異世界肉人 ～モンスターの肉、UMEEEE～

30 二組目のお客様

　まあ、ある程度予想はしていたのだが、世の中そんなに甘くはなかった。

　オーベルジュをオープンさせてから早二ヶ月。全然お客さんが来ない。

　まあ来ない。

　二ヶ月の間、来たお客さんはオープン三日目にたまたま街を訪れた壮年のご夫婦が料理を気に入ってくれて二泊してくれただけで、後は完全にすっからかんだ。

　食堂の方が順調すぎるくらい順調なので経営的にはびくともしないのだが、張り切っていたカレンさんはかなり落ち込んでいる。

　こういうのは時間がかかるもんだからと言ってみたのだが、完全に納得した様子ではなかった。自分の努力が足りないとでも思っているようだ。

　こうなるとカレンさんはなかなか頑固なので、他のものが見えなくなってしまう傾向がある。

「まあ、しょうがないか」

　長期戦で見守っていこうと思い始めたある日、街に一組の旅人がやって来た。

　人の良さそうな初老のご夫婦だったが、旦那さんは時折鋭い目を見せている。かなりできる人っぽい。奥さんは上品という言葉を体現したかのような、優しそうな女性だった。

「宿泊客に大変美味しい食事を提供してくれる店があると聞いて来たのだが、こちらでよろしいかな？」

　思わずカレンさんと顔を見合わせた。

「は、はい。ウチで間違いないと思います」

「そうですか。それではとりあえず二泊でお願いしたいのだが」

「ありがとうございます！」

　カレンさんのテンションがメーター上限を振り切って、天井知らずに跳ね上がった。

「カレンさん、落ち着いて。どうどう」

　カレンさんをなだめながらお客さんに聞き取り調査をする。

「何か料理に関するご注文はございますか？   どうしてもこれは食べられないというようなものがございましたら外すようにいたしますが」

　そう言うと、旦那さんはニヤリと笑った。

「そのような不粋な真似はせぬよ。そなたの全力をぶつけてくれればそれでいい」

　うわー、この旦那さん、多分結構偉い人だよな……

「楽しみにしているぞ。何しろカールのヤツにずっと自慢されていたんだ。おまえがいくら食通だと言われていても、あそこの料理を食べないうちはそう名乗る資格はないとな」

「そうなのよ。そう聞かされたらわたしまで居ても立ってもいられなくなってしまったの」

　奥さんまでそんなことを言い出した。そのつもりはないんだろうけど、プレッシャーがすごい。

　カールさんってのはあれだな。この二ヶ月で唯一のお客さんだったあの人だよな。まあ、ありがたい話だ。プレッシャーもハンパないけど。

　気合いを入れ直す。

　さて、真剣勝負だ。

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