「え、俺なんかしました?」無自覚チート《概念編集》で石ころを魔石に、なまくらを聖剣に書き換えて、国を追われた聖女様と世界を救う

黒崎隼人

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第一章「無自覚チート《概念編集》と訳あり聖女の逃避行」

第5話「黒装束の影と不穏な視線」

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 翌日から、俺の冒険者(という名の雑用係)生活が始まった。

 ルミナはCランクの冒険者らしく、時折一人で魔物討伐の依頼に出かけていく。その間、俺はギルドで紹介された雑用をこなす日々だ。町の掃除、倉庫の荷物整理、酒場の皿洗い。どれもこれも地味な仕事だが、生きるためには仕方がない。

 幸い、この世界の文字はなぜか普通に読めたし、言葉も通じる。おかげで、仕事にはすぐに慣れることができた。日当は安いが、少しずつルミナへの借金を返済し、自分の食い扶持くらいは稼げるようになってきた。

 そんな生活が、一週間ほど続いたある日のこと。

 その日、俺はギルドの依頼で、町の城壁の見張り台の修繕を手伝っていた。古い木材を運び、傷んだ箇所を新しいものと交換する単純作業だ。

「よし、カイ君、今日の分はこれで終わりだ! ご苦労さん!」

 作業を監督していたベテランの職人さんが、ねぎらいの言葉をかけてくれる。

「ありがとうございます!」

 汗を拭い、報酬の銅貨を受け取ってギルドに戻る途中だった。町の広場が、何やら騒がしい。人だかりの中心で、衛兵たちが誰かと揉めているようだった。

『なんだろう?』

 野次馬根性で人垣の隙間から覗き込むと、そこには全身を黒い装束で覆った、見るからに怪しい男たちが三人立っていた。フードを目深にかぶり、顔は見えない。ただ、その佇まいからは、尋常ではない圧が感じられる。

「我々はただ人を探しているだけだ。事を荒立てるつもりはない」

 黒装束の一人が、低く抑えた声で衛兵に告げる。

「リムベルの町で騒ぎを起こすことは許さん! 身分を明かせ!」

 衛兵長らしき男が剣の柄に手をかけ、鋭く言い放つ。一触即発の雰囲気だ。

『やばいことになってるな……』

 関わらないのが一番だ。そう思い、そっとその場を離れようとした、その時。

 黒装束の一人が、ふとこちらを向いた。フードの奥の視線が、確かに俺を捉えた気がした。いや、俺じゃない。俺の少し後ろにいた、誰かを。

 振り返る。そこには、買い物帰りだろうか、買い物かごを提げたルミナが、顔を青ざめさせて立ち尽くしていた。

 彼女の視線は、真っ直ぐに黒装束の男たちに向けられていた。その瞳には、恐怖と、そして強い憎しみの色が浮かんでいた。

『まさか……あいつら、ルミナを追ってるのか?』

 嫌な予感が背筋を走る。黒装束の男たちは衛兵たちとの押し問答を続けるふりをしながら、明らかにルミナの存在を認識していた。じりじりと、包囲するような位置取りに変わっていく。

 まずい。このままでは、ここで戦闘が始まってしまう。町の人たちを巻き込むわけにはいかない。

 俺は咄嗟にルミナの元へ駆け寄り、彼女の腕を掴んだ。

「ルミナ! こっちだ!」

「え、カイ!?」

 驚く彼女を引っ張り、人混みの中を縫うようにして走り出す。裏路地へ、もっと狭い道へと。

「待て!」

 背後から、黒装束の男たちの声が飛んでくる。衛兵たちの制止を振り切って、奴らは俺たちを追いかけてきた。足音が、すぐ後ろまで迫ってくる。

「はぁ、はぁ……! なんなんだよ、あいつら!」

「私の……追手よ!」

 ルミナが、息を切らしながら答える。

「やっぱりか! とにかく、今は逃げるぞ!」

 迷路のような裏路地を駆け抜ける。どこをどう走っているのか、もう分からない。ただ、捕まったら終わりだということだけは確かだった。

 袋小路に追い詰められたのは、それから数分後のことだった。

「……ここまで、ね」

 息を整えながら、ルミナがぽつりと言う。俺たちの目の前には高い壁。そして、振り返れば、路地の入り口を三人の黒装束が完全に塞いでいた。

「ようやく追いついたぞ、聖女の末裔よ」

 黒装束の一人が、フードを取りながら言った。現れたのは、爬虫類を思わせる冷たい目をした、顔に傷のある男だった。

「その力、我らが主のために捧げてもらう」

 男が手をかざすと、その手から黒い靄のような魔力が立ち上る。それは、ルミナが使う聖なる光とは真逆の、邪悪で不吉な気配を放っていた。

「くっ……!」

 ルミナは俺をかばうように前に立ち、両手を構える。彼女の手のひらに、温かい光が灯り始めた。

 絶体絶命。俺は、戦う力を持たないただの一般人。できることなんて、何もない。

『……いや』

 ポケットの中で、硬い感触があった。先日、城壁の修繕作業の時に紛れ込んでいた石ころだ。

『もし、あの時と同じことができたら……』

 根拠のない、無謀な考え。でも、今はこれに賭けるしかない。

 俺はごくりと唾を飲み込み、そっとポケットの石ころを握りしめた。
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