【完結】神子召喚に巻き込まれ、騎士団長に溺愛された可憐な(?)オッサンです。

猫野 暇

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23、残すは最終地点だ!

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 気がつけば半年が経ち、俺たちは残りの観測地の浄化も終わらせた。 

 王太子はああ言っていたが、国内一周観光旅行ってわけじゃないからな。目的地は観測地のみ。それ以外の寄り道は最低限にし、効率重視でショートカットして移動した。
 だから、このくらいの期間で済んだのだ。
 
 もちろん、ルイーサの体調管理も怠ってはいない。
 おかげで、俺とルイーサの仲はより深まり、今では言葉も通じているみたいだ。馬はかなり賢いと聞いたことがあるが、本当だった。
 つい「ルイーサを嫁にしたいくらいだ」と冗談で言ってしまったら、エグベアートにもの凄い勢いで却下された。

 さすがに、本気でとらないでくれ……。こんな俺でも結婚できるなら、相手は人間がいい。

 そんな、楽しい仲間たちとの旅も、次の場所で最後になる。

 ちなみに、エグベアートはカーティス副団長にも最終地点の件は伝えていないため、終了の報告はまだしていない。無論、王太子にも。

 王城の神子については、体調が思わしくないのか、浄化の旅も行きたがらなくなったとか。やはり、王都の穢れも無理して浄化したのだろう。
 ただ、カーティス副団長曰く、意図的に神子に関する情報操作が行われているようだと。あまり話題にも出なくなり、情報を得るのが難しくなったそうだ。

 俺には何もしてやれないから、早く元気になるよう祈るしかない。


 そして、今日――目的地のある森に入る。
 しっかり睡眠と栄養をとり、万全を期して最終地点へと出発した。



 ※※※



 ある程度進んだところで、空気が変わった。進行方向の先に、どんよりとした嫌な気配がするのだ。

「フーマ、この先は歩きでもいいだろうか……」

 エグベアートも感じたみたいだ。

「ああ、それがいいと思う。ルイーサには待っていてもらった方が良さそうだ。念のため、結界も張っておくな」
「助かる」

 俺が魔法を習うのは、旅が終わってからのつもりだったが――常に観測地付近で待機させるルイーサが心配になり、急遽いくつかの魔法を教えてもらったのだ。
 俺が見た魔物は、後にも先にも湖沼でチラッと見た異形の魚だけだし。魔物が俺に寄って来ないのは確定のようだが、ルイーサは違うからな。

 属性とかよく分からないが、防御壁や結界は自分の持っている魔力で作り出せるらしく、そう負担も無く使いこなせるようになった。
 それと同時に、浄化も俺が直接触れなくても、しっかりイメージさえできれば出来ることが判明した。
 ただし、離れるほど効力は緩やかになってしまう。触れた方が圧倒的に早いが、選択肢が増えたことは何よりだ。

 時たま移動中に、エグベアートに話してもらった冒険譚には、国ごと結界を張って守る聖女の話とかもあった。神子も似たような事ができるのかもしれない。あくまでも想像だが。
 で、試しに遠隔でルイーサに結界を張ったら、それも問題なく出来てしまったのだ。

 俺たちが離れている間、ルイーサが魔物に遭遇して怯えたら可哀想だから、少し大きめサイズの結界にしておく。
 
「じゃあ、ルイーサ行ってくるね」と言えば、ぶるる……と鼻を鳴らし返事した。

『はやく帰ってきてね!』と言われた気がする。幻聴というより、ルイーサに結界を張るようになってから、はっきりとようになったのだ。これも、神子のスキルの一種なのだろうか? 
 ワンチャン馬の嫁もありかな……なんてね!

 なぜか、一瞬エグベアートの視線が鋭くなった。

「え、なに?」
「フーマ、ルイーサは嫁にはやらんぞ」
「そ、そんなこと考えてないからなっ!」

 どうして、わかったのだろう……野生の勘とか?
 くだらない事は考えないようにしないと、本気で変な誤解をされそうだな。うん、気をつけよう。



 ※※※
 


 俺が魔物に出会わない説――どこ行った‼︎

 嫌な気配に近づくにつれ、じとりと生臭い獣の息遣いを感じた。それも、1匹や2匹ではない。
 エグベアートは剣を構え、俺を庇うように背中に隠す。 

「フーマ、決して離れるな」
「……うん!」

 自分たちに結界を張ってもいいが、それだと囲い込まれて動き難くなってしまう。
 だから、エグベアートが攻撃し、俺が防御壁でその都度、魔物からの反撃をガードすることにした。

 それと、確かめたい事があるのだ。

 エグベアートが討伐していた、穢れにおかされた魔物の瞳は真っ赤なのだとか。

 だが、この場にいる魔物たちは、赤い瞳に深い紫色が混じっている。魔法を習った時、エグベアートは魔力によって色があると言っていた。そう、紫は闇属性だ。
 異形の魚がの瞳がどんな色かは、夜だったしすぐ浄化してしまったから見てはいないが――。
 
 こいつらが、俺から逃げないこともそうだし、エグベアートの秘宝の巾着も小刻みに動いている。
 つまり、あの魚と同じなら、穢れからではなく『闇の種』を腹に入れ魔物化した動物なのかもしれない。

「来るぞ」

 エグベアートの言葉を合図に、俺は防御壁を左右と背後に展開する。目の前に飛んでくる魔物は、エグベアートの一撃で地に沈む。それを片っ端から繰り返していく。
 
 俺たちに向かって来ていた魔物たちが、ようやく攻撃力を失った。死んではいないが、息も絶え絶えで瀕死の状態だ。可哀想だが仕方ない。
 これは俺がエグベアートに、殺さないように頼んだせいだ。

 だから、俺は急いで横たわる魔物に直接触れて浄化する。穢れが消えるタイミングで、今度は治癒魔法をかけて、エグベアートに動物の腹を圧迫してもらう。

 ―― コロン……。

「やっぱりだ!」

『闇の種』を吐き出し、正気を取り戻した動物たちは俺たちがやって来た方向に逃げていく。
 それをエグベアートが倒した魔物全てに行った。
 

「……やっと、終わった」
「大丈夫か?」
「うん。体力的に、疲れただけだから。さすがにヒグマ……グリズリーは、回復させるの躊躇したけど。魔物じゃなくても、普通に怖いし」

「なかなか、種も吐き出さなかったしな」と、エグベアートも苦笑する。
 ヒグマに絞め技とか、そっちの方にドン引きだよ。エグベアートの前世は金太郎かな?

「それにしても、ルイーサの結界を大きめにしておいて正解だったな。みんな、そっちに逃げたし」
「やはり、この先に何かあるのだろう」
「だな。じゃあ、とりあえず秘宝にこの種の闇を吸い出してもらおうか?」

 エグベアートは頷くと、巾着からオーブを取り出した。
 オーブは其処彼処に散らばる『闇の種』から闇だけを一気に吸い上げる。
 
 このために、現侯爵は俺にオーブを貸してくれたのだろうか……。いや、もし知っていたなら最初から教えてくれたはず。ハインツ前侯爵も何も言っていなかったし。
 
 闇を取り込んでいくオーブを見ながら、俺は首を傾げるしかなかった。
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