異世界召喚 ~依頼されたのは魔王討伐ではなく……~

オフィス景

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58 フラグを立ててはいけません 2

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 音はゆっくり近づいてくる。

 ヤバい気配が強まる一方なんですけど……

「ガンテスさん、十分取れた?」

「お、おう」

「それじゃあいつでも行けるように逃げる準備よろしく」

「わかった」

 ガンテスさんもヤバい気配は感じていたらしく、素直に撤収に取りかかった。

 撤収が間に合えばよかったのだが、そう上手くはいかず、準備が整う前に魔物が姿を現した。

「うわ……」

「げ……」

 揃って言葉を失う。

 …やべえ……勝てる気がしねえ……

 現れたのは巨大な白蛇だった。

 大蛇なんて言葉では到底追いつかない、対峙するだけで己の無力を思い知らされる圧倒的な存在。

 俺のことくらい軽く一呑みにしそうだよな…蛇に丸呑みにされるって……もうちょいましな死に方したかったな……

 それでも、何とかして他のメンバーーー特にシルヴィアは絶対に逃がさねえと。

 涸れ尽くしそうな勇気を振り絞って、一歩前に出る。

 同時に蛇の前進が止まった。

 その距離およそ十メートル。ヤツにしてみれば一瞬で詰められる距離なんだろう。

 蛇と目が合った。知性を感じたのは気のせいか、話が通じればという願望か。

 しばし睨み合いが続く。

 目を逸らしたら負け。その瞬間に食われる、と覚悟し、全てを眼力に注ぎ込んだ。

「皆、静かに、ゆっくり下がってくれ」

「ど、どうするの?」

「睨み合ってる間は動かなそうだから、その間に逃げろ」

「そ、そんなことしたら、コータローはどうなっちゃうのよ」

「皆が逃げたの確認したらソッコーで逃げるさ」

「ムリよ!」

 シルヴィアの声は悲鳴に近かった。

「シルヴィア、声抑えて。ヤツを刺激したくない」

「だって……」

「いいから、早く行ってくれ。こうしてるのが結構キツい」

「でも……」

「駄々こねんな。俺の足の早さは知ってるだろ。逃げる時におまえがいると、足手まといなんだよ!」

 心を鬼にして、厳しく言い放つ。

「!?」

 シルヴィアが息を呑む気配が伝わる。

 ごめん、シルヴィア。いろんな意味でごめん。

「…コータロー、必ず帰ってきてね。わたしの手料理、美味しいの作るから」

 …それもまたフラグみたいなもんなんだけど……

 知らぬこととはいえ、フラグを立てられる側としては、結構キツい。

 まあ、どちらにしても結果は変わらないんだろうけどな。

 最後にもう一度シルヴィアの顔を見ておきたかったけど、それも叶いそうにない。

「カズサさん、すぐに追いつきますけど、シルヴィアのこと、頼みます」

「わかった。なるべく早くね」

「了解です」

「シルヴィア、行くよ」

「気をつけてね。怪我ならすぐ治せるようにスタンバイしてるから」

「おう、頼むな」

 シルヴィアを含めて、一行は慎重に後退していく。

 幸い蛇に動く気配はない。

 そのままだぞ。後もう少しそのままでいてくれ。

 十分に時間をかけて、皆の気配が感じられなくなったところで、大きく息を吐いた。

 脳裏にシルヴィアを思い浮かべる。

 ありがとう。それから、ゴメン。

 今のおまえならいくらでも男を選べるはずだから、俺のことは忘れて、いい男を見つけてくれ。 

 むちゃくちゃ悲しかったが仕方ない。これで自分まで見逃してくれると思うほどおめでたくもない。

 深呼吸。

「いくぞ、おらあああぁっ!」
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