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2 召喚って、こういうものなの?

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 目が覚めると、見慣れない石造りの部屋の中だった。

「…どこだ、ここは……?」

 頭を振る。気を失う前のことを思い出す。ゴール直前で落とし穴にはまったんだった。

 …落とし穴……?

 …ありえねえだろ……

 一体全体、何がどうしてどうなった?

 考えても答えは出てこない。

 これからどうしようかと思っているところに、足音が聞こえてきた。

「ん?」

 部屋の扉が開き、白ひげをたくわえた恰幅の良い老人が顔を現した。

「おお、成功だ」

 満面に喜色を浮かべた老人は、目の前までやって来て深々と頭を下げた。

「このように突然お呼びたてして誠に申し訳ない。勇者殿」

 …はい……?

 今、俺のこと勇者って言った?

 一瞬で状況に想像がついた。

 …これって、もしかして異世界召喚ってヤツなのか……?

 その手の小説は好きで結構読んでいる。

 …まさか自分の身に起こるとは思ってもみなかったが。

「勇者殿、ワシについてきていただけますか。状況、事情、その他諸々ご説明させていただきます。その上でお願いしたいことがあります故に」

 お願いしたいこと、か…どうせ魔王を倒してくれってところだろうな……

 手垢が着きすぎているレベルのテンプレ展開には苦笑しか出てこない。

 ま、いいけどな。こういうの嫌いじゃない、って言うか大好物だし。

 中二の時に罹った流行病の後遺症だな。一応現実を見れるレベルまで社会復帰はしたつもりだったが、まだ燻っていたらしい。

 何だかワクワクしてきた。

 チートを駆使した魔王やモンスターとのバトル。頼れるパーティーメンバーとの胸踊る冒険行。そして美しいヒロインとのラブロマンス。

 ああ、浪漫だ。

 かなりいい気になっていた俺は気づいていなかった。落とし穴などという見たことも聞いたこともないような雑な召喚方法が意味するものに。
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