俺のスキルは頭文字C

オフィス景

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7 Cって……

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 新たに覚えた『クリーン/クリーニング』はナディアに大好評だった。

 ナディア曰く「クエストの間お風呂に入れないのが何より辛かった。お風呂の気持ちよさには敵わないけど、身体や装備が綺麗になるだけで気分が全然違う」とのことだった。

「いいじゃない、ケイジのスキル」

 クリーン直後のナディアはご機嫌だ。いつもこんな感じだとこっちも楽なんだが。

「外れって言われてたけど、この後広がっていくこと考えたら、結構アタリじゃないの?」

「でも、広げられるかどうかがわかんねえんだよな……」

 この弱音は正直情けないが、言葉が見つからんことには、このスキルは宝の持ち腐れでしかないのだ。

「焦らなくてもいいじゃない。じっくり探していけば」

 なぜかナディアが優しい。違和感がありすぎて少し怖いんだが。

「何だか面白いことになりそうだねえ」

 アーノルドがのんびりした口調で言う。

「やっぱりケイジといると退屈しなくていいね」

「人をトラブルメーカーみたいに言わんでくれ」

「そんなつもりはないけど、ケイジっていろんなことに巻き込まれるよね」

「……」

 否定できない。したいけどできない。

「そうなのよね。ケイジがパーティーにいると、レアモンスターとの遭遇率が高いのよね」

「…そうなのか?」

「全然違うよ。笑っちゃうくらい違うから」

 複雑な気分だな。どう反応していいかわからん。

「一回のクエストで稼げる経験値がまったく変わってくるから、こっちとしてはありがたいけどな」

 それならまあいいか。

 と納得した瞬間、モンスターのものと思われる咆哮が辺りを圧して響き渡った。

「そら、おでましだ」

 素早く切り替え、臨戦態勢をとる。

 現れたのは鬼の異名を持つ怪物ーーオーガだった。それも赤銅色の肌をした赤オーガだ。火属性の魔法を使う、厄介なモンスターだ。

「やっぱりレアモンスターだよな」

「俺のせいなのか?」

「せいって言うよりは、おかげって感じかな」

 アーノルドは嬉々としてオーガに向かっていく。

「ガアアアアッ!」

 周囲の木々を震わすオーガの咆哮。並の冒険者なら威圧され、身動きできなくなるところだ。

 もちろんアーノルドはそんなヤワなタマではない。太い笑みを浮かべたまま間を詰め、剣を振るう。

 岩をも切り裂くオーガの爪と鋭い太刀筋のアーノルドの剣が激突し、耳障りな音を立てる。

 初撃は互角で、アーノルドとオーガは弾かれるように左右に飛んだ。

 二合、三合、剣と爪が打ち交わされるが、均衡は容易には崩れない。

 先に痺れを切らしたのはオーガの方だった。大きく後ろに飛んで、距離をとった。

「魔法が来るぞ!」

「させないわよーーウォーターボール!」

 既に発動準備を終えていたナディアの魔法がオーガに炸裂した。完全な不意討ちに、オーガは大きなダメージを負った。

「とどめ!」

 すかさずアーノルドの剣がオーガを真っ二つに切り裂いた。

「ひゃあー、圧倒的じゃんか」

 オーガと言えばかなり強ランクのはずだが、二人はまったく問題にしていなかった。この二人、本気で英雄クラスまで上り詰めるんじゃないかな?

「お、何かドロップしたみたいだぞ」

 アーノルドの言葉で我に返る。

 ドロップ!?   辞書か?

 ダッシュで駆け寄る。

 おお、辞書っぽい!

 思いっきり期待しながら拾い上げる。

「…Hかあ……」

 残念ながらCではなかった。それでもヒントでもあればとページをめくってみる。

 すると、ひとつの単語が目にとまった。

 Hot

 熱いの反対は冷たいで……確か自販機だとーー

「コールド……?」

 自信なさげに呟く。

 そうしたら、水筒の水が冷たくなった。

「おお、これはありがてえな」

 アーノルドには好評だったが、Cってこんなのしかないのか?

 ちょっとだけ悲しくなった。

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