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56 命あっての物種でしょ
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「どわっ!?」
危うく飛んできたものの下敷きになりそうだったケントは、ギリギリのところで身体を投げ出し、事なきを得た。
巨大な何かは地面でバウンドし、盛大な土埃を巻き上げつつ転がっていく。
「何だっ!?」
地面で二回転してから立ち上がったケントは、飛んできたものの正体を見て、腰を抜かしそうになった。
「牛!?」
だが、頭は確かに牛だったが、身体は人型に近かった。ただし、大きさは人間のサイズからはかけ離れ、三メートル以上あった。
「ーーまさか、ミノタウロス!?」
牛頭人身の魔物として有名なミノタウロスは迷宮の番人的なイメージがあったが、現実には自分たちの目の前にいる。
「こんな化け物まで……」
そしてミノタウロスを追って、吹っ飛ばした相手が姿を現した。
「…これが、サイクロプス……」
誰かが掠れた声で呟く。
一つ目の巨人ーーサイクロプスは圧倒的強者のオーラを纏い、その場に君臨した。
無理だ……
戦う前から白旗を挙げるのはケントの流儀に反することだったが、それが些事にしか思えないくらい、目の前にいるサイクロプスは格が違った。
何でこんなの相手に勝てるかもなんて思ったんだ?
サイクロプス討伐を決めた時の自分をぶん殴ってやりたいと思ったケントだったが、今更の話である。それよりも、フローリアとセイラだけでも逃がす算段をしなければならない。
「…違う……」
ゴライオが呆然とした様子で呟いた。
「違うって何が?」
「これはただのサイクロプスじゃない。俺が見たサイクロプスはここまで圧倒的じゃなかった……」
「それって……?」
「こいつは多分サイクロプスの進化型ーーサイクロプスロードだ」
「サイクロプスロード……」
そんなものがいるというのは一同揃って初耳だったが、事態解決の役にはこれっぽっちも立たなかった。
「フローリア、逃げる準備」
「一緒じゃなきゃ逃げないわよ」
間髪入れぬ返しに、ケントは苦笑した。自分の考えは完璧に読まれているらしい。
「そうは言ってもな……」
ケントが頭を抱えた時、吹っ飛ばされたミノタウロスが立ち上がった。まだ戦意を失ってはいないようで、怒りのオーラを纏ってサイクロプスロードに対峙する。
「これはチャンスかも」
ケントの呟きにフローリアは頷いた。
「ここで逃げれなきゃ終わるわね。早く逃げましょ」
フローリアとしては当然の思考だったのだが、ケントの頭はなぜかあさっての方向を向いていた。
「いや、そうじゃない」
「え?」
「ミノくんが頑張ってくれれば、サイクロプスロードもダメージを負うはずだ。そうすれば倒しやすくなる」
「何言ってんの!?」
フローリアは悲鳴をあげた。
「命あっての物種でしょ。こんな化物、逃げられるなら逃げなきゃダメよ」
「強いからこそだろ。まともにやってたら勝てっこねえんだから、このチャンスを逃すわけにはいかねえじゃんか」
「……」
フローリアにはケントの言葉がまったく理解できない。ここはどう考えても逃げの一手だろうと思うのだ。
そうこうするうちにサイクロプスロードとミノタウロスが激突した。その余波は大地を揺らし、全員まともに立っていることすらできなくなる。
こうなると、安全地帯などどこにもない。いつ巻き添えを食ってもおかしくなく、一度そうなったらちっぽけな人間の命などひとたまりもないだろう。
「…やっぱ逃げとくべきだったか……」
もう完全に手遅れだった。
危うく飛んできたものの下敷きになりそうだったケントは、ギリギリのところで身体を投げ出し、事なきを得た。
巨大な何かは地面でバウンドし、盛大な土埃を巻き上げつつ転がっていく。
「何だっ!?」
地面で二回転してから立ち上がったケントは、飛んできたものの正体を見て、腰を抜かしそうになった。
「牛!?」
だが、頭は確かに牛だったが、身体は人型に近かった。ただし、大きさは人間のサイズからはかけ離れ、三メートル以上あった。
「ーーまさか、ミノタウロス!?」
牛頭人身の魔物として有名なミノタウロスは迷宮の番人的なイメージがあったが、現実には自分たちの目の前にいる。
「こんな化け物まで……」
そしてミノタウロスを追って、吹っ飛ばした相手が姿を現した。
「…これが、サイクロプス……」
誰かが掠れた声で呟く。
一つ目の巨人ーーサイクロプスは圧倒的強者のオーラを纏い、その場に君臨した。
無理だ……
戦う前から白旗を挙げるのはケントの流儀に反することだったが、それが些事にしか思えないくらい、目の前にいるサイクロプスは格が違った。
何でこんなの相手に勝てるかもなんて思ったんだ?
サイクロプス討伐を決めた時の自分をぶん殴ってやりたいと思ったケントだったが、今更の話である。それよりも、フローリアとセイラだけでも逃がす算段をしなければならない。
「…違う……」
ゴライオが呆然とした様子で呟いた。
「違うって何が?」
「これはただのサイクロプスじゃない。俺が見たサイクロプスはここまで圧倒的じゃなかった……」
「それって……?」
「こいつは多分サイクロプスの進化型ーーサイクロプスロードだ」
「サイクロプスロード……」
そんなものがいるというのは一同揃って初耳だったが、事態解決の役にはこれっぽっちも立たなかった。
「フローリア、逃げる準備」
「一緒じゃなきゃ逃げないわよ」
間髪入れぬ返しに、ケントは苦笑した。自分の考えは完璧に読まれているらしい。
「そうは言ってもな……」
ケントが頭を抱えた時、吹っ飛ばされたミノタウロスが立ち上がった。まだ戦意を失ってはいないようで、怒りのオーラを纏ってサイクロプスロードに対峙する。
「これはチャンスかも」
ケントの呟きにフローリアは頷いた。
「ここで逃げれなきゃ終わるわね。早く逃げましょ」
フローリアとしては当然の思考だったのだが、ケントの頭はなぜかあさっての方向を向いていた。
「いや、そうじゃない」
「え?」
「ミノくんが頑張ってくれれば、サイクロプスロードもダメージを負うはずだ。そうすれば倒しやすくなる」
「何言ってんの!?」
フローリアは悲鳴をあげた。
「命あっての物種でしょ。こんな化物、逃げられるなら逃げなきゃダメよ」
「強いからこそだろ。まともにやってたら勝てっこねえんだから、このチャンスを逃すわけにはいかねえじゃんか」
「……」
フローリアにはケントの言葉がまったく理解できない。ここはどう考えても逃げの一手だろうと思うのだ。
そうこうするうちにサイクロプスロードとミノタウロスが激突した。その余波は大地を揺らし、全員まともに立っていることすらできなくなる。
こうなると、安全地帯などどこにもない。いつ巻き添えを食ってもおかしくなく、一度そうなったらちっぽけな人間の命などひとたまりもないだろう。
「…やっぱ逃げとくべきだったか……」
もう完全に手遅れだった。
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