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第9話:初めての善意と広がる噂
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森での平和な日々が続いていたある日、俺は薬草のストックが少なくなっていることに気づいた。
俺たちが使う分にはまだ余裕があるが、森の動物たちの中には、特定の薬草でないと効かない病気を持つ者もいる。
その薬草は、森の麓にある人間の村の近くでしか採れない種類のものだった。
少し迷ったが、人目を避けて夜のうちに行動すれば大丈夫だろうと判断し、俺は麓の村へと向かうことにした。
フェンリルには留守番を頼み、俺は一人、夜の森を静かに下っていった。
村に近づくと、一軒の家から、苦しそうな子供の咳と、母親のすすり泣く声が聞こえてきた。
気になって、【生態鑑定】を家の中に向けてみる。
すると、高熱にうなされる少女の姿と、その母親の悲痛な心の声が流れ込んできた。
『苦しみ:熱い……苦しいよ……』
『絶望:ああ、神様……この子を助けてください。お医者様にも見放されて、もうどうすることも……』
医者も見放した病。
俺は、かつてパーティを追放され、絶望の中で死を待つだけだった自分自身の姿を、その少女に重ねていた。
放っておけなかった。
俺はフードで顔を隠し、その家の扉をそっと叩いた。
出てきた母親は、見知らぬ男の訪問にひどく警戒していたが、俺は静かに言った。
「娘さんの病気、治せるかもしれません。これを飲ませてみてください」
そう言って、俺は懐から例の『月の雫』で作った奇跡のポーションを取り出し、母親に手渡した。
彼女は半信半疑だったが、藁にもすがる思いだったのだろう。俺からポーションを受け取ると、娘の元へと駆け寄った。
俺はその場を立ち去ろうとしたが、やはり結果が気になり、少し離れた場所から家の様子をうかがうことにした。
しばらくして、家の中から母親の驚きの声が聞こえてきた。
「あ……! 熱が……下がっているわ! 顔色も良くなって……!」
【生態鑑定】で再び少女の様子を見ると、先ほどまで真っ赤だった顔は穏やかな寝息を立てており、苦しそうな様子はどこにもなかった。
病は、嘘のように完治していたのだ。
よかった。
俺は心から安堵し、その場を静かに立ち去った。目的だった薬草を採集し、誰にも見つかることなく森へと戻った。
俺にとっては、ほんの少しの善意のつもりだった。
だが、この出来事は、俺が思っていた以上の大きな波紋を広げることになる。
数日後、麓の村では、奇跡の噂が駆け巡っていた。
「医者も見放した病気の娘が、謎の聖者が現れて一晩で治してくれたらしい!」
「その聖者は、辺境の森の方へ消えていったそうだ」
「森には、どんな病も治す奇跡の薬があるに違いない!」
噂に尾ひれがつき、瞬く間に近隣の街へと広まっていった。
俺が分け与えた一本のポーションが、俺自身に「森の聖者」という、身に覚えのない、しかし大げさな呼び名を与えることになるとは、この時の俺は知る由もなかった。
俺たちが使う分にはまだ余裕があるが、森の動物たちの中には、特定の薬草でないと効かない病気を持つ者もいる。
その薬草は、森の麓にある人間の村の近くでしか採れない種類のものだった。
少し迷ったが、人目を避けて夜のうちに行動すれば大丈夫だろうと判断し、俺は麓の村へと向かうことにした。
フェンリルには留守番を頼み、俺は一人、夜の森を静かに下っていった。
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気になって、【生態鑑定】を家の中に向けてみる。
すると、高熱にうなされる少女の姿と、その母親の悲痛な心の声が流れ込んできた。
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『絶望:ああ、神様……この子を助けてください。お医者様にも見放されて、もうどうすることも……』
医者も見放した病。
俺は、かつてパーティを追放され、絶望の中で死を待つだけだった自分自身の姿を、その少女に重ねていた。
放っておけなかった。
俺はフードで顔を隠し、その家の扉をそっと叩いた。
出てきた母親は、見知らぬ男の訪問にひどく警戒していたが、俺は静かに言った。
「娘さんの病気、治せるかもしれません。これを飲ませてみてください」
そう言って、俺は懐から例の『月の雫』で作った奇跡のポーションを取り出し、母親に手渡した。
彼女は半信半疑だったが、藁にもすがる思いだったのだろう。俺からポーションを受け取ると、娘の元へと駆け寄った。
俺はその場を立ち去ろうとしたが、やはり結果が気になり、少し離れた場所から家の様子をうかがうことにした。
しばらくして、家の中から母親の驚きの声が聞こえてきた。
「あ……! 熱が……下がっているわ! 顔色も良くなって……!」
【生態鑑定】で再び少女の様子を見ると、先ほどまで真っ赤だった顔は穏やかな寝息を立てており、苦しそうな様子はどこにもなかった。
病は、嘘のように完治していたのだ。
よかった。
俺は心から安堵し、その場を静かに立ち去った。目的だった薬草を採集し、誰にも見つかることなく森へと戻った。
俺にとっては、ほんの少しの善意のつもりだった。
だが、この出来事は、俺が思っていた以上の大きな波紋を広げることになる。
数日後、麓の村では、奇跡の噂が駆け巡っていた。
「医者も見放した病気の娘が、謎の聖者が現れて一晩で治してくれたらしい!」
「その聖者は、辺境の森の方へ消えていったそうだ」
「森には、どんな病も治す奇跡の薬があるに違いない!」
噂に尾ひれがつき、瞬く間に近隣の街へと広まっていった。
俺が分け与えた一本のポーションが、俺自身に「森の聖者」という、身に覚えのない、しかし大げさな呼び名を与えることになるとは、この時の俺は知る由もなかった。
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