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34 夢にまで見た

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「米ーーっ!」

 魂の叫びが迸った。

「ど、どこでこれを!?」

「東の国境地帯で作られてました。とりあえず買えるだけ買ってきたので、何か作ってください!」

「おう、任せろ!」

 二人揃ってテンションが爆上がる。

「何食いたい?   カレーライス?   チャーハン?   カツ丼?   オムライス?   何でもいいぞ。何でも作るぞ!」

「全部!」

「よし、わかった!」

 早速調理に取り掛かろうとしたところで、周囲の呆気に取られたような空気に気づいた。

「あれ?」

「あれ、じゃなくて」

 カレンさんは呆れるというよりはビックリしているようだ。

「一体どうしたの?   その、コメ、っていうの、何なんですか?」

「ああ、俺たちの主食だったんだよ。こっちの世界では見なかったから半分あきらめてたんだけど、アスカさんが見つけてきてくれたんだ」

「美味しいの、それ?」

「それはもう」

「あ、でもどうなんだろう。初めて食べる人には好き嫌いが分かれるかも」

「そこはあれこれ考えててもしょうがないな。とりあえず作ってみるから、食べてもらって判断してもらおう」

 早速調理に取り掛かる。普通の鍋で米を炊くのは初めてだったが、何とか上手く炊けたと思う。蒸らしまで終わって蓋を開けたら、夢にまで見た米の香りが立ちのぼった。

「ゲ、ゲンさん、とりあえずそのままください!」

 もうこれ以上耐えられないとばかりにアスカさんが叫ぶ。

 まったく同感だ。まずは白米をそのまま食いたい。

 客商売をする者としてあるまじきことに、俺はこの時お客さんのことを忘れ、自分の欲望を優先していた。

 茶碗があればよかったのだが、あいにくなかったので、平皿に盛った白米をアスカさんに渡す。続いて自分の分を盛る。

「「いただきます!」」

 ガバッと最大限の一口で米を食らう。口一杯に広がるほのかな甘みと独特の風味。これを嫌う人もいるらしいが、俺にとっては魂に刻み込まれた味だ。

「んんーっ!」

 声を上げたアスカさんは、涙を流している。多分今この場でこの気持ちを共有できるのって、俺だけなんだろうな。

「お米だぁ、お米だよぉ」

「ああ。本当によく見つけてくれたよ。ありがとな、アスカさん」

「美味しいものいっぱい作ってくださいね!」

「任せとけーーとりあえずは」

 タレをたっぷり絡ませたしょうが焼きをアスカさんの皿に乗せる。

「こんなの美味しくないわけないじゃない」

 豪快にかっ食らうアスカさん。そうそう。お上品に食ってたら、こいつの真価はわからない。

「むふぅーっ!」

 アスカさんの手が加速していく。残像が見えてきそうなスピードだ。

 その見事としか言い様のない食いっぷりを見ていたら、こっちも堪らなくなってしまう。しょうが焼きで米を巻き、口に放り込む。



 これだ!



 口福は爆発だ!



 陳腐な感想なんぞ述べてる場合じゃない。ただひたすら米を味わうことに傾注する。

 もう手が止まらない。炊いた米は瞬く間に俺とアスカさんの胃袋に消えた。

「「ああ……」」

 若干の物足りなさを感じなくもなかったが、これはこの先いくらでも解消できる。今はこれで満足だ。

 ふと、我に返る。

「あ……」

 当たり前だが、注目を浴びていた。

 ビックリした顔が多いが、中には責めるような視線も混ざっている。そりゃそうだよな。



 やべえな…やらかしたよな……
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