ソレイユ ~いつか降り注ぐ陽射しの下で~

オフィス景

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やさぐれてる場合じゃない

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「で、最近どうなんだ?」

 だいぶいい気分で酔っ払ったあたりで、何気ない口調を装って修平が訊いた。

「どうって?」

「妖魔の出現率が高くなってるようだが?」

「そうね。理由ははっきりはわからないわ」

 シェイカーを振りながら、やや深刻な顔になって美里が答える。

「ただ出現率が上がるだけじゃなくて、出てきた連中の凶暴度も増してるよな」

「ええ」

 美里の鼻の頭に皺が寄る。

「原因突き止めて、早めに手を打たないと、まずいぞ」

「わかってる。調査はしてるわ」

「手遅れにならんうちにな。俺もできる限りのことはするから」

「あてにしてるわ」

 微笑んで、美里は造りたてのカクテルを幸織の前に置いた。思わず見とれてしまうくらい美しいエメラルドグリーンのカクテルに、幸織の顔もほころぶ。

「きれい」

 飲んでしまうのがもったいないような美しさであったが、ショートカクテルは作ったらすぐ飲んだ方が美味しいのは間違いない。うやうやしい手つきでグラスを持った幸織はそっと口をつけた。

 あまりアルコールを感じさせない、爽やかな味が口中に広がる。

「美味しい」

「それはよかったが、飲みすぎんなよ。カクテルってのは後から来るぞ」

 正しい忠告だったのだが、こういう場合、報われないのが常である。

 口当たりの良さにだまされ、幸織は次々と杯を重ねていく。修平が何度も止めようとしたのだが、アルコールに操られる幸織は全く聞く耳を持たなかった。

「聞いて下さいよ、美里さん。修平さんって、ほんっとに野暮なんですよ」

「そうだねえ。さっきの一件でもそれはよくわかるよ」

 美里は人の悪い笑いを浮かべて頷く。明らかにこの後の展開をわかってやっているらしい。

「美里さん、いい加減にして下さいよ」

「いいんだよ。たまには羽目を外させてあげな。それを受け止めてやるのも男の甲斐性ってもんだよ」

「だまされてるような気がする」

「たまにはだまされてみな」

 美里はふと真面目な顔になる。

「こうやって発散することも必要なんだよ。この娘は今日重い荷物を降ろしたんだ。ご苦労様の一言くらい言ってやっても、罰は当たらないと思うよ」

 そういう考え方もあるのか。

 修平は苦笑した。こういう時は自分の未熟さを痛感する。

「でも、介抱するのは俺なんだよなあ」

「あたりまえじゃないか。婚約者なんだろ」

 違います。

 言おうとしたのだが、幸織が物騒な目で睨んでいるのに気がついて言葉を呑みこんだ。

「幸織ちゃん」

「はい?」

「この男、放すんじゃないよ」

「はい」

「こいつはね、誰かが重りになるくらいがちょうどいいんだ。どうも自分の命を軽く見てる節があるからね。誰かに対して責任でも持たせないと、危なっかしくてしょうがない」

 よく見ている。

 修平としては苦笑するしかない。

 実際、自分の命にそれほどの価値を見出してはいないのが修平である。もしも明日死ぬと言われれば、従容としてそれを受け入れるだろう。

 どうしても生きていなくてはならない理由もない。ただ自ら死ぬほどのこともないから生きている。そんな抜け殻のような投げやりさが修平の本音だったのだ。

 いつからそんな思いを抱くようになったのかと言えば、認めたくはないが紫聖殿を出た時であろう。あそこでのしがらみとともに修平は大事なものをなくしていたのだ。
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