両親が出会わなくなってしまって自分の存在が脅かされたので、過去へ行ってみた

オフィス景

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逃亡

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「やばかったよな、あれ」
 慎也は舌打ちする。
 間違いなく疑われた。それだけははっきりわかる。
 満里奈をどこかに隠したほうがいいのか? でも、隠す場所なんてないしな。
 とは言え、嫌な予感はどんどんと膨らみつつある。追い詰められている実感がある。
「どしたの? 暗い顔して」
「バレたかもしんねえ」
「あちゃー」
 しかし、満里奈はそう深刻な顔はしていない。
「…大丈夫なのか?」
「んー、まあそろそろかなーとは思ってたのよね」
 むしろここまで良くもったと言うべきだろう。
「じゃ、フェイズツーということで」
「何か手があるのか?」
「隠れちゃおうかと思ってるけど――」
 言葉が終わらないうちに、ドアが激しく叩かれた。ノックと言うより、蹴破らんばかりの勢いだ。
「あら、予想外に早いわね」
「ど、どうする?」
「さて、どうしようかしら」
 満里奈にはまるで焦った様子はない。慎也の方が心配になってしまう。
「おい、開けろ、慎也!」
 声でかなり怒っていることがわかる。
「しょうがないわね。一緒に逃げましょうか」
 ここで自分一人が逃げたら、残された慎也がどんな目に遭わされるかは考えるまでもない。
「逃げるってどこへ!?」
「どこだっていいわよ」
「うう……」
 どちらにしてもロクなことにはなりそうもない。胃がきりきり痛むのを感じる慎也だった。
 
 
「出ねえぞ」
「逃げたのかしら?」
「電気ついてるぞ」
「じゃあそんなに遠くには逃げてないわね」
「追うぞ」
 裏口に回ると、案の定逃げた跡があった。
「んの野郎、逃げられると思うなよ」
 指をぽきぽき鳴らしながら辰巳は獰猛な顔で舌なめずりした。辰巳を知る者であれば、この顔をした時の辰巳には絶対に近寄らない。そんな顔であった。
 
 
「追ってきてるみたいね」
「マジかよ」
 絶望的な気分になる。たぶんこれで死刑判決は確定した。捕まったら最後、地獄の業火に焼かれることになるのだろう。
 絶対嫌だ。
 逃げるしかない。何が何でも逃げのびるしかない。
 しかし、いつまで逃げればいいのか? どこまで逃げればいいのか? どうなれば逃げなくて済むようになるのか?
 すべての元凶たる満里奈の背中を見つめる。
 こいつを引き渡せばすべて解決になるんじゃないか?
 悪魔の囁き。だが、真剣に心が動く。
 元々俺には何の関係もない話じゃんか。巻き込まれただけで、こいつについてかなきゃいけない理由なんてどこにもない。
 そんな風にも思うのだが、元来人の良い慎也はそこまで思い切ることができない。
そうこうするうちに、事態は混迷の度を深めていく。
 走る二人の行く手に、黒服の男たちが現れた。映画などで見るような、ステロタイプの黒服である。これが五人ほど二人の行く手を阻んでいる。
「うわ、何だあれ。怪しすぎる」
「そうよね。どう見ても怪しいわよね」
 そういう満里奈の表情は硬い。黒服に心当たりがあるようだ。
「知ってんのか?」
「直接個人個人を知ってるわけじゃないわ。でも、どこに所属して何やってる人たちかは知ってる」
「何やってんだ?」
「荒事」
「穏やかじゃねえなあ」
「多分あたしを狙ってのことね」
「ってーと、魔法使い関連か」
「そういうこと」
「友好的な感じではないな」
「そりゃそうよ。あいつら、あたしのことは『はぐれ』だとおもってるはずよ」
「『はぐれ』?」
「協会に所属していない魔法使いのこと」
「協会なんてのがあるのか?」
「ええ。魔法って、まだまだメジャーじゃないでしょ。謂われない迫害を受けなくて済むように魔法使いって厳重に管理されてるのよ。あの人たちにとっては『はぐれ』の存在は何があっても許せないわけ」
「要するにおまえを捕まえようとしてるのか?」
「そうね。捕まえて、あんなことやこんなことしようと思ってるんでしょうね」
「そりゃ大変だ」
「何他人事みたいに言ってるのよ。慎也くんだってロックオンされてるわよ」
「何で!?」
「決まってるじゃない。魔法は秘密なのよ。それを知ってる慎也くんを放っとくわけないじゃない」
「ふざけんな!」
 思わず慎也は大声をあげた。
「ってことは、おまえが絡んでさえこなけりゃ俺は無関係でいられたってことじゃねえのか?」
「そうだよ」
 あっけらかんと言う。
 殺意とまではいかないが、それに近いものは覚えた。
 だが、事は急を要した。間を詰めてきた黒服たちは、問答無用のオーラを放っている。
「くそっ!」
 雰囲気からして、相手はかなり荒事に慣れているようだ。対してこちらは、喧嘩の経験すら数えるほどしかない。腕っ節に自信がないわけではないが、経験値的にはレベル1といったところだ。
「やるしかないわね」
「って、どこまでやる気だよ?」
「とことんやるとしたら分が悪いわ。適当にやったら逃げる。それでいい?」
「あたりまえだ。もともと人数で負けてんだ。まともになんぞやりあえるか」
「ここは、おまえだけは何があっても守るよっていうところじゃないの?」
「相手がか弱い女の子ならそう言うよ」
「見るからにか弱くない?」
「……」
 慎也は言葉の代わりにものすごく冷たい視線を投げた。
  とことん突き詰めたいところだったが、時間的な余裕はなかった。一人が慎也に、残りが満里奈へと殺到する。
「なめられたもんだな」
 呟くと、慎也は掴み掛かってきた男の目の前に右掌を突き出した。
 刹那、男の注意はそこに集中する。
 すかさず慎也は無防備な男の股間を蹴り上げた。
「!?」
 声にならない悲鳴とともに男は崩れ落ちた。
「おー、やな感触」
 一瞬だけ顔をしかめて、慎也は満里奈の方を振り返った。
「…へ……?」
 既に決着はついていた。満里奈の足下に四人の男が倒れている。
「…マジ……?」
 自分が目を離したのはほんの僅かな時間である。女の子が体格で遥かに上回る男四人を倒すなど、目の前で見せられても、にわかには信じがたい。
「あら、思ったよりやるじゃない」
 おったまげている慎也を見て、満里奈は朗らかな笑みを見せた。
「もっと逃げ回ったりするかと思ったけど」
「馬鹿にすんな」
 とは言え、満里奈が倒したのであろう男たちを見ると、呆れ混じりのため息しか出てこない。
「…一体何したんだ?」
「撃ってきた魔法を反射したの」
 満里奈は事もなげに言った。そのため慎也にはわからなかったが、実はこれ、かなりの高等技術で、使える者はほんのごく僅かしかいないのだ。
 ただ、慎也にはその辺の事情はわからない。わかったのは満里奈が自分よりも戦闘力が高いという事実。
 こいつには喧嘩売らないようにしよう。
 かなり真剣に慎也は思った。
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