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8 棚ボタ

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「元気出しなさいよ」

 親友の励ましにも、美南は深いため息をつくばかりだった。

「気持ちはわかるけど、落ち込んでても何の解決にもならないわよ」

「それはそうなんだけど……」

 嘘をついたことに対する罪悪感がどうしても消えないのだ。みんなで力を合わせて乗り越えていかなければいけない時に自分だけが不誠実だという事実が、美南を落ち込ませていた。

 かといって、本当のことを告げる勇気もなく、美南の思考は無限ループに陥ってしまっていたのであった。

「うじうじしてたら、精神衛生的に良くないわね」

 由真は美南を部屋の外に連れ出した。外の空気を吸って気分転換させようとしたのだ。

「ごめんね。気を使わせちゃって」

「気にしないで。あたしが美南と同じ立場だったら、同じことしてるはずだから」

 にかっと笑ってから、由真はふと真面目な顔を見せた。

「でも、信用できる何人かには話しといた方がいいかもよ」

「そうね」

「青木くんはどう?   理解ありそうじゃない?   でも、男子相手じゃ言いにくいかな?」

「ちょっとね……」

「確かにそうなんだけど、話すとしたら彼しかいないと思うわよ。美南ちゃんが本当のこと言ってないのもわかってるわけだし」

「だよね……」

「そこは俺も聞いときたいかな」

「え?」

 振り返ると青木がいた。

「青木くん」

「昼間の様子が気になったんでね。ちょっと話を聞きたかったんだけど」

「…あ、うん……」

「かなり話しづらそうだから無理にとは言わないけど、俺にできることなら力になるよ」

 青木の口調も表情も真剣に美南を案じるものだったので、美南は打ち明ける覚悟を固めた。

「ーー聞いてくれる?」

「ああ」

 美南は自分のスキル、それをどういう形で使うのかを青木に説明した。

 口を挟むことなく最後まで話を聞いた青木は、全てを聞き終えたところでため息をついた。

「なるほどな。よくわかった」

 青木は同情的な視線で美南を見た。

「それは確かに言い辛いよな」

「ごめんなさい」

「大丈夫。怒ってないから。それと、秘密は守るから安心してくれ」

「いいの?」

「俺を信頼して話してくれたんだろーーそれならその期待には応えなきゃな」

 青木はそう言って笑ってみせた。

「あんたはホントにいい男だねえ」

 由真はしみじみ言った。

「なかなか高校生にこれは言えないよ。もしかして、青木くんの魂はおっさんだったりするのかな?」

「んなわけあるか」

 苦笑した青木に由真は特大の爆弾を投げつける。

「じゃあ美南ちゃんのことが好きなんだね」

「なーー!?」

 由真的には同じように「んなわけあるか」と返されると思ってのフリだったのだが、顔を赤くしての絶句は予想外の反応だった。

「ほほう」

 完全に棚ボタだが、大好物を見逃すはずがない。由真はがっぷり食いつくことにした。

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