「え、俺なんかしました?」無自覚チート《概念編集》で石ころを魔石に、なまくらを聖剣に書き換えて、国を追われた聖女様と世界を救う

黒崎隼人

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第一章「無自覚チート《概念編集》と訳あり聖女の逃避行」

第7話「概念編集の覚醒」

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 隠し通路の先は、薄暗くカビ臭い地下水路に繋がっていた。ルミナは慣れた様子で、壁の松明に火を灯し、先導してくれる。

「……助かった。ありがとう、ルミナ」

 息を整えながら、俺は彼女に礼を言った。

「お互い様よ。あなたがいなかったら、私も危なかった」

 ルミナはそう言うと、立ち止まって俺の持っている金属塊に目を向けた。

「カイ。あれは……一体どうやったの?」

 彼女の翠色の瞳が、まっすぐに俺を射抜く。もう、誤魔化しはきかないだろう。

「俺にも……よく分からないんだ。ただ、強く念じたら、石がこれに変わった」

 俺は正直に話した。ランタンを直した時のことも、グレイホーンに投げた石で短剣が砕けた(ように見えた)ことも。

 俺の話を黙って聞いていたルミナは、やがてぽつりと言った。

「……錬金術? いいえ、違う。もっと根源的な力……。まるで、世界の理に干渉しているみたい」

「世界の理……?」

「物質の『情報』そのものを書き換えている……。そんな馬鹿なことが、本当にできるのなら……それは、神の御業よ」

 神の御業。そんな大げさなものじゃないだろう。でも、彼女の言う「情報を書き換える」という表現は、しっくりきた。

 壊れたランタンを「新品」に。
 ただの石を「鋼のように硬い塊」に。
 頑丈な短剣を「脆い金属」に。

 俺がやったのは、まさにそういうことだ。

『これが、俺の力……《概念編集(リアライター)》とでも呼ぶべきか』

 心の中に、不思議な言葉が浮かんだ。なぜかは分からないが、それがこの能力の名前だと直感的に理解した。

「すごい力ね。でも、あなたはそれを今まで知らなかったの?」

「ああ。日本にいたときは、ただの普通の人間だった。こんな力、使ったこともない」

「……そう」

 ルミナは何か考え込むようにうつむいた。彼女の表情は、暗い松明の光に照らされて、どこか影を帯びて見える。

 しばらく無言で歩き続け、やがて俺たちは地上へと続く梯子を見つけた。マンホールのような蓋を開けて外に出ると、そこは町の外れにある、廃墟となった教会の裏手だった。どうやら、ルミナはこういう緊急用の脱出路をいくつか知っているらしい。

「町にはもう戻れないわ。あいつらに顔を見られた。ギルドにも迷惑がかかる」

 ルミナが、悔しそうに唇を噛む。

「俺のせいだ。俺が目立ったから……」

「違う。悪いのは、私を追ってくるあいつらよ」

 彼女はきっぱりと首を横に振った。

「俺、これからどうすれば……。ルミナは、どこか行くあてがあるのか?」

「……ええ。一つだけ。私の故郷……『聖樹の都 エルドラナ』。そこに行けば、私を守ってくれる人たちがいるはず。そして、あなたのその力のことも、何か分かるかもしれない」

「聖樹の都……」

 聞いたこともない地名だ。でも、今の俺たちにとって、そこが唯一の希望の場所なのかもしれない。

「カイ。あなたはどうする? ここで別れて、別の町でひっそり暮らすこともできる。今回のことは、ギルドを通じてリリスさんに伝えておくわ。あなたは巻き込まれただけだって」

 ルミナは、俺に選択肢を与えてくれた。彼女の優しさだろう。これ以上、俺を危険な道に引きずり込みたくないのかもしれない。

 でも。

「……行くよ。俺も、エルドラナに」

 俺は迷わず答えた。

「え?」

「ルミナを一人にはしておけない。それに、俺も知りたいんだ。この力のことを。俺が、なぜこの世界に来たのかを」

 それに、と俺は続ける。

「借金、まだ返してないしな」

 冗談めかして笑うと、ルミナは一瞬きょとんとした顔をして、それからふっと小さく笑った。彼女が笑ったのを、俺は初めて見たかもしれない。

「……そうね。しっかり返してもらわないと」

 その笑顔は、聖なる光のように、俺の心の不安を少しだけ照らしてくれた。

「よし、決まりだな! で、そのエルドラナってのは、どっちの方向なんだ?」

 俺が意気込んで尋ねると、ルミナは少し困ったように空を見上げた。

「……それが、ここからだと、かなり遠いわ。東にずっと……。途中の大森林を抜けなければいけない」

「大森林……。まあ、なんとかなるだろ! 俺のこの力があれば!」

 俺は手の中の金属塊を掲げて見せる。さっきまでの不安はどこへやら、根拠のない自信が湧いてきていた。

 この《概念編集》の力があれば、どんな困難も乗り越えられる。そんな気がしたのだ。

 もちろん、この時の俺は、この力がとんでもない厄介事を引き寄せる原因になることなど、知る由もなかったのだが。
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