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144 やさぐれたくはないけれど……

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 話によると、イリスさんの周りは結婚ラッシュらしい。親戚、友人、先輩、後輩ーー十組以上の新婚カップルが生まれたそうだ。

 自分の知らないところでの話ならここまでやさぐれることもなかったはずだが、揃いも揃ってイリスさんに相談を持ちかけてきたらしい。

 曰く、自分たちもああいう結婚式を挙げたい。ついては色々教えて欲しい、と。

 自慢みたいで心苦しいが、ああいう結婚式というのは俺とシルヴィアの結婚式だ。そう言ってもらえるのは嬉しい話だが、イリスさんのやさぐれっぷりを見ると、頬を緩めるわけにはいかなさそうだ。

 最初の内はイリスさんも快く話に応じ、自分の知る限りの情報を提供していたそうなのだが、噂が噂を呼び、次々と話が舞い込むようになったそうだ。

 で、ある時ふと我に返ってしまったーー人のことばかりで、自分は置き去りになってしまっているのではないか、ということのようだ。

「それは…何と言っていいか……」

 原因というか、責任の一端が自分にもあるような気がしていたたまれなくなる。

「そんなことないですよ。気にしないでくださいーーそれより、そちらの可愛らしい方を紹介してくださいよ」

「あ、ああ。二人目の嫁のミネルヴァです。オルタナの王女で、シルヴィアと同じ呪いをかけられてたんですよ」

「はじめまして。ミネルヴァです。イリスさんのことは二人からよく聞いてます」

 ここでまだやさぐれられたら困るところだったが、さすがにそれはなかった。

「シルヴィア様と同じ呪いが…それは大変でしたね」

 苦労を一番近くで見てきたイリスさんだから、言葉にも気持ちがこもる。

「でも、今だから言えることだけど、そのおかげでコータロー様に会えたんだから、悪いことばかりじゃなかったのかしら?」

「それだけで全部にお釣りがくるんですけどね」

 幸せいっぱいの表情に、イリスさんの雰囲気も和んだみたいだ。

「それは何よりですねーーところで、今日は突然どうされたんですか?」

「ああ、そのことだけどーー」

 イリスさんにここに来た目的を説明した。ブライト王子とローザさんの事情は割愛して、来る魔王復活の際にスムーズに共闘体制を築けるようにしておきたいと説明する。

「わかりました。それでは場所を設定いたします。さすがに今すぐは無理なので、少し時間をいただきますね」

「よろしくお願いします」

「承知しましたーーあ、ルミさんやジャックさんのところにも顔出してあげてくださいね。喜ぶと思うので」

「了解です」

 イリスさんに後を託して、俺たちは旧交を温めるために街に出た。

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