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9、王太子殿下がやってきた
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バルウィンの手伝いにもすっかり慣れてきた頃、伯爵邸に突然の来客があった。先触れと同時に、この国の王太子がやって来たのだ――。
先触れの意味よ! これって出す必要あったのだろうか?
対応に追われているバルウィンとアメリー達が、もの凄く大変そうだ。
だから、俺もそっちを手伝いたいと言ったのだが……。
エグベアートにがっしり腰を掴まれて、応接室の王太子の向かい側のソファーに座らせられた。意味がわからない。
いかにも王子然としている、金髪キラキライケメンの眩しさに目がやられそうだ。
「ちょっと腰、離して」と、小声で訴えるが、エグベアートは何処吹く風。
「ならば、私の膝に座るか?」
「座りません」
なにを真面目に訊いているんだ⁉︎ これで、王太子と会話するとか不敬でしかないだろう!
「私は構わないぞ」と目の前の王太子は、気にもしない。
「それで、さっそく本題にはいるが」
え? 本気でこのまま放置か?
「今回の依頼は、アーダルベルト伯爵に――ではなく、私の友人であるエグベアートに頼みたい」
「どういう事でしょうか?」
エグベアートは顔から笑みを消し、表情を硬くする。
「それは受けてくれると取っていいのかい?」
「……内容によります」
「悪い話ではない。エグベアートと、そこの彼の二人だけで、穢れの酷い観測地の浄化に回ってほしい」
はあ⁉︎ それのどこが良い話なんだ?
ちょっと待て。二人で浄化ってどういうことだ。もしかして、俺が神子だと知って――。
「君がフーマだろう? 姿を変えていても、私の目は誤魔化せないよ。君がもうひとりの神子だとわかっているからね。嘘は必要ないよ」
「それはっ!」
王太子の言葉に、エグベアートはガバッと立ち上がる。
「どうして知っているかといった顔だね。私の神子から、もうひとりの存在がいると、あの場に居合わせた皆が聞いた。エグベアートもそうだろう?」
「え。そうなの?」
俺の呟きに「嘘をついて、すまん」とエグベアートは目を伏せた。
エグベアートは知っていて、俺に近づいたのか。胸の奥がズクリと重くなる。
「だが! もう一人も神子だとは言っていなかった。一緒に召喚された……と、だけだ」
もしかして、俺はその人の近くに居たから巻き込まれたのだろうか?
俺は寝てたから召喚の瞬間は見なかったが、本物の神子は見えていて、一緒に召喚された俺に気がついていたってことか。
あれ? 俺の隣は空席だったよな。
「そうだね。エグベアートは陛下の命で、ただの異世界人を探しに彼の地に向かった。その後、第五騎士団から、王都から最も近くて厄介な泉が浄化されていると、陛下に報告しているね。私の耳に入らないとでも? それにね。王城にいる神子は、まだ何もしていない――というか、出来る状態ではない」
「それで、他にも神子がいると?」
「うん、そうだよ。エグベアートは第五騎士団の調査隊の新しい補助団員として、観測地に向かえる平民の登録をした。もちろん偽名だったが。騎士団長の寵愛を受けている平民……そんな体でいきたかったのだろうけどね。私はこれでも王太子だ。陛下が私に隠し通せるなんて思っていたのかい? 今回の神子は、私の伴侶だ」
伴侶ときいて、ビクッと肩が震えてしまった。バルウィンが、この世界では同性婚も当たり前だと言っていたが――。
「ああ、勘違いしないでほしい。フーマではなく、王城に正式に召喚された神子の方だから。うん、エグベアートもそんなに殺気を向けないでくれるかな?」
「えっ?」と、エグベアートを見ると、素知らぬ顔でお茶を飲んでいる。いくら友人でも王太子に殺気とか、あり得ないだろう。
「あの……王城の神子様は浄化に行かないのですか?」
「本来なら、彼の役目なんだが。大切な者を失ってしまい、少しばかり精神が不安定でね」
それは辛いだろうな……。てか、本物の神子も男なのか。
「神子は元の世界には帰れないのですか?」
「うん、残念ながら。私たちの力ではどうすることも出来ないのだよ。神の決められたことだからね」
突然訳もわからず異世界に召喚されるとか、受け入れるのは難しいよな。俺みたいに、向こうの世界に未練がないやつとは違って、そりゃショックだろう。
「フーマは、元の世界に帰りたいのかい?」
「俺は……」
尋ねてきたのは王太子なのに、なんでか俺は隣のエグベアートが気になってしまう。
「えっと。俺は向こうの世界には未練とかないんで、帰れなくても問題ありません。ここにお世話になって、居心地よくて毎日が楽しくて……幸せってこんな感じなのかなって」
へへっと、誤魔化すように笑う。
「そうか。エグベアート、良かったな」
「……はい、本当に」
「それで、話を戻すが浄化には行ってくれるか? 王太子からの命として、一時的に騎士団長の任を解く。その間の団長には、カーティスを指名するつもりだ」
もともと第五騎士団は特別な集団らしい。
他の団は決まった場所を守るのが仕事だが、第五は魔物討伐から第一から第四の欠員補充など、かなり幅広い活動を王族の命で行うのだとか。
だから、派遣とか調査隊とか色々あったのか。
「フーマとふたりだけで、旅行に行くつもりでどうだろう?」
いや、そんな軽々しく……。
「お受けいたします」
「では決まりだな」
あっさり決まってしまい、俺の方が戸惑う。
「エグベアート、もうちょい考えようよ。団長じゃなくなるんだよ?」
「フーマは……私と旅行に行くのは嫌か?」
王太子がまだ居るのに、大型犬化してしょぼんとするなって!
「だって、ただの旅行じゃないよな?」
「穢れさえ浄化してくれるのなら、それ以外は二人でどう楽しもうが構わないぞ。しっかり仲を深めてもらえると、私も安心するのだが」
「だ、そうだ」と、エグベアートは俺を見る。
「ゔぅ……もう、わかったよ!」
王太子の胡散臭い笑顔は気になるが、しぶしぶと了承する。
そういえば、さっきの二人の会話で何かが引っかかった気がしたんだけど……うーん、何だったかな?
まあ、大したことじゃないか。
「さっそく、観測地に向かってほしい……と、言いたいところだが。エグベアートは一度、侯爵に会いに行くようにとの陛下からの伝言だ」
「兄上に……ですか?」
「私は、内容は聞かされていない。だが、必ず行くようにと」
「承知いたしました」
ん?
心なしか、エグベアートの表情に影が落ちた気がした。
先触れの意味よ! これって出す必要あったのだろうか?
対応に追われているバルウィンとアメリー達が、もの凄く大変そうだ。
だから、俺もそっちを手伝いたいと言ったのだが……。
エグベアートにがっしり腰を掴まれて、応接室の王太子の向かい側のソファーに座らせられた。意味がわからない。
いかにも王子然としている、金髪キラキライケメンの眩しさに目がやられそうだ。
「ちょっと腰、離して」と、小声で訴えるが、エグベアートは何処吹く風。
「ならば、私の膝に座るか?」
「座りません」
なにを真面目に訊いているんだ⁉︎ これで、王太子と会話するとか不敬でしかないだろう!
「私は構わないぞ」と目の前の王太子は、気にもしない。
「それで、さっそく本題にはいるが」
え? 本気でこのまま放置か?
「今回の依頼は、アーダルベルト伯爵に――ではなく、私の友人であるエグベアートに頼みたい」
「どういう事でしょうか?」
エグベアートは顔から笑みを消し、表情を硬くする。
「それは受けてくれると取っていいのかい?」
「……内容によります」
「悪い話ではない。エグベアートと、そこの彼の二人だけで、穢れの酷い観測地の浄化に回ってほしい」
はあ⁉︎ それのどこが良い話なんだ?
ちょっと待て。二人で浄化ってどういうことだ。もしかして、俺が神子だと知って――。
「君がフーマだろう? 姿を変えていても、私の目は誤魔化せないよ。君がもうひとりの神子だとわかっているからね。嘘は必要ないよ」
「それはっ!」
王太子の言葉に、エグベアートはガバッと立ち上がる。
「どうして知っているかといった顔だね。私の神子から、もうひとりの存在がいると、あの場に居合わせた皆が聞いた。エグベアートもそうだろう?」
「え。そうなの?」
俺の呟きに「嘘をついて、すまん」とエグベアートは目を伏せた。
エグベアートは知っていて、俺に近づいたのか。胸の奥がズクリと重くなる。
「だが! もう一人も神子だとは言っていなかった。一緒に召喚された……と、だけだ」
もしかして、俺はその人の近くに居たから巻き込まれたのだろうか?
俺は寝てたから召喚の瞬間は見なかったが、本物の神子は見えていて、一緒に召喚された俺に気がついていたってことか。
あれ? 俺の隣は空席だったよな。
「そうだね。エグベアートは陛下の命で、ただの異世界人を探しに彼の地に向かった。その後、第五騎士団から、王都から最も近くて厄介な泉が浄化されていると、陛下に報告しているね。私の耳に入らないとでも? それにね。王城にいる神子は、まだ何もしていない――というか、出来る状態ではない」
「それで、他にも神子がいると?」
「うん、そうだよ。エグベアートは第五騎士団の調査隊の新しい補助団員として、観測地に向かえる平民の登録をした。もちろん偽名だったが。騎士団長の寵愛を受けている平民……そんな体でいきたかったのだろうけどね。私はこれでも王太子だ。陛下が私に隠し通せるなんて思っていたのかい? 今回の神子は、私の伴侶だ」
伴侶ときいて、ビクッと肩が震えてしまった。バルウィンが、この世界では同性婚も当たり前だと言っていたが――。
「ああ、勘違いしないでほしい。フーマではなく、王城に正式に召喚された神子の方だから。うん、エグベアートもそんなに殺気を向けないでくれるかな?」
「えっ?」と、エグベアートを見ると、素知らぬ顔でお茶を飲んでいる。いくら友人でも王太子に殺気とか、あり得ないだろう。
「あの……王城の神子様は浄化に行かないのですか?」
「本来なら、彼の役目なんだが。大切な者を失ってしまい、少しばかり精神が不安定でね」
それは辛いだろうな……。てか、本物の神子も男なのか。
「神子は元の世界には帰れないのですか?」
「うん、残念ながら。私たちの力ではどうすることも出来ないのだよ。神の決められたことだからね」
突然訳もわからず異世界に召喚されるとか、受け入れるのは難しいよな。俺みたいに、向こうの世界に未練がないやつとは違って、そりゃショックだろう。
「フーマは、元の世界に帰りたいのかい?」
「俺は……」
尋ねてきたのは王太子なのに、なんでか俺は隣のエグベアートが気になってしまう。
「えっと。俺は向こうの世界には未練とかないんで、帰れなくても問題ありません。ここにお世話になって、居心地よくて毎日が楽しくて……幸せってこんな感じなのかなって」
へへっと、誤魔化すように笑う。
「そうか。エグベアート、良かったな」
「……はい、本当に」
「それで、話を戻すが浄化には行ってくれるか? 王太子からの命として、一時的に騎士団長の任を解く。その間の団長には、カーティスを指名するつもりだ」
もともと第五騎士団は特別な集団らしい。
他の団は決まった場所を守るのが仕事だが、第五は魔物討伐から第一から第四の欠員補充など、かなり幅広い活動を王族の命で行うのだとか。
だから、派遣とか調査隊とか色々あったのか。
「フーマとふたりだけで、旅行に行くつもりでどうだろう?」
いや、そんな軽々しく……。
「お受けいたします」
「では決まりだな」
あっさり決まってしまい、俺の方が戸惑う。
「エグベアート、もうちょい考えようよ。団長じゃなくなるんだよ?」
「フーマは……私と旅行に行くのは嫌か?」
王太子がまだ居るのに、大型犬化してしょぼんとするなって!
「だって、ただの旅行じゃないよな?」
「穢れさえ浄化してくれるのなら、それ以外は二人でどう楽しもうが構わないぞ。しっかり仲を深めてもらえると、私も安心するのだが」
「だ、そうだ」と、エグベアートは俺を見る。
「ゔぅ……もう、わかったよ!」
王太子の胡散臭い笑顔は気になるが、しぶしぶと了承する。
そういえば、さっきの二人の会話で何かが引っかかった気がしたんだけど……うーん、何だったかな?
まあ、大したことじゃないか。
「さっそく、観測地に向かってほしい……と、言いたいところだが。エグベアートは一度、侯爵に会いに行くようにとの陛下からの伝言だ」
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ん?
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