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アイドルのコンサート
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ステージの上はまるで別世界だった。距離としては一〇メートルと離れていないところなのだが、片山修平が感じる心理的な距離はざっとその一〇〇倍以上はあったであろうか。
眩しいスポットライトに照らし出される少女の姿は、神々しさまで感じさせ、これまでアイドルという存在にある種の偏見を抱いていた修平の考え方にも多大な影響を与えていた。
見ると聞くとじゃ大違いってことか。これはブラウン管通してじゃ伝わらねえよな。
ステージに立つ少女は自分より五つも年下だとは思えない。自分よりも遥かにしっかりした大人の姿である。
できることならもっとよく見たいという誘惑に駆られるのだが、そういうわけにもいかない。修平が見なければいけないのは、ステージではなく観客席である。不穏な動きをする者はいないか、危険なことはないか目を光らせる。それが今の修平の役割であった。
コンサートの設営及び警備。不定期に入ってくるこのバイトは、貧乏大学生である修平にとっては貴重な収入源のひとつであった。これまで様々なコンサートを見てきたが、はっきり言って今日は今までで一番インパクトがあった。
佐藤瑞穂。
そのキュートな美貌と水準を遥かに超えた歌唱力で人気を博すアイドル歌手である。
歌の上手さは修平にもはっきりわかった。ルックスについては、今日まで全く知らなかったのと、ゆっくり見る機会もなかったので確認していないが、恐らくこれだけ大勢の人間が熱狂するところを見れば間違いないのだろうとも思う。
コンサートは予定を順調に消化し、今はもうアンコールに入っている。
もうじきこの非日常も終わりか。
何となく名残惜しい気もしている自分に気づいて、修平は苦笑した。
コンサートの警備のバイトはこれまでに何度もこなしているが、こんな風に思うのは初めてであった。このままでは帰りに佐藤瑞穂のCDを買い求めそうな気がして怖い。
その時、修平は会場の空気が微妙に変わっていることに気づいた。
熱狂しているのは同じなのだが、その中に異様とも思えそうな緊張感が高まっているのを感じたのだ。
横に目をやると、少し離れた位置にいたバイト仲間もこの空気を察しているらしい。不安そうな表情をしている。
何だ、何が起こる?
神経を研ぎ澄ませて、修平は会場内の空気を探った。もしこのコンサートを壊そうという不埒者がいるのなら、断固阻止する。バイトとしての義務感を超えて、修平は使命感に燃えていた。
佐藤瑞穂の歌は続いていたが、それも耳に入らないくらい修平は集中していた。これが町中の雑踏などならまだ気配も読みやすいのだが、ここまで場が乱れていると、その中からひとつの気配を探り出すのは至難の業である。
どこだ。どこから来る?
探っている内にも、緊張感はどんどん高まっていく。
最後に伸びやかな声でシャウトし、佐藤瑞穂は歌を終えた。
もとから総立ちの観客が、声を限りに絶叫する。冷静さを保っていれば、恐ろしい光景だが、そんな目は誰も持っていない。
歌は終わってしまったのに、テンションは天井知らずに跳ね上がっていく。針はとっくにレッドゾーンだ。
やばいぞ。
修平の危機察知能力は甲高い警戒警報を鳴らし続けている。
警備する方にとってはこれほど厄介なことはない。見境を失った群衆はちょっとしたきっかけで簡単に暴徒と化す。そのことを経験上知っていた修平は何が起こっても即座に対応できる体勢を整えた。
そして――決壊。
「終わらないでくれぇ!」
誰かの叫び声をきっかけとして、理性をなくしたファンの大群が一斉にステージへと殺到した。
眩しいスポットライトに照らし出される少女の姿は、神々しさまで感じさせ、これまでアイドルという存在にある種の偏見を抱いていた修平の考え方にも多大な影響を与えていた。
見ると聞くとじゃ大違いってことか。これはブラウン管通してじゃ伝わらねえよな。
ステージに立つ少女は自分より五つも年下だとは思えない。自分よりも遥かにしっかりした大人の姿である。
できることならもっとよく見たいという誘惑に駆られるのだが、そういうわけにもいかない。修平が見なければいけないのは、ステージではなく観客席である。不穏な動きをする者はいないか、危険なことはないか目を光らせる。それが今の修平の役割であった。
コンサートの設営及び警備。不定期に入ってくるこのバイトは、貧乏大学生である修平にとっては貴重な収入源のひとつであった。これまで様々なコンサートを見てきたが、はっきり言って今日は今までで一番インパクトがあった。
佐藤瑞穂。
そのキュートな美貌と水準を遥かに超えた歌唱力で人気を博すアイドル歌手である。
歌の上手さは修平にもはっきりわかった。ルックスについては、今日まで全く知らなかったのと、ゆっくり見る機会もなかったので確認していないが、恐らくこれだけ大勢の人間が熱狂するところを見れば間違いないのだろうとも思う。
コンサートは予定を順調に消化し、今はもうアンコールに入っている。
もうじきこの非日常も終わりか。
何となく名残惜しい気もしている自分に気づいて、修平は苦笑した。
コンサートの警備のバイトはこれまでに何度もこなしているが、こんな風に思うのは初めてであった。このままでは帰りに佐藤瑞穂のCDを買い求めそうな気がして怖い。
その時、修平は会場の空気が微妙に変わっていることに気づいた。
熱狂しているのは同じなのだが、その中に異様とも思えそうな緊張感が高まっているのを感じたのだ。
横に目をやると、少し離れた位置にいたバイト仲間もこの空気を察しているらしい。不安そうな表情をしている。
何だ、何が起こる?
神経を研ぎ澄ませて、修平は会場内の空気を探った。もしこのコンサートを壊そうという不埒者がいるのなら、断固阻止する。バイトとしての義務感を超えて、修平は使命感に燃えていた。
佐藤瑞穂の歌は続いていたが、それも耳に入らないくらい修平は集中していた。これが町中の雑踏などならまだ気配も読みやすいのだが、ここまで場が乱れていると、その中からひとつの気配を探り出すのは至難の業である。
どこだ。どこから来る?
探っている内にも、緊張感はどんどん高まっていく。
最後に伸びやかな声でシャウトし、佐藤瑞穂は歌を終えた。
もとから総立ちの観客が、声を限りに絶叫する。冷静さを保っていれば、恐ろしい光景だが、そんな目は誰も持っていない。
歌は終わってしまったのに、テンションは天井知らずに跳ね上がっていく。針はとっくにレッドゾーンだ。
やばいぞ。
修平の危機察知能力は甲高い警戒警報を鳴らし続けている。
警備する方にとってはこれほど厄介なことはない。見境を失った群衆はちょっとしたきっかけで簡単に暴徒と化す。そのことを経験上知っていた修平は何が起こっても即座に対応できる体勢を整えた。
そして――決壊。
「終わらないでくれぇ!」
誰かの叫び声をきっかけとして、理性をなくしたファンの大群が一斉にステージへと殺到した。
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