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36 姉妹

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 おのれ、いいところだったのに……

 伸ばしかけた手が、空しく宙をかく。

 立ち上がったシルヴィアが扉を開ける。

「アンジェ…マリー……」

 二人の妹が神妙な面持ちで立っていた。

「姉様、今よろしいでしょうか」

 シルヴィアが振り返ったので、頷いて見せる。二人の様子を見る限り、おかしなことにはならないだろうと判断できた。

「邪魔なら外すが?」

「いえ、コータロー様もご一緒にお願いいたします」

「わかった」

 俺とシルヴィアが並んで座り、アンジェリーナとマリエールが、向かいに腰を下ろす。

「今日は本当に申し訳ありませんでした」

 言ったアンジェリーナが深々と頭を下げ、マリエールがそれに倣う。

「うん、わかった」

 シルヴィアはあっけらかんとしている。

「「え?」」

「いいのかよ?」

「姉妹なんだよ、わたしたち」

 何か揉め事があったとしても、相手が非を認め、詫びを入れれば、それ以上引きずることはない、とシルヴィアは言った。

 それ以前に積もり積もったものがあるだろう、と思うのだが、度を超したお人好しにとっては大きな問題ではないらしい。

 図らずも妹たちに器の違いを見せつける結果になった。

「…わたしの婚約は解消することになりました」

「「え!?」」

 今度は俺とシルヴィアの声が重なった。

「あれだけの醜態を晒してしまうとさすがに……」

「そうは言っても、大丈夫なのか?」

 相手が公爵家となれば、婚約破棄が簡単ではないことは素人でもわかる。

「あの人を王位につけてしまう方が問題が大きくなります」

「そりゃまあそうかもしれんが……」

「暴言に加えて、胆力のなさまでわかってしまいましたしね」

 何となく責任を感じないでもない……やっちまったのかな……

「手遅れになる前で良かったとお父様は言ってました」

 だから責任は感じないで下さい、と言われたが、言葉通りに受け取るのもどうなんだろう。

「ある意味コータロー様はこの国を救ったんだと思います」

「へ?」

 突拍子もないことを言い出したのはマリエール。どこでどうなって話がそこまで大きくなった?

「あのままあの人が即位してたら、大きな問題を起こしていたはずです。それこそ国を滅ぼすんじゃないかというレベルで。それを未然に防げたのはコータロー様のおかげです」

「いやいや、絶対にそんなご大層なもんじゃないから。単なる結果オーライでしかないからな」

 変に買いかぶられるのは勘弁して欲しい。

 だが、褒め殺しかと思われるような賛辞の嵐は延々と続くのであった。

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