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1 転校生
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その日は、朝から教室全体がざわつき、浮かれた空気が蔓延していた。
「本当に来るのか?」
「さっき職員室にいたらしいぞ」
「じゃあマジなんか」
「楽しみだな。お近づきになれたらいいな」
「あんまり期待しない方がいいんじゃない?」
「何でだよ」
「何かお高く止まってそうな感じがしない?」
「うわ、女の嫉妬だ。醜いぞ」
「何ですってぇ」
他愛もない諍いが勃発する。
騒ぎを横目に、八木健介は窓際の席で浮かない顔をしていた。
「どうした、不細工な顔して」
クラス委員の門脇雅臣が健介の背中を叩いた。
「うるせえ、放っとけ」
「話に加わんねえの?」
「どうでもいいーーってか、来て欲しくねえ」
「は!?」
雅臣は声を裏返らせた。
「何言ってんの、おまえ。森島あゆみだよ。森島あゆみとクラスメイトになれるんだよ!?」
「要らん」
「何ジジイみたいに枯れてんだよ」
「イヤな予感しかしねえ」
健介が本気で嫌がっているらしいとわかって、雅臣は首を傾げた。
「もしかして森島あゆみと知り合いなのか?」
「…まあな」
「何だよ、そういうことは早く言えよな」
「言ってどうする?」
「紹介してもらうに決まってるじゃねえか」
何あたりまえのことを、と言わんばかりの口調で雅臣は言った。
「やめとけ。ツブされるぞ」
「ツブされるって、おまえ……」
「ひとつだけ言っとくーー見かけに騙されんなよ」
「何があったんだよ……」
雅臣がちょっと引いたところで教室の扉が開き、担任教師が入ってきた。大学を出て五年目、そろそろ中堅と呼ばれる立場だが、気だけは若い北見哲哉である。
期待に満ち満ちた視線を集中されて、北見は苦笑した。
「みんなわかってるんなら、勿体ぶってもしょうがないなーー入ってくれ」
呼びかけに応じて少女が教室に入って来た。噂通りの森島あゆみその人であった。
「うおー」
「本物だー」
どよめきと歓声で教室内のデシベルが跳ね上がった。
「おまえら、落ち着け」
北見の声はどこにも届かない。
そんな中、あゆみは教室内にお目当ての顔を見つけて笑顔になった。
「おーい、健介ー」
「「「!?」」」
見事なまでに一瞬で教室が静まり返った。
誰もがギクシャクした動きであゆみと健介を見比べる。
「……」
苦虫を噛み潰した顔で、健介は深いため息をついた。
できれば関わりを持つまいと思っていた健介だったが、その目論見は一瞬で潰えたのであった。
「本当に来るのか?」
「さっき職員室にいたらしいぞ」
「じゃあマジなんか」
「楽しみだな。お近づきになれたらいいな」
「あんまり期待しない方がいいんじゃない?」
「何でだよ」
「何かお高く止まってそうな感じがしない?」
「うわ、女の嫉妬だ。醜いぞ」
「何ですってぇ」
他愛もない諍いが勃発する。
騒ぎを横目に、八木健介は窓際の席で浮かない顔をしていた。
「どうした、不細工な顔して」
クラス委員の門脇雅臣が健介の背中を叩いた。
「うるせえ、放っとけ」
「話に加わんねえの?」
「どうでもいいーーってか、来て欲しくねえ」
「は!?」
雅臣は声を裏返らせた。
「何言ってんの、おまえ。森島あゆみだよ。森島あゆみとクラスメイトになれるんだよ!?」
「要らん」
「何ジジイみたいに枯れてんだよ」
「イヤな予感しかしねえ」
健介が本気で嫌がっているらしいとわかって、雅臣は首を傾げた。
「もしかして森島あゆみと知り合いなのか?」
「…まあな」
「何だよ、そういうことは早く言えよな」
「言ってどうする?」
「紹介してもらうに決まってるじゃねえか」
何あたりまえのことを、と言わんばかりの口調で雅臣は言った。
「やめとけ。ツブされるぞ」
「ツブされるって、おまえ……」
「ひとつだけ言っとくーー見かけに騙されんなよ」
「何があったんだよ……」
雅臣がちょっと引いたところで教室の扉が開き、担任教師が入ってきた。大学を出て五年目、そろそろ中堅と呼ばれる立場だが、気だけは若い北見哲哉である。
期待に満ち満ちた視線を集中されて、北見は苦笑した。
「みんなわかってるんなら、勿体ぶってもしょうがないなーー入ってくれ」
呼びかけに応じて少女が教室に入って来た。噂通りの森島あゆみその人であった。
「うおー」
「本物だー」
どよめきと歓声で教室内のデシベルが跳ね上がった。
「おまえら、落ち着け」
北見の声はどこにも届かない。
そんな中、あゆみは教室内にお目当ての顔を見つけて笑顔になった。
「おーい、健介ー」
「「「!?」」」
見事なまでに一瞬で教室が静まり返った。
誰もがギクシャクした動きであゆみと健介を見比べる。
「……」
苦虫を噛み潰した顔で、健介は深いため息をついた。
できれば関わりを持つまいと思っていた健介だったが、その目論見は一瞬で潰えたのであった。
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