【完結】神子召喚に巻き込まれ、騎士団長に溺愛された可憐な(?)オッサンです。

猫野 暇

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16、垣間見えた侯爵家の秘密

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 うん、イケオジの怒号は迫力満点だよ。エグベアートも、一瞬で顔を強張らせたし。

 でもなぁ……。

 応接室のテーブルの上には、厳かな前侯爵には不釣り合いな、おしゃれで可愛いティースタンドが。3段になっているプレートには、軽食や色とりどりの甘そうなお菓子がたくさん乗っていた。 
 華やかなティーカップにお茶を注ぐライモンドは、ニコニコしているし。

 これは、貴婦人のお茶会か? ウェルカム感が半端ない。

 ちらりとエグベアートの方に視線をやると、強張ったままの表情で黙って父親を見つめている。
 最初の一言が効いてしまっているのだろう。この違和感たっぷりの状況に気づいていない。

 ライモンドから「旦那様、まずは神子様のお話を」と促された前侯爵は、ハッとしたように俺の方を向き、姿勢を正した。

「神子様、大変失礼をいたしました。サンチェーズ侯爵家前当主、ハインツ・フォン・サンチェーズと申します」
「この度は、貴重なお時間をいただきまして。神子のフーマ・タカギと申します」
「……それで。私めに、どういったご用件でしょうか?」
「実は――」

 俺とエグベアートは湖沼での件を説明し、『闇』の力について教えを乞いたいと伝えた。
 
「残念ですが。侯爵家の当主ではない者……特に、異端児になどに聞かせることはありません」

 ピシャリと言った父親の拒絶するような態度に、エグベアートは堪えられなかったのか立ち上がる。

「でしたら、私は退席いたします。不出来な異端児にではなく、神子様にお話しください」

 そう言い残し、エグベアートは応接室から出て行ってしまった。前侯爵が話せないのは、俺も含まれてると思うが……。あの言い方じゃな。
 エグベアートを追いかけるか迷ったが、ここに残ることにした。確認したい事があったからだ。

 扉が閉まると、俺はエグベアートの父親であるハインツに尋ねた。

「どうして、わざとエグベアートを傷付けるような事を言うのですか? こんなに……大切に思っているのに」

「何のことでしょう?」とハインツはしらばっくれる。まあ、そう来るだろうとは思っていたが。
 
「ここにあるお菓子は、王都の限定品ですよね。この前、俺たちが街歩きして食べたやつです。それも、エグベアートが特に気に入っていた、季節のフルーツが入った焼き菓子。わざわざ取り寄せたのでは?」

 先触れが届いてからすぐに、伯爵邸の者に連絡して用意したのだろう。エグベアートの好きな物を。

「さあ? ライモンドが勝手にした事です」
「そうですか。ではどうして、サンチェーズ様はエグベアートに悪態をつきながら、そんなに悲しそうなお顔をなさるのでしょう?」
「何を根拠に……意味がわからん!」

 図星なのか語気が荒くなる。
 素が出てきたっぽいので、俺も畏まった話し方はもういいだろう。

「俺、他のことは鈍感なんですけど。親とか、身内に疎まれて育ったので、わかるんですよね。目がね、違うんです。憎悪って、もっと凄く嫌な感じなんですよ。ハインツ様のは、憎しみなんかじゃなく……何かを堪えているようにしか見えません」

 はっきりと言った俺に、ハインツは深い溜め息を吐く。
 直接会ってみて、以前バルウィンが言っていたことが事実だとよくわかった。ただ、不器用だからで片付けるのは違う気がする。

「エグベアートのこと、実は大好きなんじゃないですか?」
「……まったく。敵いませんね、神子様にはお見通しでしたか……」

 ハインツは気が抜けたように、ソファーに凭れ掛かる。

「でも、どうしてですか?」
「それは……。たとえ神子様にでも言えないのです。息子の、エグベアートの出生にも関わることなので。今はまだ、サンチェーズ侯爵家で疎まれている異端児――その名目が必要なのです」
「もしかして、第五騎士団に入れたのも?」
「それが、安全だからです」
「だったら、それだけでもエグベアートには伝えられないのですか?」
「無理ですね。あの子は私に似て嘘が下手ですから。バレたら元も子もない」
 
 ははっと、疲れたように笑う。棘が取れると優しい顔立ちだ。

「……ああ、少しお喋りが過ぎました。神子様は『闇』についてお知りになりたいのですよね?」

 そう言って、話せる範囲で闇の力について教えてくれた。
 それともう一つ。初代神子がいた時代に、闇属性を研究していた魔術師がいたことも――。



 ※※※



 応接室を出ると、ライモンドに案内され、エグベアートと俺が泊まらせてもらう予定の客室に向かった。
 部屋に入ると、ライモンドは押して来たティーワゴンをセットし、何事も無かったかのようにお辞儀して下がった。

「エグベアート、起きてる?」

 エグベアートはベッドの上で、腕で顔を覆った状態で横になっていた。

「ああ、起きている」
「さっき出してもらったお菓子、貰ってきたから一緒に食べない?」
「そうだな……」

 と返事はするが、エグベアートは起きあがろうとしない。こんな態度を見るのは初めてだ。

 前侯爵はああ言っていたけど、疎まれていないって事だけは伝えるべきじゃないだろうか。
 ただ、他人の俺が言ったとしても、信じるのは無理だろうけど……。トラウマは簡単に消えてはくれない。
 どうしたら、エグベアートの心が少しでも軽くなってくれるだろうか?
 
 横になっているエグベアートの隣に腰を下ろす。
 エグベアートの顔を覆っていた腕を持ち上げても、目は閉じたままだ。

「エグベアートはさ、異端児なんかじゃないよ。嫌われてもいない。今はまだ言えないらしいけど、全てはエグベアートを守るためらしいぞ」
「……そんなのは嘘だ」
「まあ、他人の俺が言ったんじゃ信じられないよな。でもさ。実は俺、向こうの世界で親に疎まれて、捨てられたんだよ。父親には憎まれて殴られてたし」

「なっ⁉︎」と、エグベアートはガバッと起き上がる。

「大丈夫なのか⁉︎」

 俺の両頬を大きな手のひらが包む。自分のことより心配らしい。

「昔の話だし、今殴られたわけじゃないからな? だからさ、エグベアートの気持ち少しはわかるよ。ただ、この侯爵家には何か秘密があるみたいだ」
「秘密?」
「たぶん、エグベアートの身に起こった事は、それが原因だと思う。言えないらしいけど」

 頬にあるエグベアートの手に、自分の手を重ねてニヤッと笑う。いつなら言えるかなんて、そんなのは知らない。

「浄化とか終わったら、全部調べあげて一緒に文句言おうぜ! 俺は凄く傷ついたんだぞって」
「ははっ……それはいいな」
 
 俺はベッドに膝をつき、エグベアートの頭を抱きしめる。

「……フーマ?」
「いっぱい傷ついて、心も痛かったよな。でも、俺はエグベアートがいてくれて良かったし、出会えたことにも感謝してる。辛い時は、甘えていいからな……可憐なオッサンの胸でよければ、いつでも貸すぞ?」

 俺はあの頃に、自分が誰かから言ってほしかった言葉を口にする。
 赤い髪を撫でると、エグベアートは俺の胸で小さく震えた。


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