婚約破棄 ~ガチでやられると結構キツい~

オフィス景

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23 セイラの親衛隊?

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「うん、あれはすごかった」

「だな。戦場に女神が舞い降りたのかと思った」

 冒険者たちが口々に褒めそやす。

 その対象はーーセイラだった。

 任務を完遂した冒険者たちが街に戻ると、先触れによって勝利を知った市民たちが宴を準備してくれていた。

 それぞれ馴染みの者を見つけては順次宴会に突入していく中、ケントをはじめとする主だったメンバーはギルドに集まってきていた。

 程好く酒が回ったあたりで一部の冒険者からセイラを礼賛する声が上がり始めた。それはあっという間に全体に広がったのだが、なぜか皆セイラばかりを褒め、フローリアには言及しようとしない。

「皆さん、お待ちください。活躍してないなどと的はずれな謙遜をする気はありませんが、戦ったのはわたしだけではありませんよ」

 暗にフローリアを褒めろと言ったわけだが、冒険者たちは人の悪い笑みで答えた。

「だってなぁ」

「そうそう」

「姫さんは俺たち百人に褒められるよりも、そこにいるヘタレ王子一人に褒められた方が嬉しいだろ?」

「なるほど」

 セイラは一発で納得した。

「ヘタレ王子は人目があるとダメっぽいので、皆さん向こうへ行きましょう。そこで存分に褒め称えてください」

 悪戯っぽく言って、セイラと愉快な仲間たちは移動していった。

「あ、お、おいーー」

 後に残されたケントとフローリアは、お互いに意識過剰で、ギクシャクした空気しか醸し出せない。

「ええい、じれったいな」

「バシッといけ!」

「本気でヘタレだな、王子」

 周囲大注目なのだが、当人たちは自分のことでいっぱいいっぱいのため、注目されていることには気づいていない。気づいていたら更にギクシャクしていたはずなので、これは良かったと言うべきだろう。

 しばしの沈黙の後、先に口を開いたのはフローリアだった。

「…あの、わたし、怖かったですよね……」

 ケントの無言を悪い方に解釈したフローリアが変なことを言い出した。

「へ?」

 予想外のことを言われて、ケントは間抜け面を晒してしまう。

「ダメなんです、わたし。戦いになると我を忘れちゃって…男の人から見たら、ああいうの、嫌ですよね?」

 ヤバい。

 ケントは焦った。

 何でフローリアにこんな顔させてんだ。バカか、俺!

「んなことないよ!」

 ケントは思い切り力んで言った。フローリアが本気でへこんでいるのがわかったので、それ以上の本気で答えなければならなかった。

「怖いなんてこれっぽっちも思わなかった。むしろ、見とれちまうくらいカッコ良かった」

 まるで舞のような戦いぶりに目を奪われたのは事実である。

「本当ですか?   わたしに気を使ってそう言ってくれてるんじゃなくて?」

「本気でそう思ってるよ」

 ケントはきっぱり頷いた。

「可愛いだけの娘とか綺麗なだけの娘はいっぱいいるけど、カッコいい娘ってのはほとんどいないからね。フローリアにはそこを目指して欲しいかも」

「うん、わかった!」

 ついさっきまでの思い悩んだような顔から正反対の晴れやかな笑顔は、その場の全員を魅了した。

「可愛いし、健気じゃねえか」

「ヘタレ王子にゃもったいなくねえか!?」

「激しく同意する」

 外野が騒がしい。

「悔しくなんかないぞ。俺たちにはセイラ様がいる!」

「そうだそうだ」

「俺たちはセイラ様の親衛隊になる」

「「「おう!!」」」

「こいつら……」

 ケントは頭痛を覚えた。

「揃いも揃ってバカばっかりか」

「うるさい。おまえみたいな果報者には俺たちの気持ちはわからんだろう」

「そうだそうだ」

「ああ、もう勝手にーーってわけにもいかねえか。セイラさんの迷惑になってない?」

「迷惑、と言うか戸惑ってます。そんなこと言われたことがありませんので」

 少々曖昧な笑みをセイラは見せた。間違いなく本音なのだろう。どう対処すべきかわからないーーそんな感じだ。

「うらやましいわ、セイラ」

 フローリアはからかわれたお返しのつもりで言ったのだが、セイラの方がだいぶ上手だった。

「あら、それなら代わって差し上げましょうか?   ケント様、そういうことらしいのでよろしくお願いいたします」

「あ、ちょっと待って。今のなし」

 フローリアは慌てて発言を撤回する。せっかく良好な関係になりつつあるのに、自らそれをぶち壊してどうするというのか。

 大人なセイラはフローリアの謝罪を受けた上で、冒険者たちの話し相手になった。これには冒険者たちが大喜びで、たちまちセイラは取り囲まれて質問攻めに遭うことになった。

「セイラさんって、帝国に帰ったら、婚約者さんがいたりしないの?」

「あんまりそういうこと教えてくれないけど、わたしの知る限りはいませんね」

「それならいいか。問題にならないなら任せとこう」

 ケントがそう決めたところへ厨房から一人の料理人がやって来た。

「王子、頼まれてたやつ、いい感じになったけど」

「おう、ちょうどよかった。姫に出してあげてくれ」

「了解です」

「え、何ですか?」

「出てきてのお楽しみーーきっと気に入ってくれると思うよ」

 ケントは悪戯を企む子供のような笑顔で言った。

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