「え、俺なんかしました?」無自覚チート《概念編集》で石ころを魔石に、なまくらを聖剣に書き換えて、国を追われた聖女様と世界を救う

黒崎隼人

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第一章「無自覚チート《概念編集》と訳あり聖女の逃避行」

第4話「無自覚な奇跡と壊れたランタン」

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 冒険者ギルドに登録したものの、すぐに仕事が見つかるわけではなかった。Fランクの冒険者が受けられる依頼は、薬草採集や町の清掃、荷物運びといった雑用ばかり。戦闘能力ゼロの俺にはちょうどいいかもしれないが、どれも大した稼ぎにはならない。

「今日のところは宿を探しましょう。ギルドには簡易な宿泊施設もあるわ」

 ルミナの提案で、俺たちはギルドの二階にある宿坊に部屋を取ることにした。もちろん、宿泊費は彼女の立て替えだ。頭が上がらない。

「本当に、何から何まですまないな」

 質素だが清潔な二人部屋。ベッドが二つと、小さなテーブルが一つあるだけのシンプルな部屋だ。

「いいのよ。その代わり、明日から馬車馬のように働いてもらうから」

 ルミナはそう言って、荷物を解き始めた。彼女の荷物は、着替えが数枚入った小さな鞄だけ。本当に、何かに追われて旅をしている最中なのだろう。

『俺も早く自立しないとな』

 そんなことを考えながら、部屋の隅に置かれていた古い魔道具のランタンに目をやった。ガラス部分はひび割れ、燃料となる魔石もすっからかんで、明かりとしては機能しないようだった。

「これ、壊れてるのかな」

 何気なく、そのランタンを手に取る。金属のフレームは錆びつき、ところどころ歪んでいた。

『せめて、掃除くらいはしておくか』

 宿代を払ってもらっている手前、何もしないのは気が引ける。俺は懐からハンカチを取り出し、ランタンのほこりを拭き始めた。錆を落とし、歪んだフレームを指でぐっと押し戻してみる。

「ん……?」

 その時、指先に奇妙な感覚が走った。まるで、粘土でもこねているかのように、硬い金属がぐにゃりと形を変える。

『え、なんだこれ?』

 驚いて指を離すと、ランタンのフレームは新品のように滑らかな曲線を取り戻していた。錆も消え、まるで磨き上げたかのような鈍い輝きを放っている。

「うそだろ……」

 意味が分からず、呆然とランタンを見つめる。次に、ひび割れたガラス部分にそっと触れてみた。すると、先ほどと同じ不思議な感覚と共に、ガラスの亀裂がすーっと消えていく。まるで、傷が治癒していくかのようだ。

 数秒後、俺の手元には、ひび一つない完璧なガラスがはまった、新品同様のランタンがあった。

「……は?」

 何が起きた? 俺は何かしたか? いや、ただ触って、直そうと思っただけだ。それが、こんな奇跡みたいな現象を引き起こした。

『まさか……これが俺の力?』

 そんな馬鹿な。俺はただの大学生だ。魔法なんて使えるはずがない。きっと、このランタンが元々そういう特殊な金属でできていたとか、そういうことに違いない。そうだ、そうに決まってる。

「カイ、何してるの?」

 不意に声をかけられ、俺はビクッと肩を震わせた。振り返ると、ルミナが訝しげな顔でこちらを見ている。

「い、いや、なんでもない! ちょっとランタンが汚れてたから、掃除してただけだ」

 慌ててランタンをテーブルの上に戻す。

 ルミナは俺の挙動不審な態度に首をかしげながらも、テーブルの上のランタンを見て目を見開いた。

「……え? このランタン、さっきまで壊れてなかった?」

「え、そ、そうだったか? 俺が見たときはもうこの状態だったけど……。ははは」

 乾いた笑いで誤魔化す。ルミナはまだ何か言いたげだったが、深くは追及してこなかった。

「……そう。ならいいけど」

 彼女はそう言うと、ベッドに腰掛け、窓の外に視線を移した。その横顔は、どこか寂しげに見えた。

 俺は自分の手のひらを見つめる。まだ、あの不思議な感覚が残っている気がした。

『もし、これが本当に俺の力だとしたら……』

 それは、この過酷な異世界で生きていくための、唯一の希望になるかもしれない。同時に、得体のしれない力への恐怖も感じていた。

 この力の正体は何なのか。そして、俺はなぜこの世界に呼ばれたのか。

 答えの出ない問いを抱えながら、異世界の最初の夜は、静かに更けていった。
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