異世界召喚 ～依頼されたのは魔王討伐ではなく……～

142 後先は考えようぜ

「判決ーー無罪」

　ブライト王子はあっさり言ったが、それでは納得できるわけがない。

「だから、それじゃ駄目なんだって」

「俺がいいって言ってるんだからいいじゃん。結果オーライだろ」

「結果オーライを認めちまったら、そのうちこいつら目的のためには手段を選ばなくなるぞ」

「…頑固だね、おまえも」

　ブライト王子が苦笑するが、ここは譲れない。

　ちらりと土下座したままの二人に目をやって、王子は小さなため息をついた。

「本当に俺は気にしてねえんだけどなあ……」

　実際そうなんだろうけど、それじゃあこいつらのためにはならん。

「わかった。じゃあ自分でケジメつけることにする」

「…おい、何する気だ？」

「元いた世界のごく一部の人たちの間の風習なんだけどな、失敗した時に指を詰めて詫びるってのがあるんだ」

「待て待て待て！」

　王子の声が裏返る。

「本人がいいって言ってるのに、何でそんな話になるんだ!?」

「無理を言って悪いとは思うんだが、このままお咎めなしになったら、俺が二人を許せない」

「だからって何でおまえが指を詰めるなんて話になるんだ？」

「二人の場合、自分が罰を受けるより、こうした方が堪えそうだからな」

　二人とも驚いて上げた顔が真っ青になっている。

「あー、もう、わかったよ」

　ブライト王子は匙を投げる感じで言った。

「本当にどんな罰でもいいんだな？」

「もちろん」

「これだけ困らされたからな。少し嫌がらせしてやる。効果的なのを思いついたぞ」

　ニヤリと笑った王子はもったいぶらずにズバリと言った。

「十日間、身体的接触を禁じるーー指一本でも触れたら駄目だぞ」

　なるほど、そう来たか。確かに効果的な嫌がらせだ。俺も地味にツラい。

「わかったーーおまえたちもそれでいいな」

「「はい」」

　二人も神妙な表情で頷いた。

「じゃあこの話はこれで終わりでいいなーーそうしたら、これからの話だ」

　ブライト王子は表情を改めた。

「おかげでローザと結婚できることになった。本当にありがとう」

「もう本決まりなのか？   王様たちの許可は取れたのか？」

　王族の結婚は自分たちの意思だけで決められるものではない。国際及び国内情勢に大きく影響される。

「この人と結婚したい」

「いいよー」

　というわけにはいかないのだ。

　そのことを訊くと、王子は渋い顔になった。

「それがまだなんだ……」

「大丈夫か？」

「……」

　眉間に皺が寄った。

　おいおい……プロポーズするんなら、ちゃんと壕は埋めとけよ。

　オルタナは決して大国ではない。そんな中で王族の結婚は、他国とよしみを結ぶチャンスである。

　娘のミネルヴァが俺に嫁いだため、残るカードはブライト王子ただ一枚。何としても有効に使いたいところだろう。

　そこへもってきて侍女と結婚したいなどと言えば、反対の嵐が吹き荒れるのは目に見えている。

　当たって砕けるわけにはいかないので、何か策を練る必要がある。

　その時ーー

「あの、ちょっといいですか？」

　遠慮がちに手を挙げたのは、シルヴィアだった。