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57 絶対絶命
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生きた心地がしないとはこのことか、とケントは恐怖に震えていた。
サイクロプスロードとミノタウロスの戦いはいまだに続いている。
何度か離脱を試み、八割方は戦場を離れられたのだが、ケントとフローリアはまだそれを果たせずにいた。
二人が脱出しようとする方向に必ずどちらかが吹っ飛んで来るのだ。もう何度下敷きになりかけたかわからない。
「嫌がらせか!?」
そんなはずはないのだが、文句を言いたくなるのもわからなくはない現状であった。
このまま嵐の過ぎ去るのを待つという選択肢もあるにはある。が、それはかなり分の悪い賭けになる。生き残った方がこちらを見逃してくれるとは限らないのだ。
「こうなったら初志貫徹するしかない」
何度目かの脱出に失敗したところでケントは腹を括った。
「初志貫徹?」
「生き残った方を倒す。この分なら、どちらが生き残るにせよ、無傷ってことはなさそうだからな」
サイクロプスロードとミノタウロスの戦いは熾烈を極めており、勝敗がどう転ぶかはまったく読めなかった。
「相討ちになってくれれば一番いいんだけど」
しかし、そうそう都合の良い展開はあり得ず、サイクロプスロードがミノタウロスを圧倒し始める。
「頑張れ、ミノタウロス!」
ケントは結構真剣に応援したのだが、一度傾いた天秤は元に戻ることなく、サイクロプスロードが勝利を収めた。
「こいつは厳しいか……」
サイクロプスロードもかなりのダメージを受けているように見えるが、それでも到底勝てるとは思えなかった。
ただ、幸いなことにサイクロプスロードはケントたちには見向きもしなかった。
存在自体を忘れたのか、ただ単に興味がなかったのか、実際のところはわからなかった。が、もしかしたらこのまま息をひそめていればやり過ごせるかも、という希望は持てた。
ケントとフローリアは頷き合い、可能な限り存在感を薄くした。見つからないようにと祈りつつ身を寄せ合う。
勝者であるサイクロプスロードは、獲物であるミノタウロスを貪り食い始めた。
「う……」
それは正視に耐えぬ光景であり、立ち込める血の臭いと共に二人の正気を揺さぶった。
下手をすれば自分たちもミノタウロスのように食われてしまうーーそう思ったら震えが止まらなくなった。
そして、この緊張に耐えられなくなったフローリアはヤケクソの特攻を決意した。
「このまま食われるくらいなら、せめて一太刀」
「待て待て。慌てんな」
ケントはフローリアを抱きしめて止めた。
「ヤケになるのはまだ早いって」
「でもーー」
「いいから」
ケントがそう言った時だった。
サイクロプスロードが食事の手を止めて、訝しげに上を見上げた。
「ーー何だ?」
様子に気づいたケントもあたりを見回した。
そんな中、最初にそれに気づいたのはフローリアだった。
「ーーこれ、何の音?」
「音?」
耳を澄ましてみると、かすかに地鳴りのような音が聞こえてきた。
「地鳴り?」
認識すると同時に、凄まじく嫌な予感が膨れ上がる。
ヤバい!
気づいた時には手遅れだった。
急速に大きくなった音と共に大地に地割れが走った。
「!?」
逃げる間も悲鳴をあげる間もなかった。
大きく割れた大地は、その場のすべてを呑み込んだ。
サイクロプスロードとミノタウロスの戦いはいまだに続いている。
何度か離脱を試み、八割方は戦場を離れられたのだが、ケントとフローリアはまだそれを果たせずにいた。
二人が脱出しようとする方向に必ずどちらかが吹っ飛んで来るのだ。もう何度下敷きになりかけたかわからない。
「嫌がらせか!?」
そんなはずはないのだが、文句を言いたくなるのもわからなくはない現状であった。
このまま嵐の過ぎ去るのを待つという選択肢もあるにはある。が、それはかなり分の悪い賭けになる。生き残った方がこちらを見逃してくれるとは限らないのだ。
「こうなったら初志貫徹するしかない」
何度目かの脱出に失敗したところでケントは腹を括った。
「初志貫徹?」
「生き残った方を倒す。この分なら、どちらが生き残るにせよ、無傷ってことはなさそうだからな」
サイクロプスロードとミノタウロスの戦いは熾烈を極めており、勝敗がどう転ぶかはまったく読めなかった。
「相討ちになってくれれば一番いいんだけど」
しかし、そうそう都合の良い展開はあり得ず、サイクロプスロードがミノタウロスを圧倒し始める。
「頑張れ、ミノタウロス!」
ケントは結構真剣に応援したのだが、一度傾いた天秤は元に戻ることなく、サイクロプスロードが勝利を収めた。
「こいつは厳しいか……」
サイクロプスロードもかなりのダメージを受けているように見えるが、それでも到底勝てるとは思えなかった。
ただ、幸いなことにサイクロプスロードはケントたちには見向きもしなかった。
存在自体を忘れたのか、ただ単に興味がなかったのか、実際のところはわからなかった。が、もしかしたらこのまま息をひそめていればやり過ごせるかも、という希望は持てた。
ケントとフローリアは頷き合い、可能な限り存在感を薄くした。見つからないようにと祈りつつ身を寄せ合う。
勝者であるサイクロプスロードは、獲物であるミノタウロスを貪り食い始めた。
「う……」
それは正視に耐えぬ光景であり、立ち込める血の臭いと共に二人の正気を揺さぶった。
下手をすれば自分たちもミノタウロスのように食われてしまうーーそう思ったら震えが止まらなくなった。
そして、この緊張に耐えられなくなったフローリアはヤケクソの特攻を決意した。
「このまま食われるくらいなら、せめて一太刀」
「待て待て。慌てんな」
ケントはフローリアを抱きしめて止めた。
「ヤケになるのはまだ早いって」
「でもーー」
「いいから」
ケントがそう言った時だった。
サイクロプスロードが食事の手を止めて、訝しげに上を見上げた。
「ーー何だ?」
様子に気づいたケントもあたりを見回した。
そんな中、最初にそれに気づいたのはフローリアだった。
「ーーこれ、何の音?」
「音?」
耳を澄ましてみると、かすかに地鳴りのような音が聞こえてきた。
「地鳴り?」
認識すると同時に、凄まじく嫌な予感が膨れ上がる。
ヤバい!
気づいた時には手遅れだった。
急速に大きくなった音と共に大地に地割れが走った。
「!?」
逃げる間も悲鳴をあげる間もなかった。
大きく割れた大地は、その場のすべてを呑み込んだ。
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