁ、そんな泣きそうな顔するなよ」
「フーマ……」

 俺は、エグベアートの落ち込む姿に、抱きしめて慰めたくなってしまう。さすがに、ここで犬扱いは駄目だと、グッと堪えた。

「エグベアートは王命だったし、俺は神子になりたくなかった。それに今日、この姿でいるように言ったのは、王太子に俺の存在を隠そうとしてくれたんだろ。俺たちは利害が一致しただけ、な?」
「……ありがとう。これからは、絶対フーマに嘘はつかない」

 真面目に言うエグベアートに笑ってしまう。
 どんだけ素直なんだよ。若いなあ。

「それは無理だろ。俺は隠すことなんて、もう無いけどさ。エグベアートは騎士団長なんだから、守秘義務だってあるだろうし。話せることだけでいいよ」

 王城の神子の事とか知ったら、あの王太子が何するかわからない。てか、まじで怖いから知りたくない。

「それならば、私に関することなら正直に話す」
「わかった。じゃあ、俺が知りたい時は訊くよ」

 とりあえず納得したみたいでホッとした。俺ってば、完全にエグベアートに絆されてるよなぁ……。



 ※※※



 王太子の突撃訪問があった翌日。

 エグベアートは実家である侯爵邸へ向かった。

 なんとなくだが、エグベアートと実家の関係は、あまりよろしくない気がした。今朝の表情もどこか変だったし、見送りのハグもなかなか離してもらえなかった。

 もともと侯爵家のことは、あまり会話に出てこなかったから、気にしていなかったが。たぶん、今なら訊けば話すんだろうな、エグベアートは。

 俺自身、両親には捨てられたも同然で、引き取ってくれた祖母は、俺を視界にすら入れたくなさそうだった。血が繋がっているからこそ、うまくいかない事もある。
 だから、エグベアートが話したくなるまで、待つつもりだ。

 俺にできるのは、明るく出迎えるくらいだよな。落ち込んで帰ってきたら、唇もちょっとだけ許そう――って、俺は何を考えているんだっ⁉︎
 うん、今のは忘れよう。気の迷いだ。

「フーマ様、さっきから可憐なお顔が変ですよ?」
「……失礼だな、バルウィン」
「冗談です。エグベアート様なら、きっと大丈夫ですよ」
「だと、いいけど……」
「この邸の使用人は高齢ではありますが、侯爵家で長く仕え、ご当主様方からの信頼が厚い者ばかりです。そして、まだまだ働けます。ですが、前ご当主様はその者たちを手放し、エグベアート様に付けたのですよ。どれほど、エグベアート様をご心配なさっているか、我々にはわかるのです」
「そっか……なら、良かった」

 もしかしたら、ただ不器用な家族なのかもな。ちょっとだけエグベアートが羨ましい。
 
「お帰りなったらフーマ様が、唇禁止令を解いて差し上げれば、すぐに元気になりますよ」
「……んぁっ⁉︎」

 バ、バルウィンは人の心が読めるのか⁉︎

「フーマ様は、わかりやすくて可愛いですね。その時は、横を向いておきますのでご安心を」と、バルウィンはふふっと笑った。

 くっ、また揶揄われた! 
 でもまぁ。こんなオッサン相手で、エグベアートが元気になってくれるなら、今日だけは解禁してもいいのかな……?



 ※※※
 


 とりあえず、エグベアートが帰って来るまで、俺はアメリーと一緒に旅支度を進める。

 そう!
 異世界といったら、マジックバッグ。亜空間に物を大量に収納できるという、SFチックなあれだ。
 ドキドキしながら尋ねると、本当に実在していた。こっちの世界に来て、一番感動したかもしれない。

 普段、エグベアートが観測地に向かう時は、馬車ではなくあの愛馬で行くらしい。俺が召喚された場所もそうだし、馬車で行くには困難な場所が多いのだとか。騎士団から支給されているマジックバッグには、あらかじめ野営グッズ一式が入っているそうだ。

 ただ、アメリーが言うには、今回の旅は俺が一緒だから、野営ではなくちゃんとした宿を取るらしい。
 俺としては、ソロキャンは自信がないが、エグベアートがいればどこででも大丈夫な気がしている。年下だけど、騎士団長だし頼りになるからな。

 俺用にと、アメリーからウエストに着用するタイプのコンパクトなバッグを渡され、ウキウキしながら必要な物を詰めていく。

 そんなこんなで、時間はあっという間に過ぎ、玄関ホールの方が騒がしくなってきた。
 アメリーと出迎えに行こうと思ったら、ものすごい勢いで部屋の扉が開く。

「え?」

 軽く息を切らしたエグベアートが、そこに居た。

「フーマ」
「あ。出迎え間に合わなかったね、ごめ」

 言い終わる前に、バッグ片手にまだ座っている俺の方へやって来て、そのままムギュッとハグをした。
 バルウィンはああ言っていたが、やはり侯爵邸で何かあったのだろうか?
 エグベアートの背をさするように、腕をまわした。

「……エグベアート、何かあった?」
「さっき」
「うん、さっき?」
「バルウィンが……」

 ん? バルウィン?

「唇解禁と言っていたのだが……」

 そっちかーい‼︎ 勝手に何言っちゃってくれるんだよ、あの執事!

「まさか、それで急いでここに来たとか?」
「……そうだ」

 なにそれ。ちょっと可愛いとか思っちゃうじゃないか。

「今日だけ、な! でも、軽くだぞ」

「ありがとう」と顔を綻ばせたエグベアートは、見つめては啄むようなキスを数回繰り返した。

 アメリーが止めないなら普通なんだよな、これ?

 ………なぜだろう。
 深くはないのに、触れる度にドキドキが止まらない。恋人っぽさを感じてしまうのは、俺の経験値が低すぎるせいだろうか?
 
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