39 / 87
第一章「無自覚チート《概念編集》と訳あり聖女の逃避行」
第6話「聖光と黒闇の激突」
しおりを挟む
「ルミナ、下がってろ!」
俺はルミナの前に飛び出し、黒装束の男たちと対峙した。手に武器はない。あるのは、ポケットの中の石ころだけだ。
「カイ!? あなた、何を……!」
背後からルミナの焦った声が聞こえる。
「何だ、貴様は。その女の護衛か? 見たところ、ただの一般人のようだが」
顔に傷のある男が、嘲るように言った。他の二人も、俺を虫けらでも見るような目で見ている。
「まあ、いい。邪魔するなら、まとめて消すまでだ」
傷の男が手を振ると、二人の部下が同時に動いた。一人は短剣を抜き放ち、もう一人は懐から何か黒い球体を取り出す。
『やるしかない!』
俺はポケットから石ころを取り出し、短剣を持った男に向かって全力で投げつけた。
「フン、小細工を」
男は鼻で笑い、短剣で石を弾き返そうとする。
キィン!
甲高い金属音が響き、石は男の短剣に弾かれてあらぬ方向へと飛んでいった。
『……だよな。うまくいくわけないか』
万事休す。そう思った、その時だった。
「なっ!?」
短剣の男が驚きの声を上げる。見ると、彼の持つ短剣に蜘蛛の巣のような亀裂が走り、次の瞬間、パラパラと金属の欠片となって砕け散ったのだ。
「俺の魔鋼の短剣が……!?」
男が呆然としている隙に、もう一人の男が黒い球体をこちらへ投げつけてくる。
「喰らえ! 暗黒弾(ダークボルト)!」
「させない!」
俺の後ろから、ルミナが叫ぶ。彼女の両手から放たれた光の壁が、俺たちの前に展開された。
ドガァン!
黒い球体が光の壁に激突して爆発し、衝撃で路地全体が揺れた。光の壁はなんとか持ちこたえたが、表面にはひびが入り、ルミナの顔色も少し悪い。魔力をかなり消耗したようだ。
「へぇ、さすがは聖女の末裔。だが、いつまで保つかな?」
傷の男が、面白そうに口の端を吊り上げる。
「くっ……!」
ルミナが再び光の壁を構築しようとするが、連発はきついようだ。光の輝きが先ほどよりも弱い。
まずい。このままではジリ貧だ。俺にできることはないのか。
『さっきの、石……。投げたんじゃなくて、触れたから短剣が壊れたのか?』
ランタンを直した時のことを思い出す。あの時も、俺はただ触れていただけだ。
『もしかして、この力は、触れたものの情報を書き換えるような……?』
「なまくらの剣」を「鋭い剣」に、じゃなくて、「頑丈な剣」を「脆い剣」に?
試してみる価値はある。
「ルミナ、少しだけ時間を稼いでくれ!」
「え? でも……!」
「いいから!」
俺の気迫に押されたのか、ルミナはこくりとうなずくと、残りの魔力を振り絞って牽制の光弾を放ち始めた。
その隙に、俺は地面に転がっている瓦礫――家の壁が崩れたものだろうか――に駆け寄った。
『頼む……!』
祈るような気持ちで、その瓦礫の破片に両手で触れる。そして、頭の中で強くイメージした。
『硬くなれ。鉄みたいに。いや、もっと……鋼みたいに硬くなれ!』
すると、あの時と同じ、ぐにゃりとした奇妙な感覚が手のひらから伝わってくる。石の質感が、みるみるうちに変わっていくのが分かった。ずしりとした重み。ひんやりとした金属の感触。
目を開けると、俺の手の中には、石ではなく黒光りする金属塊のようなものが握られていた。
「よし……!」
俺はそれを手に、再び黒装束たちの前に立つ。
「まだ何かするつもりか、小僧。往生際が悪いな」
傷の男が、今度は自ら前に出てくる。その手には、禍々しい紫色の光を放つ長剣が握られていた。
「終わりだ」
男が剣を振りかぶる。俺はとっさに、手に持った金属塊でそれを受け止めようとした。
ガキィィィィィンッ!!
耳をつんざくような金属音が響き、火花が散って俺の腕に凄まじい衝撃が走る。
「ぐっ……!」
だが、耐えられた。男の剣は、俺が持っている金属塊に阻まれてびくともしない。
「な……んだと……?」
信じられない、という表情で目を見開く傷の男。
「俺の魔剣を、ただの石塊で……いや、これは……オリハルコンか!? 馬鹿な、なぜ貴様のような奴が!」
男が動揺している。今がチャンスだ。
「うおおおおおっ!」
俺は渾身の力を込めて、金属塊を押し返した。男は体勢を崩し、大きく後ろへよろめく。
その隙を、ルミナが見逃すはずがなかった。
「はぁっ!」
彼女の最後の力を振り絞った光の矢が、体勢を崩した傷の男の肩を正確に貫いた。
「ぐああああっ!」
男が苦痛に叫び、その場に崩れ落ちる。
それを見た残りの二人は、一瞬顔を見合わせた後、リーダー格の男を放置して、あっという間に路地の闇へと消えていった。
静寂が戻る。残されたのは、肩を押さえてうめく傷の男と、息を切らしている俺たちだけだった。
「はぁ、はぁ……やった、のか?」
「ええ……なんとか……」
ルミナも肩で息をしている。二人で、なんとか追手を撃退したのだ。
安堵したのも束の間、遠くから衛兵たちの叫び声と、複数の足音が聞こえてきた。
「まずい、見つかる!」
ルミナが俺の腕を掴む。
「カイ、こっちよ!」
彼女は、俺たちが追い詰められた袋小路の壁の一部分に手を触れた。すると、壁の一部が幻のように揺らめき、向こう側への通路が現れる。隠し通路だ。
俺たちは衛兵たちが駆けつける寸前に、その通路へと滑り込み、町の喧騒から逃れるのだった。
俺はルミナの前に飛び出し、黒装束の男たちと対峙した。手に武器はない。あるのは、ポケットの中の石ころだけだ。
「カイ!? あなた、何を……!」
背後からルミナの焦った声が聞こえる。
「何だ、貴様は。その女の護衛か? 見たところ、ただの一般人のようだが」
顔に傷のある男が、嘲るように言った。他の二人も、俺を虫けらでも見るような目で見ている。
「まあ、いい。邪魔するなら、まとめて消すまでだ」
傷の男が手を振ると、二人の部下が同時に動いた。一人は短剣を抜き放ち、もう一人は懐から何か黒い球体を取り出す。
『やるしかない!』
俺はポケットから石ころを取り出し、短剣を持った男に向かって全力で投げつけた。
「フン、小細工を」
男は鼻で笑い、短剣で石を弾き返そうとする。
キィン!
甲高い金属音が響き、石は男の短剣に弾かれてあらぬ方向へと飛んでいった。
『……だよな。うまくいくわけないか』
万事休す。そう思った、その時だった。
「なっ!?」
短剣の男が驚きの声を上げる。見ると、彼の持つ短剣に蜘蛛の巣のような亀裂が走り、次の瞬間、パラパラと金属の欠片となって砕け散ったのだ。
「俺の魔鋼の短剣が……!?」
男が呆然としている隙に、もう一人の男が黒い球体をこちらへ投げつけてくる。
「喰らえ! 暗黒弾(ダークボルト)!」
「させない!」
俺の後ろから、ルミナが叫ぶ。彼女の両手から放たれた光の壁が、俺たちの前に展開された。
ドガァン!
黒い球体が光の壁に激突して爆発し、衝撃で路地全体が揺れた。光の壁はなんとか持ちこたえたが、表面にはひびが入り、ルミナの顔色も少し悪い。魔力をかなり消耗したようだ。
「へぇ、さすがは聖女の末裔。だが、いつまで保つかな?」
傷の男が、面白そうに口の端を吊り上げる。
「くっ……!」
ルミナが再び光の壁を構築しようとするが、連発はきついようだ。光の輝きが先ほどよりも弱い。
まずい。このままではジリ貧だ。俺にできることはないのか。
『さっきの、石……。投げたんじゃなくて、触れたから短剣が壊れたのか?』
ランタンを直した時のことを思い出す。あの時も、俺はただ触れていただけだ。
『もしかして、この力は、触れたものの情報を書き換えるような……?』
「なまくらの剣」を「鋭い剣」に、じゃなくて、「頑丈な剣」を「脆い剣」に?
試してみる価値はある。
「ルミナ、少しだけ時間を稼いでくれ!」
「え? でも……!」
「いいから!」
俺の気迫に押されたのか、ルミナはこくりとうなずくと、残りの魔力を振り絞って牽制の光弾を放ち始めた。
その隙に、俺は地面に転がっている瓦礫――家の壁が崩れたものだろうか――に駆け寄った。
『頼む……!』
祈るような気持ちで、その瓦礫の破片に両手で触れる。そして、頭の中で強くイメージした。
『硬くなれ。鉄みたいに。いや、もっと……鋼みたいに硬くなれ!』
すると、あの時と同じ、ぐにゃりとした奇妙な感覚が手のひらから伝わってくる。石の質感が、みるみるうちに変わっていくのが分かった。ずしりとした重み。ひんやりとした金属の感触。
目を開けると、俺の手の中には、石ではなく黒光りする金属塊のようなものが握られていた。
「よし……!」
俺はそれを手に、再び黒装束たちの前に立つ。
「まだ何かするつもりか、小僧。往生際が悪いな」
傷の男が、今度は自ら前に出てくる。その手には、禍々しい紫色の光を放つ長剣が握られていた。
「終わりだ」
男が剣を振りかぶる。俺はとっさに、手に持った金属塊でそれを受け止めようとした。
ガキィィィィィンッ!!
耳をつんざくような金属音が響き、火花が散って俺の腕に凄まじい衝撃が走る。
「ぐっ……!」
だが、耐えられた。男の剣は、俺が持っている金属塊に阻まれてびくともしない。
「な……んだと……?」
信じられない、という表情で目を見開く傷の男。
「俺の魔剣を、ただの石塊で……いや、これは……オリハルコンか!? 馬鹿な、なぜ貴様のような奴が!」
男が動揺している。今がチャンスだ。
「うおおおおおっ!」
俺は渾身の力を込めて、金属塊を押し返した。男は体勢を崩し、大きく後ろへよろめく。
その隙を、ルミナが見逃すはずがなかった。
「はぁっ!」
彼女の最後の力を振り絞った光の矢が、体勢を崩した傷の男の肩を正確に貫いた。
「ぐああああっ!」
男が苦痛に叫び、その場に崩れ落ちる。
それを見た残りの二人は、一瞬顔を見合わせた後、リーダー格の男を放置して、あっという間に路地の闇へと消えていった。
静寂が戻る。残されたのは、肩を押さえてうめく傷の男と、息を切らしている俺たちだけだった。
「はぁ、はぁ……やった、のか?」
「ええ……なんとか……」
ルミナも肩で息をしている。二人で、なんとか追手を撃退したのだ。
安堵したのも束の間、遠くから衛兵たちの叫び声と、複数の足音が聞こえてきた。
「まずい、見つかる!」
ルミナが俺の腕を掴む。
「カイ、こっちよ!」
彼女は、俺たちが追い詰められた袋小路の壁の一部分に手を触れた。すると、壁の一部が幻のように揺らめき、向こう側への通路が現れる。隠し通路だ。
俺たちは衛兵たちが駆けつける寸前に、その通路へと滑り込み、町の喧騒から逃れるのだった。
21
あなたにおすすめの小説
聖女なんかじゃありません!~異世界で介護始めたらなぜか伯爵様に愛でられてます~
トモモト ヨシユキ
ファンタジー
川で溺れていた猫を助けようとして飛び込屋敷に連れていかれる。それから私は、魔物と戦い手足を失った寝たきりの伯爵様の世話人になることに。気難しい伯爵様に手を焼きつつもQOLを上げるために努力する私。
そんな私に伯爵様の主治医がプロポーズしてきたりと、突然のモテ期が到来?
エブリスタ、小説家になろうにも掲載しています。
召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。
SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない?
その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。
ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。
せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。
こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。
本の知識で、らくらく異世界生活? 〜チート過ぎて、逆にヤバい……けど、とっても役に立つ!〜
あーもんど
ファンタジー
異世界でも、本を読みたい!
ミレイのそんな願いにより、生まれた“あらゆる文書を閲覧出来るタブレット”
ミレイとしては、『小説や漫画が読めればいい』くらいの感覚だったが、思ったよりチートみたいで?
異世界で知り合った仲間達の窮地を救うキッカケになったり、敵の情報が筒抜けになったりと大変優秀。
チートすぎるがゆえの弊害も多少あるものの、それを鑑みても一家に一台はほしい性能だ。
「────さてと、今日は何を読もうかな」
これはマイペースな主人公ミレイが、タブレット片手に異世界の暮らしを謳歌するお話。
◆小説家になろう様でも、公開中◆
◆恋愛要素は、ありません◆
召喚されたら聖女が二人!? 私はお呼びじゃないようなので好きに生きます
かずきりり
ファンタジー
旧題:召喚された二人の聖女~私はお呼びじゃないようなので好きに生きます~
【第14回ファンタジー小説大賞エントリー】
奨励賞受賞
●聖女編●
いきなり召喚された上に、ババァ発言。
挙句、偽聖女だと。
確かに女子高生の方が聖女らしいでしょう、そうでしょう。
だったら好きに生きさせてもらいます。
脱社畜!
ハッピースローライフ!
ご都合主義万歳!
ノリで生きて何が悪い!
●勇者編●
え?勇者?
うん?勇者?
そもそも召喚って何か知ってますか?
またやらかしたのかバカ王子ー!
●魔界編●
いきおくれって分かってるわー!
それよりも、クロを探しに魔界へ!
魔界という場所は……とてつもなかった
そしてクロはクロだった。
魔界でも見事になしてみせようスローライフ!
邪魔するなら排除します!
--------------
恋愛はスローペース
物事を組み立てる、という訓練のため三部作長編を予定しております。
神獣転生のはずが半神半人になれたので世界を歩き回って第二人生を楽しみます~
御峰。
ファンタジー
不遇な職場で働いていた神楽湊はリフレッシュのため山に登ったのだが、石に躓いてしまい転げ落ちて異世界転生を果たす事となった。
異世界転生を果たした神楽湊だったが…………朱雀の卵!? どうやら神獣に生まれ変わったようだ……。
前世で人だった記憶があり、新しい人生も人として行きたいと願った湊は、進化の選択肢から『半神半人(デミゴット)』を選択する。
神獣朱雀エインフェリアの息子として生まれた湊は、名前アルマを与えられ、妹クレアと弟ルークとともに育つ事となる。
朱雀との生活を楽しんでいたアルマだったが、母エインフェリアの死と「世界を見て回ってほしい」という頼みにより、妹弟と共に旅に出る事を決意する。
そうしてアルマは新しい第二の人生を歩き始めたのである。
究極スキル『道しるべ』を使い、地図を埋めつつ、色んな種族の街に行っては美味しいモノを食べたり、時には自然から採れたての素材で料理をしたりと自由を満喫しながらも、色んな事件に巻き込まれていくのであった。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~
よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】
多くの応援、本当にありがとうございます!
職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。
持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。
偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。
「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。
草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。
頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男――
年齢なんて関係ない。
五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!
転生したら無自覚に世界最強になっていた件。周りは僕を崇めるけど、僕自身は今日も日雇い仕事を探しています。
黒崎隼人
ファンタジー
トラックに轢かれ異世界に転生した元サラリーマンの星野悠。
彼に与えられたのは「異常な魔力」と「無自覚に魔術を使う能力」。
しかし自己評価が低すぎる悠は、自分のチート能力に全く気づかない。
「困っている人を助けたい」――その純粋な善意だけで、魔物を一撃で消滅させ、枯れた大地を蘇らせ、難病を癒してしまう。
周囲が驚愕し、彼を英雄と崇めても、本人は「たまたまです」「運が良かっただけ」と首を傾げるばかり。
これは、お人好しな青年が、無自覚なまま世界を救ってしまう、心温まる勘違いと奇跡の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる