11 / 23
11 とある日常のひとこま
しおりを挟む
「うはうは」
そんな声が聞こえてきそうだ。
姉さんの指示で作ったポーションは、順調に売上を伸ばしていた。
作ったポーションは全部で三種類。混ぜるシグナ草の量と濃度を調整することによって効能を変えている。
シグナ草の割合が一番低いポーションが、元々俺が作ろうとした、回復量の多いポーションになった。どうも俺はシグナ草の真価を見誤っていたらしい。
そして、俺が最初に調合した物は、少し手を加えたら媚薬擬きになってしまった。理性を失わせる特性を突き詰めればもっと恐ろしい物ができそうな気もするが、現段階でこれ以上の物を作る気はなかったので、そのままになっている。
最後に、シグナ草の溶液を倍まで煮詰めた物を調合したら、なんと、特殊な薬が生まれるに至った。
一言で言えば「男の味方」。さあ、あなたもかつての鋭さを取り戻しましょう、という物だ。わかるよね?
意外とこの手の悩みを持つ人は多かったらしく、かなりのヒットを記録しているらしい。
ただ、残念なことにシグナ草が希少な植物のため、生産量を伸ばせない。いくらレシピがあっても、材料がなければ話にならないのだ。
そんな時、商人が何を考えるかと言えばーー数が少ないのなら、単価を上げればいい、ということである。
姉さんが具体的に採った策は、一般には販売も広告もせず、完全に口コミのみにしたのだ。それも貴族階級への限定にした。
また、シグナ草の名前は極秘扱いとされた。ただ希少な材料を使っているために量産は利かないということだけを顧客に伝え、限定品感を演出した。
薬としての効き目は確かだったため、悩めるお金持ちにとっては多少高くてもその価値は十分にあると判断されたのだろう。今密かなブームになりつつあった。正直な話、既に半年以上先の分まで予約でいっぱいとのことだ。
「シグナ草、そんなにたくさん手に入るのかな?」
素朴な疑問である。ただでさえ希少なシグナ草を結構な勢いで消費しているのだ。在庫などすぐなくなるだろうし、今後安定して採取できるとは限らない。
あまり大規模にシグナ草を集めたら、怪しまれて製法まで辿り着かれる可能性も十分に考えられる。そうすればウチの優位性がなくなるのは誰にでもわかる話だ。あの姉さんがそこを考えないとは思えない。
「…なければ作ればいいとか言い出しそうだよな」
「さすがに姉弟ね。よくわかってるわ」
セレーネにクスクス笑われた。
「え? 姉さん何か言ってた?」
「一生懸命シグナ草の栽培方法を研究してたわよ」
「マジか……」
思わず頭を抱えたくなった。もう面倒事の予感しかしない。どうせ行き詰まって俺に丸投げしてくるに違いない。姉さんは商売以外の才能は欠片もないんだ。植物の栽培なんてできるわけがない。
「もしかしてセレーネも何か頼まれたりしてる?」
「あたしが言われたのは、ザイオンくんのサポートをしっかりやるようにってこと」
「そうか、助かるよ」
実際セレーネのお手伝いがなかったら、ポーションの開発はここまで順調にはいかなかったはずだ。
「あたしにできることなら何でもするから、遠慮せずに言ってね」
楽しそうにセレーネは言う。
「あたしね、毎日がとっても充実してるの。だから、ザイオンくんにはすっごく感謝してるわ。だから力になれることなら何でもしたいの」
やっぱりセレーネむちゃくちゃ可愛いよ。神様に誓う。絶対大事にする。んでもって幸せにする。
「ザイオンくん?」
セレーネの訝しげな声で我に返る。気持ちが行動に表れてしまったようで、セレーネの両手を握りしめてしまっていた。
「ああ、幸せだなと思ったらつい」
「もう、ザイオンくんったら」
セレーネの表情が嬉しそうに蕩ける。
「あたしも幸せです」
「セレーネ」
「ザイオンくん」
そのまま二人の距離がゼロになろうとした時、部屋の扉が開いた。
「ザイオン、シグナ草のさいばーー」
言葉を途切れさせた姉さんが部屋の入口で固まった。
「「あーー」」
「…あんたたち、ところ構わず二人の世界を作るんじゃないよ」
「いや、まあ、そうは言っても」
「何だって言うんだい?」
姉さんの目が冷たい。一瞬怯んだが、伝えるべきことは伝えねばなるまい。
「セレーネを好きだという気持ちに時とか場所とか関係ないわけで」
姉さんは深々とため息をついた。
「あんたね、そういうのを獣って言うんだよ。あんたのお馬鹿な行動のせいでセレーネを周りにそう見せてるってわかってんのかい?」
「う……」
「わかったら少しは自重するんだね」
「……」
世の中って何て世知辛いんだろう。
本気でそう思ったが、誰にも賛同してもらえないのはわかったので、あえて口にはしなかった。
よくある日常のひとこまだった。
そんな声が聞こえてきそうだ。
姉さんの指示で作ったポーションは、順調に売上を伸ばしていた。
作ったポーションは全部で三種類。混ぜるシグナ草の量と濃度を調整することによって効能を変えている。
シグナ草の割合が一番低いポーションが、元々俺が作ろうとした、回復量の多いポーションになった。どうも俺はシグナ草の真価を見誤っていたらしい。
そして、俺が最初に調合した物は、少し手を加えたら媚薬擬きになってしまった。理性を失わせる特性を突き詰めればもっと恐ろしい物ができそうな気もするが、現段階でこれ以上の物を作る気はなかったので、そのままになっている。
最後に、シグナ草の溶液を倍まで煮詰めた物を調合したら、なんと、特殊な薬が生まれるに至った。
一言で言えば「男の味方」。さあ、あなたもかつての鋭さを取り戻しましょう、という物だ。わかるよね?
意外とこの手の悩みを持つ人は多かったらしく、かなりのヒットを記録しているらしい。
ただ、残念なことにシグナ草が希少な植物のため、生産量を伸ばせない。いくらレシピがあっても、材料がなければ話にならないのだ。
そんな時、商人が何を考えるかと言えばーー数が少ないのなら、単価を上げればいい、ということである。
姉さんが具体的に採った策は、一般には販売も広告もせず、完全に口コミのみにしたのだ。それも貴族階級への限定にした。
また、シグナ草の名前は極秘扱いとされた。ただ希少な材料を使っているために量産は利かないということだけを顧客に伝え、限定品感を演出した。
薬としての効き目は確かだったため、悩めるお金持ちにとっては多少高くてもその価値は十分にあると判断されたのだろう。今密かなブームになりつつあった。正直な話、既に半年以上先の分まで予約でいっぱいとのことだ。
「シグナ草、そんなにたくさん手に入るのかな?」
素朴な疑問である。ただでさえ希少なシグナ草を結構な勢いで消費しているのだ。在庫などすぐなくなるだろうし、今後安定して採取できるとは限らない。
あまり大規模にシグナ草を集めたら、怪しまれて製法まで辿り着かれる可能性も十分に考えられる。そうすればウチの優位性がなくなるのは誰にでもわかる話だ。あの姉さんがそこを考えないとは思えない。
「…なければ作ればいいとか言い出しそうだよな」
「さすがに姉弟ね。よくわかってるわ」
セレーネにクスクス笑われた。
「え? 姉さん何か言ってた?」
「一生懸命シグナ草の栽培方法を研究してたわよ」
「マジか……」
思わず頭を抱えたくなった。もう面倒事の予感しかしない。どうせ行き詰まって俺に丸投げしてくるに違いない。姉さんは商売以外の才能は欠片もないんだ。植物の栽培なんてできるわけがない。
「もしかしてセレーネも何か頼まれたりしてる?」
「あたしが言われたのは、ザイオンくんのサポートをしっかりやるようにってこと」
「そうか、助かるよ」
実際セレーネのお手伝いがなかったら、ポーションの開発はここまで順調にはいかなかったはずだ。
「あたしにできることなら何でもするから、遠慮せずに言ってね」
楽しそうにセレーネは言う。
「あたしね、毎日がとっても充実してるの。だから、ザイオンくんにはすっごく感謝してるわ。だから力になれることなら何でもしたいの」
やっぱりセレーネむちゃくちゃ可愛いよ。神様に誓う。絶対大事にする。んでもって幸せにする。
「ザイオンくん?」
セレーネの訝しげな声で我に返る。気持ちが行動に表れてしまったようで、セレーネの両手を握りしめてしまっていた。
「ああ、幸せだなと思ったらつい」
「もう、ザイオンくんったら」
セレーネの表情が嬉しそうに蕩ける。
「あたしも幸せです」
「セレーネ」
「ザイオンくん」
そのまま二人の距離がゼロになろうとした時、部屋の扉が開いた。
「ザイオン、シグナ草のさいばーー」
言葉を途切れさせた姉さんが部屋の入口で固まった。
「「あーー」」
「…あんたたち、ところ構わず二人の世界を作るんじゃないよ」
「いや、まあ、そうは言っても」
「何だって言うんだい?」
姉さんの目が冷たい。一瞬怯んだが、伝えるべきことは伝えねばなるまい。
「セレーネを好きだという気持ちに時とか場所とか関係ないわけで」
姉さんは深々とため息をついた。
「あんたね、そういうのを獣って言うんだよ。あんたのお馬鹿な行動のせいでセレーネを周りにそう見せてるってわかってんのかい?」
「う……」
「わかったら少しは自重するんだね」
「……」
世の中って何て世知辛いんだろう。
本気でそう思ったが、誰にも賛同してもらえないのはわかったので、あえて口にはしなかった。
よくある日常のひとこまだった。
0
あなたにおすすめの小説
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
英雄一家は国を去る【一話完結】
青緑 ネトロア
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。
- - - - - - - - - - - - -
ただいま後日談の加筆を計画中です。
2025/06/22
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……
karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる