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1 ラブレター?
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海堂裕治は舞い上がっていた。屋上へと続く階段を昇る足取りも軽い。
原因は右手に持った封筒にあった。ピンク色を基調とした、かわいらしいデザインである。決して裕治が買うようなものではない。
多分これは、ラブレター、といわれるものの範疇に引っかかるのだろう。背で開くようになっている封筒の封はこれまたかわいらしいハートマークで施されていたのだ。
放課後。
人気のない屋上。
ピンクの封筒。
この三点セットが揃っているのだ。健全な男子高校生としては、告白以外には想像できない。もしこれがラブレターを装った果たし状だったりしたら、死にたくなる。と言うか、相手を生かしておいてはいけない気がする。
これを、下校しようとした自分の下駄箱の中に見つけたときは、死ぬほど驚いた。
自他共に認めるサッカーバカの裕治にとって、いわゆる男女交際は未体験ゾーンである。憧れる気持ちはあるが、自分から行動を起こせるほど勇気を持っているわけではないので、サッカーにかこつけて興味のない振りをしていたのだ。
とは言え、チャンスが転がってきたとなれば話は変わる。これを逃すような真似は絶対にしない。
しかし、誰なんだろ?
手紙には「大事な話があるから屋上へ来て欲しい」としか書かれていなかった。そのため、差出人は不明である。
心当たりもまったくない。
裕治に特別親しくしている女子はいない。というか、ほとんど口をきくことすらない。一番話すのはサッカー部のマネージャーだが、彼女には既に彼氏がいる。
裕治の場合、ヘタレなだけで感覚自体はごくまっとうであるから、いいな、と思っている女子くらいはいる。その娘の顔を思い浮かべてしまうのは、仕方のないことだろう。
しかし、世の中はそうそう思い通りにいくものではない。
普段は立ち入り禁止の屋上の扉を開けた裕治を出迎えたのは、まったく予想外の人物だった。
「あれ? 榊?」
そこにいたのはクラスメイトである榊薫。これ以上整えようのない端整な顔だちにすらりとしたスタイルは、並ぶ男をすべて引き立て役にしてしまう。そのルックスに加えて家はこの街きっての名家であり、学園の女子に圧倒的な人気を誇る――いわゆる男の敵である。
「や、やあ海堂くん」
薫がぎこちなく右手を挙げる。
もったいないよなあ、と裕治は思う。
こいつが女だったら、きっとすごいことになるんだろうにな。
薫の容姿はどんな褒め言葉も陳腐に思えるほど飛び抜けたもので、一部では女装させてミスコンに出しても充分通用すると言われており、裕治もその意見に異論はなかった。
二人は特別仲がいいわけではないが、悪いわけでもない。お互いに口下手なため会話が弾むようなことはないが、会えば挨拶くらいはする。
裕治は左右を見回した。薫のほかに人影は見えない。
「あれ? 榊だけ? 他に誰か来てない?」
「い、いや。見てないな」
「おかしいな。手紙で呼び出されたんだけどな。ちぇっ、やっぱり誰かのイタズラか」
がっくりと肩を落とす。期待が大きかった分、へこみ方も激しい。だが、それを長続きさせないのは裕治の長所と言ってよかっただろう。
「で、榊はこんなところで何してんだ?」
「え、あ、いや……」
目を泳がせてどもる姿は見るからに怪しかったが、自分のことでいっぱいいっぱいの裕治は、それを不審に思うことはなかった。
「一応立ち入り禁止だからな。ばれないうちに引き上げたほうがいいぜ」
そう言って自分はさっさと引き上げようとする。
「あ、ちょ、ちょっと待ってくれないか?」
「ん? どした?」
「海堂くんの意見を聞きたいんだが」
「俺の? 何だ?」
言いづらそうにしていた薫だったが、意を決して口を開いた。
「海堂くんは、運命の赤い糸ってどう思う?」
原因は右手に持った封筒にあった。ピンク色を基調とした、かわいらしいデザインである。決して裕治が買うようなものではない。
多分これは、ラブレター、といわれるものの範疇に引っかかるのだろう。背で開くようになっている封筒の封はこれまたかわいらしいハートマークで施されていたのだ。
放課後。
人気のない屋上。
ピンクの封筒。
この三点セットが揃っているのだ。健全な男子高校生としては、告白以外には想像できない。もしこれがラブレターを装った果たし状だったりしたら、死にたくなる。と言うか、相手を生かしておいてはいけない気がする。
これを、下校しようとした自分の下駄箱の中に見つけたときは、死ぬほど驚いた。
自他共に認めるサッカーバカの裕治にとって、いわゆる男女交際は未体験ゾーンである。憧れる気持ちはあるが、自分から行動を起こせるほど勇気を持っているわけではないので、サッカーにかこつけて興味のない振りをしていたのだ。
とは言え、チャンスが転がってきたとなれば話は変わる。これを逃すような真似は絶対にしない。
しかし、誰なんだろ?
手紙には「大事な話があるから屋上へ来て欲しい」としか書かれていなかった。そのため、差出人は不明である。
心当たりもまったくない。
裕治に特別親しくしている女子はいない。というか、ほとんど口をきくことすらない。一番話すのはサッカー部のマネージャーだが、彼女には既に彼氏がいる。
裕治の場合、ヘタレなだけで感覚自体はごくまっとうであるから、いいな、と思っている女子くらいはいる。その娘の顔を思い浮かべてしまうのは、仕方のないことだろう。
しかし、世の中はそうそう思い通りにいくものではない。
普段は立ち入り禁止の屋上の扉を開けた裕治を出迎えたのは、まったく予想外の人物だった。
「あれ? 榊?」
そこにいたのはクラスメイトである榊薫。これ以上整えようのない端整な顔だちにすらりとしたスタイルは、並ぶ男をすべて引き立て役にしてしまう。そのルックスに加えて家はこの街きっての名家であり、学園の女子に圧倒的な人気を誇る――いわゆる男の敵である。
「や、やあ海堂くん」
薫がぎこちなく右手を挙げる。
もったいないよなあ、と裕治は思う。
こいつが女だったら、きっとすごいことになるんだろうにな。
薫の容姿はどんな褒め言葉も陳腐に思えるほど飛び抜けたもので、一部では女装させてミスコンに出しても充分通用すると言われており、裕治もその意見に異論はなかった。
二人は特別仲がいいわけではないが、悪いわけでもない。お互いに口下手なため会話が弾むようなことはないが、会えば挨拶くらいはする。
裕治は左右を見回した。薫のほかに人影は見えない。
「あれ? 榊だけ? 他に誰か来てない?」
「い、いや。見てないな」
「おかしいな。手紙で呼び出されたんだけどな。ちぇっ、やっぱり誰かのイタズラか」
がっくりと肩を落とす。期待が大きかった分、へこみ方も激しい。だが、それを長続きさせないのは裕治の長所と言ってよかっただろう。
「で、榊はこんなところで何してんだ?」
「え、あ、いや……」
目を泳がせてどもる姿は見るからに怪しかったが、自分のことでいっぱいいっぱいの裕治は、それを不審に思うことはなかった。
「一応立ち入り禁止だからな。ばれないうちに引き上げたほうがいいぜ」
そう言って自分はさっさと引き上げようとする。
「あ、ちょ、ちょっと待ってくれないか?」
「ん? どした?」
「海堂くんの意見を聞きたいんだが」
「俺の? 何だ?」
言いづらそうにしていた薫だったが、意を決して口を開いた。
「海堂くんは、運命の赤い糸ってどう思う?」
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