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69 ケントの新発明

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「魔石がだいぶ溜まってきたな」

 辺境地帯の魔物の中には倒すと魔石をドロップするものがいる。

 魔石は文字通り魔力を帯びた石である。魔力を帯びていれば何か使い途があるかと集め始めたのだが、未だに利用法が確立されておらず、正直持て余し気味であった。

 あれやこれやと試行錯誤を繰り返す中で、ケントは二つの活用法に辿り着いた。

 まずひとつ目は魔石コンロ及び魔石オーブンの開発である。これはほぼアリサのために作ったものというか、都度新作の開発に時間を取られるのを避けるためという割りと切実な理由があった。

 これを贈られたアリサは、その使い勝手の良さに狂喜乱舞し、これまで以上に商品開発に注力していくようになる。

 また、これを商品化したところ、爆発的大ヒット商品となり、グリーンヒル王国の新たな財源へと育っていくことになるのだが、これはもう少し先の話となる。



 ドカッ。

 痛そうな音が響いた。

「姫様っ!?」

「大丈夫か?」

 セイラとケントが壁に激突したフローリアに駆け寄る。

「…いったぁーっ……」

 フローリアは形の整った鼻を押さえて苦呻をあげた。

「…狭いところで試すことじゃなかったわね……」

「すまん。俺がもっと気をつけなくちゃいけなかった」

「ううん。あたしも詳しい話を聞く前に先走っちゃったから」

「それは仕方ないですね。ケント様からの贈り物となれば姫様が舞い上がってしまうのは必然です」

「セイラ、変なこと言わないで」

「何を今更」

 怒られてもセイラは意に介さない。言葉の通り、今更過ぎる話である。

「で、どうだった?」

「ビックリしたわ」

 少し赤くなった鼻に手をやりながらフローリアは言った。

「普通に駆け出しただけのつもりだったのに、気がついたら壁に激突してたんだもん」

「じゃあとりあえず実験は成功だな」

「そうね。色々と検証は必要だけど、画期的な一歩だと思うわ」

「それってあたしでも大丈夫なんですか?」

 セイラが期待に満ちた目をケントに向ける。

「一緒に試してみよう。はいこれ」

 ケントは魔石をあしらったペンダントをセイラに渡した。フローリアのペンダントには緑色の魔石がついていたが、セイラのそれは黄色だった。

「姫様のとは色が違いますね。これにはどんな効果があるんですか?」 

「雷です」

「…雷、ですか……」

 セイラはわずかに眉をひそめた。

「ああ、なるほどね」

 何故か納得顔を見せたのはフローリアだった。

「姫様、どういう意味ですか」

「いや、ケントはよく見てるなーって思ったの。あたしのは風の属性だったでしょ。特性を見て選んでくれたって言ってたから、セイラのもそうなんだろうなって思っただけよ」

 ニヤニヤが止まらない様子のフローリアにセイラは淡々と告げる。

「…よくわかりました。試し撃ちの際には十分お気をつけ下さいませ。何分初めてのことなので、もしかしたら狙いがずれてしまうかもしれませんので」

 こういう台詞は静かに言われた方が怖い。フローリアの顔もひきつった。

「や、やあねぇ。ほんの冗談じゃない」

 それに対してセイラは穏やかな微笑だけを返した。

 怖っ!?

 そう思ったケントだったが、賢明にも何も口には出さなかった。

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