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出会い
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辰巳の苛立ちはだいぶ解消された。
やはり高校レベルではものが違う。もともと飛び抜けていたものが、オリンピックという高い舞台を経験することでいっそう磨きがかかったのは誰の目にも明らかだった。すべてのプレーに余裕が感じられるのだ。オリンピック前であればがむしゃらに突っ込んでいくような場面でも、落ち着いて最善のプレーを選択できるようになっていた。
辰巳の変化を一番感じることができたのは、ほかならぬチームメイトたちである。ボールを持ったら誰にもパスを出さずにひたすら前進するだけだった辰巳が、効果的に周りを使い始めたのだ。自分たちにかかる責任は増したが、展開されるサッカーはおもしろいものだったので、辰巳の変化は歓迎された。
とは言え、基本的には辰巳のプレーは強引である。また、それでなくては辰巳らしくない。独壇場とでも評すべき活躍で、辰巳は既に5点をマークしていた。慎也も自賛できるプレーの切れで1得点4アシストをマークしている。アシストはいずれも辰巳へのものであり、二人のコンビに対する評価も高まっていた。
そして、青湘高の圧勝で大勢が決した後半ロスタイム。
辰巳が放ったミドルシュートは、ゴールの枠を外れて観客席の中に飛びこんだ。そして、逃げ損ねた観客の頭を直撃してしまう。まともにボールを食らった同年代と思しき少女は、その場に昏倒した。
「げ――」
さすがの辰巳もやばいと思い、少女に駆け寄った。
「ごめん。大丈夫か?」
少女の顔を覗き込んだ辰巳は、その場で硬直した。
ずっと探し求めていた顔がそこにあった。
「あ――」
続いてきた慎也が驚いた声をあげた。
何でこんなところに来てるんだよ。絶対外出するなって言ったじゃねえか。
そう思って全身から血の気が退く。
やばい。絶対やばい。
辰巳にいじめられる自分の未来図が脳裏に鮮やかに浮かび上がる。人より少しだけ豊かな想像力が、こんな時は恨めしい。
だが、誰かの声が慎也の破滅を救った。
「あれ? これって修栄女子の制服か?」
「そうみたいだな」
「え?」
改めて倒れている少女を見る。確かに満里奈と瓜二つだったが、髪の長さが微妙に違うような気がしてきた。それに、修栄女子の制服など、手に入れようと思っても手に入るものではない。
しかし、ここまでそっくりさんっているものなのか?
疑問はあったのだが、そこをゆっくり考えている暇はなかった。
「やばいんじゃねえ?」
修栄女子と言えば、このへんでは知らぬ者とてない超お嬢様学校である。入学するためには最低でも親の年収が億単位ないと不可能と言われている。また、人格の隅々までさらけ出さねばならない厳しい面接を親子ともどもクリアして初めて入学が許可される。単なる成金では簡単に門前払いされてしまうのだ。
そこに通っているというだけで尊敬の対象になる。修栄女子とはそういう学校なのだ。
そんなお嬢様を傷物にしたとなれば、どんな制裁が待ち受けているか、考えるのも恐ろしい。
「辰巳、これは不可抗力でしょうがないにしても、これ以上はやめといたほうが良くねえか?」
青湘高サッカー部の良心と言われる主将の渡瀬憲二は辰巳の肩にぽんと手を置いた。
「あ?」
「この娘に仕返しするつもりなんだろ?」
「仕返し?」
辰巳の眉間に皺が寄る。見回してみれば、誰もが同じような表情をしている。
「だから、借りってあれだろ? この娘が何か粗相をやらかしたってことなんだろ」
「しょうがねえよ。お嬢様なんだから。勘弁してやれば?」
「そうそう。住んでる世界が違うんだし。関わらないほうがいいって」
「もしこれ以上やっちまったら、どんな報復があるかわかんねえぞ」
「…おまえら、何か勘違いしてるぞ」
辰巳は物騒な声音で言った。
「勘違い?」
「おまえら、俺がこの女をぼこぼこにするとか思ってるだろ」
「違うのか?」
「顔の形が変わるまで殴ったりとか」
「一生かかっても払いきれないような賠償金請求するとか」
「ぼろぼろにもてあそんだ挙句に風俗に売り飛ばすとか」
「とにかくこの娘の人生狂わせようとしてるんじゃないのか?」
「先におまえらの人生終わらせてやろうか」
半分以上本気の口調。
「こいつにはでっけえ恩があるんだよ。礼をするために探してたんだ」
「そうだったのか?」
部員たちは顔を見合わせた。
「どう考えてもあれは恩人を探す様子じゃなかったよな」
「ああ。絶対仇討ちか何かだと思ってたぜ」
「ま、まあ、何はともあれ、見つかって良かったじゃねえか」
やや強引に憲二がその場をまとめる。
辰巳は冷たい視線で一同を睨んだが、少女を保健室へ連れて行かなければならないのは確かだったので、とりあえず矛を収めることにした。が、心の中のチェックは忘れない。
憲二と勝彦、拓海は後で絶対しばく。
辰巳の直りかけた機嫌はまた傾きかけていた。
ゆっくりと意識が浮上してくる。薄く目を開くと、見慣れない殺風景な白い天井が目に入った。
「あれ?」
どうしてこんなところで寝てるんだろう?
波多野舞子は首を傾げた。その瞬間、頭に鈍い痛みが走る。
「痛っ」
その痛みが気を失う前の状況を思い出させた。
ボール、避けきれなかったんだっけ。
自分の鈍くささが嫌になる。友人にも「運動神経が断絶している」と評されたりするのだが、否定できないのだ。
「ここは保健室…の割りにはベッドがずいぶん小さいですね」
論評に悪意はないのだが、常識もない。
青湘高校の保健室においてあるベッドは、金の有り余っている修栄女子の保健室と違ってごく普通のシングルサイズである。当然、天蓋もついていない。ただ、こちらのほうが一般的であることを舞子は知らないのだ。
ぼーっとしていると、遠慮がちにカーテンが引かれ、白衣を着た若い女性が顔を出した。
「お目覚め? 気分はどう? あ、ちなみにあたしはここの校医の高瀬真琴です。お名前訊いてもいいかしら?」
「波多野舞子です。修栄女子の二年生です」
「修栄? あら、お嬢様ね。まあそれはともかく、自分の名前は言えるようね。頭打ってたから、ちょっと心配だったけど」
「あ、はい。大丈夫です」
起き上がろうとしたのだが、身体はまだ言うことを聞かなかった。
「無理しない方がいいわ。もう少し休んでて大丈夫よ」
言って、真琴は優しい笑みを見せた。
「災難だったわね」
「あ、いえ、そんなことないです」
「犯人はちゃんと捕まえてあるからね」
「え?」
「今、廊下で正座してるわ。呼んでもいい?」
「あ、は、はい」
何気なく頷いてから、舞子ははっとした。
は、犯人って、まさか――
舞子はパニックに陥った。会えるのは嬉しいが、心の準備が全くできていない。
「――失礼します」
声がして、恐縮しきりの男――辰巳が顔を出した。
ああっ、やっぱり!
舞子の頭が真っ白になる。
「ほんっとにわりい。大丈夫?」
辰巳は顔の前で両手を合わせた。が、口調は今ひとつ真剣みに欠けた。
「こら。そんな謝り方があるか」
真琴が後ろから辰巳の頭をはたく。校内広しと言えども辰巳にこんな真似をできるのはこの校医だけである。
「女の子の顔なんだぞ。傷が残ったらどうするつもりなんだ」
「あ、それは大丈夫。ちゃんと責任取るから」
「は?」
舞子と真琴は揃って口をぽかんと開けた。
「…ちょい待ち。あんた、自分で何言ってるかわかってるのかい?」
「わかってるよ」
軽く頷かれると、怪しさ大爆発である。真琴は辰巳をジト眼で見た。
「あんた、何考えてる?」
「やっと見つけたってこと」
辰巳はにんまり笑った。舞子にはそれが獲物を見つけた野獣の顔に見えた。
「見つけた?」
真琴はいぶかしげに眉を寄せた。そして舞子に視線を移し、その顔にどことなく見覚えがあることに気づいた。
「あれ? どこかで……」
記憶はすぐに照合された。
「あ、まさか、噂の賞金首?」
「賞金首!?」
いきなり賞金首呼ばわりされれば、誰だってびっくりする。舞子は気の毒なくらい目を白黒させた。
「へえ、やっと見つかったんだ。でも、思わぬ再会ね」
「俺も最初はまさかと思ったんすけどね」
「ふうん、この娘がね」
真琴はしげしげと舞子の顔を見つめた。
「あ、あの、何の話ですか?」
不安に怯えた顔で舞子が問う。ここまでの話の流れは、どう考えても穏やかなものではない。舞子の表情も当然のことだった。
「そういうわけなんで、ちっと彼女と二人にしてもらいたいんすけど」
「ちょっと待って。賞金首なんて言うからにはやばい話じゃないの?」
もしそうだとしたら、二人っきりになどできるはずがない。辰巳のことだ。男女差別はしないはずである。
「違うっすよ。彼女には礼を言わなきゃならんのです」
「礼?」
意外な言葉に、真琴はきょとんとしてしまう。
「ええ。人に聞かれたくない話でもあるんで、すんませんが」
きっかり二秒間、真琴は辰巳の目を見た。
「わかった。でも、おいたしちゃ駄目よ」
「誰がですか」
満足そうに頷くと、真琴は鼻歌など歌いながら部屋を出て行ってしまう。
待って。
舞子はそう言いたかったのだが、言葉が出てこなかった。正面から辰巳に見据えられたせいである。
こんなに間近で顔を合わせることになるとは思ってもみなかった相手である。舞子も人並みにオリンピックの成績などは知っていたので、辰巳のことはすごい人だと思っていた。実際にプレーを見れるのも楽しみにしていた。
そしてもうひとつ、舞子には辰巳に会わなければいけない訳があった。会って、訊かなければいけないことがあったのだ。
しかし、これほど順調に会話を交わすことができるとは夢にも思っていなかったため、まだ心の準備ができていない。ましてや、自分の手の届かないところで話が恐ろしげな方向に進んでいるとなれば、平静ではいられない。辰巳の表情がやや強張っているのは、何か自分にとっても不吉なことのような気がする。
一体何を言われるんだろう? 礼って言ってたように聞こえたけど、あたし、何にもしてないよね。やっぱりお礼参りってやつなのかしら? そうだとしても、やっぱり心当たりはないけど。
舞子はびくびくしながら辰巳の言葉を待った。
いざ二人っきりになった瞬間から、辰巳は平常心を失っていた。舞い上がってしまって、会ったらこう言おうと思っていた言葉は真っ白に塗りつぶされてしまっていた。
結果として、言葉に詰まった辰巳と事情がわからない舞子の間で重苦しい沈黙が醸成されていく。
辰巳も困っていたが、舞子の困惑はその比ではなかった。沈黙の長さに比例して、恐怖という感情が舞子の中に沈殿していく。
耐えきれなくなったのは、やはり舞子の方が先だった。
「…あ、あの……」
「え? あ、ああ……」
どう切り出すかに脳の容量の全てを割り振っていた辰巳はボケまくった顔を舞子に向けた。
「あの…お話って、何なんでしょう?」
それを聞くのも怖いが、この空気の中にいたら間違いなく窒息してしまう、ということで舞子はなけなしの勇気を振り絞ったのだ。
「あ、えーと、そうだな…これ、もらってくれないか」
そう言いつつ辰巳がポケットから取り出したのは、意外すぎるものだった。
銀メダル。
辰巳の掌の上で照明を受けて神々しい光を放っているのは紛れもないオリンピックの銀メダルである。舞子も実物を見るのは初めてだ。
滅多に見れる物ではない。舞子は束の間、その輝きに目を奪われた。
「ほい」
辰巳はメダルを舞子の手に握らせた。
流れのままに受け取ってしまった舞子は、メダルをまじまじと見つめた。
言葉が出てこない。
すっごーい。本物だあ。
素直に感動する。まさかこれをこうして見れるとは思ってもみなかった。
あれ? もしかして今、これをくれるって言った?
びっくりした顔を向けると、辰巳は照れたように笑った。クラスメイトたちが見たら、この男がこんな顔をするのか、と腰を抜かしそうな優しい笑顔であった。
だが、舞子にはそんな観察をしている余裕はなかった。
「だ、駄目ですよ! こんなの、受け取れるわけないじゃないですか」
ひっくり返った声で舞子は叫んだ。
その言葉に辰巳は傷ついた表情を見せる。これまた常の辰巳を知る者であれば目の玉を剥くような表情であった。
「そりゃあ金メダルじゃねえけどさ、こんなのってのはねえだろ」
舞子は慌てた。
「あ、ご、ごめんなさい。そ、そういう意味じゃないんです。こんな大切な物、もらえませんってことです」
そう言うと、辰巳はすぐに機嫌を直した。
「そう言ってもらえるなら、余計にもらってくれないか。これ、俺が持っててもあんまり意味ないものだからな」
「え? どういうことです?」
「俺にとって大事なのはメダルじゃなくて経験だってことさ」
辰巳は目を輝かせて言った。
「オリンピックは俺が想像してた以上にすごい世界だった。自分で言うのは何だけど、 間違いなく俺は一皮剥けたと思う。その世界を体験できたのは、全部君のおかげだからな。これはお礼だと思ってもらって欲しいんだ」
「あたし? お礼?」
舞子はきょとんとした。辰巳の言葉に心当たりがないのだ。当然の反応である。
「何の話ですか?」
「この期に及んでとぼけなくてもいいだろ、魔女」
その瞬間、それまでおとなしかった舞子の様子が一変した。
自分が辰巳に会わなければいけない理由を思い出した瞬間、舞子のスイッチは切り替わっていた。
「今、何て言いました?」
その性格上周囲との軋轢が絶えず、結果として数々の修羅場を経験することになった辰巳でさえ滅多にお目にかかったことのないような、強烈な殺気。
それを放ったのが、可愛いが鈍くさそうという、ややアンバランスな少女だというのが、正直驚きだった。
「ちょっと待て。何で怒るんだ? 自分で魔女って呼べって言ったんじゃんか」
「そこよ」
その声はかなり凶悪な響きを含んでいた。
「あなた、何をどこまで知ってるの?」
「へ?」
今度は辰巳が困惑する番だった。
「テレビでも魔女がどうとか言ってたわよね。どこで誰から何を聞いたの?」
「……」
辰巳の眉間に深い皺が刻まれる。
「何言ってんだ?」
「それはこっちの台詞。さっさと質問に答えて」
「自分で言ったんじゃねえか。俺の膝を治してくれたときのことさ。名前を訊いたら『魔女って呼べ』って言っただろ」
「そんなこと言ってないわよ。って言うか、そもそもが何の話だかわからないわ。あなたとあたしは初対面でしょ」
「はあ? 何言ってんだよ。治してくれたじゃんか」
「あたしじゃないわよ」
「何で今更とぼけるんだ?」
「とぼけてなんかいないわよ。どう考えたって初対面じゃない」
二人は険悪な雰囲気で睨みあった。
「まあいい。あんたが魔女であることは間違いないわけだからな」
「だから、それをどこで聞いたのよ」
舞子的には、放置しておける話ではないのだ。
何しろ、機密中の機密である。それをこんな部外者が知っていたとなると、家のセキュリティを根本から見直さなければならなくなる。
「隠そうとしたら、あなたのためにならないのよ」
不幸にも、舞子は辰巳の性格を知らなかった。もし知っていれば、こんな高圧的な言い方はしなかっただろう。
だが、すべては手遅れだった。
「おもしれえこと言うじゃんか。どうためにならねえってんだ?」
もはや二人の間は修復不可能だった。一触即発の危険な空気が部屋に満ちる。
「腕づくでも聞き出すわ。あなたがどうやってこのことを知ったのか」
「やってみろや」
訪れる破滅の瞬間。だが、それはぎりぎりで回避された。
「こら」
後ろから真琴のチョップが辰巳の後頭部に落ちた。
「いて」
「危ない空気になってるじゃない。レイプでもするつもり?」
「レ――」
あまりに直截的な物言いに、辰巳は舞子ともども目を白黒させた。
「駄目じゃない。ああいうことはあくまでも同意の上でするものなの。じゃないと双方に傷が残るわよ。大体、二人とも経験ないでしょ」
「な――」
またしても二人揃って絶句させられてしまう。
「お互い初めて同士ってのは結構難しいわよ。お姉さんがレクチャーしてあげようか?」
「結構です!」
舞子はベッドから降りた。これ以上ここにいるのに耐えられそうもない。
「失礼します!」
「あら、行っちゃった」
真琴は、頭をかきつつ辰巳を振り返った。
「何かまずかったかな?」
「……」
辰巳は深いため息をついた。
やはり高校レベルではものが違う。もともと飛び抜けていたものが、オリンピックという高い舞台を経験することでいっそう磨きがかかったのは誰の目にも明らかだった。すべてのプレーに余裕が感じられるのだ。オリンピック前であればがむしゃらに突っ込んでいくような場面でも、落ち着いて最善のプレーを選択できるようになっていた。
辰巳の変化を一番感じることができたのは、ほかならぬチームメイトたちである。ボールを持ったら誰にもパスを出さずにひたすら前進するだけだった辰巳が、効果的に周りを使い始めたのだ。自分たちにかかる責任は増したが、展開されるサッカーはおもしろいものだったので、辰巳の変化は歓迎された。
とは言え、基本的には辰巳のプレーは強引である。また、それでなくては辰巳らしくない。独壇場とでも評すべき活躍で、辰巳は既に5点をマークしていた。慎也も自賛できるプレーの切れで1得点4アシストをマークしている。アシストはいずれも辰巳へのものであり、二人のコンビに対する評価も高まっていた。
そして、青湘高の圧勝で大勢が決した後半ロスタイム。
辰巳が放ったミドルシュートは、ゴールの枠を外れて観客席の中に飛びこんだ。そして、逃げ損ねた観客の頭を直撃してしまう。まともにボールを食らった同年代と思しき少女は、その場に昏倒した。
「げ――」
さすがの辰巳もやばいと思い、少女に駆け寄った。
「ごめん。大丈夫か?」
少女の顔を覗き込んだ辰巳は、その場で硬直した。
ずっと探し求めていた顔がそこにあった。
「あ――」
続いてきた慎也が驚いた声をあげた。
何でこんなところに来てるんだよ。絶対外出するなって言ったじゃねえか。
そう思って全身から血の気が退く。
やばい。絶対やばい。
辰巳にいじめられる自分の未来図が脳裏に鮮やかに浮かび上がる。人より少しだけ豊かな想像力が、こんな時は恨めしい。
だが、誰かの声が慎也の破滅を救った。
「あれ? これって修栄女子の制服か?」
「そうみたいだな」
「え?」
改めて倒れている少女を見る。確かに満里奈と瓜二つだったが、髪の長さが微妙に違うような気がしてきた。それに、修栄女子の制服など、手に入れようと思っても手に入るものではない。
しかし、ここまでそっくりさんっているものなのか?
疑問はあったのだが、そこをゆっくり考えている暇はなかった。
「やばいんじゃねえ?」
修栄女子と言えば、このへんでは知らぬ者とてない超お嬢様学校である。入学するためには最低でも親の年収が億単位ないと不可能と言われている。また、人格の隅々までさらけ出さねばならない厳しい面接を親子ともどもクリアして初めて入学が許可される。単なる成金では簡単に門前払いされてしまうのだ。
そこに通っているというだけで尊敬の対象になる。修栄女子とはそういう学校なのだ。
そんなお嬢様を傷物にしたとなれば、どんな制裁が待ち受けているか、考えるのも恐ろしい。
「辰巳、これは不可抗力でしょうがないにしても、これ以上はやめといたほうが良くねえか?」
青湘高サッカー部の良心と言われる主将の渡瀬憲二は辰巳の肩にぽんと手を置いた。
「あ?」
「この娘に仕返しするつもりなんだろ?」
「仕返し?」
辰巳の眉間に皺が寄る。見回してみれば、誰もが同じような表情をしている。
「だから、借りってあれだろ? この娘が何か粗相をやらかしたってことなんだろ」
「しょうがねえよ。お嬢様なんだから。勘弁してやれば?」
「そうそう。住んでる世界が違うんだし。関わらないほうがいいって」
「もしこれ以上やっちまったら、どんな報復があるかわかんねえぞ」
「…おまえら、何か勘違いしてるぞ」
辰巳は物騒な声音で言った。
「勘違い?」
「おまえら、俺がこの女をぼこぼこにするとか思ってるだろ」
「違うのか?」
「顔の形が変わるまで殴ったりとか」
「一生かかっても払いきれないような賠償金請求するとか」
「ぼろぼろにもてあそんだ挙句に風俗に売り飛ばすとか」
「とにかくこの娘の人生狂わせようとしてるんじゃないのか?」
「先におまえらの人生終わらせてやろうか」
半分以上本気の口調。
「こいつにはでっけえ恩があるんだよ。礼をするために探してたんだ」
「そうだったのか?」
部員たちは顔を見合わせた。
「どう考えてもあれは恩人を探す様子じゃなかったよな」
「ああ。絶対仇討ちか何かだと思ってたぜ」
「ま、まあ、何はともあれ、見つかって良かったじゃねえか」
やや強引に憲二がその場をまとめる。
辰巳は冷たい視線で一同を睨んだが、少女を保健室へ連れて行かなければならないのは確かだったので、とりあえず矛を収めることにした。が、心の中のチェックは忘れない。
憲二と勝彦、拓海は後で絶対しばく。
辰巳の直りかけた機嫌はまた傾きかけていた。
ゆっくりと意識が浮上してくる。薄く目を開くと、見慣れない殺風景な白い天井が目に入った。
「あれ?」
どうしてこんなところで寝てるんだろう?
波多野舞子は首を傾げた。その瞬間、頭に鈍い痛みが走る。
「痛っ」
その痛みが気を失う前の状況を思い出させた。
ボール、避けきれなかったんだっけ。
自分の鈍くささが嫌になる。友人にも「運動神経が断絶している」と評されたりするのだが、否定できないのだ。
「ここは保健室…の割りにはベッドがずいぶん小さいですね」
論評に悪意はないのだが、常識もない。
青湘高校の保健室においてあるベッドは、金の有り余っている修栄女子の保健室と違ってごく普通のシングルサイズである。当然、天蓋もついていない。ただ、こちらのほうが一般的であることを舞子は知らないのだ。
ぼーっとしていると、遠慮がちにカーテンが引かれ、白衣を着た若い女性が顔を出した。
「お目覚め? 気分はどう? あ、ちなみにあたしはここの校医の高瀬真琴です。お名前訊いてもいいかしら?」
「波多野舞子です。修栄女子の二年生です」
「修栄? あら、お嬢様ね。まあそれはともかく、自分の名前は言えるようね。頭打ってたから、ちょっと心配だったけど」
「あ、はい。大丈夫です」
起き上がろうとしたのだが、身体はまだ言うことを聞かなかった。
「無理しない方がいいわ。もう少し休んでて大丈夫よ」
言って、真琴は優しい笑みを見せた。
「災難だったわね」
「あ、いえ、そんなことないです」
「犯人はちゃんと捕まえてあるからね」
「え?」
「今、廊下で正座してるわ。呼んでもいい?」
「あ、は、はい」
何気なく頷いてから、舞子ははっとした。
は、犯人って、まさか――
舞子はパニックに陥った。会えるのは嬉しいが、心の準備が全くできていない。
「――失礼します」
声がして、恐縮しきりの男――辰巳が顔を出した。
ああっ、やっぱり!
舞子の頭が真っ白になる。
「ほんっとにわりい。大丈夫?」
辰巳は顔の前で両手を合わせた。が、口調は今ひとつ真剣みに欠けた。
「こら。そんな謝り方があるか」
真琴が後ろから辰巳の頭をはたく。校内広しと言えども辰巳にこんな真似をできるのはこの校医だけである。
「女の子の顔なんだぞ。傷が残ったらどうするつもりなんだ」
「あ、それは大丈夫。ちゃんと責任取るから」
「は?」
舞子と真琴は揃って口をぽかんと開けた。
「…ちょい待ち。あんた、自分で何言ってるかわかってるのかい?」
「わかってるよ」
軽く頷かれると、怪しさ大爆発である。真琴は辰巳をジト眼で見た。
「あんた、何考えてる?」
「やっと見つけたってこと」
辰巳はにんまり笑った。舞子にはそれが獲物を見つけた野獣の顔に見えた。
「見つけた?」
真琴はいぶかしげに眉を寄せた。そして舞子に視線を移し、その顔にどことなく見覚えがあることに気づいた。
「あれ? どこかで……」
記憶はすぐに照合された。
「あ、まさか、噂の賞金首?」
「賞金首!?」
いきなり賞金首呼ばわりされれば、誰だってびっくりする。舞子は気の毒なくらい目を白黒させた。
「へえ、やっと見つかったんだ。でも、思わぬ再会ね」
「俺も最初はまさかと思ったんすけどね」
「ふうん、この娘がね」
真琴はしげしげと舞子の顔を見つめた。
「あ、あの、何の話ですか?」
不安に怯えた顔で舞子が問う。ここまでの話の流れは、どう考えても穏やかなものではない。舞子の表情も当然のことだった。
「そういうわけなんで、ちっと彼女と二人にしてもらいたいんすけど」
「ちょっと待って。賞金首なんて言うからにはやばい話じゃないの?」
もしそうだとしたら、二人っきりになどできるはずがない。辰巳のことだ。男女差別はしないはずである。
「違うっすよ。彼女には礼を言わなきゃならんのです」
「礼?」
意外な言葉に、真琴はきょとんとしてしまう。
「ええ。人に聞かれたくない話でもあるんで、すんませんが」
きっかり二秒間、真琴は辰巳の目を見た。
「わかった。でも、おいたしちゃ駄目よ」
「誰がですか」
満足そうに頷くと、真琴は鼻歌など歌いながら部屋を出て行ってしまう。
待って。
舞子はそう言いたかったのだが、言葉が出てこなかった。正面から辰巳に見据えられたせいである。
こんなに間近で顔を合わせることになるとは思ってもみなかった相手である。舞子も人並みにオリンピックの成績などは知っていたので、辰巳のことはすごい人だと思っていた。実際にプレーを見れるのも楽しみにしていた。
そしてもうひとつ、舞子には辰巳に会わなければいけない訳があった。会って、訊かなければいけないことがあったのだ。
しかし、これほど順調に会話を交わすことができるとは夢にも思っていなかったため、まだ心の準備ができていない。ましてや、自分の手の届かないところで話が恐ろしげな方向に進んでいるとなれば、平静ではいられない。辰巳の表情がやや強張っているのは、何か自分にとっても不吉なことのような気がする。
一体何を言われるんだろう? 礼って言ってたように聞こえたけど、あたし、何にもしてないよね。やっぱりお礼参りってやつなのかしら? そうだとしても、やっぱり心当たりはないけど。
舞子はびくびくしながら辰巳の言葉を待った。
いざ二人っきりになった瞬間から、辰巳は平常心を失っていた。舞い上がってしまって、会ったらこう言おうと思っていた言葉は真っ白に塗りつぶされてしまっていた。
結果として、言葉に詰まった辰巳と事情がわからない舞子の間で重苦しい沈黙が醸成されていく。
辰巳も困っていたが、舞子の困惑はその比ではなかった。沈黙の長さに比例して、恐怖という感情が舞子の中に沈殿していく。
耐えきれなくなったのは、やはり舞子の方が先だった。
「…あ、あの……」
「え? あ、ああ……」
どう切り出すかに脳の容量の全てを割り振っていた辰巳はボケまくった顔を舞子に向けた。
「あの…お話って、何なんでしょう?」
それを聞くのも怖いが、この空気の中にいたら間違いなく窒息してしまう、ということで舞子はなけなしの勇気を振り絞ったのだ。
「あ、えーと、そうだな…これ、もらってくれないか」
そう言いつつ辰巳がポケットから取り出したのは、意外すぎるものだった。
銀メダル。
辰巳の掌の上で照明を受けて神々しい光を放っているのは紛れもないオリンピックの銀メダルである。舞子も実物を見るのは初めてだ。
滅多に見れる物ではない。舞子は束の間、その輝きに目を奪われた。
「ほい」
辰巳はメダルを舞子の手に握らせた。
流れのままに受け取ってしまった舞子は、メダルをまじまじと見つめた。
言葉が出てこない。
すっごーい。本物だあ。
素直に感動する。まさかこれをこうして見れるとは思ってもみなかった。
あれ? もしかして今、これをくれるって言った?
びっくりした顔を向けると、辰巳は照れたように笑った。クラスメイトたちが見たら、この男がこんな顔をするのか、と腰を抜かしそうな優しい笑顔であった。
だが、舞子にはそんな観察をしている余裕はなかった。
「だ、駄目ですよ! こんなの、受け取れるわけないじゃないですか」
ひっくり返った声で舞子は叫んだ。
その言葉に辰巳は傷ついた表情を見せる。これまた常の辰巳を知る者であれば目の玉を剥くような表情であった。
「そりゃあ金メダルじゃねえけどさ、こんなのってのはねえだろ」
舞子は慌てた。
「あ、ご、ごめんなさい。そ、そういう意味じゃないんです。こんな大切な物、もらえませんってことです」
そう言うと、辰巳はすぐに機嫌を直した。
「そう言ってもらえるなら、余計にもらってくれないか。これ、俺が持っててもあんまり意味ないものだからな」
「え? どういうことです?」
「俺にとって大事なのはメダルじゃなくて経験だってことさ」
辰巳は目を輝かせて言った。
「オリンピックは俺が想像してた以上にすごい世界だった。自分で言うのは何だけど、 間違いなく俺は一皮剥けたと思う。その世界を体験できたのは、全部君のおかげだからな。これはお礼だと思ってもらって欲しいんだ」
「あたし? お礼?」
舞子はきょとんとした。辰巳の言葉に心当たりがないのだ。当然の反応である。
「何の話ですか?」
「この期に及んでとぼけなくてもいいだろ、魔女」
その瞬間、それまでおとなしかった舞子の様子が一変した。
自分が辰巳に会わなければいけない理由を思い出した瞬間、舞子のスイッチは切り替わっていた。
「今、何て言いました?」
その性格上周囲との軋轢が絶えず、結果として数々の修羅場を経験することになった辰巳でさえ滅多にお目にかかったことのないような、強烈な殺気。
それを放ったのが、可愛いが鈍くさそうという、ややアンバランスな少女だというのが、正直驚きだった。
「ちょっと待て。何で怒るんだ? 自分で魔女って呼べって言ったんじゃんか」
「そこよ」
その声はかなり凶悪な響きを含んでいた。
「あなた、何をどこまで知ってるの?」
「へ?」
今度は辰巳が困惑する番だった。
「テレビでも魔女がどうとか言ってたわよね。どこで誰から何を聞いたの?」
「……」
辰巳の眉間に深い皺が刻まれる。
「何言ってんだ?」
「それはこっちの台詞。さっさと質問に答えて」
「自分で言ったんじゃねえか。俺の膝を治してくれたときのことさ。名前を訊いたら『魔女って呼べ』って言っただろ」
「そんなこと言ってないわよ。って言うか、そもそもが何の話だかわからないわ。あなたとあたしは初対面でしょ」
「はあ? 何言ってんだよ。治してくれたじゃんか」
「あたしじゃないわよ」
「何で今更とぼけるんだ?」
「とぼけてなんかいないわよ。どう考えたって初対面じゃない」
二人は険悪な雰囲気で睨みあった。
「まあいい。あんたが魔女であることは間違いないわけだからな」
「だから、それをどこで聞いたのよ」
舞子的には、放置しておける話ではないのだ。
何しろ、機密中の機密である。それをこんな部外者が知っていたとなると、家のセキュリティを根本から見直さなければならなくなる。
「隠そうとしたら、あなたのためにならないのよ」
不幸にも、舞子は辰巳の性格を知らなかった。もし知っていれば、こんな高圧的な言い方はしなかっただろう。
だが、すべては手遅れだった。
「おもしれえこと言うじゃんか。どうためにならねえってんだ?」
もはや二人の間は修復不可能だった。一触即発の危険な空気が部屋に満ちる。
「腕づくでも聞き出すわ。あなたがどうやってこのことを知ったのか」
「やってみろや」
訪れる破滅の瞬間。だが、それはぎりぎりで回避された。
「こら」
後ろから真琴のチョップが辰巳の後頭部に落ちた。
「いて」
「危ない空気になってるじゃない。レイプでもするつもり?」
「レ――」
あまりに直截的な物言いに、辰巳は舞子ともども目を白黒させた。
「駄目じゃない。ああいうことはあくまでも同意の上でするものなの。じゃないと双方に傷が残るわよ。大体、二人とも経験ないでしょ」
「な――」
またしても二人揃って絶句させられてしまう。
「お互い初めて同士ってのは結構難しいわよ。お姉さんがレクチャーしてあげようか?」
「結構です!」
舞子はベッドから降りた。これ以上ここにいるのに耐えられそうもない。
「失礼します!」
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真琴は、頭をかきつつ辰巳を振り返った。
「何かまずかったかな?」
「……」
辰巳は深いため息をついた。
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