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32 ドラゴンの肉
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二人からの視線が熱い。鍋に入った次の料理を持ってきたのだが、その鍋に注がれる視線はそのまま肉が焼けるんじゃないかとおもうほど熱いものだった。
ここまでの満足感とこれからの期待感が伝わってきて、嬉しくなる。
「お待たせいたしました。次はテールスープになります」
「テールスープ?」
「牛の尾を煮込んだスープになります」
「おお、この香りは……」
アレックスさんは早くも陶然とした表情を浮かべている。
「とても食欲をくすぐる香りですね」
レイアさんの目はキラキラ輝いている。それなりにご年配のはずなのだが、そんなことを微塵も思わせない、少女のような笑顔だ。
「どうぞ、お召し上がりください」
二人は揃ってスプーンを口に運んだ。
「……」
ほおっと吐息が漏れる。
「…深い……」
アレックスさんはしみじみ呟いた。
「本当。とても美味しいわ」
レイアさんは上品な微笑みを見せてくれた。
「相当煮込んでると思うんだけど、どれだけ煮込むとこの味が出るのかしら?」
「テールスープは常にストックしておくんですが、これは二日煮込んでいます」
「かけた手間が報われる味ですね」
「ありがとうございます」
レイアさんの感想は俺にとって非常に嬉しいものだった。
「次がメインディッシュになります」
そう言って提供したのは、ドラゴンのステーキ。こちらの世界へ来て、まだこれ以上の素材には巡り合っていない、俺のとっておき。
敢えて素材を告げずに提供する。
「当ててみろということかな」
俺の意図を察して、アレックスさんはニヤリと笑った。
俺もニヤリを返す。
「何だ、この肉汁の量は!?」
肉にナイフを入れた瞬間にアレックスさんは驚いた声をあげた。
「肉汁もそうだけど、この柔らかさはどういうこと?」
レイアさんも目を丸くしている。
「一体何のお肉なのかしら?」
「ぜひお試しください」
ちょっと気取った調子で言ってみる。
「ふふっ、なんだかドキドキするわね」
そう言って、レイアさんは切り分けた肉を一口食べた。
もぐ。
「……」
その後が続かない。一口噛んだ後、レイアさんの動きがピタリと止まってしまった。
「レイア?」
「……」
アレックスさんの呼び掛けにもレイアさんは応えない。
「どうしたんだ?」
不思議そうにしながらアレックスさんも肉を口へ運んだ。
もぐ。
「!?」
俺が今まで見た中で一番真ん丸に見開かれた目。やっぱりこういうわかりやすい反応があると嬉しいもんだな。
「こ、これは……?」
アレックスさんは一瞬の驚きの後、半分くらい魂が抜けたような表情になっている。ちなみにレイアさんは全部抜けてしまっているようだ。
焦らしてもしょうがないので、正解を発表する。
「こちらはドラゴンのステーキになります」
「「ドラゴン!?」」
二人の驚声がきれいにハモる。
「ドラゴンとはこれほどまでに美味いものなのか……」
「この味を知らずに死んでいたらと思うと、ゾッとしますね」
「その通りだな。今日ここへ来て本当に良かった」
「お褒めいただき、ありがとうございます。できれば温かいうちにお召し上がりください。その方が確実に美味いので」
「おう、そうだな」
二人は食事に専念し始める。
とは言え、それほど量があるわけではないので、あっという間に最後の一切れになってしまう。
「…食べてしまうのがもったいない」
「それですよ……」
二人揃ってこの世の終わりみたいな顔をしている。
「また入荷することがあれば、ご連絡させていただきますよ」
「ぜひ頼む!」
「約束ですよ!」
「はい」
頷き合って、二人は最後の一口を堪能した。
「お粗末さまでした。料理は以上をもって終了となります」
「「ごちそうさまでした」」
こうしてコースの提供は終わった。多分、喜んでもらえたはずだ。
ここまでの満足感とこれからの期待感が伝わってきて、嬉しくなる。
「お待たせいたしました。次はテールスープになります」
「テールスープ?」
「牛の尾を煮込んだスープになります」
「おお、この香りは……」
アレックスさんは早くも陶然とした表情を浮かべている。
「とても食欲をくすぐる香りですね」
レイアさんの目はキラキラ輝いている。それなりにご年配のはずなのだが、そんなことを微塵も思わせない、少女のような笑顔だ。
「どうぞ、お召し上がりください」
二人は揃ってスプーンを口に運んだ。
「……」
ほおっと吐息が漏れる。
「…深い……」
アレックスさんはしみじみ呟いた。
「本当。とても美味しいわ」
レイアさんは上品な微笑みを見せてくれた。
「相当煮込んでると思うんだけど、どれだけ煮込むとこの味が出るのかしら?」
「テールスープは常にストックしておくんですが、これは二日煮込んでいます」
「かけた手間が報われる味ですね」
「ありがとうございます」
レイアさんの感想は俺にとって非常に嬉しいものだった。
「次がメインディッシュになります」
そう言って提供したのは、ドラゴンのステーキ。こちらの世界へ来て、まだこれ以上の素材には巡り合っていない、俺のとっておき。
敢えて素材を告げずに提供する。
「当ててみろということかな」
俺の意図を察して、アレックスさんはニヤリと笑った。
俺もニヤリを返す。
「何だ、この肉汁の量は!?」
肉にナイフを入れた瞬間にアレックスさんは驚いた声をあげた。
「肉汁もそうだけど、この柔らかさはどういうこと?」
レイアさんも目を丸くしている。
「一体何のお肉なのかしら?」
「ぜひお試しください」
ちょっと気取った調子で言ってみる。
「ふふっ、なんだかドキドキするわね」
そう言って、レイアさんは切り分けた肉を一口食べた。
もぐ。
「……」
その後が続かない。一口噛んだ後、レイアさんの動きがピタリと止まってしまった。
「レイア?」
「……」
アレックスさんの呼び掛けにもレイアさんは応えない。
「どうしたんだ?」
不思議そうにしながらアレックスさんも肉を口へ運んだ。
もぐ。
「!?」
俺が今まで見た中で一番真ん丸に見開かれた目。やっぱりこういうわかりやすい反応があると嬉しいもんだな。
「こ、これは……?」
アレックスさんは一瞬の驚きの後、半分くらい魂が抜けたような表情になっている。ちなみにレイアさんは全部抜けてしまっているようだ。
焦らしてもしょうがないので、正解を発表する。
「こちらはドラゴンのステーキになります」
「「ドラゴン!?」」
二人の驚声がきれいにハモる。
「ドラゴンとはこれほどまでに美味いものなのか……」
「この味を知らずに死んでいたらと思うと、ゾッとしますね」
「その通りだな。今日ここへ来て本当に良かった」
「お褒めいただき、ありがとうございます。できれば温かいうちにお召し上がりください。その方が確実に美味いので」
「おう、そうだな」
二人は食事に専念し始める。
とは言え、それほど量があるわけではないので、あっという間に最後の一切れになってしまう。
「…食べてしまうのがもったいない」
「それですよ……」
二人揃ってこの世の終わりみたいな顔をしている。
「また入荷することがあれば、ご連絡させていただきますよ」
「ぜひ頼む!」
「約束ですよ!」
「はい」
頷き合って、二人は最後の一口を堪能した。
「お粗末さまでした。料理は以上をもって終了となります」
「「ごちそうさまでした」」
こうしてコースの提供は終わった。多分、喜んでもらえたはずだ。
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