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22 二人無双
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「殿下、実戦経験はどの程度おありですか?」
「それほどないです。冒険者の連中に言わせると、かろうじてC級ということらしいです」
何度か討伐に参加したりと腕を磨いてきたケントだったが、やっと人並みレベルに到達したところでしかなかった。
「了解しました。では、なるべくわたしたちから離れないようにしてください」
え? それ、俺が言われちゃうの? どっちかと言えば、俺が言いたい台詞だよね……
男のプライドをへし折られて、ケントはがっくりと肩を落とした。
もしかして、俺、いない方がいいのか? でも、ただ戦場に放り出すなんて無責任な真似できねえし…
自分がいることでフローリアが無茶をしなくなればいいかと割りきって、ケントは出撃を決めた。
直ちに装備を整え、他の冒険者たちとともに門を出ていく。
「頼むよ」
「頑張って!」
「気をつけてね」
一般市民の激励に応えながら出撃していく冒険者の中にあって、フローリアとセイラは一際目立っていた。その美貌と凛とした立ち姿は神々しさすら感じさせ、皇女将軍と呼ばれるカリスマ性を示す形になっていた。
「誰だい、あの別嬪さんは」
「王子のお連れさんらしいよ。ほら、後ろにくっついてる」
「本当だーーでも、あの姿見てると、王子の方がお付きの人みたいだね」
「やかましい、聞こえてるぞ!」
笑いが起き、緊迫した空気が緩む。
「王子、頑張っておくれよ」
「無事に帰ったら、いい娘を紹介してあげるからね」
「ほっといてくれ!」
そんなやり取りの後、門から出たところでフローリアは堪えきれなくなり、クスクス笑った。
「愛されてますね」
「どこが? ナメられてるんだよ」
ケントは憮然としている。
「そんなことはないさ。これで万が一のことがあったら、わたしは袋叩きに遭うだろうな」
フローリアは羨ましそうに言った。
「姫様だって愛されてますよ」
「気休めはいいよ。自分のことは自分が一番わかっているから」
「そう言う人に限ってわかっていなかったりするんですよね」
セイラは肩をすくめて微苦笑した。
「姫様は人前であんまり笑わないですからね。どうしても相手はかしこまっちゃいますけど、愛されていないわけじゃないですよ。むしろ騎士や兵たちの中には、姫様のためなら我が身を投げ出すのも厭わない、という者は大勢いますよ」
「ああ、それ、わかる気がする」
ケントは大きく頷いた。
「そんなことないですよ。からかわないでください」
「本気でそう思うんだけどなーーっと、ぼちぼち切り替えよう」
戦場の喚声、剣戟が近づいてきた。
「結構な数がいますね」
「少し押され気味のようです。行きましょう!」
周りの冒険者とともに戦場に突入していく。
自分で強いと豪語するだけあって、フローリアとセイラは圧倒的な力を見せた。
個々での戦闘力も並の冒険者などまるで寄せ付けないレベルなのだが、特筆すべきは二人のコンビネーションだった。
四方を囲まれた状況下での戦闘の場合、一人では死角が多くなりすぎる。しかし、互いを認めあった二人が背中を預けあえば、死角はないに等しくなる。
そして、二人のコンビネーションは守りのみならず攻めにおいても力を発揮したーーと言うより、攻めにこそ本領があった。
オーク、ゴブリン、オーガまでいる魔物の群れの中を何の障害もないかのように突き進んでいく。
「美味しいお肉になりなさい!」
苦笑するしかないような声とともに一際大きなオークが一刀で切り捨てられる。
そんな光景が続けて繰り広げられられると、魔物のわずかな知能でも自分たちが捕食対象であることを理解したらしい。一匹、また一匹と逃げ出す魔物が出始めた。
「す、すげえ……」
近くにいた誰かの呟きが、ケントを我に返した。
「二人に手柄を独占させていいのか!? フロントの冒険者の力、見せてみろ!」
「「おう!!」」
檄に応じた冒険者たちが攻勢に転じる。
一度勢いに乗れば、後は簡単だった。ほどなくして魔物は全て駆逐された。
大勢が決まったあたりで剣を引いたフローリアとセイラは、ケントの側に戻って来ていた。
「ありがとうございました。助かりました」
ケントは深々と頭を下げた。
二人がいなくても最後には勝てたはずだが、これほど少ない被害で済んだのは、間違いなくフローリアとセイラのおかげだった。ケント的にはいくら頭を下げても下げすぎということはなかった。
「いえ、こちらもいい勉強をさせていただきました」
フローリアはにこやかに答えた。
そう言われて、心当たりのなかったケントは首を傾げた。
「そんな風に言ってもらえるようなところ、ありましたか?」
「冒険者の皆さんの反応の早さは素晴らしかったと思います。下手な軍隊より遥かに上だと思います」
「そう言ってもらえるのはありがたいですね」
ケントは面映ゆそうに笑った。
「それに、冒険者が自分たちの街を守るんだという意識を強く持っているのもすごいことだと思います。これなら駐留軍なんて必要ないですもんね」
さすがに為政者だけあって、フローリアは肝の部分を見逃さなかった。このやり方を確立できれば、国家運営において最も頭の痛い問題であるコスト管理に大きく寄与できると気づいたのだ。
「ぜひ我が国でも取り入れていきたいと思うので、色々教えていただけますか?」
「もちろん」
ケントには隠そうという気はこれっぽっちもなかったので、フローリアは求める情報を手に入れることができたのであった。
「それほどないです。冒険者の連中に言わせると、かろうじてC級ということらしいです」
何度か討伐に参加したりと腕を磨いてきたケントだったが、やっと人並みレベルに到達したところでしかなかった。
「了解しました。では、なるべくわたしたちから離れないようにしてください」
え? それ、俺が言われちゃうの? どっちかと言えば、俺が言いたい台詞だよね……
男のプライドをへし折られて、ケントはがっくりと肩を落とした。
もしかして、俺、いない方がいいのか? でも、ただ戦場に放り出すなんて無責任な真似できねえし…
自分がいることでフローリアが無茶をしなくなればいいかと割りきって、ケントは出撃を決めた。
直ちに装備を整え、他の冒険者たちとともに門を出ていく。
「頼むよ」
「頑張って!」
「気をつけてね」
一般市民の激励に応えながら出撃していく冒険者の中にあって、フローリアとセイラは一際目立っていた。その美貌と凛とした立ち姿は神々しさすら感じさせ、皇女将軍と呼ばれるカリスマ性を示す形になっていた。
「誰だい、あの別嬪さんは」
「王子のお連れさんらしいよ。ほら、後ろにくっついてる」
「本当だーーでも、あの姿見てると、王子の方がお付きの人みたいだね」
「やかましい、聞こえてるぞ!」
笑いが起き、緊迫した空気が緩む。
「王子、頑張っておくれよ」
「無事に帰ったら、いい娘を紹介してあげるからね」
「ほっといてくれ!」
そんなやり取りの後、門から出たところでフローリアは堪えきれなくなり、クスクス笑った。
「愛されてますね」
「どこが? ナメられてるんだよ」
ケントは憮然としている。
「そんなことはないさ。これで万が一のことがあったら、わたしは袋叩きに遭うだろうな」
フローリアは羨ましそうに言った。
「姫様だって愛されてますよ」
「気休めはいいよ。自分のことは自分が一番わかっているから」
「そう言う人に限ってわかっていなかったりするんですよね」
セイラは肩をすくめて微苦笑した。
「姫様は人前であんまり笑わないですからね。どうしても相手はかしこまっちゃいますけど、愛されていないわけじゃないですよ。むしろ騎士や兵たちの中には、姫様のためなら我が身を投げ出すのも厭わない、という者は大勢いますよ」
「ああ、それ、わかる気がする」
ケントは大きく頷いた。
「そんなことないですよ。からかわないでください」
「本気でそう思うんだけどなーーっと、ぼちぼち切り替えよう」
戦場の喚声、剣戟が近づいてきた。
「結構な数がいますね」
「少し押され気味のようです。行きましょう!」
周りの冒険者とともに戦場に突入していく。
自分で強いと豪語するだけあって、フローリアとセイラは圧倒的な力を見せた。
個々での戦闘力も並の冒険者などまるで寄せ付けないレベルなのだが、特筆すべきは二人のコンビネーションだった。
四方を囲まれた状況下での戦闘の場合、一人では死角が多くなりすぎる。しかし、互いを認めあった二人が背中を預けあえば、死角はないに等しくなる。
そして、二人のコンビネーションは守りのみならず攻めにおいても力を発揮したーーと言うより、攻めにこそ本領があった。
オーク、ゴブリン、オーガまでいる魔物の群れの中を何の障害もないかのように突き進んでいく。
「美味しいお肉になりなさい!」
苦笑するしかないような声とともに一際大きなオークが一刀で切り捨てられる。
そんな光景が続けて繰り広げられられると、魔物のわずかな知能でも自分たちが捕食対象であることを理解したらしい。一匹、また一匹と逃げ出す魔物が出始めた。
「す、すげえ……」
近くにいた誰かの呟きが、ケントを我に返した。
「二人に手柄を独占させていいのか!? フロントの冒険者の力、見せてみろ!」
「「おう!!」」
檄に応じた冒険者たちが攻勢に転じる。
一度勢いに乗れば、後は簡単だった。ほどなくして魔物は全て駆逐された。
大勢が決まったあたりで剣を引いたフローリアとセイラは、ケントの側に戻って来ていた。
「ありがとうございました。助かりました」
ケントは深々と頭を下げた。
二人がいなくても最後には勝てたはずだが、これほど少ない被害で済んだのは、間違いなくフローリアとセイラのおかげだった。ケント的にはいくら頭を下げても下げすぎということはなかった。
「いえ、こちらもいい勉強をさせていただきました」
フローリアはにこやかに答えた。
そう言われて、心当たりのなかったケントは首を傾げた。
「そんな風に言ってもらえるようなところ、ありましたか?」
「冒険者の皆さんの反応の早さは素晴らしかったと思います。下手な軍隊より遥かに上だと思います」
「そう言ってもらえるのはありがたいですね」
ケントは面映ゆそうに笑った。
「それに、冒険者が自分たちの街を守るんだという意識を強く持っているのもすごいことだと思います。これなら駐留軍なんて必要ないですもんね」
さすがに為政者だけあって、フローリアは肝の部分を見逃さなかった。このやり方を確立できれば、国家運営において最も頭の痛い問題であるコスト管理に大きく寄与できると気づいたのだ。
「ぜひ我が国でも取り入れていきたいと思うので、色々教えていただけますか?」
「もちろん」
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