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31 コース料理
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「それでは、始めさせていただきます」
一礼して、最初の皿を提供する。それほど大きくない串物が二本。
「ワイバーンの串物二種でございます」
「ワイバーン!?」
「はい。味は鶏肉に似ていますが、より旨味が凝縮された、極上の素材です。こちらの白い肉は翼の付け根の肉を茹でて山葵を乗せたものですーー山葵はこの緑色の物ですが、辛いので気をつけてくださいね。もうひとつの串はワイバーンの肝になります。これの濃厚さは、おそらく経験したことのないものだと思います。どうぞご賞味ください」
「それではこちらからいただこうか」
男性ーー宿帳によると名前はアレックスさんは翼の付け根串を手にして、かじりついた。
「ふほっ!?」
多分山葵が効いたのだろう。アレックスさんは目を白黒させた。
ちょっと刺激が強すぎたかな、と思ったが、アレックスさんはすぐに笑顔になった。
「美味いな、これは!」
実にいい笑顔を見せてくれる。
「この辛味は初めてだが、実にいいな。口の中がさっぱりするだけでなく、新たな味覚が開いたような気がする」
「最初はびっくりしましたけど、クセになりそうな辛味ですね。とても美味しいです」
奥様ーー宿帳によるとレイアさんは優しげな微笑みを見せた。
まずはご夫婦揃って気に入っていただけたようで、少しだけ緊張がほぐれた。
「これは期待が高まるな」
言いながら、アレックスさんがもう一本の串に手を伸ばす。
肝の方は甘辛いタレを絡めてある。三つ刺した塊の一つを頬張ったアレックスさんはすぐに相好を崩した。
「ふっほっほ。これはまたたまらんの」
「まあ、なんて濃厚なのかしら」
レイアさんの言う通り、ワイバーンの肝はねっとりした食感がクセになる濃厚な味の一品である。
二人ともこれも気に入ってくれたようで何よりだ。
「続いてはこちらになります」
それほど大きくはない肉が二枚。
「牛のタンーー舌を焼いたものになります」
「「舌!?」」
二人の声が重なる。
こちらの世界ではタンを食べないと知った時は、そりゃあ驚いた。タンだけではなく細かい部位分けをしていないために本当に美味しいところが捨てられてしまっていると聞いた時には思わず裏返った声で絶叫しちまった。
俺の目の前でそんな罰当たりなことを許す訳にはいかないと肉に対する布教活動の成果がこれだ。
「…牛の舌なんて食べられるものなのか?」
半信半疑のアレックスさん。ここはペラペラおしゃべりするよりも実際に食べてもらうのが一番だ。
「自信の一品です。お試しください」
「う、うむ」
おそるおそる牛タンを口に運ぶ。一口食べたところでアレックスさんはフリーズした。
「あなた?」
「…何だ、これは……?」
呆然とした呟き。その様子がアレックスさんの驚きっぷりを端的に表していた。
「美味しいのね」
それを確信したレイアさんは一枚を一口でパクっといった。
「ふうんっ」
抑えきれず、といった感じの声が漏れた。目を丸くして、アレックスさんと同じように固まっている。
ややあってトリップ状態から復帰した二人は、顔を見合わせて深い息をついた。
「美味しいわ、これ」
「味も良いが、このサクッとした歯触りがたまらんな」
「厚みをまったく感じさせない柔らかさも素敵だわ」
気に入ってもらえたようだ。
「よろしければ、二枚目はレモンをかけてお召し上がりください」
その通りにした二人の笑顔が更に深くなる。
「後口がさっぱりしたわ」
「これならいくらでも食べられそうだ」
そう言ってもらえるのは非常に嬉しい。ますます気合いが入るというものだ。
「この後もご期待ください」
次の料理のために一旦厨房に戻った。
一礼して、最初の皿を提供する。それほど大きくない串物が二本。
「ワイバーンの串物二種でございます」
「ワイバーン!?」
「はい。味は鶏肉に似ていますが、より旨味が凝縮された、極上の素材です。こちらの白い肉は翼の付け根の肉を茹でて山葵を乗せたものですーー山葵はこの緑色の物ですが、辛いので気をつけてくださいね。もうひとつの串はワイバーンの肝になります。これの濃厚さは、おそらく経験したことのないものだと思います。どうぞご賞味ください」
「それではこちらからいただこうか」
男性ーー宿帳によると名前はアレックスさんは翼の付け根串を手にして、かじりついた。
「ふほっ!?」
多分山葵が効いたのだろう。アレックスさんは目を白黒させた。
ちょっと刺激が強すぎたかな、と思ったが、アレックスさんはすぐに笑顔になった。
「美味いな、これは!」
実にいい笑顔を見せてくれる。
「この辛味は初めてだが、実にいいな。口の中がさっぱりするだけでなく、新たな味覚が開いたような気がする」
「最初はびっくりしましたけど、クセになりそうな辛味ですね。とても美味しいです」
奥様ーー宿帳によるとレイアさんは優しげな微笑みを見せた。
まずはご夫婦揃って気に入っていただけたようで、少しだけ緊張がほぐれた。
「これは期待が高まるな」
言いながら、アレックスさんがもう一本の串に手を伸ばす。
肝の方は甘辛いタレを絡めてある。三つ刺した塊の一つを頬張ったアレックスさんはすぐに相好を崩した。
「ふっほっほ。これはまたたまらんの」
「まあ、なんて濃厚なのかしら」
レイアさんの言う通り、ワイバーンの肝はねっとりした食感がクセになる濃厚な味の一品である。
二人ともこれも気に入ってくれたようで何よりだ。
「続いてはこちらになります」
それほど大きくはない肉が二枚。
「牛のタンーー舌を焼いたものになります」
「「舌!?」」
二人の声が重なる。
こちらの世界ではタンを食べないと知った時は、そりゃあ驚いた。タンだけではなく細かい部位分けをしていないために本当に美味しいところが捨てられてしまっていると聞いた時には思わず裏返った声で絶叫しちまった。
俺の目の前でそんな罰当たりなことを許す訳にはいかないと肉に対する布教活動の成果がこれだ。
「…牛の舌なんて食べられるものなのか?」
半信半疑のアレックスさん。ここはペラペラおしゃべりするよりも実際に食べてもらうのが一番だ。
「自信の一品です。お試しください」
「う、うむ」
おそるおそる牛タンを口に運ぶ。一口食べたところでアレックスさんはフリーズした。
「あなた?」
「…何だ、これは……?」
呆然とした呟き。その様子がアレックスさんの驚きっぷりを端的に表していた。
「美味しいのね」
それを確信したレイアさんは一枚を一口でパクっといった。
「ふうんっ」
抑えきれず、といった感じの声が漏れた。目を丸くして、アレックスさんと同じように固まっている。
ややあってトリップ状態から復帰した二人は、顔を見合わせて深い息をついた。
「美味しいわ、これ」
「味も良いが、このサクッとした歯触りがたまらんな」
「厚みをまったく感じさせない柔らかさも素敵だわ」
気に入ってもらえたようだ。
「よろしければ、二枚目はレモンをかけてお召し上がりください」
その通りにした二人の笑顔が更に深くなる。
「後口がさっぱりしたわ」
「これならいくらでも食べられそうだ」
そう言ってもらえるのは非常に嬉しい。ますます気合いが入るというものだ。
「この後もご期待ください」
次の料理のために一旦厨房に戻った。
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