37 / 87
第一章「無自覚チート《概念編集》と訳あり聖女の逃避行」
第4話「無自覚な奇跡と壊れたランタン」
しおりを挟む
冒険者ギルドに登録したものの、すぐに仕事が見つかるわけではなかった。Fランクの冒険者が受けられる依頼は、薬草採集や町の清掃、荷物運びといった雑用ばかり。戦闘能力ゼロの俺にはちょうどいいかもしれないが、どれも大した稼ぎにはならない。
「今日のところは宿を探しましょう。ギルドには簡易な宿泊施設もあるわ」
ルミナの提案で、俺たちはギルドの二階にある宿坊に部屋を取ることにした。もちろん、宿泊費は彼女の立て替えだ。頭が上がらない。
「本当に、何から何まですまないな」
質素だが清潔な二人部屋。ベッドが二つと、小さなテーブルが一つあるだけのシンプルな部屋だ。
「いいのよ。その代わり、明日から馬車馬のように働いてもらうから」
ルミナはそう言って、荷物を解き始めた。彼女の荷物は、着替えが数枚入った小さな鞄だけ。本当に、何かに追われて旅をしている最中なのだろう。
『俺も早く自立しないとな』
そんなことを考えながら、部屋の隅に置かれていた古い魔道具のランタンに目をやった。ガラス部分はひび割れ、燃料となる魔石もすっからかんで、明かりとしては機能しないようだった。
「これ、壊れてるのかな」
何気なく、そのランタンを手に取る。金属のフレームは錆びつき、ところどころ歪んでいた。
『せめて、掃除くらいはしておくか』
宿代を払ってもらっている手前、何もしないのは気が引ける。俺は懐からハンカチを取り出し、ランタンのほこりを拭き始めた。錆を落とし、歪んだフレームを指でぐっと押し戻してみる。
「ん……?」
その時、指先に奇妙な感覚が走った。まるで、粘土でもこねているかのように、硬い金属がぐにゃりと形を変える。
『え、なんだこれ?』
驚いて指を離すと、ランタンのフレームは新品のように滑らかな曲線を取り戻していた。錆も消え、まるで磨き上げたかのような鈍い輝きを放っている。
「うそだろ……」
意味が分からず、呆然とランタンを見つめる。次に、ひび割れたガラス部分にそっと触れてみた。すると、先ほどと同じ不思議な感覚と共に、ガラスの亀裂がすーっと消えていく。まるで、傷が治癒していくかのようだ。
数秒後、俺の手元には、ひび一つない完璧なガラスがはまった、新品同様のランタンがあった。
「……は?」
何が起きた? 俺は何かしたか? いや、ただ触って、直そうと思っただけだ。それが、こんな奇跡みたいな現象を引き起こした。
『まさか……これが俺の力?』
そんな馬鹿な。俺はただの大学生だ。魔法なんて使えるはずがない。きっと、このランタンが元々そういう特殊な金属でできていたとか、そういうことに違いない。そうだ、そうに決まってる。
「カイ、何してるの?」
不意に声をかけられ、俺はビクッと肩を震わせた。振り返ると、ルミナが訝しげな顔でこちらを見ている。
「い、いや、なんでもない! ちょっとランタンが汚れてたから、掃除してただけだ」
慌ててランタンをテーブルの上に戻す。
ルミナは俺の挙動不審な態度に首をかしげながらも、テーブルの上のランタンを見て目を見開いた。
「……え? このランタン、さっきまで壊れてなかった?」
「え、そ、そうだったか? 俺が見たときはもうこの状態だったけど……。ははは」
乾いた笑いで誤魔化す。ルミナはまだ何か言いたげだったが、深くは追及してこなかった。
「……そう。ならいいけど」
彼女はそう言うと、ベッドに腰掛け、窓の外に視線を移した。その横顔は、どこか寂しげに見えた。
俺は自分の手のひらを見つめる。まだ、あの不思議な感覚が残っている気がした。
『もし、これが本当に俺の力だとしたら……』
それは、この過酷な異世界で生きていくための、唯一の希望になるかもしれない。同時に、得体のしれない力への恐怖も感じていた。
この力の正体は何なのか。そして、俺はなぜこの世界に呼ばれたのか。
答えの出ない問いを抱えながら、異世界の最初の夜は、静かに更けていった。
「今日のところは宿を探しましょう。ギルドには簡易な宿泊施設もあるわ」
ルミナの提案で、俺たちはギルドの二階にある宿坊に部屋を取ることにした。もちろん、宿泊費は彼女の立て替えだ。頭が上がらない。
「本当に、何から何まですまないな」
質素だが清潔な二人部屋。ベッドが二つと、小さなテーブルが一つあるだけのシンプルな部屋だ。
「いいのよ。その代わり、明日から馬車馬のように働いてもらうから」
ルミナはそう言って、荷物を解き始めた。彼女の荷物は、着替えが数枚入った小さな鞄だけ。本当に、何かに追われて旅をしている最中なのだろう。
『俺も早く自立しないとな』
そんなことを考えながら、部屋の隅に置かれていた古い魔道具のランタンに目をやった。ガラス部分はひび割れ、燃料となる魔石もすっからかんで、明かりとしては機能しないようだった。
「これ、壊れてるのかな」
何気なく、そのランタンを手に取る。金属のフレームは錆びつき、ところどころ歪んでいた。
『せめて、掃除くらいはしておくか』
宿代を払ってもらっている手前、何もしないのは気が引ける。俺は懐からハンカチを取り出し、ランタンのほこりを拭き始めた。錆を落とし、歪んだフレームを指でぐっと押し戻してみる。
「ん……?」
その時、指先に奇妙な感覚が走った。まるで、粘土でもこねているかのように、硬い金属がぐにゃりと形を変える。
『え、なんだこれ?』
驚いて指を離すと、ランタンのフレームは新品のように滑らかな曲線を取り戻していた。錆も消え、まるで磨き上げたかのような鈍い輝きを放っている。
「うそだろ……」
意味が分からず、呆然とランタンを見つめる。次に、ひび割れたガラス部分にそっと触れてみた。すると、先ほどと同じ不思議な感覚と共に、ガラスの亀裂がすーっと消えていく。まるで、傷が治癒していくかのようだ。
数秒後、俺の手元には、ひび一つない完璧なガラスがはまった、新品同様のランタンがあった。
「……は?」
何が起きた? 俺は何かしたか? いや、ただ触って、直そうと思っただけだ。それが、こんな奇跡みたいな現象を引き起こした。
『まさか……これが俺の力?』
そんな馬鹿な。俺はただの大学生だ。魔法なんて使えるはずがない。きっと、このランタンが元々そういう特殊な金属でできていたとか、そういうことに違いない。そうだ、そうに決まってる。
「カイ、何してるの?」
不意に声をかけられ、俺はビクッと肩を震わせた。振り返ると、ルミナが訝しげな顔でこちらを見ている。
「い、いや、なんでもない! ちょっとランタンが汚れてたから、掃除してただけだ」
慌ててランタンをテーブルの上に戻す。
ルミナは俺の挙動不審な態度に首をかしげながらも、テーブルの上のランタンを見て目を見開いた。
「……え? このランタン、さっきまで壊れてなかった?」
「え、そ、そうだったか? 俺が見たときはもうこの状態だったけど……。ははは」
乾いた笑いで誤魔化す。ルミナはまだ何か言いたげだったが、深くは追及してこなかった。
「……そう。ならいいけど」
彼女はそう言うと、ベッドに腰掛け、窓の外に視線を移した。その横顔は、どこか寂しげに見えた。
俺は自分の手のひらを見つめる。まだ、あの不思議な感覚が残っている気がした。
『もし、これが本当に俺の力だとしたら……』
それは、この過酷な異世界で生きていくための、唯一の希望になるかもしれない。同時に、得体のしれない力への恐怖も感じていた。
この力の正体は何なのか。そして、俺はなぜこの世界に呼ばれたのか。
答えの出ない問いを抱えながら、異世界の最初の夜は、静かに更けていった。
19
あなたにおすすめの小説
聖女なんかじゃありません!~異世界で介護始めたらなぜか伯爵様に愛でられてます~
トモモト ヨシユキ
ファンタジー
川で溺れていた猫を助けようとして飛び込屋敷に連れていかれる。それから私は、魔物と戦い手足を失った寝たきりの伯爵様の世話人になることに。気難しい伯爵様に手を焼きつつもQOLを上げるために努力する私。
そんな私に伯爵様の主治医がプロポーズしてきたりと、突然のモテ期が到来?
エブリスタ、小説家になろうにも掲載しています。
召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。
SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない?
その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。
ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。
せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。
こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。
本の知識で、らくらく異世界生活? 〜チート過ぎて、逆にヤバい……けど、とっても役に立つ!〜
あーもんど
ファンタジー
異世界でも、本を読みたい!
ミレイのそんな願いにより、生まれた“あらゆる文書を閲覧出来るタブレット”
ミレイとしては、『小説や漫画が読めればいい』くらいの感覚だったが、思ったよりチートみたいで?
異世界で知り合った仲間達の窮地を救うキッカケになったり、敵の情報が筒抜けになったりと大変優秀。
チートすぎるがゆえの弊害も多少あるものの、それを鑑みても一家に一台はほしい性能だ。
「────さてと、今日は何を読もうかな」
これはマイペースな主人公ミレイが、タブレット片手に異世界の暮らしを謳歌するお話。
◆小説家になろう様でも、公開中◆
◆恋愛要素は、ありません◆
召喚されたら聖女が二人!? 私はお呼びじゃないようなので好きに生きます
かずきりり
ファンタジー
旧題:召喚された二人の聖女~私はお呼びじゃないようなので好きに生きます~
【第14回ファンタジー小説大賞エントリー】
奨励賞受賞
●聖女編●
いきなり召喚された上に、ババァ発言。
挙句、偽聖女だと。
確かに女子高生の方が聖女らしいでしょう、そうでしょう。
だったら好きに生きさせてもらいます。
脱社畜!
ハッピースローライフ!
ご都合主義万歳!
ノリで生きて何が悪い!
●勇者編●
え?勇者?
うん?勇者?
そもそも召喚って何か知ってますか?
またやらかしたのかバカ王子ー!
●魔界編●
いきおくれって分かってるわー!
それよりも、クロを探しに魔界へ!
魔界という場所は……とてつもなかった
そしてクロはクロだった。
魔界でも見事になしてみせようスローライフ!
邪魔するなら排除します!
--------------
恋愛はスローペース
物事を組み立てる、という訓練のため三部作長編を予定しております。
神獣転生のはずが半神半人になれたので世界を歩き回って第二人生を楽しみます~
御峰。
ファンタジー
不遇な職場で働いていた神楽湊はリフレッシュのため山に登ったのだが、石に躓いてしまい転げ落ちて異世界転生を果たす事となった。
異世界転生を果たした神楽湊だったが…………朱雀の卵!? どうやら神獣に生まれ変わったようだ……。
前世で人だった記憶があり、新しい人生も人として行きたいと願った湊は、進化の選択肢から『半神半人(デミゴット)』を選択する。
神獣朱雀エインフェリアの息子として生まれた湊は、名前アルマを与えられ、妹クレアと弟ルークとともに育つ事となる。
朱雀との生活を楽しんでいたアルマだったが、母エインフェリアの死と「世界を見て回ってほしい」という頼みにより、妹弟と共に旅に出る事を決意する。
そうしてアルマは新しい第二の人生を歩き始めたのである。
究極スキル『道しるべ』を使い、地図を埋めつつ、色んな種族の街に行っては美味しいモノを食べたり、時には自然から採れたての素材で料理をしたりと自由を満喫しながらも、色んな事件に巻き込まれていくのであった。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから――
※ 他サイトでも投稿中
【完結】小さな元大賢者の幸せ騎士団大作戦〜ひとりは寂しいからみんなで幸せ目指します〜
るあか
ファンタジー
僕はフィル・ガーネット5歳。田舎のガーネット領の領主の息子だ。
でも、ただの5歳児ではない。前世は別の世界で“大賢者”という称号を持つ大魔道士。そのまた前世は日本という島国で“独身貴族”の称号を持つ者だった。
どちらも決して不自由な生活ではなかったのだが、特に大賢者はその力が強すぎたために側に寄る者は誰もおらず、寂しく孤独死をした。
そんな僕はメイドのレベッカと近所の森を散歩中に“根無し草の鬼族のおじさん”を拾う。彼との出会いをきっかけに、ガーネット領にはなかった“騎士団”の結成を目指す事に。
家族や領民のみんなで幸せになる事を夢見て、元大賢者の5歳の僕の幸せ騎士団大作戦が幕を開ける。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる