【完結】神子召喚に巻き込まれ、騎士団長に溺愛された可憐な(?)オッサンです。

猫野 暇

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22、過去の残像

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 俺は久しぶりに、やらかしてしまった。
 寝ているエグベアートを起こさないよう、速攻で身支度を整え外へ出る。どうにかセーフ……だよな?

 頭をスッキリさせようと、汲んでおいた冷たい水で顔を洗っていると、エグベアートが起きてきた。
「ほら、忘れているぞ」と、横から差し出されたタオルを受け取る。

「ありがと。あのさ……エグベアート、昨日はごめん!」

 酔っ払ったことを謝ると、エグベアートは「いや」と笑う。

「二日酔いは大丈夫か?」
「うん、それは大丈夫。さっき自分に治癒かけたから。えっと……それより俺、エグベアートに迷惑かけなかったか?」
「フーマはすぐに眠ってしまったから、特に問題はなかったぞ」

 本当だろうか? そうであってほしい……そうであってくれ!
 顔を拭きながら、チラッとエグベアートを見ると、話しながらも慣れた手つきでテントを仕舞っている。
 
 エグベアートを無理矢理引っ張って、ベッドに入ったまでの記憶はあった。それ以降の事は何も覚えていないが。エグベアートが寝袋を使っていたってことは、結局のところ、俺がベッドを占領してしまったのだろうが。問題ないと言ってくれるなら甘えよう。

「そっか、なら良かった。飲んだの久々だったから、またやらかしたかと思った」
「……?」
「あー、俺って酒癖が悪いみたいでさぁ」
「……? それは、誰かに言われたのか?」

 ズイッと、エグベアートは真面目な顔で俺の肩を掴む。威圧感が凄いな。やっぱり、やらかしたんじゃないか、俺?

「えっと、腐れ縁の友……知り合い? 飲み過ぎないように、いつも釘を刺されていたんだよ。だから、社会人……働きに出るようになってからは、外で酒は飲まないようにしてたんだ。だけど、夕べはちょっと楽しくなっちゃって」

 絶交した日を境に、酒もだが、俺は人とも距離を置くようになった。

 こんなに誰かと行動を共にしたのは、施設の時以来かもしれない。あの時は、楽しさなんて全然無かったが。
 その後は、普通に学生生活をおくり、友人たちともそれなりの距離感だった。

 ただ、俺が飲み会とかに参加する時は、いつも元友人が一緒だったけど。
 最初の数杯で「この辺でやめておけ」と、ノンアルにチェンジされていた。俺の酒癖が悪く、みんなに迷惑をかけるからだと。考えてみれば、なんだかんだ言いながら、あいつは俺の世話を焼いてくれていた。

 幼馴染みたいな関係で、俺のことを気にかけてくれるいい奴だった――いや、いい奴だと思っていたんだ。あの日、全てを知るまでは。

 あれから……女性はもちろん、俺は他人を信用するのが怖くなった。

「フーマ?」
「あ、ごめん、なんでもない」

 慌てて過去の残像を振り払う。

「ひとり暮らしで、誰かと飲むのが久しぶりだったんだ。仕事終わりに家で独りだと、つい深酒しちゃって、目が覚めたら全裸って事がよくあってさ。自分だけだし、気にしてなかったんだけど……はは」

 ふと見ると、エグベアートは顔を赤くしている。

「えっと……、もしかして見た?」

 お願いだ。見ていないと言ってくれ!

「………………見ていない」

 間が長い!

 そして俺の視線から逃げるように、ふいっと横を向くエグベアート。

 あ、絶対見たやつだコレ。
 たぶんエグベアートは、俺のやらかしを見て、知らないフリをしてくれているんだろうな。
 せめて細マッチョとか、見せても恥ずかしくない体型ならよかったが。上半身ならともかく、貧相なオッサンの全裸を見せるとか、完全にセクハラだよなぁ……。すまんな、若人よ。

「やっぱり、禁酒した方がいいのかなぁ」

 今日は俺がしょんぼりする番だ。

「っ! ……しなくていい」
「ん?」
「私とふたりの時なら構わない。フーマは酒が好きなのだろう? 飲み過ぎないよう、これからは私が止めるから心配するな」
「エグベアートぉ…………!」

 なんて良い人なんだ! 思わず抱きつこうとしたら、そのままヒョイッとルイーサに乗せられてしまった。
 なぜに⁉︎ やっぱり引かれてしまったのか?

「ほら、急いで出発しないと、次の観測地に着くのが遅れるぞ」
「あ、そうだった!」

 俺たちはルート変更したから、先を急がないといけない。呑気に抱擁している場合じゃなかった。
 もし王城の神子がやる気を起こし、王太子に伝えてある前のルートで俺たちを追いかけてきたら、鉢合わせてしまう場所があるのだ。
 王城の神子に、俺は絶対に関わるなと言われているからな。王太子が同行しているならいいが、違ったら厄介だ。

 逆にその場所を回避できれば、進行方向は逆になり、気づかれないうちに最終地点に到着できる。
 侯爵家の地図を見なくとも、王家はそこを知っているだろうが。
 ただ、俺たちが向かうとは思わないはず。

 エグベアートと俺は次の目的地に向かって、すぐに出発した。



 ※※※
 


 無事、俺たちは誰とも鉢合わせする事もなく、順調に観測地の浄化を進めて行った。

 エグベアートは時々、カーティス副団長に王城の神子たちの動向を確認している。やはり、神子は各地の浄化に向かいたいと言っていると。
 ちょっと予想外だったのは、王城の神子は規模も小さかった王都の穢れに、だいぶ苦戦したようだ。まだ本調子でないからか? 
   
 まあ、今さら追いかけて来られても、前半のルートの浄化は終わっているので、そう問題は起こらないだろう。王都や湖沼のように、想定外の場所で穢れが発生する可能性もあるが。
 そこは、向こうの神子に頑張ってもらうしかない。
 
「フーマ、疲れてはいないか?」
「うん、今のところは問題ないかな」

 あれだけ浄化を続けているが、エグベアートが心配している魔力切れは、まだまだ起こりそうもない。
 この分なら、秘宝のオーブの力を借りなくても、最終地点の浄化もいけそうだ。

 でも、なんだか違和感がある。

 だってさ、初代神子は歴代で最も強い力があったんだよな。だったらさ、巻き込まれただけのオッサン神子より、浄化は余裕だったはずだ。
 それなのに、どうして浄化が終わらなかったのだろうか?

 順調すぎることが、却って不安になった。
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