愚兄剣帝 ～頭が悪いと実家を追放されたけど、この剣があれば生きていけます～

6 世間知らずのお坊っちゃま 2

「どうして誰も私の依頼を受けないんだ。そんなに難しい依頼でもないのに」

「「「「は？」」」」 

    居合わせた冒険者たちが揃って口をポカンと開けた。

「何言ってんだ、このバカ」

「こいつが出した依頼って、ベヒーモスの皮だろ」

「そう。それも受ける前から大赤字確定の超激安報酬で」

「おいおい、あれを報酬とは言わねえだろ。ガキの駄賃の方がよっぽど気が利いてるってもんだぜ」

「ちげえねえ。あれで人を使おうなんて世間知らずも過ぎるってもんだ」

    周りの人間全てが大爆笑する。

   嘲られた 屈辱で顔を真っ赤にしたカイルはギルドを飛び出して行こうとするが、ちょうどそこへ入ってきた男に正面衝突して、仰向けにひっくり返った。

「ぐえっ」

    ますます笑いが大きくなる。

「なんだ、みんな楽しそうだなーーって、カイルか？」

「ジ、ジェフ……」

「何してんだ。おまえ、こんなとこで」

    見下ろされて、プライドの高いカイルは更に屈辱にまみれた。

「ジェフさん、そいつと知り合いなの？」

「え、まあ、知り合いっつーか、弟だけど」

    ジェフが答えた瞬間、それまで笑っていた一同が一斉に怒気を漲らせた。

「うお、何だ！？」

    訳がわからないジェフが焦る。

「こいつがジェフさんを訳のわからない理由で追放した張本人……」

「依頼の件も含めて、マジでクソだな、こいつ」

「ボコっていいかな？」

「いいんじゃねえか。裁判になっても、情状酌量がつくと思うぜ」

「じゃあ俺も一発いっとくか」

    数人の冒険者がゆっくりとカイルに歩み寄る。

「おいおい、ちょっと待ってくれ」

    止めたのは意外にもジェフ本人だった。

「こいつをボコる意味ねーから」

「何で？    こいつのせいで追放されたんでしょ、ジェフさん」

「それは間違いない。でも俺は追放されて良かったと思ってる。だからカイルに恨みはないし、むしろ感謝しかない」

「ジェフさん、それマジで言ってる？」

「もちろん。だって今、毎日がこんなに楽しくて充実してるからな。あんな家に縛りつけられて搾取され続けてるよりずっとマシだろ？」

    ジェフの笑顔が作ったものではない、自然なものだったので、みんなそれで納得した。

「ま、ジェフさん本人がそう言うならしゃーないか」

「だな、こんなバカまともに相手する価値もないか」

    撤収する一同に合わせるようにジェフはカイルを一顧だにせず、受付カウンターへ向かう。

「依頼の完了確認を頼む。それと、衣類になかったものも討伐したんだが、それの書き取りも頼みたい」

「えーと、依頼はオーク肉十体分でしたね。その依頼外のものって、何を討伐したんですか？」

    それに対するジェフの答えが騒動の引鉄を引くことになる。

「ん、ベヒーモス」